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堀越騒動 元亀二年(1571)春
不穏 11-5
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薬師は脈をとり、額に手を当てた。いくつか質問し、それに基づいて有り合わせの漢方より薬を作る。
……見たところ優秀らしく、あっという間に一つこしらえてしまった。薬師は言う。
「殿はお若いので、自力で治してしまわれたようです。ただ……もう少し養生は必要です。それまではこれをお飲みください。」
為信からは、笑みがこぼれた。そうできるほどの余裕も生まれていた。薬師も表情をやわらげ、侍女も安心している。ここで薬師は目くばせをした。
「ここからは女子のいない方がよいかと存じます……。」
侍女は男性特有の話かと思い、その場から退いた。薬師はだまって足音の離れるのを聴いている。それほどまでに慎重なのか。
すると、急に改まった。そして口が開く。
「面松斎殿のことでございます。」
面松斎……。ある時からぱったりと会わなくなった。なぜその名を出す。
「私も、彼の占いを頼る身です。」
今は鯵ヶ沢から高山稲荷に戻ったという。先日、占ってもらったそうだ。なぜ移ったかと問うと、そこまでは教えてもらえなかった。ただ……。
「何か起こるかもと、におわせておいででした。」
起こったのは確かだ。裏切りを疑われ、家来二人が八戸までの密行。さらには兼平の娘をも差し出した。
「薬師にできることと言えば……これくらいな物。」
そういうと、白い小さな包みを差し出した。
為信は問う。これはなんだと。
薬師は答えた。
「毒消しの薬です。」
……いざというとき、お使いください。
……見たところ優秀らしく、あっという間に一つこしらえてしまった。薬師は言う。
「殿はお若いので、自力で治してしまわれたようです。ただ……もう少し養生は必要です。それまではこれをお飲みください。」
為信からは、笑みがこぼれた。そうできるほどの余裕も生まれていた。薬師も表情をやわらげ、侍女も安心している。ここで薬師は目くばせをした。
「ここからは女子のいない方がよいかと存じます……。」
侍女は男性特有の話かと思い、その場から退いた。薬師はだまって足音の離れるのを聴いている。それほどまでに慎重なのか。
すると、急に改まった。そして口が開く。
「面松斎殿のことでございます。」
面松斎……。ある時からぱったりと会わなくなった。なぜその名を出す。
「私も、彼の占いを頼る身です。」
今は鯵ヶ沢から高山稲荷に戻ったという。先日、占ってもらったそうだ。なぜ移ったかと問うと、そこまでは教えてもらえなかった。ただ……。
「何か起こるかもと、におわせておいででした。」
起こったのは確かだ。裏切りを疑われ、家来二人が八戸までの密行。さらには兼平の娘をも差し出した。
「薬師にできることと言えば……これくらいな物。」
そういうと、白い小さな包みを差し出した。
為信は問う。これはなんだと。
薬師は答えた。
「毒消しの薬です。」
……いざというとき、お使いください。
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