津軽藩以前

かんから

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大千同盟 元亀二年(1571)晩夏

二子殺し 16-1

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 次の日、八木橋は三戸へ出立した。数人の家来と共に、東へと道を進む。

 後を見送ったのち、為信と沼田は城で一番高い櫓に上った。下には広大な平野が、賑わう町が、人の行きかう姿が見える。高いところにいても暑いのには変わりなかったが……風がそよぐだけましなのか。


 
 為信は、独り言のように語る。

 「 “防風” と “治水” がなれば、田畑は広がる。田畑が広がれば、万民が土地を持つようになる。万民が土地を持てば……在来の民と他国者の差はなくなる。」

 万民……つまり、田畑が多くなれば他国者にも土地はあてがわれる。貧民も豊かになり、浮浪することもない。万次党のような……徒党を組む必要もなくなる。

 沼田は、“はい” とだけ相槌をし、為信と同じ方を眺める。

 「私は、まだ甘いか。」

 為信は不安そうに沼田に問う。沼田はゆっくりと首を振る。

 「そうか……。」


 雲一つない空。終わりの暑さを楽しむ。





 「……私は、殺すつもりだ。」

 沼田は、万次のことかと思った。二度目だが、改めて何を語るのか。


「鼎丸と保丸、いずれは殺す。」






 おもわず沼田は、持っていた扇子を落とした。それは高い櫓からひらひらと、宙に漂いながら落ちていく。

 「家中での争いは、民をも苦しめる。南部の内紛を見てもわかるだろう。」

 はい。しかし……

 

 「昔とは違うのだ。」

 
 そういうと、為信は梯子を下り始めた。沼田はだまって後を従う。


 まさに今、梟雄にならんとしている。
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