津軽藩以前

かんから

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大千同盟 元亀二年(1571)晩夏

二子殺し 16-3

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 八木橋は続ける。

「 “為信” という人物は、大きくなりすぎました。一代にして領土を倍以上に広げたのです。」

 うむ、それで。

「跡を継がれる鼎丸様。果たして当主が務まるでしょうか。」


 森岡の顔は、険しくなる。

「偉大なる前当主が背後におり、びくびくしながら過ごされるのです。一挙一動家来から監視され、殿と比べられる……。そのうちに殿の存在が恐ろしくなり、全てから逃げ去るやも。」

 森岡は我慢できない。怒り口調ではあったが、少しだけ抑えながら言った。

 「……で、何が言いたい。」

 「はい。鼎丸様には退いていただき、一家臣として……」

 森岡は八木橋の頬を叩いた。慌てた沼田と綱則は彼らの間に入る。それでも八木橋は続けようとする。

 「一家臣として、殿に従っていただきたいのです。」

 言い切った。森岡は再び暴れようとしたが、沼田と綱則に抑え込まれる。森岡は叫ぶ。

 「先代の思いを分からぬ奴め。」

 “お前はなあ。若いから知らんだろう。先代がどれだけ息子達の行く末を案じて死んでいったか考えろ”

 息を切らしている。八木橋は腰を抜かし、その場から動けない。ここで為信は口を開く。落ち着いた表情で、昔を思い出すかのように。

 
 「そうだな……その通りだ。」

 “先代より懇願された。鼎丸と保丸を頼むと。……あのやつれようは、見ていられなかった”

 森岡は静まった。沼田と綱則の手をほどき、元の場に座りなおす。八木橋はそのままだ。

 

 話し合いは進まず、少しして散会となった。後には為信と沼田が残る。……森岡の乱れようを見て……慎重に事を成さねばと改めて思った。
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