93 / 105
大光寺の戦い 天正四年(1576)正月
見果てぬ夢 19-2
しおりを挟む
外より、落ち葉を踏みつける音が近づく。一人、戸の前で止まった。……たて付けの悪い木戸は、強く押さないと開かない。
小笠原は、万次を殺さんと現れた。
万次は床に就いたまま顔を向け、笑みを浮かべて出迎えた。小笠原は近くに寄り、布団の横で座す。
無言のまま、時は過ぎる。
……小窓からは、秋の寒い風が入る。万次のその弱った体にはきつい。いくら布団で覆っていても、しみるのだ。
小笠原は一切表情を変えず、座り続ける。
そんな彼に、万次は語りかけた。
「殺しに来たのか。」
頷きもしない。
「やれ。」
万次はそういうと、布団を少しだけ足の方へずらした。首元を隠す物は、何もない。
小笠原は刀を抜く。静かに、そしてゆっくりと輝く部分を首に近づける。そして刀と首は接し、動きを止める。
ひんやりとした感触。氷の冷たさのようだ。少しだけ皮膚と刃がこすれ、赤い血が隙間より漏れだす。
万次はなおさら笑顔を作って、小笠原に言った。
「やっぱり、死ぬのは痛いな。」
小笠原の、仏頂面は変わらない。万次は……最後の語りを始めた。
“俺の周りに集まった下衆ども。やつらに夢を見させてやることができたか”
“安心しろ。仲間にも言い含めてある。俺が死んでも……為信に従い続けろってな”
片方の手で、早く殺せと急かす。万次は目を瞑り、今にも逝かんとする。
小笠原は、万次を殺さんと現れた。
万次は床に就いたまま顔を向け、笑みを浮かべて出迎えた。小笠原は近くに寄り、布団の横で座す。
無言のまま、時は過ぎる。
……小窓からは、秋の寒い風が入る。万次のその弱った体にはきつい。いくら布団で覆っていても、しみるのだ。
小笠原は一切表情を変えず、座り続ける。
そんな彼に、万次は語りかけた。
「殺しに来たのか。」
頷きもしない。
「やれ。」
万次はそういうと、布団を少しだけ足の方へずらした。首元を隠す物は、何もない。
小笠原は刀を抜く。静かに、そしてゆっくりと輝く部分を首に近づける。そして刀と首は接し、動きを止める。
ひんやりとした感触。氷の冷たさのようだ。少しだけ皮膚と刃がこすれ、赤い血が隙間より漏れだす。
万次はなおさら笑顔を作って、小笠原に言った。
「やっぱり、死ぬのは痛いな。」
小笠原の、仏頂面は変わらない。万次は……最後の語りを始めた。
“俺の周りに集まった下衆ども。やつらに夢を見させてやることができたか”
“安心しろ。仲間にも言い含めてある。俺が死んでも……為信に従い続けろってな”
片方の手で、早く殺せと急かす。万次は目を瞑り、今にも逝かんとする。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる