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大火の中の少女
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彼の行動に、リディルは目を見開いた。そんな彼女をよそに、更に水を被り、もう一つのバケツをリディルに渡す。
「だったら、俺も行く。あと、行くんならせめてその上着をもっと濡らしておけ」
「フィーズ…」
「さ、急ぐぞ。入り口が崩れる前に!」
そう言って、二人は燃え盛る建物の中へ突入していった。街の人々も驚いているが、何より驚いていたのは、ラテュルとテイザーだった。ラテュルの隣では、支えてきた女性が祈るように手を組んでいた。ラテュルも、静かに手を合わせ祈った。
二人が入って行くと、校内は既に瓦礫で行く手が阻まれている箇所がほとんどだった。リディルは水を纏わせた剣で切っていき、通路を確保していった。
「フルーナ! ミリル! どこにいるの!?」
「返事してくれ!!」
取り残されているという二人の名前を叫びながら、上の階へと進んでいく。途中、激しい炎に一時的に足止めを食らうも、フィーズの持つコインの能力を駆使しながら切り抜けた。
「…けて!」
「! フィーズ!」
「いたか!?」
二階に上がり、ちょうど中腹まで来たところで、微かな声が聞こえた。まだ距離があるのか、炎が燃え上がる音にかき消されそうになるが、確かに二人とはまた別の声が聞こえている。火の粉が舞う中、声のする方へ慎重に、且つ急いで歩を進めていく。
そして、ある一室の前に着き、フィーズが扉を一気に蹴破った。そこにいたものを見た瞬間、二人は目を疑った。部屋に子供が二人いるのは当たっていたのだが、その光景があまりにも不思議なものだったのだ。なんと二人の子供は、この大火の中で、水でできた球体で身を守っていたのだ。しかも、水の中だというのに、息苦しそうな様子もない。一人の少女が、もう一人の少女をあやすように抱きしめているほどの余裕があった。
あやしている方の、おそらく上級生らしき少女がリディルたちに気付くと、嬉しそうな笑顔を見せた。
「助けに来てくれたんですね! ありがとうございます!!」
「あんた…そんな魔法使えるの…?」
「あっはい、一応…でも動きながらは使えないので、脱出することはできなくて…フルーナ、もう大丈夫だよ。お姉さんたちが助けに来てくれたよ」
「っ…本当? ここから出られる?」
「大丈夫、お兄さんたちと一緒に出よう」
「…っうん!」
「そしたら、そっちがミリルよね。これから出てちょうだい」
「あ、そしたらフルーナを先に! 二人同時には出られないので」
そう言ってフルーナをリディルたちの方へ差し出すミリル。まるでゼリーのような壁から少女の手が出ると、フィーズは優しく引き上げ抱きかかえた。それを確認すると、リディルも手を差し出した。
「さ、早くあんたも」
「はいっ、ありがとうございま…っ!? ごぼっ…!!」
「!? ちょっと!?」
互いに手を伸ばしたのも束の間、突然ミリルが苦しそうにもがき始めた。二人が到着するまでの間に、相当な体力の消耗があったのだろう、安心して少し気を緩めてしまったが故に、魔法の効果が一部切れてしまい水中での呼吸ができなくなったのだ。さらに不幸だったのが、その球体の存在は維持してしまっているということ。術者である彼女の意識が完全に切れていたら、球体自体も消えていたところだろう。
周囲の炎の勢いも激しくなっていく。リディルが慌てて球体に手を入れようにも、外からの衝撃はほとんど吸収され、ゴムボールのように跳ね返されるだけだった。ミリルの創造によって、内側から出ることは容易でも、外からの衝撃には非常に強いバリアとなっている有能なものだった。だが、今その効果が仇となってしまっているのだ。
「だったら、俺も行く。あと、行くんならせめてその上着をもっと濡らしておけ」
「フィーズ…」
「さ、急ぐぞ。入り口が崩れる前に!」
そう言って、二人は燃え盛る建物の中へ突入していった。街の人々も驚いているが、何より驚いていたのは、ラテュルとテイザーだった。ラテュルの隣では、支えてきた女性が祈るように手を組んでいた。ラテュルも、静かに手を合わせ祈った。
二人が入って行くと、校内は既に瓦礫で行く手が阻まれている箇所がほとんどだった。リディルは水を纏わせた剣で切っていき、通路を確保していった。
「フルーナ! ミリル! どこにいるの!?」
「返事してくれ!!」
取り残されているという二人の名前を叫びながら、上の階へと進んでいく。途中、激しい炎に一時的に足止めを食らうも、フィーズの持つコインの能力を駆使しながら切り抜けた。
「…けて!」
「! フィーズ!」
「いたか!?」
二階に上がり、ちょうど中腹まで来たところで、微かな声が聞こえた。まだ距離があるのか、炎が燃え上がる音にかき消されそうになるが、確かに二人とはまた別の声が聞こえている。火の粉が舞う中、声のする方へ慎重に、且つ急いで歩を進めていく。
そして、ある一室の前に着き、フィーズが扉を一気に蹴破った。そこにいたものを見た瞬間、二人は目を疑った。部屋に子供が二人いるのは当たっていたのだが、その光景があまりにも不思議なものだったのだ。なんと二人の子供は、この大火の中で、水でできた球体で身を守っていたのだ。しかも、水の中だというのに、息苦しそうな様子もない。一人の少女が、もう一人の少女をあやすように抱きしめているほどの余裕があった。
あやしている方の、おそらく上級生らしき少女がリディルたちに気付くと、嬉しそうな笑顔を見せた。
「助けに来てくれたんですね! ありがとうございます!!」
「あんた…そんな魔法使えるの…?」
「あっはい、一応…でも動きながらは使えないので、脱出することはできなくて…フルーナ、もう大丈夫だよ。お姉さんたちが助けに来てくれたよ」
「っ…本当? ここから出られる?」
「大丈夫、お兄さんたちと一緒に出よう」
「…っうん!」
「そしたら、そっちがミリルよね。これから出てちょうだい」
「あ、そしたらフルーナを先に! 二人同時には出られないので」
そう言ってフルーナをリディルたちの方へ差し出すミリル。まるでゼリーのような壁から少女の手が出ると、フィーズは優しく引き上げ抱きかかえた。それを確認すると、リディルも手を差し出した。
「さ、早くあんたも」
「はいっ、ありがとうございま…っ!? ごぼっ…!!」
「!? ちょっと!?」
互いに手を伸ばしたのも束の間、突然ミリルが苦しそうにもがき始めた。二人が到着するまでの間に、相当な体力の消耗があったのだろう、安心して少し気を緩めてしまったが故に、魔法の効果が一部切れてしまい水中での呼吸ができなくなったのだ。さらに不幸だったのが、その球体の存在は維持してしまっているということ。術者である彼女の意識が完全に切れていたら、球体自体も消えていたところだろう。
周囲の炎の勢いも激しくなっていく。リディルが慌てて球体に手を入れようにも、外からの衝撃はほとんど吸収され、ゴムボールのように跳ね返されるだけだった。ミリルの創造によって、内側から出ることは容易でも、外からの衝撃には非常に強いバリアとなっている有能なものだった。だが、今その効果が仇となってしまっているのだ。
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