銀晶心話-ギンショウシンワ-

琴花翠音

文字の大きさ
17 / 18

仇の水結界

しおりを挟む
「っ!!………~~っ!!!」
「落ち着いて!! そうやって動いたら余計に…!」
「ミリルおねえちゃんっ!」

 リディルの必死の説得も届かず、ミリルは手足をバタつかせ藻搔いている。その間にも、周囲の炎が責め立てるように激しくなっていく。リディルとフィーズが被ってきた水分も炎によってほとんど乾き、熱が肌に直接まとわりつく。フィーズはもちろん、リディルにも焦りの表情が見える。

「リディル、このままだと…!」
「わかってるわよ!! でもこの子を置いて行けないでしょ!?」
「それはそうだけど…!」

 言い争っても埒のあかない状況。それは二人共わかっていた。どうしようもできない状況が、追い討ちをかけるように余計に二人を苛立たせていた。
 それと同時に、リディルは不思議な感覚を覚えていた。

(…それより、さっきから感じるは、何…? この水に触れる度に、何かあたたかいものが流れ込んでくるような…そんな感覚…)

 ミリルを中から出そうと球体に爪を立てるように掴む度、そんな感覚がリディルを戸惑わせた。あたたかく、どこか懐かしささえある。その感覚に戸惑いながらも、必死の救出を試みるリディル。
 とうとう、手では破れないと悟ったリディルは、短剣を取り出した。中にいるミリルのことを考え、刃物は使わないでいたが、この状況でそんな悠長なことは言っていられない。魔法でできているものなら、同じ魔法で相殺することができるのでは、と考えたのだ。

「…ミリル。私も気を付けるけど、もし当たったらごめん」
「…っ!! ゴボ…ッ!」
「フィーズ、ちょっとこの球体押さえててもらえる? フルーナも」
「あ、おう! わかった!」
(…剣先に力を集中させて…)

 リディルの言葉にフィーズは反射的に反応し、彼女の反対側から、抱えていたフルーナと共に水の球体を動かないよう押さえた。その間に静かに集中力を高めるリディル。
 そして少しの沈黙の後。短剣を大きく振りかざし、弾力のある球体にその切っ先を突き立てた。案の定、その表面に穴が空くことはなく、一点を強く押し込んでいるだけだった。
 リディルはより一層魔力を集中させ、さらに力を込めた。

(…っ! 破れな、さい…!!)
「あぁあああぁああぁあああっ!!!!」

──…ブツっ!

「! 刺さった!フィーズ、フルーナ、一度こっちに来て!」
「え? おう…?」

 短剣を突き刺したまま、リディルは動きを止め、球体を押さえていた二人を側に呼んだ。リディルを挟んで三人が並ぶようにして、再び球体を押さえる。そして、リディルが突き刺した短剣を下に引き下ろした。それにより、剣の刺さった穴が広がり、開いた隙間から水が勢いよく噴出し、三人の身体に大量にかかった。同時に球体が萎み、ぐったりと脱力したミリルが地面に倒れこむ。それを確認したリディルは急いで彼女にまとわりついている膜を引き剥がし救出した。周囲には先ほどよりも激しい炎が渦巻き、ほとんど身動きが取れない状況となっていた。

「しまった…これは一体どうするよ、リディル」
「…脱出しないわけにもいかないでしょ。…飛ぶわよ」
「は…?」

 そう言ってリディルは、ミリルを抱え、一番近い場所にあった窓へ向き直り短剣を構えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...