これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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09 パーティ開始

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 従僕に促されて謁見室を出たトールヴァルドは、ふと疑問に思った。

「野心のある貴族はいないのか」
 控室は近いので、一人で歩いていく。

『もちろんいるわよ!でもねぇ、これまでとおんなじなら国王になるための試験を受けて大体挫折するのよ』
「試験……」
『そうよ、丸まる三日とかかかるやつ。歴史とか経済とか魔法とか商業とか運動とか音楽とか工作とか料理とか裁縫とか、なんか色々。合格した侯爵家以上の貴族がじゃんけんするのよ』
 後半はおかしくないだろうか。

『なんかね、変な野心を持っていたりまともに働かなかったりする人物を弾こうとしたらこうなったみたいよ。試験に合格しないと国王になれない魔法がお城にかけてあるみたいよ。この国、人界を全部カバーしてるからこれ以上広がらないし、ある意味逃げ場がないからそのあたりは必死よね』
 魔法剣(飾り)に、王国の裏事情を聞かされるとは思いもしなかった。

 控室にたどり着いたところで、昼食の準備ができるまで少し待つことになった。

「俺は、魔界にある元凶を倒せばいいんだな」
『そうそう!言ってなかったかしら?でもどの勇者も魔界には行ってるんだからわかるわよね?まずは大量発生してる魔物を蹴散らして、魔法を訓練しながらの移動ね』

 そこからは、昔の勇者がどのようにして魔物を倒していたのかという話を聞いた。
 トールヴァルドが現在練習していたのと同じように、何らかの魔法を飛ばして倒す者がほとんどだったそうだ。


 呼ばれた昼食はとても豪華だった。

 食べたことのない料理ばかりなのでよくわからなかったが、とりあえず味が美味しかった。
 その後、従僕から予定を聞くことになった。

「え、パーティですか」
「はい。勇者の出発激励パーティです。いわば勇者の旅の出資者の集まりですので、きちんと顔出しをお願いいたします」
『ってことは、貴族ばっかりね!謁見はおじさんしかいなかったもの、パーティなら当然若い子もいるわよね?!楽しみぃ』

 三日後、また王城に来なくてはならないらしい。
 そのときは、同じような儀礼用のスーツを貸してもらえるそうだ。

 また、冒険者ギルドの口座への振り込み時期や金額についても聞いた。
 毎月の支給金はかなり高額だが、危険手当や前払いの報奨も含んでいるらしい。

 そんな簡単に金を渡してもいいのかと疑問に思っていたら、どうやら勇者は真面目な質の者しかなれないので信頼していいそうだ。
 ただ、一応詐欺に注意することと、計画的に使うようにとは言われた。

『パーティなんだから、出席する前にアタシのことを磨いておいてよ!みんなには綺麗な姿を見てもらいたいんだから☆』
「魔法でいいだろ魔法で」
『あらまぁ、清浄系の魔法もできるようになっちゃうの?やっだぁうちの子優秀!』

 誰が誰の子か。
 トールヴァルドは、思わずため息をついた。



 気晴らしに冒険者として魔物を倒していたら、三日たった。

 その間に、左手で魔法を持ちつつ右手で長剣を扱うのにも慣れてきた。
 魔法剣(飾り)から、魔法剣(待機)に微上昇である。


 そしてトールヴァルドは、仕方なくまた王城にやってきた。

 出資者への顔見世と言われると断りづらい。
 もちろんその分の働きはするが、彼らはトールヴァルドが動き出す前からポンと大金を出してくれたのだ。
 礼を尽くすのが筋だろう。

 諦めて全身ピカピカにし、以前借りたものと似たスーツに身を包み、魔法剣(待機)を持って控室で出番を待つ。

『はぁん、やっぱり着飾ると素敵になるわね。ま、魔物なんて徐々に増えてきたからなんとかみんな対応できてるんだし、そこまで急がないから気負わなくていいわよ!トールヴァルドの実力なら、フツーに問題解決できるから』
「確かに、俺の村でもかなり増えてはいたがなんとかなっていたな」
 トールヴァルドは、答えたい質問にだけ答えるという技術を習得した。

『でしょお?でも、さすがにこれ以上に増えたらそろそろ成り立たなくなる町とか出てきそうだものね。大体、その前には勇者が現れるのよ』
「……なんで、勇者が必要なんだ」

 それは、前から疑問に思っていたことだった。
 トールヴァルドは国を救う勇者になると決めてはいたが、なぜそれが勇者一人に託されるのだろうか、皆で力を合わせるのでは無理なのかと考えていた。

『え?そんなの、勇者じゃないと解決できないからよ。どんなにすごい魔法が使える人でもダメなの。魔王にだって無理ね。まぁいわば、特殊な体質なのよ、勇者って』
「特殊な体質?」
『んーと、正確には溜め込むと魔力が変化する感じ。それが特殊なのよ。だから魔物に対しての威力も段違い。そうねぇ、普通の人の使う魔力が濁酒どぶろくだとしたら、トールヴァルドの魔力は消毒用のアルコールよ。ね、全然違うでしょ?』

 飲み物と薬品を比べるのは違うと思うが、それくらいの差があるということなのだろう。

「かなり違うってことか」
『そうそう。違うって言えば魔王も違うわね。でもあっちはまた特殊さが違ってて』
「おい、ツァオ。もしかして魔王のことを知ってるのか?」
『そりゃあ、勇者の杖だもの。知ってるに決まってるでしょ?あ、でも今代の魔王がどんな子かまでは知らないわよ。あっちも普通に人の子ですからね』

 聞かされた内容に、トールヴァルドは混乱した。

 魔王とは、魔界に住む魔人の王だったはずだ。
 そして、魔物を統べている、今回の大発生の原因とも言われている。
 魔人は人間とは違う姿をしていて、寿命もずっと長く、相容れない存在だと伝わっている。

 疑問を魔法剣(待機)にぶつけようと思ったら、従僕がやってきた。
「そろそろお時間です。お越しください」
「わかりました」
『きゃあ!久しぶりの社交界ってやつね!いい感じの男の子とか、かんわいい女の子とかいるんでしょ?楽しみぃ』
 こいつは男女両方いけるのか。

 トールヴァルドは、腰に刺した魔法剣(待機)をじとりと見下ろした。
「あんまりぎゃあぎゃあと煩くしないでくれ。周りの声が聞き取りづらい」
『仕方ないわねぇ。ちょっと声のボリューム落としていくわよ』
「頼むからな」
『任せといて!』
 不安しかない。


 案内された大広間には、トールヴァルドの見たこともない世界が広がっていた。

 魔法で明るく照らされた室内は、壁画や天井画で彩られている。
 床も大理石のような模様のある磨き上げられた石で、そこここに着飾った貴族がいた。

 謁見室にいたような壮年の男性はもちろん、すらりとした若い男性、着飾った妙齢の女性、華やかな若い女性までたくさんだ。

「勇者、トールヴァルド様!」
 呼ばれて登場したトールヴァルドに、それら貴族の人々から視線が飛んできた。

 殺気こそないので危機感はないが、それとは別の恐ろしさを感じるのはなぜなのだろうか。
『まぁっ!もしかして、勇者様の妻の座争奪戦的なやつぅ?』
「勘弁してくれ……」
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