これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

文字の大きさ
17 / 37

17 第一回ハーレムキャンセルされた人のその後と、キャンセルした人たちの道行き

しおりを挟む
 ドーリスは、とある男爵家の娘である。

 治療魔法が使えたため、妙なところへ嫁入りするよりは稼ぎもいいだろうと貴族向けの治療院で働いていた。
 可愛らしくて治療もできるドーリスは、ケガをしやすい騎士たちにも人気の治療師だった。
 そこそこモテるので、もう少し働いたら有望そうな騎士をひっかけて結婚するつもりだったのだ。

 そんなある日、父がドーリスに言った。

「勇者が現れた。寄り親の伯爵家から命が下ったから、ドーリスは勇者とパーティを組んで旅をしながら篭絡して、結婚の約束を取り付けるか、いっそ子どもを孕んできてくれ」

 むちゃくちゃである。

 しかし、それも一つの道ではあるなとドーリスは考えた。
 そこで父から情報を貰い、とある町へと向かって勇者と接触を図ったのである。

 面と向かった勇者は、ぶっちゃけ好みのタイプだった。
 涼し気な目元に甘いマスク、金髪も短くて爽やかで、剣を振るうとわかる筋肉。
 騎士にもよくいるタイプだが、彼らよりも実践に特化した感じが特によかった。

 だからアピールしようと話しかけたら、パーティメンバーだという黒髪の女の子に邪魔をされた。

 魔法を使えるドーリスにはわかった。

 彼女は王都の魔法使いのトップと並ぶほど、もしかするとそれ以上の魔法使いだ。
 それなのに、大剣も使えるなんてとんだハイブリッドである。
 くじけそうになってもなんとか食い下がったものの、勇者に足手まといはいらない、と一刀両断に断られてしまった。

 そりゃそうだよな、とドーリスの心は簡単に折れた。

 ドーリスは打たれ弱いのである。
 しかし、このまま実家に帰るわけにもいかない。

 切り替えたドーリスは、ここからは少し離れた、男爵家と関係のない場所へ行って実家と縁を切り、好みの冒険者を引っかけて暮らそうと決めた。


 なお、実際にそれなりに理想通りの冒険者を引っかけてパーティを組み、うまく結婚にこぎつけたのは半年後のことだったらしい。



 ◆◇◆◇◆◇ 



 女性魔法使いに道を邪魔されたあとから挙動不審だったピヒラはしばらくすると復活して、物品の確認もスムーズに済んだ。

 それからピヒラは終始上機嫌で、シュネルのブラシをかけているときにも鼻歌を歌っていた。

「よくわからない魔法使いを撃退できたからか」
『合ってるけど合ってないわよ!もおぉ!これだから天然タラシ系は』
「何の話だ。俺は髪が短いし、なにも垂らしてないぞ」
『違うの!でもアタシが言うのも違うの!なんかややこしくなりそうだから、もうトールヴァルドはそのまんまでいいわよ!!』

 謎に憤った魔法剣(待機)に、結論として何もしなくていいと言われた。
 だったらいちいち言わないでもいいと思う。


 次の日は近くの魔物退治にあて、二日後にはその町を発った。

 ピヒラを前に乗せてシュネルの手綱を持つと、ピヒラが話しかけてきた。
「ねぇ、トールヴァルドって、勇者だったのね」
「あぁ、そうだ。ピヒラには説明していなくて悪かったな」
『うっかり忘れて、言ったつもりになってたのよねぇ』
 ピヒラと話すと魔法や剣のことで夢中になり、お互いの話はそれ以外あまりしていない。

「ううん。全然気にしてないから!ただちょっと、びっくりしちゃった。もしかして、その剣が『勇者の剣』なの?」
 ピヒラが、トールヴァルドを軽く振り返って言った。

 多分、長剣のことを言っているのだろう。
「いや、こっちはただの十年以上使っている長剣だ。『勇者の剣』はこっちだな。魔法剣(待機)なんだ」

「えっ?そっちの銀の……いえ、銀じゃなさそうね。それって、ものすごく精巧に作りこまれた特殊な魔法の杖じゃなかったの?魔法剣って、刀身がなくても切れるのね。あれ?なら、もしかして『勇者の剣』って本当は『勇者の魔法剣』だったってこと?全然知らなかったわ」

『待ってピヒラちゃん!合ってるから!魔法の杖で合ってるから!丸め込まれないで!あきらめないでぇぇええ!』
 馬上で叫ぶ魔法剣(待機)の言葉は、トールヴァルドにスルーされたため誰にも届かなかった。

「そうだな、魔法剣(待機)だ。こいつを使うと魔法の威力が底上げされてしまってな。思い通りにできないからしばらくは使わずに練習しているところなんだ」
「そうだったの?だから使っているところを見てなかったのね。でも、今後『勇者の魔法剣』を使っていくなら、威力増加にも慣れた方がいいんじゃないの?」
 ピヒラは純粋に疑問に思ったらしい。

『そうよね?!ピヒラちゃんナイス!普通に考えるなら慣れた方がいいと思うわよね。やっぱりトールヴァルドが変なのよ!』
 しかし、トールヴァルドは首を横に振った。

「それが、小さな火球のつもりで使ったら魔物が一瞬で全焼したんだ。底上げというよりは倍増なんだと思う。まだ魔法の制御も甘いから、周囲に甚大な被害が出そうだと思って」
『それを言われると厳しいんだけどぉ』

「あ、そっか。トールヴァルドはまだ魔法を始めて一カ月も経ってないのよね。それなら、慣れるまでは増幅とかの効果はない方がいいかも。うちの村でも、魔力容量が多くて制御が難しい子がいたら、まずは魔法の杖とかそういう補助具を使わずに制御できるように練習するもの」
「これでも魔法初心者だからな」
『んもぉお!それなら、慣れたらちゃんと使ってよね!!』

「あたしも、最初はこの大剣じゃなくて普通の大剣を使ってたわ。慣れてからでないと、剣に振り回されて腕とか足とか切り飛ばす可能性があるからって」
「似たようなものだろうな。俺も、暴走させたら自分までケガをしかねない」

「何でも使いようよね。あ、あっちに魔物がいるわ。集団ね」
 ピヒラが、街道から逸れたところになる森の方を見ながら言った。

「ん?あっちか。それじゃあ、資金稼ぎといくか」
「わかったわ」
「シュネル、こっちで待っていてくれ」
『すぐ戻るから、いい子で待っててねぇ』

 ピヒラとトールヴァルドはシュネルから降り、木の下で待つように言った。
 魔物除けの結界を起動させるだけで、綱はつながない。
 もしも魔物に襲われたら逃げられないからだ。

 綱をそのままにしていても、シュネルは賢いので勝手に遠くへ行くことはない。
 いなくなるとしたら、魔物に襲われたときくらいだろう。

 トールヴァルドとピヒラは、武器を準備して魔物の方へ徒歩で向かった。

 匂いを感じ取る器官があるのかどうか、風上から近づくよりも風下からの方が気づかれにくい。
 二人は少し回り込んだ。

 初手はトールヴァルドが少し離れたところから魔法で、ピヒラが接近して大剣で。

 三十体を超える魔物がいたものの、難なく討伐できた。
 今回はお互いもう少し幅を持とうということで、ピヒラが少し魔法を使い、トールヴァルドも長剣を持って魔物にとどめを刺した。

 トールヴァルドが近づけばピヒラが下がり、ピヒラが前に出ればトールヴァルドが下がる。
 どちらの陣形でも、特に問題なく動いて魔物を討伐できた。

 特に、長剣のトールヴァルドと魔法のピヒラという組み合わせは威力こそ落ちるものの、とても安定していた。

「やっぱりトールヴァルドの長年の修行の成果は裏切らないわね。すごい安心感があるわ」
「ピヒラの魔法はものすごく精密なんだな。俺は大量の魔力によるごり押しなところがあるから、参考になる」
『アンタたち、なんていうか、えぐいわ』

 褒め合う二人に対して、魔法剣(待機)は若干引いていた。
 失礼極まりない。


 一通り討伐した後、二人は街道の方へ戻ってシュネルと合流した。

 魔道具を回収してきちんと同じ場所で待っていたシュネルに乗り、次の村へ向かう。
 少し北よりの方向に行けば、緩やかな登りになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...