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20 あだ名は仲良しの証、かもしれない
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トールヴァルドとピヒラは冒険者ギルドの受付に向かい、パーティで三百体を超える魔物を倒したことを申請し、それぞれの口座に入金してもらった。
なかなかの金額になった。
少しばかり小型の割合が減って中型や大型が増えているのは、魔の森方面に向かっているからだろう。
この先は、少しずつ集落の数が減っていく。
村の商店では、長期の旅に耐えられるよう、食材や消耗品を買い足した。
次の町には、途中で小さな村を通過して、何もなければおよそ一週間で着く予定である。
「トールヴァルドの故郷って魔の森が近いのよね。どのあたりなの?」
『アタシ、行ってみたいのよぉ』
宿に戻り、荷物の整理をしながらピヒラが聞いた。
「ドンヘル伯爵領は、南寄りの方だ。北側の方が魔物は少ないと聞いているから、まぁ国内でも特に魔物が多い土地だと思う」
「南寄りの方かぁ。それじゃあ、今から寄り道は難しいわね」
『えぇ?ちょっとくらい寄り道してもいいじゃない』
そんな時間を今取ることはできない。
「少し遠いな。魔の森を抜けるなら北側の方がいいらしいから、今回は仕方がない」
「南側は森が深いものね。残念。トールヴァルドが育った村を見てみたかったわ」
少し寂しそうに言うピヒラに、トールヴァルドは目を向けた。
「終わったら来ると良い。皆歓迎すると思うぞ。ちょっと魔物は多いところだけど、ピヒラは気にしないだろ」
『待って、このあたりよりずっと魔物が多いってことよね?ほんとどういう環境よ』
小さくて細い感じなのに大剣が強いなんて知ったら、きっと村のみんなが寄ってたかって手合わせを申し込むことだろう。
トールヴァルドには、一躍村の人気者になるピヒラが容易に想像できた。
それに対して、ピヒラはぱちくりと瞬きをしてから荷物を見た。
「そうだね。終わってから、行けたら行きたいな」
「何もないがな」
「ふふふ。家と、畑と、あと魔物?」
『何にもなくはないけど、それは何にもないわね』
魔法剣(待機)の言う通り、故郷の村には生活があるだけで、特別な何かはない。
「ピヒラが育ったところはどんな感じだったんだ?」
『それ、アタシも気になる!こんな可愛い子が一人で旅に出るのを許すって相当修羅ってない?もしかしてトールヴァルドと負けず劣らず?』
ふと気になって聞いてみたが、魔法剣(待機)の方が興味津々だ。
「そうね、トールヴァルドと似たような感じかな。魔の森はそんなに近くなかったけど、魔物はそれなりに多かったから村の人たちがみんなで討伐していたわ」
「本当に似たような環境だな」
『じゃあやっぱり、可愛い子には旅をさせろってやつかしら』
ピヒラはうなずいた。
「さすがに、大剣をかついでこっちに来るって言ったら反対されたわ。遠いし、女一人なんて危険だって。でも、きちんと修業したかったからここまで来たの。ただその、適当に歩いて進んでたら思ったよりも進みすぎちゃって、魔物が減ってったのよね……。最初は勇者がもう活躍してるのかと思ったんだけど、あたしが魔の森から離れすぎただけだったっていう」
荷物を確認し終わったピヒラは、アイテムボックスに荷物を入れて椅子の背に身体を預けた。
「反対されたのか」
『反対を押し切って来た感じ?強い子ねぇ』
「最初はね。でも説得して、わかってもらったわ。おかげで大剣を思い通り扱えるようになってきたし、トールヴァルドにも会えたし」
ピヒラは、片足をぶらぶらさせながらそう言った。
表情が優しいので、ちゃんと円満に旅に出たのだろう。
「俺もピヒラに会えたのは幸運だったな。ピヒラの魔法の使い方や知識は参考になるし、まだ俺自身も剣の腕を磨けるとわかったから」
『トールヴァルドったら、まだ剣を諦めてないのね。いっそあっぱれよ。でもあたしは魔法剣じゃなくて魔法の杖なんですからね!無理させないでよ壊れちゃう』
確かに、無理な使い方をするのは良くないかもしれない。
魔法剣(待機)をどう使うか、少し考えた方がいいだろう。
「あ、ねぇ。これからはあだ名で呼んでもいい?村では何て呼ばれてたの?」
「あぁ、村ではトールって呼ばれてたな。変な呼び方じゃなければ、好きにしてくれ」
村の友人は元気にしているだろうか。
やはり、なるべく早く原因を叩いて魔物の大発生を終わらせて一度帰郷したい。
その後どうするかは、また考えよう。
ふと故郷の友人たちを思い出したトールヴァルドをよそに、ピヒラは手を口元に持っていって考えていた。
「んー……。同じのもいいけど、違うのも特別感あるよね。じゃあ、これからはヴァルドって呼ばせて。いい?ヴァルド」
『自分だけの特別な呼び名!いいじゃなぁい』
確かに、バディっぽいかもしれない。
「わかった。俺はピヒラっていうままだけど、あだ名とかあったのか?」
「あたしは、そのままでいいよ。短いもの」
「そうか?まぁ、ピヒラがいいならそのままにするよ」
「うん!」
嬉しそうなピヒラを見て、トールヴァルドはなんとなくほっこりした。
荷物を補充した村を発って十四日。
途中の村に寄ったほか、魔物が多い場所を通って討伐しながら来たため、思ったよりも日数はかかったが、なんとか大きめの町に到着した。
ここは北側の交易の中心点ともなっている町で、大きいし人も多い。
近辺に魔物がまったくいないと思ったら、どうやら町の衛兵の中に魔物討伐の専門部隊がいるらしい。
冒険者ギルドで聞いたところによると、町の周辺は衛兵、少し離れた森の中や草原にいる魔物は冒険者と、ある程度住み分けしているそうだ。
ここまでほぼ休日なく進んできたので、トールヴァルドとピヒラは一日休むことにした。
とはいえ、魔物討伐をせずにゆっくり装備を整えたり町の中を歩いたりするくらいだ。
到着した日は冒険者ギルドに行って魔物討伐数に応じた振り込みをしてもらっただけで休み、明けた今日は休みである。
いつもよりゆっくり起床し、朝食を食べているとピヒラも起きてきた。
「おはよう、ヴァルド」
「おはよう。俺はこれから一度冒険者ギルドで情報を確認してから剣の手入れに行くつもりだが、ピヒラはどうする?」
「あたしもまずは冒険者ギルドかな。ちょっとお金出してから買い物したいかも」
『買い物いいわねぇ。アタシも買い物に行きたいわぁ。ねぇトールヴァルド、アタシたちもお買い物いきましょ!ね、何か買いましょうよぉ』
魔法剣(待機)は所有もできないのに何が欲しいのだろう。
それとも、金で物をやりとりしているのが楽しいのだろうか。
謎だ。
「じゃあ、食べ終わったらギルドに行くか。ゆっくり行った方が空いてるし」
「うん!ありがとう。朝食もらってくるね」
「あぁ」
『あーなんかこう、心がぽかぽかするわ。たまのお休みっていいわね』
この魔法剣(待機)には温度感知できる器官まで備わっているのか。
なかなかの高性能だ。
なかなかの金額になった。
少しばかり小型の割合が減って中型や大型が増えているのは、魔の森方面に向かっているからだろう。
この先は、少しずつ集落の数が減っていく。
村の商店では、長期の旅に耐えられるよう、食材や消耗品を買い足した。
次の町には、途中で小さな村を通過して、何もなければおよそ一週間で着く予定である。
「トールヴァルドの故郷って魔の森が近いのよね。どのあたりなの?」
『アタシ、行ってみたいのよぉ』
宿に戻り、荷物の整理をしながらピヒラが聞いた。
「ドンヘル伯爵領は、南寄りの方だ。北側の方が魔物は少ないと聞いているから、まぁ国内でも特に魔物が多い土地だと思う」
「南寄りの方かぁ。それじゃあ、今から寄り道は難しいわね」
『えぇ?ちょっとくらい寄り道してもいいじゃない』
そんな時間を今取ることはできない。
「少し遠いな。魔の森を抜けるなら北側の方がいいらしいから、今回は仕方がない」
「南側は森が深いものね。残念。トールヴァルドが育った村を見てみたかったわ」
少し寂しそうに言うピヒラに、トールヴァルドは目を向けた。
「終わったら来ると良い。皆歓迎すると思うぞ。ちょっと魔物は多いところだけど、ピヒラは気にしないだろ」
『待って、このあたりよりずっと魔物が多いってことよね?ほんとどういう環境よ』
小さくて細い感じなのに大剣が強いなんて知ったら、きっと村のみんなが寄ってたかって手合わせを申し込むことだろう。
トールヴァルドには、一躍村の人気者になるピヒラが容易に想像できた。
それに対して、ピヒラはぱちくりと瞬きをしてから荷物を見た。
「そうだね。終わってから、行けたら行きたいな」
「何もないがな」
「ふふふ。家と、畑と、あと魔物?」
『何にもなくはないけど、それは何にもないわね』
魔法剣(待機)の言う通り、故郷の村には生活があるだけで、特別な何かはない。
「ピヒラが育ったところはどんな感じだったんだ?」
『それ、アタシも気になる!こんな可愛い子が一人で旅に出るのを許すって相当修羅ってない?もしかしてトールヴァルドと負けず劣らず?』
ふと気になって聞いてみたが、魔法剣(待機)の方が興味津々だ。
「そうね、トールヴァルドと似たような感じかな。魔の森はそんなに近くなかったけど、魔物はそれなりに多かったから村の人たちがみんなで討伐していたわ」
「本当に似たような環境だな」
『じゃあやっぱり、可愛い子には旅をさせろってやつかしら』
ピヒラはうなずいた。
「さすがに、大剣をかついでこっちに来るって言ったら反対されたわ。遠いし、女一人なんて危険だって。でも、きちんと修業したかったからここまで来たの。ただその、適当に歩いて進んでたら思ったよりも進みすぎちゃって、魔物が減ってったのよね……。最初は勇者がもう活躍してるのかと思ったんだけど、あたしが魔の森から離れすぎただけだったっていう」
荷物を確認し終わったピヒラは、アイテムボックスに荷物を入れて椅子の背に身体を預けた。
「反対されたのか」
『反対を押し切って来た感じ?強い子ねぇ』
「最初はね。でも説得して、わかってもらったわ。おかげで大剣を思い通り扱えるようになってきたし、トールヴァルドにも会えたし」
ピヒラは、片足をぶらぶらさせながらそう言った。
表情が優しいので、ちゃんと円満に旅に出たのだろう。
「俺もピヒラに会えたのは幸運だったな。ピヒラの魔法の使い方や知識は参考になるし、まだ俺自身も剣の腕を磨けるとわかったから」
『トールヴァルドったら、まだ剣を諦めてないのね。いっそあっぱれよ。でもあたしは魔法剣じゃなくて魔法の杖なんですからね!無理させないでよ壊れちゃう』
確かに、無理な使い方をするのは良くないかもしれない。
魔法剣(待機)をどう使うか、少し考えた方がいいだろう。
「あ、ねぇ。これからはあだ名で呼んでもいい?村では何て呼ばれてたの?」
「あぁ、村ではトールって呼ばれてたな。変な呼び方じゃなければ、好きにしてくれ」
村の友人は元気にしているだろうか。
やはり、なるべく早く原因を叩いて魔物の大発生を終わらせて一度帰郷したい。
その後どうするかは、また考えよう。
ふと故郷の友人たちを思い出したトールヴァルドをよそに、ピヒラは手を口元に持っていって考えていた。
「んー……。同じのもいいけど、違うのも特別感あるよね。じゃあ、これからはヴァルドって呼ばせて。いい?ヴァルド」
『自分だけの特別な呼び名!いいじゃなぁい』
確かに、バディっぽいかもしれない。
「わかった。俺はピヒラっていうままだけど、あだ名とかあったのか?」
「あたしは、そのままでいいよ。短いもの」
「そうか?まぁ、ピヒラがいいならそのままにするよ」
「うん!」
嬉しそうなピヒラを見て、トールヴァルドはなんとなくほっこりした。
荷物を補充した村を発って十四日。
途中の村に寄ったほか、魔物が多い場所を通って討伐しながら来たため、思ったよりも日数はかかったが、なんとか大きめの町に到着した。
ここは北側の交易の中心点ともなっている町で、大きいし人も多い。
近辺に魔物がまったくいないと思ったら、どうやら町の衛兵の中に魔物討伐の専門部隊がいるらしい。
冒険者ギルドで聞いたところによると、町の周辺は衛兵、少し離れた森の中や草原にいる魔物は冒険者と、ある程度住み分けしているそうだ。
ここまでほぼ休日なく進んできたので、トールヴァルドとピヒラは一日休むことにした。
とはいえ、魔物討伐をせずにゆっくり装備を整えたり町の中を歩いたりするくらいだ。
到着した日は冒険者ギルドに行って魔物討伐数に応じた振り込みをしてもらっただけで休み、明けた今日は休みである。
いつもよりゆっくり起床し、朝食を食べているとピヒラも起きてきた。
「おはよう、ヴァルド」
「おはよう。俺はこれから一度冒険者ギルドで情報を確認してから剣の手入れに行くつもりだが、ピヒラはどうする?」
「あたしもまずは冒険者ギルドかな。ちょっとお金出してから買い物したいかも」
『買い物いいわねぇ。アタシも買い物に行きたいわぁ。ねぇトールヴァルド、アタシたちもお買い物いきましょ!ね、何か買いましょうよぉ』
魔法剣(待機)は所有もできないのに何が欲しいのだろう。
それとも、金で物をやりとりしているのが楽しいのだろうか。
謎だ。
「じゃあ、食べ終わったらギルドに行くか。ゆっくり行った方が空いてるし」
「うん!ありがとう。朝食もらってくるね」
「あぁ」
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