これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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22 ヒロインによる、第三回ハーレムキャンセル(数打ちゃ当たる枠)

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 訓練場は、ギルドの建物の奥の裏庭のようなところだ。
 土がしっかり固められていて、練習に使うのであろう的などが端っこに集めてある。

「ルールはシンプルでいいわね?あたしが気絶するか、戦えない大ケガをしたらあたしの負け。逆に、そっちは三人全員が気絶するか、戦えない大ケガをしたらそっちの負けよ。それから、万が一勝負の中で命を落としてもそれは仕方ない。いい?」
 目を座らせてそう言ったピヒラの空気に、三人は気圧されたようにうなずいた。

「わ、わかったわよ!勝ったら勇者パーティのメンバーで、負けたら去る。それはいいわね?!」
 すらっとした女性がこぶしを握って言った。
 受けたピヒラは、残りの二人をちらりと見た。

 なんというか、すでに勝敗は見えている気がする。

「あんたたちもね」
「大丈夫よぉ」
「わかりました!」
『わぁお、本格的なキャットファイト!楽しみだわぁ』

 審判は第三者がいいだろうということで、ギルドの中で仲間を待っていた冒険者の一人に頼んだ。
 巻き込んで申し訳ないと思ったので、依頼という形で謝礼を出しておいた。

「では、ピヒラ対パーティ三星、はじめ!」
 どうやら彼女たちのパーティは『三星』という名前だったらしい。
 シンプルだ。
 トールヴァルドたちは『焼肉パフェ』だが、どのギルドでも二度見される。

 まずは小手調べのつもりなのか、メイスを持ったふっくらした女性が飛び出した。
 そして一メートルほどのそのメイスの頭部をピヒラに向けて思い切り振った。

「ふっ!」
 空振った女性は通り抜けて立ち止まり、刃で切らないよう鞘に入ったままの大剣を構えたピヒラの向こうでどさりと倒れた。

「え?」
「さ、サラっ?」
『ひゅぅ!ピヒラちゃんさっすがぁ!』

 角度的に、彼女たちには見えなかったのかもしれない。

 自分の前まで迫った女性のみぞおちに、ピヒラが膝蹴りを入れたのだ。

 構えられた大剣にばかり視線をやっていた女性は、自分の勢いも乗った突然の腹への打撃に対応しきれず、そのまま気を失ったようだ。
 多分、ピヒラは魔法で膝のあたりを強化していたのだろう。

「へ……?あ、パーティ三星、一名脱落!」
 残りの二人の目が、驚愕に見開かれた。

「このっ!サラに、何をしたぁ!!」
 次いで前に出たのはすらっとした女性だ。
 一歩後ろからは少女もついてきている。

 両手に持った剣は、短剣というには長く、長剣にしては短い。
 きっとオーダーした双剣だろう。
 少し腕力の足りない女性ならではの選択である。

 トールヴァルドはふと腰にある魔法剣(待機)を見下ろした。
『何よ?ほら、ピヒラちゃんが決めるわよ!』

 うなずいたトールヴァルドは、一対二になった戦いに目を向けた。

 双剣を持った女性はピヒラの大剣を警戒してか、少し迂回するように走ってピヒラに近づいた。
 正面からは少女が長剣を下向きに構えて迫ってきている。

「炎の剣!」
「っ!」
 少女が長剣を切り上げながら魔法を使った。

 刀身に炎を纏わせたのだ。
 なかなか面白い魔法の使い方である。

 しかしピヒラはその剣筋を最低限の動きで避け、大剣で軽く少女の項を打って昏倒させた。

「もらったぁっ!」
 そのピヒラの斜め後ろから、双剣の女性が切り込んだ。

 しかし、剣を振ったときにはそこにピヒラはいなかった。

「え?」
 後ろを振り向こうとした女性の頭上から、ピヒラの大剣が落ちてきた。
 振り仰ぐ余裕もなく、女性は意識を刈り取られた。

 訓練場に、静寂が落ちた。


「おい、終わったぞ」
「はっ……、勝者ピヒラ!パーティ三星は全員脱落!」

 ピヒラは、大剣を二振りしただけだった。
『すっごぉぉい!ピヒラちゃんカッコいい!!』

 あの動きから察するに、三星の三人はどこかの貴族の後押しでもあって、実力が伴わないままAランクになったのかもしれない。

 一つ息を吐いたピヒラは大剣を背中にしまい、こちらに戻ってきた。

 トールヴァルドはピヒラに駆け寄り、そして脇に手を入れて持ち上げた。
「さすがピヒラ!天才だな!!」
『ピヒラちゃぁん!マジ天才!すごぉい』
「えっ」

 そのまま、トールヴァルドはひょいっとピヒラを軽く空中に投げた。

「ひょわぁあああっ?!」
『ぇぇえええっ』
「おっと」

 そのまま受け止めて立たせるつもりだったのだが、悲鳴にタイミングを逃したトールヴァルドはピヒラを抱き留めた。
 腕の中に納まったピヒラは、驚きに目を見開いたままだ。

 こんなに小さくて細いのに触れると柔らかく、どこからあの力が湧いてくるのか不思議である。

「ごめん。放り投げて驚かせたな」
 剣を教えていた子どもにするのと同じようにしてしまったが、彼女はもう成人した大人なのだ。
 この扱いはないだろう。

『うーわぁ』
 あの魔法剣(待機)ですらこれはないと思ったようだ。

「う、ううん。大丈夫」
 しかしピヒラは、顔を真っ赤にしながらも許してくれた。

 なるべく衝撃がないようにゆっくり下ろすと、ピヒラの足が地面についた。

 自分で立てたとたん、ピヒラがトールヴァルドの腕の中で力を抜いたのがわかった。
 さすがに抱き上げられると怖かったのか、さっきまでは固まっていたようだ。

 じっと見降ろしたピヒラからゆっくり腕を外しながら、トールヴァルドは気がついた。



 これは、可愛い。
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