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24 そ う だ な
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村での物品の調達を終えたトールヴァルドとピヒラは、明日にはこの村を発つことにした。
冒険者ギルドでの換金も終えたので、先に進もうと決めたのだ。
その夜、魔法剣(待機)とトールヴァルドはその日のことを話していた。
もっとも、魔法剣(待機)が話すのはいつものことだ。
今日は、一方的に聞くのではなく会話をしていたのだ。
「あれは、絶対おかしいよな。Bランクもあやしいぞ。いくらなんでも実力とランクが乖離しすぎていた。あとピヒラももうAランクじゃない気がする」
ピヒラの方は、超えていると思う。
『それな。多分、誰かの息がかかってるわねぇ。この感じだと、前に仲間に入れてって言ってた女の子たちも似たようなものなのかもよ』
トールヴァルドはうなずいた。
よくわからないが、貴族が勇者の旅に息のかかったメンバーを入れたいらしい。
「名誉がほしいのか、情報がほしいのか、その両方か。そんなことをしている暇があったら、自分の領地なりなんなりの魔物を倒した方が建設的だぞ」
『しょうがないわよ、気になるんでしょうからね。あとはハニートラップもありそうよ』
「ツァオは何を言ってるんだ?彼女たちは冒険者として仲間に入りたいと言っていただけだぞ。俺にアプローチなんてしてなかっただろ」
『え、あんたこそ何言ってんのよ』
魔法剣(待機)を前にして、トールヴァルドは首を捻った。
好きだとかそういう言葉を言われた記憶はないのだ。
魔法剣(待機)に首があれば、きっと同じようにひねっているだろう。
「実力があるから仲間にして!とか言ってたんだぞ。言うほどじゃなかったけどな」
『そうだけど、そうじゃないの!もう、トールヴァルドったらそっち方面はダメな子なの?お貴族様たちはね、あんたの子どもが欲しいの!いろんな女性を仕向けて、あわよくば子どもを孕ませて後ろ盾になろうってことね』
言いたいことが分かったトールヴァルドは、魔法剣(待機)を睨んだ。
「なんでだよ。俺の子どもなら、俺が後ろ盾になるから貴族なんてお呼びじゃない。……いや待て。そうか、後ろ盾になることで国への影響力やらなんやらが欲しいわけか」
『そういうこと!あ、でもピヒラちゃんは違うわよ』
「まぁピヒラはなんとなく違うとは思っていたが、なんで断言できるんだ?」
トールヴァルドは、そろそろ寝るために魔法剣(待機)をサイドテーブルに置いた。
『それはちょっと言えないわぁ。でもね、アタシの杖としての誇りにかけて誓うわよ。ピヒラちゃんは、誰かからの指示とかじゃなく、全く偶然知り合って一緒にいるの』
理由は不明だが、この魔法剣(待機)が真剣にそう言ったので、信じていいのだろう。
「ピヒラは嘘をついていないし、打算もないからな」
『そうそう。いい子よねぇ。可愛いし』
「そうだな」
ベッドのシーツに潜りこんだトールヴァルドは、ふとピヒラを抱き留めたときの感覚を思い出した。
あんな風に腕の中に閉じ込められる存在に、自分は剣で負けたのである。
しかしそれが悔しいというよりは、すごいと思った。
トールヴァルドが努力して手に入れた技術を、息をするように身につけて実践できる。
長剣の技を見せるだけで、大剣を使う彼女は成長していく。
まさに天才である。
そして魔法に生かせる知識が素晴らしく広い。
身につけた魔法も多く、本人はわかっていないようだが国が欲しがるレベルの魔法使いだ。
そんな彼女に教わるからそこ、トールヴァルドの魔法技術もどんどん上がっているのだ。
彼女は尊敬すべき大剣使いで、魔法の師ともいえる。
納得したトールヴァルドは、そのまま夢の中へ意識を落としていった。
『ん?待って待って、そうだなってどっちにかかってるの?!いい子の方?可愛いの方?え、まさかトールヴァルド、ねぇ待って寝ないで答えてよっ』
両方だし、もう寝るのだ。
次の日は朝からシュネルに乗って村を出た。
ピヒラもしっかり休めたらしく、元気いっぱいだった。
ここから次の町までの間に集落などはなく、まっすぐ行って十日ほどだ。
「多分今回も寄り道しながら行くから、十日では着かないと思う。ピヒラは、故郷に戻るのは急がないのか?」
『あ、そういえばピヒラちゃんの目的地がどこかによってはお別れかもしれないのね』
あまり整備されているとは言えない街道をシュネルに乗って進むと、遠くに魔物が見えた。
トールヴァルドは魔法を飛ばして魔物を倒しながらシュネルを操っている。
ピヒラも、トールヴァルドとは違う方向を見てそちら側の魔物を遠隔の魔法で討伐していた。
「うん、別に期限があるわけじゃないから、急いでないの。こっちの方に来たかったのは、王都に近いと魔物が少なくなっちゃったからだし。今は、できたらヴァルドについて行きたいと思ってるんだけど」
軽く振り返ったピヒラは、ちらりとトールヴァルドを見上げた。
「俺としては助かるが、魔の森から魔界に入る予定なんだ。ピヒラは大丈夫なのか?」
『ピヒラちゃんが一緒だと、アタシは嬉しいわぁ』
前を見たピヒラは、首をかしげた。
「特に急ぐ用事もないし、問題ないと思うわ。どうして?」
魔法剣(待機)から聞いたと言っても信頼されない気がしたので、トールヴァルドはどう説明したものかと数瞬逡巡した。
「あー……、いや、魔界は人間には魔力が多すぎる場所だと聞いたんだ。こちら側よりも明らかに多いから、体調に支障をきたすらしいって」
「あぁ、そういうことね。えっと、うーん。その、あんまり大きな声では言えないんだけど」
「なんだ?」
ピヒラは、左右を見てから背中をトールヴァルドに預けるようにして近づいた。
街道周辺に人影はまったくないが、それでも大きな声で言いたくないらしいと気づいたトールヴァルドは、頭を少しピヒラの方に寄せた。
「あたし、魔界にいたことがあるの。だから一緒に行けるわ。多分だけど、あたしより魔力容量が少ない人でも、魔力制御が身につけば普通に過ごせると思う。ヴァルドは大丈夫なの?」
『これは、重大な乙女の秘密ってやつね!』
少し違うと思う。
しかし、ピヒラは随分と苛烈な修行をしてきたらしい。
トールヴァルドは、ピヒラにうなずいて答えた。
「あぁ。勇者っていうのは、体質が特殊らしい。だから、特に何もしなくても魔界に入れると聞いた。魔物の大発生の原因を潰せるのも、その体質が影響するみたいだな」
「へぇ、初めて聞いたわ。魔物の大発生の原因って、みんなで殴ったら潰せないのかしら?」
『ピヒラちゃんって、割と脳筋なとこあるわよね』
シュネルは、馬上の二人が会話しながら魔法で遠くの魔物を倒していても動揺することなく、マイペースに歩を進めている。
「どうなんだろうな。火力で押したら魔力溜まりくらい潰せるか?」
「えっ?魔力溜まりが原因なの?確かに増えてるって聞いたけど。って、あれは潰せるの?あたし一回魔力溜まりを見つけたときに大剣でずたずたにしてみたけど、潰れるっていうよりは細切れになっただけで、何日かしたらまた魔力溜まりになってたの。勇者なら、魔力溜まりを消して再発させないようにできるってことかしら」
『さすがピヒラちゃんね。さすピヒ。っていうか、魔力溜まりって細切れにできるもんなのね……知らなかったわ』
勇者の剣である魔法剣(待機)でも、知らないことはあるらしい。
「やってみないとわからんが、多分俺なら消せるんだろ。勇者らしいからな」
「ふふ。確かにね」
一応改めて確認したが、やはりピヒラは魔界についてくるつもりらしい。
トールヴァルドは、もしもピヒラの体調が悪くなったらすぐに引き返すと約束した。
冒険者ギルドでの換金も終えたので、先に進もうと決めたのだ。
その夜、魔法剣(待機)とトールヴァルドはその日のことを話していた。
もっとも、魔法剣(待機)が話すのはいつものことだ。
今日は、一方的に聞くのではなく会話をしていたのだ。
「あれは、絶対おかしいよな。Bランクもあやしいぞ。いくらなんでも実力とランクが乖離しすぎていた。あとピヒラももうAランクじゃない気がする」
ピヒラの方は、超えていると思う。
『それな。多分、誰かの息がかかってるわねぇ。この感じだと、前に仲間に入れてって言ってた女の子たちも似たようなものなのかもよ』
トールヴァルドはうなずいた。
よくわからないが、貴族が勇者の旅に息のかかったメンバーを入れたいらしい。
「名誉がほしいのか、情報がほしいのか、その両方か。そんなことをしている暇があったら、自分の領地なりなんなりの魔物を倒した方が建設的だぞ」
『しょうがないわよ、気になるんでしょうからね。あとはハニートラップもありそうよ』
「ツァオは何を言ってるんだ?彼女たちは冒険者として仲間に入りたいと言っていただけだぞ。俺にアプローチなんてしてなかっただろ」
『え、あんたこそ何言ってんのよ』
魔法剣(待機)を前にして、トールヴァルドは首を捻った。
好きだとかそういう言葉を言われた記憶はないのだ。
魔法剣(待機)に首があれば、きっと同じようにひねっているだろう。
「実力があるから仲間にして!とか言ってたんだぞ。言うほどじゃなかったけどな」
『そうだけど、そうじゃないの!もう、トールヴァルドったらそっち方面はダメな子なの?お貴族様たちはね、あんたの子どもが欲しいの!いろんな女性を仕向けて、あわよくば子どもを孕ませて後ろ盾になろうってことね』
言いたいことが分かったトールヴァルドは、魔法剣(待機)を睨んだ。
「なんでだよ。俺の子どもなら、俺が後ろ盾になるから貴族なんてお呼びじゃない。……いや待て。そうか、後ろ盾になることで国への影響力やらなんやらが欲しいわけか」
『そういうこと!あ、でもピヒラちゃんは違うわよ』
「まぁピヒラはなんとなく違うとは思っていたが、なんで断言できるんだ?」
トールヴァルドは、そろそろ寝るために魔法剣(待機)をサイドテーブルに置いた。
『それはちょっと言えないわぁ。でもね、アタシの杖としての誇りにかけて誓うわよ。ピヒラちゃんは、誰かからの指示とかじゃなく、全く偶然知り合って一緒にいるの』
理由は不明だが、この魔法剣(待機)が真剣にそう言ったので、信じていいのだろう。
「ピヒラは嘘をついていないし、打算もないからな」
『そうそう。いい子よねぇ。可愛いし』
「そうだな」
ベッドのシーツに潜りこんだトールヴァルドは、ふとピヒラを抱き留めたときの感覚を思い出した。
あんな風に腕の中に閉じ込められる存在に、自分は剣で負けたのである。
しかしそれが悔しいというよりは、すごいと思った。
トールヴァルドが努力して手に入れた技術を、息をするように身につけて実践できる。
長剣の技を見せるだけで、大剣を使う彼女は成長していく。
まさに天才である。
そして魔法に生かせる知識が素晴らしく広い。
身につけた魔法も多く、本人はわかっていないようだが国が欲しがるレベルの魔法使いだ。
そんな彼女に教わるからそこ、トールヴァルドの魔法技術もどんどん上がっているのだ。
彼女は尊敬すべき大剣使いで、魔法の師ともいえる。
納得したトールヴァルドは、そのまま夢の中へ意識を落としていった。
『ん?待って待って、そうだなってどっちにかかってるの?!いい子の方?可愛いの方?え、まさかトールヴァルド、ねぇ待って寝ないで答えてよっ』
両方だし、もう寝るのだ。
次の日は朝からシュネルに乗って村を出た。
ピヒラもしっかり休めたらしく、元気いっぱいだった。
ここから次の町までの間に集落などはなく、まっすぐ行って十日ほどだ。
「多分今回も寄り道しながら行くから、十日では着かないと思う。ピヒラは、故郷に戻るのは急がないのか?」
『あ、そういえばピヒラちゃんの目的地がどこかによってはお別れかもしれないのね』
あまり整備されているとは言えない街道をシュネルに乗って進むと、遠くに魔物が見えた。
トールヴァルドは魔法を飛ばして魔物を倒しながらシュネルを操っている。
ピヒラも、トールヴァルドとは違う方向を見てそちら側の魔物を遠隔の魔法で討伐していた。
「うん、別に期限があるわけじゃないから、急いでないの。こっちの方に来たかったのは、王都に近いと魔物が少なくなっちゃったからだし。今は、できたらヴァルドについて行きたいと思ってるんだけど」
軽く振り返ったピヒラは、ちらりとトールヴァルドを見上げた。
「俺としては助かるが、魔の森から魔界に入る予定なんだ。ピヒラは大丈夫なのか?」
『ピヒラちゃんが一緒だと、アタシは嬉しいわぁ』
前を見たピヒラは、首をかしげた。
「特に急ぐ用事もないし、問題ないと思うわ。どうして?」
魔法剣(待機)から聞いたと言っても信頼されない気がしたので、トールヴァルドはどう説明したものかと数瞬逡巡した。
「あー……、いや、魔界は人間には魔力が多すぎる場所だと聞いたんだ。こちら側よりも明らかに多いから、体調に支障をきたすらしいって」
「あぁ、そういうことね。えっと、うーん。その、あんまり大きな声では言えないんだけど」
「なんだ?」
ピヒラは、左右を見てから背中をトールヴァルドに預けるようにして近づいた。
街道周辺に人影はまったくないが、それでも大きな声で言いたくないらしいと気づいたトールヴァルドは、頭を少しピヒラの方に寄せた。
「あたし、魔界にいたことがあるの。だから一緒に行けるわ。多分だけど、あたしより魔力容量が少ない人でも、魔力制御が身につけば普通に過ごせると思う。ヴァルドは大丈夫なの?」
『これは、重大な乙女の秘密ってやつね!』
少し違うと思う。
しかし、ピヒラは随分と苛烈な修行をしてきたらしい。
トールヴァルドは、ピヒラにうなずいて答えた。
「あぁ。勇者っていうのは、体質が特殊らしい。だから、特に何もしなくても魔界に入れると聞いた。魔物の大発生の原因を潰せるのも、その体質が影響するみたいだな」
「へぇ、初めて聞いたわ。魔物の大発生の原因って、みんなで殴ったら潰せないのかしら?」
『ピヒラちゃんって、割と脳筋なとこあるわよね』
シュネルは、馬上の二人が会話しながら魔法で遠くの魔物を倒していても動揺することなく、マイペースに歩を進めている。
「どうなんだろうな。火力で押したら魔力溜まりくらい潰せるか?」
「えっ?魔力溜まりが原因なの?確かに増えてるって聞いたけど。って、あれは潰せるの?あたし一回魔力溜まりを見つけたときに大剣でずたずたにしてみたけど、潰れるっていうよりは細切れになっただけで、何日かしたらまた魔力溜まりになってたの。勇者なら、魔力溜まりを消して再発させないようにできるってことかしら」
『さすがピヒラちゃんね。さすピヒ。っていうか、魔力溜まりって細切れにできるもんなのね……知らなかったわ』
勇者の剣である魔法剣(待機)でも、知らないことはあるらしい。
「やってみないとわからんが、多分俺なら消せるんだろ。勇者らしいからな」
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