これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

文字の大きさ
24 / 37

24 そ う だ な

しおりを挟む
 村での物品の調達を終えたトールヴァルドとピヒラは、明日にはこの村を発つことにした。

 冒険者ギルドでの換金も終えたので、先に進もうと決めたのだ。

 その夜、魔法剣(待機)とトールヴァルドはその日のことを話していた。
 もっとも、魔法剣(待機)が話すのはいつものことだ。
 今日は、一方的に聞くのではなく会話をしていたのだ。


「あれは、絶対おかしいよな。Bランクもあやしいぞ。いくらなんでも実力とランクが乖離しすぎていた。あとピヒラももうAランクじゃない気がする」
 ピヒラの方は、超えていると思う。

『それな。多分、誰かの息がかかってるわねぇ。この感じだと、前に仲間に入れてって言ってた女の子たちも似たようなものなのかもよ』
 トールヴァルドはうなずいた。
 よくわからないが、貴族が勇者の旅に息のかかったメンバーを入れたいらしい。

「名誉がほしいのか、情報がほしいのか、その両方か。そんなことをしている暇があったら、自分の領地なりなんなりの魔物を倒した方が建設的だぞ」
『しょうがないわよ、気になるんでしょうからね。あとはハニートラップもありそうよ』

「ツァオは何を言ってるんだ?彼女たちは冒険者として仲間に入りたいと言っていただけだぞ。俺にアプローチなんてしてなかっただろ」
『え、あんたこそ何言ってんのよ』

 魔法剣(待機)を前にして、トールヴァルドは首を捻った。
 好きだとかそういう言葉を言われた記憶はないのだ。
 魔法剣(待機)に首があれば、きっと同じようにひねっているだろう。

「実力があるから仲間にして!とか言ってたんだぞ。言うほどじゃなかったけどな」
『そうだけど、そうじゃないの!もう、トールヴァルドったらそっち方面はダメな子なの?お貴族様たちはね、あんたの子どもが欲しいの!いろんな女性を仕向けて、あわよくば子どもを孕ませて後ろ盾になろうってことね』
 言いたいことが分かったトールヴァルドは、魔法剣(待機)を睨んだ。

「なんでだよ。俺の子どもなら、俺が後ろ盾になるから貴族なんてお呼びじゃない。……いや待て。そうか、後ろ盾になることで国への影響力やらなんやらが欲しいわけか」
『そういうこと!あ、でもピヒラちゃんは違うわよ』

「まぁピヒラはなんとなく違うとは思っていたが、なんで断言できるんだ?」
 トールヴァルドは、そろそろ寝るために魔法剣(待機)をサイドテーブルに置いた。

『それはちょっと言えないわぁ。でもね、アタシの杖としての誇りにかけて誓うわよ。ピヒラちゃんは、誰かからの指示とかじゃなく、全く偶然知り合って一緒にいるの』
 理由は不明だが、この魔法剣(待機)が真剣にそう言ったので、信じていいのだろう。

「ピヒラは嘘をついていないし、打算もないからな」
『そうそう。いい子よねぇ。可愛いし』
「そうだな」

 ベッドのシーツに潜りこんだトールヴァルドは、ふとピヒラを抱き留めたときの感覚を思い出した。
 あんな風に腕の中に閉じ込められる存在に、自分は剣で負けたのである。

 しかしそれが悔しいというよりは、すごいと思った。

 トールヴァルドが努力して手に入れた技術を、息をするように身につけて実践できる。
 長剣の技を見せるだけで、大剣を使う彼女は成長していく。

 まさに天才である。

 そして魔法に生かせる知識が素晴らしく広い。
 身につけた魔法も多く、本人はわかっていないようだが国が欲しがるレベルの魔法使いだ。

 そんな彼女に教わるからそこ、トールヴァルドの魔法技術もどんどん上がっているのだ。

 彼女は尊敬すべき大剣使いで、魔法の師ともいえる。

 納得したトールヴァルドは、そのまま夢の中へ意識を落としていった。
『ん?待って待って、そうだなってどっちにかかってるの?!いい子の方?可愛いの方?え、まさかトールヴァルド、ねぇ待って寝ないで答えてよっ』

 両方だし、もう寝るのだ。




 次の日は朝からシュネルに乗って村を出た。

 ピヒラもしっかり休めたらしく、元気いっぱいだった。
 ここから次の町までの間に集落などはなく、まっすぐ行って十日ほどだ。

「多分今回も寄り道しながら行くから、十日では着かないと思う。ピヒラは、故郷に戻るのは急がないのか?」
『あ、そういえばピヒラちゃんの目的地がどこかによってはお別れかもしれないのね』
 あまり整備されているとは言えない街道をシュネルに乗って進むと、遠くに魔物が見えた。

 トールヴァルドは魔法を飛ばして魔物を倒しながらシュネルを操っている。
 ピヒラも、トールヴァルドとは違う方向を見てそちら側の魔物を遠隔の魔法で討伐していた。

「うん、別に期限があるわけじゃないから、急いでないの。こっちの方に来たかったのは、王都に近いと魔物が少なくなっちゃったからだし。今は、できたらヴァルドについて行きたいと思ってるんだけど」
 軽く振り返ったピヒラは、ちらりとトールヴァルドを見上げた。

「俺としては助かるが、魔の森から魔界に入る予定なんだ。ピヒラは大丈夫なのか?」
『ピヒラちゃんが一緒だと、アタシは嬉しいわぁ』
 前を見たピヒラは、首をかしげた。

「特に急ぐ用事もないし、問題ないと思うわ。どうして?」
 魔法剣(待機)から聞いたと言っても信頼されない気がしたので、トールヴァルドはどう説明したものかと数瞬逡巡した。

「あー……、いや、魔界は人間には魔力が多すぎる場所だと聞いたんだ。こちら側よりも明らかに多いから、体調に支障をきたすらしいって」
「あぁ、そういうことね。えっと、うーん。その、あんまり大きな声では言えないんだけど」
「なんだ?」

 ピヒラは、左右を見てから背中をトールヴァルドに預けるようにして近づいた。
 街道周辺に人影はまったくないが、それでも大きな声で言いたくないらしいと気づいたトールヴァルドは、頭を少しピヒラの方に寄せた。

「あたし、魔界にいたことがあるの。だから一緒に行けるわ。多分だけど、あたしより魔力容量が少ない人でも、魔力制御が身につけば普通に過ごせると思う。ヴァルドは大丈夫なの?」
『これは、重大な乙女の秘密ってやつね!』
 少し違うと思う。

 しかし、ピヒラは随分と苛烈な修行をしてきたらしい。
 トールヴァルドは、ピヒラにうなずいて答えた。

「あぁ。勇者っていうのは、体質が特殊らしい。だから、特に何もしなくても魔界に入れると聞いた。魔物の大発生の原因を潰せるのも、その体質が影響するみたいだな」
「へぇ、初めて聞いたわ。魔物の大発生の原因って、みんなで殴ったら潰せないのかしら?」
『ピヒラちゃんって、割と脳筋なとこあるわよね』

 シュネルは、馬上の二人が会話しながら魔法で遠くの魔物を倒していても動揺することなく、マイペースに歩を進めている。

「どうなんだろうな。火力で押したら魔力溜まりくらい潰せるか?」
「えっ?魔力溜まりが原因なの?確かに増えてるって聞いたけど。って、あれは潰せるの?あたし一回魔力溜まりを見つけたときに大剣でずたずたにしてみたけど、潰れるっていうよりは細切れになっただけで、何日かしたらまた魔力溜まりになってたの。勇者なら、魔力溜まりを消して再発させないようにできるってことかしら」

『さすがピヒラちゃんね。さすピヒ。っていうか、魔力溜まりって細切れにできるもんなのね……知らなかったわ』
 勇者の剣である魔法剣(待機)でも、知らないことはあるらしい。

「やってみないとわからんが、多分俺なら消せるんだろ。勇者らしいからな」
「ふふ。確かにね」

 一応改めて確認したが、やはりピヒラは魔界についてくるつもりらしい。
 トールヴァルドは、もしもピヒラの体調が悪くなったらすぐに引き返すと約束した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...