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25 第四回ハーレムチャンス(ガチンコBL枠)
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途中の森で魔物退治をしたり、川を渡るために少し迂回したりしながら、結局十六日かけて次の町に着いた。
「……なんか、いままでの町とはずいぶん雰囲気が違うわね」
『どんよりしてるわねぇ』
魔の森が近いからだろう、町の中を歩いているのは半分以上が冒険者だ。
そして全体的にピリピリしている。
ピヒラは平然としているが、道行く人たちの表情は明るくはない。
その原因は、冒険者ギルドに立ち寄ったときに分かった。
「えっ?少々お待ちを……あ、はい。えー、四百五十八体ですね。小型が百十一、中型が百九十五、大型が百五十、特大が二。あの、失礼ですがお二人でパーティですか?」
『ま、疑いたくもなるわよねぇ。でも何日もかけて森を移動したから、意外と一日で倒した数は知れてるのよ。多いと百体超え、少なくて十数体ね』
森の奥までうっかり入って、特大サイズも倒した。
あのときはなかなかヒリヒリした。
「はい」
「……記録も間違いありません。失礼しました、入金は口座でかまいませんか?」
『あら、普通の冒険者なら一日に十体も狩れば多い方よね?やだ、アタシも戦力過剰なあんたたちに毒されてるわ』
「それでお願いします」
いつも通り魔法剣(待機)には独り言を言わせておいて、トールヴァルドとピヒラは窓口で手続きをした。
現金で貰っても仕方ないので、すべて口座だ。
手続きが終わったところで、職員に声をかけられた。
「あの、この町でも依頼をお受けになりますか?」
トールヴァルドがピヒラをちらりと見ると、彼女は軽くうなずいた。
「そうだな、二日ほどは留まる予定だから、一日は魔物討伐に出ると思う」
『少しは休まないとね。こっちに近づくほど魔物が多かったから、この先もどんどん増えるだろうしぃ』
魔法剣(待機)の言う通り、魔物はどんどん増えていたし、小型が減って中型・大型が増えてきた。
道中では森に入ったとはいえ、あまり探すことなく特大サイズの魔物を見つけた。
職員はトールヴァルドとピヒラに頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。ここ一ヶ月でかなり魔物が増えまして、ベテランのパーティが主力メンバーをやられてもう二つも解散しました。ほかの場所でも魔物が増えているせいか、冒険者の流入が減っています。また、少しずつ大型の魔物がこちらへ向かう数が増えているそうなんです。お急ぎの途中かもしれませんが、どうか」
『ん?あら、もしかしてトールヴァルドが勇者ってわかってて言ってるのかしら』
多分そうだ。
あえて勇者と言わなかったのは、周りに人が多いこともあって控えたのだろう。
別に隠してはいないが、個別に色々と言われても困るので、そういう対応は助かる。
「あたしは大丈夫よ」
ピヒラも討伐に出るつもりでいてくれるようだ。
「わかった。奥に行ってみることにする」
「ありがとうございますっ!」
『さすが勇者ね!』
職員に見送られて、ギルドを後にした。
ここから西側にある山が少し深く、これまでなら中型中心だったのに、大型が増えてきて討伐が間に合わなくなっているらしい。
「じゃ、明日は討伐でいい?」
「そうだな。今日はこのまま宿で休むか」
「そうね」
シュネルはもう宿の厩にいる。
宿には食堂もついているので、ゆっくり休むことに決めた。
二人で並んで歩いていると、突然目の前に男性が立った。
全身に鎧を着こみ、大きな盾を背負った筋肉質な冒険者だ。
「失礼、勇者とお見受けする。俺はこれまでこの町の冒険者パーティでタンクをしていた、マインラートという。A級冒険者だ。ここからの旅で、タンクも必要になるだろうから連れて行ってくれないか」
『あら、それなりにいいオトコじゃない。あたしにはちょっと筋肉が多すぎるけどぉ』
またしても売り込みだった。
トールヴァルドはまだBランクのままだが、Aランクになるための試験を受けていないだけだ。
ピヒラもAランクを超える試験を受けるつもりはないらしい。
実質は、二人ともSランクに到達しているだろう。
二人のパーティで言えば、Sランクを越えている可能性もある。
つまり、普通にAランク入りしているくらいの実力では足手まといになるのだ。
「すまないが、メンバーは募集していない。タンクも俺達には不要なんだ」
「なっ。いや、でもタンクがいれば、近接も魔法も一拍待って、魔物が体勢を崩したところを攻撃できるだろう?多少レベル差があっても、戦いの幅が広がるんだぞ」
『うーん、一理あると言えなくもないかしら。でもねぇ、筋肉枠はトールヴァルドで埋まってんのよ』
魔法剣(待機)は、一体全体どういう基準でパーティを決めようとしているのか。
ピヒラはというと、彼女もめんどくさいのか、胡散臭いものを見る目になっていた。
多分、誰かの息がかかっているのを感じているのだろう。
「ねぇヴァルド、今日はもう休みましょうよ。その人は、明日の討伐について来てもらって、どんな感じか見てもらえばわかるんじゃない?あたしたちにタンクはいらないって」
『ピヒラちゃんとしては、二人きりがいいわよねぇ』
どうやら、ピヒラはめんどくさいというよりは疲れているらしい。
それは悪いことをした。
「そうだな。ずっと移動して魔物狩りをし続けてきたからな。すまんが、ピヒラを休ませたいからこれで失礼する。来る気があるなら、明日の朝七時に西の門で」
ピヒラの手を取りながらそう言うと、男性はうなずいた。
「わかった!ありがとう」
『あら、来るつもりなのね。まぁいい勉強になるんじゃないかしら』
さっと立ち去る判断はありがたい。
しかし、魔法剣(待機)は男に厳しい気がする。
手を引いて歩くと、ピヒラは黙ってついてきた。
少し俯いているが、耳は血色が良いので体調不良ではないと思う。
「大丈夫か?夕食は部屋に持っていくから、寝ているといい」
『あらぁ、トールヴァルドったら優しい』
「ん、大丈夫。ゆっくり歩いたから平気だし、体調もいつも通りだから」
宿の部屋の前まで送ると、頬はまだ少し赤かったがピヒラは明るくそう言った。
別に疑っているわけではないが、確かめたかったトールヴァルドはピヒラの顔を覗き込み、髪を手で避けて額と額を合わせた。
こつんと当たった額は、トールヴァルドよりも少し低いくらいの温かさだった。
「熱はなさそうだ。しかしまぁ、一応休んでおくと良い。ここまで強行軍だったからな」
女性には体調が悪い時期もあるから、無理に聞き出したりせずに休ませろと母に仕込まれたのだ。
額を合わせたまま見たピヒラの目は、吸い込まれそうな深い黒だった。
黒いのに煌めくんだな、と思いながら顔を離すと、ピヒラの顔は真っ赤になっていた。
「ピヒラ、大丈夫か?ほら、部屋に入って。靴はここで脱いで。鎧はこっちに置いとくか。ちょっと部屋が寒いな、少し魔法で暖めておくぞ。髪はそのままでいいか?ほら、きちんとシーツを被って。枕は低くないか?下で湯を貰って熱いお茶を淹れてくるから、少し待っていてくれるか?」
『おかんか?!』
トールヴァルドがあれこれお世話するのに対してされるがままになったピヒラは、皮鎧を脱いだ状態でベッドに入ってきょとんとしていた。
「あ、あの、ヴァルド。本当に大丈夫なの。まぁ少しは疲れてるけどそれくらいよ」
「いいから、休めるときに休んでくれ。明日も無理しなくていいからな?」
『おかんだわ!心配性の方のおかん!!』
了承しているとはいえ、トールヴァルドの都合に合わせて連れまわされているのはピヒラなのだ。
無理をさせてはいけない。
「わかったけど、あたしもちゃんとした大人だからね?自分のことは自分でわかるし、自分でできるから」
そう言われて、うっかり毛布の上からピヒラの腹のあたりをポンポンしている自分に気が付いた。
これでは完全に子ども扱いである。
「あー、すまん。つい」
「ぷっ!ふふふ。ヴァルドって、世話焼きさんなのね」
『世話焼きのおかんだった』
自分が連れまわしたせいだと思って焦ったのだから仕方ない。
その後も、お茶を運び、食事を運びと世話をしたので、とうとうピヒラに言われた。
「あたしは十分休んでるから、ヴァルドも休んで。明日も魔物討伐に行くのよ」
「わかった。じゃあ、何かあったら呼んでくれ」
「もう、ふふふふ。いいってば」
『さすがに、しつこいと嫌われるわよ』
ピヒラは笑ってくれているが、うっとうしいかもしれないと思い至ったトールヴァルドは、大人しく引き下がることにした。
「……なんか、いままでの町とはずいぶん雰囲気が違うわね」
『どんよりしてるわねぇ』
魔の森が近いからだろう、町の中を歩いているのは半分以上が冒険者だ。
そして全体的にピリピリしている。
ピヒラは平然としているが、道行く人たちの表情は明るくはない。
その原因は、冒険者ギルドに立ち寄ったときに分かった。
「えっ?少々お待ちを……あ、はい。えー、四百五十八体ですね。小型が百十一、中型が百九十五、大型が百五十、特大が二。あの、失礼ですがお二人でパーティですか?」
『ま、疑いたくもなるわよねぇ。でも何日もかけて森を移動したから、意外と一日で倒した数は知れてるのよ。多いと百体超え、少なくて十数体ね』
森の奥までうっかり入って、特大サイズも倒した。
あのときはなかなかヒリヒリした。
「はい」
「……記録も間違いありません。失礼しました、入金は口座でかまいませんか?」
『あら、普通の冒険者なら一日に十体も狩れば多い方よね?やだ、アタシも戦力過剰なあんたたちに毒されてるわ』
「それでお願いします」
いつも通り魔法剣(待機)には独り言を言わせておいて、トールヴァルドとピヒラは窓口で手続きをした。
現金で貰っても仕方ないので、すべて口座だ。
手続きが終わったところで、職員に声をかけられた。
「あの、この町でも依頼をお受けになりますか?」
トールヴァルドがピヒラをちらりと見ると、彼女は軽くうなずいた。
「そうだな、二日ほどは留まる予定だから、一日は魔物討伐に出ると思う」
『少しは休まないとね。こっちに近づくほど魔物が多かったから、この先もどんどん増えるだろうしぃ』
魔法剣(待機)の言う通り、魔物はどんどん増えていたし、小型が減って中型・大型が増えてきた。
道中では森に入ったとはいえ、あまり探すことなく特大サイズの魔物を見つけた。
職員はトールヴァルドとピヒラに頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。ここ一ヶ月でかなり魔物が増えまして、ベテランのパーティが主力メンバーをやられてもう二つも解散しました。ほかの場所でも魔物が増えているせいか、冒険者の流入が減っています。また、少しずつ大型の魔物がこちらへ向かう数が増えているそうなんです。お急ぎの途中かもしれませんが、どうか」
『ん?あら、もしかしてトールヴァルドが勇者ってわかってて言ってるのかしら』
多分そうだ。
あえて勇者と言わなかったのは、周りに人が多いこともあって控えたのだろう。
別に隠してはいないが、個別に色々と言われても困るので、そういう対応は助かる。
「あたしは大丈夫よ」
ピヒラも討伐に出るつもりでいてくれるようだ。
「わかった。奥に行ってみることにする」
「ありがとうございますっ!」
『さすが勇者ね!』
職員に見送られて、ギルドを後にした。
ここから西側にある山が少し深く、これまでなら中型中心だったのに、大型が増えてきて討伐が間に合わなくなっているらしい。
「じゃ、明日は討伐でいい?」
「そうだな。今日はこのまま宿で休むか」
「そうね」
シュネルはもう宿の厩にいる。
宿には食堂もついているので、ゆっくり休むことに決めた。
二人で並んで歩いていると、突然目の前に男性が立った。
全身に鎧を着こみ、大きな盾を背負った筋肉質な冒険者だ。
「失礼、勇者とお見受けする。俺はこれまでこの町の冒険者パーティでタンクをしていた、マインラートという。A級冒険者だ。ここからの旅で、タンクも必要になるだろうから連れて行ってくれないか」
『あら、それなりにいいオトコじゃない。あたしにはちょっと筋肉が多すぎるけどぉ』
またしても売り込みだった。
トールヴァルドはまだBランクのままだが、Aランクになるための試験を受けていないだけだ。
ピヒラもAランクを超える試験を受けるつもりはないらしい。
実質は、二人ともSランクに到達しているだろう。
二人のパーティで言えば、Sランクを越えている可能性もある。
つまり、普通にAランク入りしているくらいの実力では足手まといになるのだ。
「すまないが、メンバーは募集していない。タンクも俺達には不要なんだ」
「なっ。いや、でもタンクがいれば、近接も魔法も一拍待って、魔物が体勢を崩したところを攻撃できるだろう?多少レベル差があっても、戦いの幅が広がるんだぞ」
『うーん、一理あると言えなくもないかしら。でもねぇ、筋肉枠はトールヴァルドで埋まってんのよ』
魔法剣(待機)は、一体全体どういう基準でパーティを決めようとしているのか。
ピヒラはというと、彼女もめんどくさいのか、胡散臭いものを見る目になっていた。
多分、誰かの息がかかっているのを感じているのだろう。
「ねぇヴァルド、今日はもう休みましょうよ。その人は、明日の討伐について来てもらって、どんな感じか見てもらえばわかるんじゃない?あたしたちにタンクはいらないって」
『ピヒラちゃんとしては、二人きりがいいわよねぇ』
どうやら、ピヒラはめんどくさいというよりは疲れているらしい。
それは悪いことをした。
「そうだな。ずっと移動して魔物狩りをし続けてきたからな。すまんが、ピヒラを休ませたいからこれで失礼する。来る気があるなら、明日の朝七時に西の門で」
ピヒラの手を取りながらそう言うと、男性はうなずいた。
「わかった!ありがとう」
『あら、来るつもりなのね。まぁいい勉強になるんじゃないかしら』
さっと立ち去る判断はありがたい。
しかし、魔法剣(待機)は男に厳しい気がする。
手を引いて歩くと、ピヒラは黙ってついてきた。
少し俯いているが、耳は血色が良いので体調不良ではないと思う。
「大丈夫か?夕食は部屋に持っていくから、寝ているといい」
『あらぁ、トールヴァルドったら優しい』
「ん、大丈夫。ゆっくり歩いたから平気だし、体調もいつも通りだから」
宿の部屋の前まで送ると、頬はまだ少し赤かったがピヒラは明るくそう言った。
別に疑っているわけではないが、確かめたかったトールヴァルドはピヒラの顔を覗き込み、髪を手で避けて額と額を合わせた。
こつんと当たった額は、トールヴァルドよりも少し低いくらいの温かさだった。
「熱はなさそうだ。しかしまぁ、一応休んでおくと良い。ここまで強行軍だったからな」
女性には体調が悪い時期もあるから、無理に聞き出したりせずに休ませろと母に仕込まれたのだ。
額を合わせたまま見たピヒラの目は、吸い込まれそうな深い黒だった。
黒いのに煌めくんだな、と思いながら顔を離すと、ピヒラの顔は真っ赤になっていた。
「ピヒラ、大丈夫か?ほら、部屋に入って。靴はここで脱いで。鎧はこっちに置いとくか。ちょっと部屋が寒いな、少し魔法で暖めておくぞ。髪はそのままでいいか?ほら、きちんとシーツを被って。枕は低くないか?下で湯を貰って熱いお茶を淹れてくるから、少し待っていてくれるか?」
『おかんか?!』
トールヴァルドがあれこれお世話するのに対してされるがままになったピヒラは、皮鎧を脱いだ状態でベッドに入ってきょとんとしていた。
「あ、あの、ヴァルド。本当に大丈夫なの。まぁ少しは疲れてるけどそれくらいよ」
「いいから、休めるときに休んでくれ。明日も無理しなくていいからな?」
『おかんだわ!心配性の方のおかん!!』
了承しているとはいえ、トールヴァルドの都合に合わせて連れまわされているのはピヒラなのだ。
無理をさせてはいけない。
「わかったけど、あたしもちゃんとした大人だからね?自分のことは自分でわかるし、自分でできるから」
そう言われて、うっかり毛布の上からピヒラの腹のあたりをポンポンしている自分に気が付いた。
これでは完全に子ども扱いである。
「あー、すまん。つい」
「ぷっ!ふふふ。ヴァルドって、世話焼きさんなのね」
『世話焼きのおかんだった』
自分が連れまわしたせいだと思って焦ったのだから仕方ない。
その後も、お茶を運び、食事を運びと世話をしたので、とうとうピヒラに言われた。
「あたしは十分休んでるから、ヴァルドも休んで。明日も魔物討伐に行くのよ」
「わかった。じゃあ、何かあったら呼んでくれ」
「もう、ふふふふ。いいってば」
『さすがに、しつこいと嫌われるわよ』
ピヒラは笑ってくれているが、うっとうしいかもしれないと思い至ったトールヴァルドは、大人しく引き下がることにした。
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