これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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26 第四回ハーレムキャンセル中(ガチンコBL枠)

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 次の日、ピヒラは朝から元気だった。

「だから、昨日はなんでもなかったの。大丈夫よ。今日もしっかり討伐しに行きましょう」
「それならいいんだが。もし辛くなったら、すぐに言ってくれ。今日明日のうちに解決しないといけない問題というわけでもないんだ」
『まぁ、魔物は突然増えたりはしないものね』
 トールヴァルドの言葉に、ピヒラは笑顔でうなずいた。

「ありがとう、ヴァルド。何かあったら遠慮なく言うから。ヴァルドも、遠慮なく言ってね?こういうのはお互い様なんだし」
「あぁ、ありがとう」
『ピヒラちゃんいい子ねぇ』

 そうして朝食をとって西の門に向かえば、そこには予想通りに人影があった。


「おはよう、勇者殿!ピヒラ殿!今日はよろしく頼む」
 タンクの彼は随分とやる気のようで、装備もきちんと整えてある。

「ああ、おはよう。とりあえず、ついて来て様子を見てくれたらいい」
 トールヴァルドとしてはめんどくさいことこの上ないが、あれこれ話して説得するよりは自分たちの戦闘について来て目で見て理解してもらう方が、色々と手間が減る。

 特に今回の盾使いはこれまでの女性たちと違ってきちんと冒険者として身を立てているようなので、実力を見誤ることもないだろう。


 西の門から出て、シュネルに乗って一時間ほどで森に着いた。
 盾使いの男性も馬に乗っていたので、普通に一緒にやってきた。

 どうでもいいが、これまで色々声をかけてきた女性たちは、自分で馬に乗れたのだろうか。
 シュネルはトールヴァルドとピヒラでいっぱいなので、ほかの人を乗せる余裕はない。

 トールヴァルドは雑念を振り払い、剣を確認して森に入った。
 ここからは、魔物が出るので気を緩めるわけにはいかない。


 少し入ると、すぐに中型の魔物に遭遇した。
 これはピヒラがサクッと倒して終了だ。

 その後も、中型や小型の魔物を遠くから見つけてはどんどん倒していく。
 ピヒラ単体か、トールヴァルド単体のどちらかだ。

 その時点で、盾使いの男性の顔色が悪くなっていた。

 ピヒラと一緒にいると忘れそうになるが、中型の魔物は数人のパーティで対応するものなのだ。


 そしてとうとう、大型の魔物に遭遇した。

「いくぞ」
「今回はあたしが前よ」
「わかった」

 二人で連携する場合、交互に前に出ているのだ。
 前回の最後はトールヴァルドが前だったので、今回はピヒラである。

「下がっていてくれ」
 トールヴァルドが盾使いに言うと、彼は静かにうなずいた。

 ピヒラが大剣を斜め下に構えたまま飛び出し、トールヴァルドが魔法で援護する。

 中型以上の魔物は思考力がそれなりにあり、場合によっては逃げてしまう。
 だから、逃げられないように魔法で道を塞ぐ。
 あとは、ピヒラの邪魔にならないように別の方向から攻撃を仕掛けるのだ。

 火魔法は延焼の危険があるので、森の中では水魔法か風魔法、土魔法あたりを使うことが多い。
 今回選んだのは水魔法だ。

「はっ!!」
 トールヴァルドの牽制により立ち止まった魔物に向けて、ピヒラが飛び込みながら大きく一回大剣を振ると、魔物はなぜか四つに切られてそのまま飛び散り、揺れるように消えていった。


 大型の魔物との総戦闘時間、およそ三分。

 飛び散った魔物の一部が盾使いの方に行きそうになったのを、彼はなんとか盾で防いでいた。

 どん!と地面に突き立てた大きな盾には、強化のためか魔法が纏わされていた。
 そういえば、前回ピヒラと戦った長剣使いの女の子も、長剣に魔法を纏わせていた覚えがある。

「……できる気がするな」
 トールヴァルドは、魔法剣(待機)を見下ろした。
『えっ?』


 次の大型の魔物は、大型か特大かぎりぎりのところというくらいに大きかった。

「次は俺だな。ちょっと試すことがあるから、気にしないでいつも通りにしてくれ」
「わかったわ」
『ちょちょちょ、ねぇ、なんでアタシを長剣より前で持ってるわけ?アタシは待機なんじゃなかったっけ?』

 右手に長剣、前に出した左手には魔法剣(待機)を構えた。

 魔法はイメージだと教えてくれたのは魔法剣(待機)だし、ピヒラも同じように言っていた。
 だから、できる。

「いくぞ」
『まぁっ?まってまってまってまってぇっ?!』

 待つ必要を感じない。

 トールヴァルドは、イメージのままに魔法剣(待機)に魔法を纏わせた。
 棒の部分を軸として、少し揺れる赤い光が魔法剣(待機)を包んで形を作っていく。

「ふぅ。こんなもんか」
『うぇぇえええっ!』
「ヴァルド、なにそれ?」

 ピヒラの驚いた声に、トールヴァルドは目線を魔物からそらさずに少し振り向いて答えた。

「魔法剣(ごり押し)だ」
「えぇ?魔法の刃ってこと?うーん、……。うん、ヴァルドが言うならそっか!」
『ピヒラちゃん!諦めないでぇえ?!アタシは、アタシは魔法の杖なの!切れない!無理よぉ!!』
「よし、いけそうだな」
『いけないってばぁ!!』

 トールヴァルドは基本的に長剣を極めてきたが、ほかの武器もきちんと習得している。
 長剣の次に使いやすいのは、双剣だ。

 魔法剣(ごり押し)は、長剣よりも少し短いので二刀流にはちょうどいい。

 軽く両腕を振ったトールヴァルドは、こちらに向かってくる魔物を見てから地を蹴った。

「いくぞ!」
「足止めは任せて!」
『いゃああああああっ?!』
 野太い叫び声が、トールヴァルドの耳にだけ響いた。

 特大サイズは、体長が十メートルを超える。
 形は個体によって違うが、この魔物は足が八本ある胴体の長いタイプだ。

 黒い身体の輪郭は靄のように揺らいでおり、形が定まっているようで不安定。
 それでも、細切れにすれば散っていく。

 飛び込みながら二本の剣を左右に切り広げると、両方に手ごたえがあった。

 しかし、浅い。

 魔物の動きを待たずに、そのまま斜め前へと駆け抜ける。
 その後ろからピヒラが魔法を放って、魔物の反撃を抑えていた。

 トールヴァルドが切り込みながら魔法も使い、ピヒラが魔法で動きを抑制するということを繰り返しておおよそ十分。

「ふぅ。双剣は久しぶりだからなかなかだな」
「そうだったの?すごく慣れてるように見えたわ」
『アタシ、魔物、キレタ』

 特大サイズの魔物は散らされて消えていった。

 魔法剣(ごり押し)は、自分の転身に現実逃避しているようだ。

 それを放置したトールヴァルドはゆるりと周りの気配を探るが、魔物は近くにいない。

 これまでの経験上、大型や特大サイズの魔物の近くにはほかの魔物が寄ってこないと知ってはいたが、警いつでも戒を怠らないようにすべきなのだ。
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