これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

文字の大きさ
27 / 37

27 第四回ハーレムキャンセル(ガチンコBL枠)とキャンセルされた人のその後

しおりを挟む
「よし。っと、それで、どうだった?」
 討伐の高揚感に忘れそうになっていたが、視界に入ったのでトールヴァルドはタンクの彼に聞いた。
 とはいえ、その答えは表情でわかってしまう。

「あ。お、俺では、足手まとい、邪魔になる、な」
「あぁ。わかってくれて助かる。まぁ、そんなに実力がないわけじゃなくて、俺たちの連携ではちょっと必要ないだけだ。近接になったら俺もピヒラも避けるからまず攻撃を食らわないし、遠距離になったら魔法障壁をはることだってできるからな。気にするなよ」
『アタシって、魔法剣だったんだけ?魔法も放ってたわよね。魔法の杖よね。そのはずだったわよね』

 心が折れたらしいタンクは、以降はただ静かに待機していた。
 トールヴァルドとピヒラの戦いぶりを目に焼き付けるように、じっと見ていた。


 町に戻ると、そのまま軽く頭を下げてタンクの彼は去っていった。

「もしかして、これまでの売り込みもこうやって断ったらよかったのか?」
 去っていく丸まった背中を見ながらそう言うと、ピヒラは首を振った。

「それはわからないわよ。彼の場合は、少なくとも自分の実力を知っていて、あたしたちとの差を理解できるだけの経験があったもの。あのうっとうしい女の人たちは、逆にそれなら守ってもらえるとか考えてまとわりつきそうだったから、理論武装したりあたし一人が対応したりでよかったのよ」
「そういう可能性もあったのか」
 思い出したらしいピヒラは、不機嫌そうに唇をとがらせながら首を縦に振った。

『アタシは魔法の杖、アタシは魔法の杖。ただの魔法の杖じゃなくて、魔法剣もこなしちゃうすんごい魔法の杖。やだハイスペック!』
 なにやら自分に言い聞かせていた勇者の魔法剣(ごり押し)は、どうにか折り合いをつけたらしい。
 自己肯定感が高まったならいいことだ。

 これで、自信を持って『勇者の剣』だと言って持ち歩ける。
 懸念が一つなくなったトールヴァルドは、満足そうにうなずいた。



 次の日は買い物をするくらいで休暇とし、荷物を整理してゆったりすごした。

 さらに次の日には、シュネルに乗って町を出た。

 この先には、トールヴァルドの故郷のような、ほとんど自給自足している村くらいしかない。
 まっすぐ移動するだけならば、半月ほどで魔の森にたどり着く計算である。



 ◇◆◇◆◇◆ 



 マインラートは、北の辺境を収めている伯爵家の親戚だ。
 具体的には父が現伯爵の弟で、そのまま家を支えるために平民になって伯爵家に仕えている。

 父にとって三人目の息子であるマインラートは、昔から身体が大きかった。
 だから、魔物討伐パーティでの役割を色々と学んだ末に、タンクとしてやっていくことに決めた。

 魔物を挑発して攻撃を受け止め、その隙にメンバーが攻撃する。
 マインラートさえきっちり攻撃を受けて留まれば、かなり楽に攻撃できるのだ。
 似たレベルの人たちと冒険者パーティを組んで、伯爵家の領地を中心に活動していた。


 そんなある日、北の辺境にも『勇者が誕生した』というニュースが駆け巡った。

 そして、現伯爵である伯父から連絡がきた。
 すわ両親に何かあったかと焦ったが、内容はもっと荒唐無稽だった。

 曰く、勇者パーティに参加して名を上げてこいという。
 今の勇者パーティにはタンクがいないから、説得できるだろうと指示された。
 ついでに、勇者が男性好きだったら、うまく取り入ってこいとも言われた。

 マインラートの恋愛対象は女性なので、そこはお断りさせてもらう。
 別に男性が好きでも自由にしたらいいが、自分は違うので勘弁してもらいたい。
 勇者パーティに入る件については、両親からも頼まれたし、もしも参加できれば自分の名も上がる。

 そういう野心や打算のもとに、マインラートは勇者に声をかけた。

 一緒にいる女性は、大剣使いのA級冒険者だという。
 マインラートだって、タンクのA級冒険者なのだ。

 二人の戦いぶりを見て考えてくれと言われたので、ほぼ決まりだと考えたマインラートは足取りも軽く魔物退治について行った。



 目の前の惨状が信じられなかった。

 マインラートが普段パーティを組んで相手にしていた中型の魔物を単騎で軽くいなし、自分たちがたまに遭遇するときには決死の覚悟で挑む大型魔物を二人でサクッと討伐する。
 超大型に分類できそうな魔物ですら、余裕を持って、なんなら前衛と後衛を入れ変わりながら倒している。

 剣の腕も、魔法の腕も、マインラートが知る冒険者とは次元が違った。

 こちらに飛んできた破片だけなら自分で防げたが、彼らの動きを邪魔せずにタンクとして役割を果たせる気がしない。
 良くてただのお荷物、最悪彼らに討伐を失敗させる要因となるだろう。

 マインラートは、黙って身を引いた。



 実家に戻ったマインラートは、正直に報告して盾を捨てようとした。

 しかし、自分の野心のために甥の心を折ってしまったという罪悪感に駆られた伯爵は、それを思いとどまらせて伯爵家で雇い、領内でも比較的大きな町の兵士団長という地位を与えた。

 初めこそ元A級冒険者ということで兵士団では一歩引いた対応だったが、魔物討伐の手が足りなくなってマインラートが出たときに、評価がくるりと変わった。

 マインラートは、盾で攻撃を受けながらも周りのメンバーの立ち位置や状況をしっかり読むタイプだった。
 だから、パーティでの戦いの指示はおおむねマインラートが出していた。
 同じことを兵士たちとともにすると、いつもなら出動人数の半数は出るケガ人がなんとゼロ。

 全員無傷で帰ってこれたのである。

 そして、これまで『伯爵家から押し付けられたお偉いさん』という対応だったのが『さすがA級で活躍していた冒険者』へと変わった。

 兵士たちが教えを乞うようになり、それならと複数人で対応する場合の立ち位置や魔物の動きについて教えているうちに、魔物の専門家と呼ばれるようになった。

 その噂を聞きつけた魔物の研究家が町にやってきて、ぜひうちの領に来てくれとスカウトされた。
 研究家は、とある男爵家の当主だったのである。

 しかしマインラートはもう町に愛着を持っていたので断った。

 すると、その魔物研究家は自分の弟子を町に寄こした。
 生態をまとめる手伝いをしてほしいと言われて断るに断れず、やってみると魔物を系統立てて分類していくのが楽しくなり、いつしかその弟子のために研究に協力するようになり、気が付いたらその弟子と結婚していた。

 弟子、というのが、男爵の三番目の娘だったために、誰も何も反対するどころか歓迎された。


 兵士団長夫妻の魔物の研究成果は一冊の分厚い事典となり、のちに世界的な知識基準となる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...