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27 第四回ハーレムキャンセル(ガチンコBL枠)とキャンセルされた人のその後
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「よし。っと、それで、どうだった?」
討伐の高揚感に忘れそうになっていたが、視界に入ったのでトールヴァルドはタンクの彼に聞いた。
とはいえ、その答えは表情でわかってしまう。
「あ。お、俺では、足手まとい、邪魔になる、な」
「あぁ。わかってくれて助かる。まぁ、そんなに実力がないわけじゃなくて、俺たちの連携ではちょっと必要ないだけだ。近接になったら俺もピヒラも避けるからまず攻撃を食らわないし、遠距離になったら魔法障壁をはることだってできるからな。気にするなよ」
『アタシって、魔法剣だったんだけ?魔法も放ってたわよね。魔法の杖よね。そのはずだったわよね』
心が折れたらしいタンクは、以降はただ静かに待機していた。
トールヴァルドとピヒラの戦いぶりを目に焼き付けるように、じっと見ていた。
町に戻ると、そのまま軽く頭を下げてタンクの彼は去っていった。
「もしかして、これまでの売り込みもこうやって断ったらよかったのか?」
去っていく丸まった背中を見ながらそう言うと、ピヒラは首を振った。
「それはわからないわよ。彼の場合は、少なくとも自分の実力を知っていて、あたしたちとの差を理解できるだけの経験があったもの。あのうっとうしい女の人たちは、逆にそれなら守ってもらえるとか考えてまとわりつきそうだったから、理論武装したりあたし一人が対応したりでよかったのよ」
「そういう可能性もあったのか」
思い出したらしいピヒラは、不機嫌そうに唇をとがらせながら首を縦に振った。
『アタシは魔法の杖、アタシは魔法の杖。ただの魔法の杖じゃなくて、魔法剣もこなしちゃうすんごい魔法の杖。やだハイスペック!』
なにやら自分に言い聞かせていた勇者の魔法剣(ごり押し)は、どうにか折り合いをつけたらしい。
自己肯定感が高まったならいいことだ。
これで、自信を持って『勇者の剣』だと言って持ち歩ける。
懸念が一つなくなったトールヴァルドは、満足そうにうなずいた。
次の日は買い物をするくらいで休暇とし、荷物を整理してゆったりすごした。
さらに次の日には、シュネルに乗って町を出た。
この先には、トールヴァルドの故郷のような、ほとんど自給自足している村くらいしかない。
まっすぐ移動するだけならば、半月ほどで魔の森にたどり着く計算である。
◇◆◇◆◇◆
マインラートは、北の辺境を収めている伯爵家の親戚だ。
具体的には父が現伯爵の弟で、そのまま家を支えるために平民になって伯爵家に仕えている。
父にとって三人目の息子であるマインラートは、昔から身体が大きかった。
だから、魔物討伐パーティでの役割を色々と学んだ末に、タンクとしてやっていくことに決めた。
魔物を挑発して攻撃を受け止め、その隙にメンバーが攻撃する。
マインラートさえきっちり攻撃を受けて留まれば、かなり楽に攻撃できるのだ。
似たレベルの人たちと冒険者パーティを組んで、伯爵家の領地を中心に活動していた。
そんなある日、北の辺境にも『勇者が誕生した』というニュースが駆け巡った。
そして、現伯爵である伯父から連絡がきた。
すわ両親に何かあったかと焦ったが、内容はもっと荒唐無稽だった。
曰く、勇者パーティに参加して名を上げてこいという。
今の勇者パーティにはタンクがいないから、説得できるだろうと指示された。
ついでに、勇者が男性好きだったら、うまく取り入ってこいとも言われた。
マインラートの恋愛対象は女性なので、そこはお断りさせてもらう。
別に男性が好きでも自由にしたらいいが、自分は違うので勘弁してもらいたい。
勇者パーティに入る件については、両親からも頼まれたし、もしも参加できれば自分の名も上がる。
そういう野心や打算のもとに、マインラートは勇者に声をかけた。
一緒にいる女性は、大剣使いのA級冒険者だという。
マインラートだって、タンクのA級冒険者なのだ。
二人の戦いぶりを見て考えてくれと言われたので、ほぼ決まりだと考えたマインラートは足取りも軽く魔物退治について行った。
目の前の惨状が信じられなかった。
マインラートが普段パーティを組んで相手にしていた中型の魔物を単騎で軽くいなし、自分たちがたまに遭遇するときには決死の覚悟で挑む大型魔物を二人でサクッと討伐する。
超大型に分類できそうな魔物ですら、余裕を持って、なんなら前衛と後衛を入れ変わりながら倒している。
剣の腕も、魔法の腕も、マインラートが知る冒険者とは次元が違った。
こちらに飛んできた破片だけなら自分で防げたが、彼らの動きを邪魔せずにタンクとして役割を果たせる気がしない。
良くてただのお荷物、最悪彼らに討伐を失敗させる要因となるだろう。
マインラートは、黙って身を引いた。
実家に戻ったマインラートは、正直に報告して盾を捨てようとした。
しかし、自分の野心のために甥の心を折ってしまったという罪悪感に駆られた伯爵は、それを思いとどまらせて伯爵家で雇い、領内でも比較的大きな町の兵士団長という地位を与えた。
初めこそ元A級冒険者ということで兵士団では一歩引いた対応だったが、魔物討伐の手が足りなくなってマインラートが出たときに、評価がくるりと変わった。
マインラートは、盾で攻撃を受けながらも周りのメンバーの立ち位置や状況をしっかり読むタイプだった。
だから、パーティでの戦いの指示はおおむねマインラートが出していた。
同じことを兵士たちとともにすると、いつもなら出動人数の半数は出るケガ人がなんとゼロ。
全員無傷で帰ってこれたのである。
そして、これまで『伯爵家から押し付けられたお偉いさん』という対応だったのが『さすがA級で活躍していた冒険者』へと変わった。
兵士たちが教えを乞うようになり、それならと複数人で対応する場合の立ち位置や魔物の動きについて教えているうちに、魔物の専門家と呼ばれるようになった。
その噂を聞きつけた魔物の研究家が町にやってきて、ぜひうちの領に来てくれとスカウトされた。
研究家は、とある男爵家の当主だったのである。
しかしマインラートはもう町に愛着を持っていたので断った。
すると、その魔物研究家は自分の弟子を町に寄こした。
生態をまとめる手伝いをしてほしいと言われて断るに断れず、やってみると魔物を系統立てて分類していくのが楽しくなり、いつしかその弟子のために研究に協力するようになり、気が付いたらその弟子と結婚していた。
弟子、というのが、男爵の三番目の娘だったために、誰も何も反対するどころか歓迎された。
兵士団長夫妻の魔物の研究成果は一冊の分厚い事典となり、のちに世界的な知識基準となる。
討伐の高揚感に忘れそうになっていたが、視界に入ったのでトールヴァルドはタンクの彼に聞いた。
とはいえ、その答えは表情でわかってしまう。
「あ。お、俺では、足手まとい、邪魔になる、な」
「あぁ。わかってくれて助かる。まぁ、そんなに実力がないわけじゃなくて、俺たちの連携ではちょっと必要ないだけだ。近接になったら俺もピヒラも避けるからまず攻撃を食らわないし、遠距離になったら魔法障壁をはることだってできるからな。気にするなよ」
『アタシって、魔法剣だったんだけ?魔法も放ってたわよね。魔法の杖よね。そのはずだったわよね』
心が折れたらしいタンクは、以降はただ静かに待機していた。
トールヴァルドとピヒラの戦いぶりを目に焼き付けるように、じっと見ていた。
町に戻ると、そのまま軽く頭を下げてタンクの彼は去っていった。
「もしかして、これまでの売り込みもこうやって断ったらよかったのか?」
去っていく丸まった背中を見ながらそう言うと、ピヒラは首を振った。
「それはわからないわよ。彼の場合は、少なくとも自分の実力を知っていて、あたしたちとの差を理解できるだけの経験があったもの。あのうっとうしい女の人たちは、逆にそれなら守ってもらえるとか考えてまとわりつきそうだったから、理論武装したりあたし一人が対応したりでよかったのよ」
「そういう可能性もあったのか」
思い出したらしいピヒラは、不機嫌そうに唇をとがらせながら首を縦に振った。
『アタシは魔法の杖、アタシは魔法の杖。ただの魔法の杖じゃなくて、魔法剣もこなしちゃうすんごい魔法の杖。やだハイスペック!』
なにやら自分に言い聞かせていた勇者の魔法剣(ごり押し)は、どうにか折り合いをつけたらしい。
自己肯定感が高まったならいいことだ。
これで、自信を持って『勇者の剣』だと言って持ち歩ける。
懸念が一つなくなったトールヴァルドは、満足そうにうなずいた。
次の日は買い物をするくらいで休暇とし、荷物を整理してゆったりすごした。
さらに次の日には、シュネルに乗って町を出た。
この先には、トールヴァルドの故郷のような、ほとんど自給自足している村くらいしかない。
まっすぐ移動するだけならば、半月ほどで魔の森にたどり着く計算である。
◇◆◇◆◇◆
マインラートは、北の辺境を収めている伯爵家の親戚だ。
具体的には父が現伯爵の弟で、そのまま家を支えるために平民になって伯爵家に仕えている。
父にとって三人目の息子であるマインラートは、昔から身体が大きかった。
だから、魔物討伐パーティでの役割を色々と学んだ末に、タンクとしてやっていくことに決めた。
魔物を挑発して攻撃を受け止め、その隙にメンバーが攻撃する。
マインラートさえきっちり攻撃を受けて留まれば、かなり楽に攻撃できるのだ。
似たレベルの人たちと冒険者パーティを組んで、伯爵家の領地を中心に活動していた。
そんなある日、北の辺境にも『勇者が誕生した』というニュースが駆け巡った。
そして、現伯爵である伯父から連絡がきた。
すわ両親に何かあったかと焦ったが、内容はもっと荒唐無稽だった。
曰く、勇者パーティに参加して名を上げてこいという。
今の勇者パーティにはタンクがいないから、説得できるだろうと指示された。
ついでに、勇者が男性好きだったら、うまく取り入ってこいとも言われた。
マインラートの恋愛対象は女性なので、そこはお断りさせてもらう。
別に男性が好きでも自由にしたらいいが、自分は違うので勘弁してもらいたい。
勇者パーティに入る件については、両親からも頼まれたし、もしも参加できれば自分の名も上がる。
そういう野心や打算のもとに、マインラートは勇者に声をかけた。
一緒にいる女性は、大剣使いのA級冒険者だという。
マインラートだって、タンクのA級冒険者なのだ。
二人の戦いぶりを見て考えてくれと言われたので、ほぼ決まりだと考えたマインラートは足取りも軽く魔物退治について行った。
目の前の惨状が信じられなかった。
マインラートが普段パーティを組んで相手にしていた中型の魔物を単騎で軽くいなし、自分たちがたまに遭遇するときには決死の覚悟で挑む大型魔物を二人でサクッと討伐する。
超大型に分類できそうな魔物ですら、余裕を持って、なんなら前衛と後衛を入れ変わりながら倒している。
剣の腕も、魔法の腕も、マインラートが知る冒険者とは次元が違った。
こちらに飛んできた破片だけなら自分で防げたが、彼らの動きを邪魔せずにタンクとして役割を果たせる気がしない。
良くてただのお荷物、最悪彼らに討伐を失敗させる要因となるだろう。
マインラートは、黙って身を引いた。
実家に戻ったマインラートは、正直に報告して盾を捨てようとした。
しかし、自分の野心のために甥の心を折ってしまったという罪悪感に駆られた伯爵は、それを思いとどまらせて伯爵家で雇い、領内でも比較的大きな町の兵士団長という地位を与えた。
初めこそ元A級冒険者ということで兵士団では一歩引いた対応だったが、魔物討伐の手が足りなくなってマインラートが出たときに、評価がくるりと変わった。
マインラートは、盾で攻撃を受けながらも周りのメンバーの立ち位置や状況をしっかり読むタイプだった。
だから、パーティでの戦いの指示はおおむねマインラートが出していた。
同じことを兵士たちとともにすると、いつもなら出動人数の半数は出るケガ人がなんとゼロ。
全員無傷で帰ってこれたのである。
そして、これまで『伯爵家から押し付けられたお偉いさん』という対応だったのが『さすがA級で活躍していた冒険者』へと変わった。
兵士たちが教えを乞うようになり、それならと複数人で対応する場合の立ち位置や魔物の動きについて教えているうちに、魔物の専門家と呼ばれるようになった。
その噂を聞きつけた魔物の研究家が町にやってきて、ぜひうちの領に来てくれとスカウトされた。
研究家は、とある男爵家の当主だったのである。
しかしマインラートはもう町に愛着を持っていたので断った。
すると、その魔物研究家は自分の弟子を町に寄こした。
生態をまとめる手伝いをしてほしいと言われて断るに断れず、やってみると魔物を系統立てて分類していくのが楽しくなり、いつしかその弟子のために研究に協力するようになり、気が付いたらその弟子と結婚していた。
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