28 / 37
28 まさかの事実発覚
しおりを挟む
二人を乗せてたったか歩くシュネルは、最後の村に置いていく予定だ。
魔の森に連れて行くことはできないし、ただ放置するわけにもいかない。
万が一戻らないことも考えれば、最後の村に置いて役に立ってもらうのが一番だ。
故郷の村と似た雰囲気の村を訪れ、厩の端を借りるつもりでいたら、空き家があるというので使わせてもらった。
「ここから魔の森までに、村はあるか?」
『そろそろ最後っぽいわよねぇ』
お礼代わりに周りの魔物を一通り倒した後、そう聞いてみた。
村長は、向こうで畑を耕している家族を見ながら言った。
「村か。知っている村は、数ヶ月前にやられました。あそこにいる家族は命からがら逃げ延びてきたんですよ。ほかの村民も、逃げてきたものは一旦この村に来たが、先月冒険者と一緒に別の町へ移住しました。私たちも、今月中には荷物をまとめて向こうに引っ越す予定で、冒険者を依頼しているんです」
『あー、そういう感じ。ここより王都側の町なら、通ってきたところかしら』
村長がそう説明してくれた。
確かに、このあたりには小型の魔物はほとんどおらず、小さくても中型。
大型の魔物も跋扈しているので、生活に適さなくなっている。
村の近辺こそ、人が生活していることもあって魔物は発生しないが、離れたところで発生した魔物が近寄ってくることはある。
今のところなんとか魔道具も使いながら村民だけで撃退できてはいるものの、ケガ人も増えたので限界を感じているそうだ。
「それなら、このシュネルを引き取ってもらえないか?賢いからきちんと言うことを聞くし、力が強いから普通の人なら三人くらい乗れるだろう。いざとなれば魔物に追いつかれずに走れる。頼めるだろうか?」
『やだぁ、シュネルちゃんとお別れなのね。アタシにも目を向けてくれる優しい子なのよ。ぜひともいい人に引き取ってもらいたいわねぇ』
何となく想定していたのか、村長はゆっくりとうなずいた。
「わかりました。お預かりします。私たちはこのまま王都方面の町へ移住します。お戻りになられたら、ぜひお立ち寄りください。シュネルはしっかりお世話しておきますので」
自分たちが戻るかわからない、と言いかけたトールヴァルドだが、すんでのところで言葉を呑み込んだ。
村長含め、この村の人たちはトールヴァルドが勇者だと気づいている。
だからこそ、後ろ向きなことは言えない。
ピヒラは、シュネルをゆっくりと撫でている。
「ありがとうございます。戻り次第引き取りに行きますので、どうかお願いします。これは、その間の飼葉代です」
これまで、シュネルの食事はトールヴァルドのアイテムボックスに大量に入れてあったので気にもしていなかったが、普通にお世話するなら当然飼葉を用意してもらわないといけない。
村長は固辞したが、これも必ず迎えに行くためだからといって金貨の入った袋を押し付けた。
手間賃も含んでいるからどうか、と押し切った。
移住するとなれば、何かと物いりだろうし、そもそも国を出るのでしばらくは金を持っていても仕方がない。
そして、トールヴァルドとピヒラはその村を発った。
「今日はこのあたりで野営だな」
「そうね」
『徒歩も野営も飽きてきたわねぇ』
歩いてもいないのに、勇者の魔法剣(ごり押し)がそう言った。
最後の村を出て十日ほど経っている。夕方になって周辺の魔物を一掃した二人は、木の下で結界の魔道具を発動させた。
これは、魔物がこちらを認識できなくなる道具だ。
内側に入ったものの魔力の流れを見えなくさせるものらしい。
魔物の赤い目は、魔力を見ているというのが通説だ。
それを念のため二つ起動させ、夜露を凌ぐタープを張った。
結界の範囲は直径をある程度調整できる球形で、四メートルもあれば二人で使うには十分だ。
前までは六メートルくらいにして、シュネルも範囲内に入れて休んでいた。
二人だけなので、タープの下にコットを二つ並べて寝袋を置けば完了だ。
「これもまずくはないが、ピヒラが前に作ったスープとか、温かいものが欲しくなるな」
万が一のために持っている携帯食は、あまり美味しくない。
今食べているのは、持ち歩きの食事として定番のサンドイッチだ。
こういう持ち歩ける食事や水は、大量にアイテムボックスに準備してあった。
もしずっと味気ない携帯食だけなら、モチベーションが下がっていただろう。
「そう?あたしの料理は適当だから、そんなに美味しいとは思わないけど」
頬を染めたピヒラは、どうやら照れているようだ。
『そりゃあ、手作りのできたてって絶対美味しいわ。それが可愛い子だったら五割増で美味しいわよ。強くて可愛いピヒラちゃんの手作りなら三倍美味しいわよ』
それはさすがに過言だろう。
二倍くらいだ。
「ピヒラの料理はうまいと思うぞ。俺は手伝いしかしてないが、手際が良いし、味も良い。俺が作ったら焼くか……いや、焼くしか選択肢がないな」
「ふっふふふ!そういえば、一回調理をお願いしたら肉野菜焼きだったわね」
「あれしかできない。煮たら生煮えかドロドロになるんだ」
『トールヴァルドは料理しない方がいいわ。なんでああなるのかしら。料理ができないデバフでもかかってんじゃないの?』
ここで料理をしないのは、魔物に気づかれるからだ。
いくら結界を張っていても、火を使えば煙が出るし、気づかれやすくなる。
ササっと夕飯を平らげた二人は、夕闇が迫る中で武器の手入れをした。
西の方には、黒い森が見えている。
「明日には魔の森に入る。ピヒラ、本当に魔界に入って大丈夫なんだな?」
「うん、もちろん!それに、そろそろ一回実家に帰らないと心配させてる気がするし」
ピヒラは、元気よくうなずいた。
『あっ』
「え?」
「え?」
ピヒラは、実家に帰ると言った。
トールヴァルドは、魔界に入ると言った。
導き出される答えは。
「……ピヒラは、魔人だったのか?」
「ん?え、あっ!」
魔の森に連れて行くことはできないし、ただ放置するわけにもいかない。
万が一戻らないことも考えれば、最後の村に置いて役に立ってもらうのが一番だ。
故郷の村と似た雰囲気の村を訪れ、厩の端を借りるつもりでいたら、空き家があるというので使わせてもらった。
「ここから魔の森までに、村はあるか?」
『そろそろ最後っぽいわよねぇ』
お礼代わりに周りの魔物を一通り倒した後、そう聞いてみた。
村長は、向こうで畑を耕している家族を見ながら言った。
「村か。知っている村は、数ヶ月前にやられました。あそこにいる家族は命からがら逃げ延びてきたんですよ。ほかの村民も、逃げてきたものは一旦この村に来たが、先月冒険者と一緒に別の町へ移住しました。私たちも、今月中には荷物をまとめて向こうに引っ越す予定で、冒険者を依頼しているんです」
『あー、そういう感じ。ここより王都側の町なら、通ってきたところかしら』
村長がそう説明してくれた。
確かに、このあたりには小型の魔物はほとんどおらず、小さくても中型。
大型の魔物も跋扈しているので、生活に適さなくなっている。
村の近辺こそ、人が生活していることもあって魔物は発生しないが、離れたところで発生した魔物が近寄ってくることはある。
今のところなんとか魔道具も使いながら村民だけで撃退できてはいるものの、ケガ人も増えたので限界を感じているそうだ。
「それなら、このシュネルを引き取ってもらえないか?賢いからきちんと言うことを聞くし、力が強いから普通の人なら三人くらい乗れるだろう。いざとなれば魔物に追いつかれずに走れる。頼めるだろうか?」
『やだぁ、シュネルちゃんとお別れなのね。アタシにも目を向けてくれる優しい子なのよ。ぜひともいい人に引き取ってもらいたいわねぇ』
何となく想定していたのか、村長はゆっくりとうなずいた。
「わかりました。お預かりします。私たちはこのまま王都方面の町へ移住します。お戻りになられたら、ぜひお立ち寄りください。シュネルはしっかりお世話しておきますので」
自分たちが戻るかわからない、と言いかけたトールヴァルドだが、すんでのところで言葉を呑み込んだ。
村長含め、この村の人たちはトールヴァルドが勇者だと気づいている。
だからこそ、後ろ向きなことは言えない。
ピヒラは、シュネルをゆっくりと撫でている。
「ありがとうございます。戻り次第引き取りに行きますので、どうかお願いします。これは、その間の飼葉代です」
これまで、シュネルの食事はトールヴァルドのアイテムボックスに大量に入れてあったので気にもしていなかったが、普通にお世話するなら当然飼葉を用意してもらわないといけない。
村長は固辞したが、これも必ず迎えに行くためだからといって金貨の入った袋を押し付けた。
手間賃も含んでいるからどうか、と押し切った。
移住するとなれば、何かと物いりだろうし、そもそも国を出るのでしばらくは金を持っていても仕方がない。
そして、トールヴァルドとピヒラはその村を発った。
「今日はこのあたりで野営だな」
「そうね」
『徒歩も野営も飽きてきたわねぇ』
歩いてもいないのに、勇者の魔法剣(ごり押し)がそう言った。
最後の村を出て十日ほど経っている。夕方になって周辺の魔物を一掃した二人は、木の下で結界の魔道具を発動させた。
これは、魔物がこちらを認識できなくなる道具だ。
内側に入ったものの魔力の流れを見えなくさせるものらしい。
魔物の赤い目は、魔力を見ているというのが通説だ。
それを念のため二つ起動させ、夜露を凌ぐタープを張った。
結界の範囲は直径をある程度調整できる球形で、四メートルもあれば二人で使うには十分だ。
前までは六メートルくらいにして、シュネルも範囲内に入れて休んでいた。
二人だけなので、タープの下にコットを二つ並べて寝袋を置けば完了だ。
「これもまずくはないが、ピヒラが前に作ったスープとか、温かいものが欲しくなるな」
万が一のために持っている携帯食は、あまり美味しくない。
今食べているのは、持ち歩きの食事として定番のサンドイッチだ。
こういう持ち歩ける食事や水は、大量にアイテムボックスに準備してあった。
もしずっと味気ない携帯食だけなら、モチベーションが下がっていただろう。
「そう?あたしの料理は適当だから、そんなに美味しいとは思わないけど」
頬を染めたピヒラは、どうやら照れているようだ。
『そりゃあ、手作りのできたてって絶対美味しいわ。それが可愛い子だったら五割増で美味しいわよ。強くて可愛いピヒラちゃんの手作りなら三倍美味しいわよ』
それはさすがに過言だろう。
二倍くらいだ。
「ピヒラの料理はうまいと思うぞ。俺は手伝いしかしてないが、手際が良いし、味も良い。俺が作ったら焼くか……いや、焼くしか選択肢がないな」
「ふっふふふ!そういえば、一回調理をお願いしたら肉野菜焼きだったわね」
「あれしかできない。煮たら生煮えかドロドロになるんだ」
『トールヴァルドは料理しない方がいいわ。なんでああなるのかしら。料理ができないデバフでもかかってんじゃないの?』
ここで料理をしないのは、魔物に気づかれるからだ。
いくら結界を張っていても、火を使えば煙が出るし、気づかれやすくなる。
ササっと夕飯を平らげた二人は、夕闇が迫る中で武器の手入れをした。
西の方には、黒い森が見えている。
「明日には魔の森に入る。ピヒラ、本当に魔界に入って大丈夫なんだな?」
「うん、もちろん!それに、そろそろ一回実家に帰らないと心配させてる気がするし」
ピヒラは、元気よくうなずいた。
『あっ』
「え?」
「え?」
ピヒラは、実家に帰ると言った。
トールヴァルドは、魔界に入ると言った。
導き出される答えは。
「……ピヒラは、魔人だったのか?」
「ん?え、あっ!」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる