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30 森は走って抜けるもの
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朝、食事をとって片付けて、荷物はほぼすべてアイテムボックスに入れた。
最低限の防具を着けたほかは、ピヒラは大剣を、トールヴァルドは勇者の魔法剣(ごり押し)を装備しているくらいだ。
「大剣は重くないのか?」
「ううん、平気。自然と身体強化しちゃうから、むしろ大剣を背負ってる方が速く走れるのよ」
『条件反射なのかしら。見た目はすごく重そうなのにねぇ』
「それならいいんだが。じゃあ、行くか」
魔の森を前にして、トールヴァルドは手足を軽く振った。
進行方向は、できるだけまっすぐ。
太陽の位置を確認しながら、都度修正していく予定だ。
森に一歩入ると、さっそくあちこちから魔物の気配がした。
「とりあえずまっすぐ、太陽を後ろにして進むぞ」
「ええ」
もちろん、森の中なので本当にまっすぐ進むことはできない。
木や藪を避けながら、その都度進行方向を修正して走る。
午前中は太陽を背に、午後からは太陽を前にするが、できれば午前中のうちに走り抜けたい。
『速いはやーい!いいじゃない、この調子なら午前中に向こう側に着くんじゃない?って、後ろから魔物が来てるわ!』
勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉を聞いたトールヴァルドは、ちらりと後ろを振り向いた。
確かに、数体の中型程度の魔物が二人の後を追ってきている。
「ピヒラ、前に出てくれ!後ろのやつを魔法で足止めする」
「わかった!」
スピードを上げたピヒラは、トールヴァルドの前に出た。
後ろが魔物だけになったので、トールヴァルドは走りながら魔法を準備した。
森の中なので、さすがに火魔法は悪手である。
そしてなるべくなら、数分の足止めになってほしい。
まずは風で攻撃して魔物を立ち止まらせ、その後自分たちとの間に深さ数メートルの堀と二メートルほどの壁を用意する。
まっすぐ走ってくれば堀に落ちて出てこられないし、反り返る壁を登るのにも時間がかかる。
その間にトールヴァルドたちを見失ってくれれば儲けものだ。
ここは遠慮すべきではない、と考えたトールヴァルドは、勇者の魔法剣(ごり押し)を手に取った。
『ちょちょっと?!このままのアタシじゃ魔物は切れないからね!』
そして、勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉は聞かずに杖のように使って魔法を放った。
繰り出されたかまいたちは、手前を走る魔物を切り刻んだ。
と思ったら、後ろから来ている魔物も巻き込み多くを切って捨てていた。
「思ったよりも切れたな」
『切れたわね……いや、そういう意味じゃっ』
「あとは、堀と壁だな」
幅は五十メートルほどでいいだろうか。
避けて通るにしても、多少時間がかかるくらいがいい。
イメージを固めたトールヴァルドは、もう一度勇者の魔法剣(ごり押し)を振った。
「っと……しまった、補正がかかるんだったな」
『なんでしまったなのよ!いい結果でしょうが!堀は五メートルよっ、すごいでしょう?!』
壁は、百メートルほどの幅で高さは五メートルに達しているようだった。
一瞬考えたが、トールヴァルドは知らぬふりで前を向いて走り続けた。
『えっ!コメント!なんか報告的なのないのっ?!』
「さすがヴァルドね!あれだけしっかりした壁なら、足止めにも役に立つわ」
チラッと振り返ったピヒラが笑顔で言った。
「あぁ」
その向こうには深さが五メートルを超える空堀がある、とは言わなかった。
ピヒラは魔力の感知にも長けているので、魔物を避けながら走るのも上手い。
そしてトールヴァルドが後ろから追いかけてくる魔物を都度撃退。
そうやって走り、ときに休憩として歩きながらおよそ四時間。
「見えたっ」
「あぁ!」
『やっだすごい!ほんとにほとんど午前中で抜けたわ』
木の間を走り抜けて明るいところに出ると、突然草原になった。
低木はあるが、背の高い木はない。
草の色が若干濃い気がする。
すぐには止まらず、少し走って森から距離を取って、ようやく足を止めた。
さすがに息が切れる。
「はぁ、はぁ。もう、ここまでは、来ないわね」
森を振り返ったピヒラが、腕で汗を拭って言った。
確かに、後ろから追いかけてきた魔物の影は見当たらない。
「本当に、森からこっちには、出てこないんだな」
シャツの襟を引っ張って顎を伝う汗を拭うと、ピヒラの視線を感じた。
「魔界に入ったけど、ヴァルドは平気?」
「ああ。なんともないな」
シャツの裾も使って、額の汗を拭った。
同じように走ってきたピヒラのこめかみにも汗が伝っている。
「えっと、さすがに汚れたし、着替える?あっちに川がありそうだから」
「そうだな」
『水浴び生着替えね!』
勇者の魔法剣(ごり押し)には、布をかぶせておいた方がいいかもしれない。
ピヒラと一緒にそちらへ向かうと、緩やかな流れの川があった。
水魔法で水を出してもいいのだが、魔力を節約できるならその方がいい。
特に、今いる場所がどこなのかわからないので、まだこれから魔物を倒す以外にも魔法を使う可能性がある。
最低限だけ着けていた鎧を脱いでアイテムボックスに入れ、シャツとズボンのまま川に入る。
汗も土汚れもついたところなので、丸ごと水で流してしまえばいい。
ピヒラは、ここからは見えない岩陰で水浴びをしている。
ちなみに、勇者の魔法剣(ごり押し)は問答無用でアイテムボックスに放り込んでおいた。
水から上がると服を脱ぎ、魔法で埃を飛ばした岩に広げていく。
乾いた布で身体を拭いてから別の服に着替えれば、やっと人心地つけた。
比較的暖かい気候で助かった。
しっかり着替えてから防具や長剣、勇者の魔法剣(ごり押し)を取り出して装着していく。
『んもぉ、ケチねぇ。別に見せても減らないでしょう?そういえば、森を走るときはやっとアタシを正しく魔法の杖として使ってくれたわね!やっぱりアレが一番パフォーマンス高いわ!』
勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉を黙殺したトールヴァルドは、洗った服を持って絞った。
水がボトボトと落ちていく。
乾くまではここで焚火でもした方がいいだろうか。
「いやでも、魔物が多いなら考えた方がいいか」
『なんのこと?ってか、服を乾かすなら水を使う魔法が便利よぉ』
トールヴァルドは思わず勇者の魔法剣(ごり押し)を見下ろした。
「乾かすのに、水の魔法?」
最低限の防具を着けたほかは、ピヒラは大剣を、トールヴァルドは勇者の魔法剣(ごり押し)を装備しているくらいだ。
「大剣は重くないのか?」
「ううん、平気。自然と身体強化しちゃうから、むしろ大剣を背負ってる方が速く走れるのよ」
『条件反射なのかしら。見た目はすごく重そうなのにねぇ』
「それならいいんだが。じゃあ、行くか」
魔の森を前にして、トールヴァルドは手足を軽く振った。
進行方向は、できるだけまっすぐ。
太陽の位置を確認しながら、都度修正していく予定だ。
森に一歩入ると、さっそくあちこちから魔物の気配がした。
「とりあえずまっすぐ、太陽を後ろにして進むぞ」
「ええ」
もちろん、森の中なので本当にまっすぐ進むことはできない。
木や藪を避けながら、その都度進行方向を修正して走る。
午前中は太陽を背に、午後からは太陽を前にするが、できれば午前中のうちに走り抜けたい。
『速いはやーい!いいじゃない、この調子なら午前中に向こう側に着くんじゃない?って、後ろから魔物が来てるわ!』
勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉を聞いたトールヴァルドは、ちらりと後ろを振り向いた。
確かに、数体の中型程度の魔物が二人の後を追ってきている。
「ピヒラ、前に出てくれ!後ろのやつを魔法で足止めする」
「わかった!」
スピードを上げたピヒラは、トールヴァルドの前に出た。
後ろが魔物だけになったので、トールヴァルドは走りながら魔法を準備した。
森の中なので、さすがに火魔法は悪手である。
そしてなるべくなら、数分の足止めになってほしい。
まずは風で攻撃して魔物を立ち止まらせ、その後自分たちとの間に深さ数メートルの堀と二メートルほどの壁を用意する。
まっすぐ走ってくれば堀に落ちて出てこられないし、反り返る壁を登るのにも時間がかかる。
その間にトールヴァルドたちを見失ってくれれば儲けものだ。
ここは遠慮すべきではない、と考えたトールヴァルドは、勇者の魔法剣(ごり押し)を手に取った。
『ちょちょっと?!このままのアタシじゃ魔物は切れないからね!』
そして、勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉は聞かずに杖のように使って魔法を放った。
繰り出されたかまいたちは、手前を走る魔物を切り刻んだ。
と思ったら、後ろから来ている魔物も巻き込み多くを切って捨てていた。
「思ったよりも切れたな」
『切れたわね……いや、そういう意味じゃっ』
「あとは、堀と壁だな」
幅は五十メートルほどでいいだろうか。
避けて通るにしても、多少時間がかかるくらいがいい。
イメージを固めたトールヴァルドは、もう一度勇者の魔法剣(ごり押し)を振った。
「っと……しまった、補正がかかるんだったな」
『なんでしまったなのよ!いい結果でしょうが!堀は五メートルよっ、すごいでしょう?!』
壁は、百メートルほどの幅で高さは五メートルに達しているようだった。
一瞬考えたが、トールヴァルドは知らぬふりで前を向いて走り続けた。
『えっ!コメント!なんか報告的なのないのっ?!』
「さすがヴァルドね!あれだけしっかりした壁なら、足止めにも役に立つわ」
チラッと振り返ったピヒラが笑顔で言った。
「あぁ」
その向こうには深さが五メートルを超える空堀がある、とは言わなかった。
ピヒラは魔力の感知にも長けているので、魔物を避けながら走るのも上手い。
そしてトールヴァルドが後ろから追いかけてくる魔物を都度撃退。
そうやって走り、ときに休憩として歩きながらおよそ四時間。
「見えたっ」
「あぁ!」
『やっだすごい!ほんとにほとんど午前中で抜けたわ』
木の間を走り抜けて明るいところに出ると、突然草原になった。
低木はあるが、背の高い木はない。
草の色が若干濃い気がする。
すぐには止まらず、少し走って森から距離を取って、ようやく足を止めた。
さすがに息が切れる。
「はぁ、はぁ。もう、ここまでは、来ないわね」
森を振り返ったピヒラが、腕で汗を拭って言った。
確かに、後ろから追いかけてきた魔物の影は見当たらない。
「本当に、森からこっちには、出てこないんだな」
シャツの襟を引っ張って顎を伝う汗を拭うと、ピヒラの視線を感じた。
「魔界に入ったけど、ヴァルドは平気?」
「ああ。なんともないな」
シャツの裾も使って、額の汗を拭った。
同じように走ってきたピヒラのこめかみにも汗が伝っている。
「えっと、さすがに汚れたし、着替える?あっちに川がありそうだから」
「そうだな」
『水浴び生着替えね!』
勇者の魔法剣(ごり押し)には、布をかぶせておいた方がいいかもしれない。
ピヒラと一緒にそちらへ向かうと、緩やかな流れの川があった。
水魔法で水を出してもいいのだが、魔力を節約できるならその方がいい。
特に、今いる場所がどこなのかわからないので、まだこれから魔物を倒す以外にも魔法を使う可能性がある。
最低限だけ着けていた鎧を脱いでアイテムボックスに入れ、シャツとズボンのまま川に入る。
汗も土汚れもついたところなので、丸ごと水で流してしまえばいい。
ピヒラは、ここからは見えない岩陰で水浴びをしている。
ちなみに、勇者の魔法剣(ごり押し)は問答無用でアイテムボックスに放り込んでおいた。
水から上がると服を脱ぎ、魔法で埃を飛ばした岩に広げていく。
乾いた布で身体を拭いてから別の服に着替えれば、やっと人心地つけた。
比較的暖かい気候で助かった。
しっかり着替えてから防具や長剣、勇者の魔法剣(ごり押し)を取り出して装着していく。
『んもぉ、ケチねぇ。別に見せても減らないでしょう?そういえば、森を走るときはやっとアタシを正しく魔法の杖として使ってくれたわね!やっぱりアレが一番パフォーマンス高いわ!』
勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉を黙殺したトールヴァルドは、洗った服を持って絞った。
水がボトボトと落ちていく。
乾くまではここで焚火でもした方がいいだろうか。
「いやでも、魔物が多いなら考えた方がいいか」
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