これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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32 第一魔界の村発見

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 そこから適当に方向を決めて歩き、魔物を倒しながら野営で夜を過ごして十日。

 やっと、一つ目の村を見つけた。

「よかった。魔導協会の窓口があるわ。ささっと登録しちゃいましょ」
「ああ。助かったな」

 村は比較的大きめらしく、魔導協会のほかに傭兵団の詰め所もあるようだった。

 道行く人はどちらかというとすらっとした人が多く、ピヒラのような大剣を持つ人はいない。
 むしろ、トールヴァルドのような長剣を持つ人もちらほらといる程度で、ほとんどの人は魔法の杖を腰に下げていた。

 魔導協会には、幾人かの人がいた。
 わりと冒険者ギルドと似たような仕組みのようで、受付で登録や討伐の報告、報酬の受け取りなどを行っている。

 少し違うのは、壁にいくつか通達のようなものがあり、その中に魔法の訓練を請け負うというお知らせや、こんな魔法を教えてほしいといった依頼が並んでいることだろうか。

 どうも、魔法特化な文化らしい。


「登録したいんだが」
 空いている窓口に行ってそう言うと、受付の男性はすぐに書類を一枚出した。

「ここに、名前と得意な魔法を書いてくれ。あとは魔法で登録するから特に必要ない」
「わかった」

 トールヴァルドの得意な魔法とはなんだろうか。
 大体何でもできるので、逆に得意と言えるものがない。

 仕方がないので、『火・水・風・土・木による攻撃と防御』と書いておいた。
 ピヒラから、アイテムボックスについては言わない方がいいと助言をもらったので書いていない。
 信じてくれたら依頼が殺到して面倒なことになるだろうし、信じてもらえなければほら吹き扱いされる可能性がある。

 受付で登録処理をしてもらい、バングルができるまで待っていると、なぜかトールヴァルドが絡まれた。

「おいおい、ここは魔導協会だぞ?そんな脳筋みたいなやつが魔法を使えるのかよ」
 ひょいと見てみれば、いかにも魔法使いといった感じの上質なローブを着たひょろっとした男性がいた。その後ろには似たような体形の男性と女性。

 なるほど、こちらでは魔法使いこそ至上といった扱いなのだろう。

「ちょっと!失礼よ。ヴァルドは魔法の天才なんですからね!」
 トールヴァルドが反論する前に、ピヒラが前に出た。

『いいわいいわ!もっと言ってやりなさい!』
 魔法剣(ごり押し)は、何もしないくせにあおらないでほしい。

「なんだお前。お前まで脳筋かよ。そんな赤黒い大剣なんて……赤と黒の大剣?を持った女、だと。まさかお前、『暴剣のピヒラ』かっ?!」
『なにそのカッコいい二つ名!』
 カッコいいかどうかはわからないが、名が知れているとはなかなかだ。

「だったら何なのよ!」
「くそっ、行くぞ」
「お、おぅ」
「えぇ……あの、あのっ、ごめんなさいぃ」
『あらぁ?随分と腰の引けた退場だこと』

 プリプリ怒るピヒラは、協会内の人たちから遠巻きにされた。
 ついでに、一緒にいるトールヴァルドもすごい目で見られた。

 どうやら、やり合ったら負けるという意味でもピヒラは有名らしい。

「えー、お待たせしました。トールヴァルドさんですね。お名前は間違いありませんか?」
 バングルには、名前が彫り込まれていた。

『アタシは、冒険者ギルドのタグよりもこっちの方が好みだわぁ』
「ああ、大丈夫だ」

「では、こちらを腕に着けてください。これを着けていないときの魔物討伐は数に含まれませんので、着脱にはご注意ください。換金は現金と口座入金があります。口座は自動的に作ってありますので、換金の際に都度ご希望をお伝えください。また、口座への入出金だけでもこちらで承ります。ただ、大金を出金したいという場合は、一度ご確認ください。ご希望額に足る現金を保管していない場合は引き出しができません。ほかにも細かいルールについてはこちらをご確認ください」

 受付の人は、バングルと一緒に数枚の紙を渡してくれた。
 基本的には、冒険者ギルドと似たようなものらしい。

「わかった、ありがとう」
 そう言って受け取ると、後ろからピヒラが口を出した。

「パーティ登録もお願いします!」
「あぁ、そうだった。このままパーティ登録も頼む」
 ピヒラを見て一瞬怯んだ受付職員は、しかしすぐに持ち直してうなずいた。

「かしこまりました。お二人でよろしいですか?」
「はい」
「ええ」
『アタシも入れてくれたらいいのにぃ』
 武器をパーティメンバーにするのはさすがに難しいだろう。

 ピヒラとトールヴァルドがうなずくと、受付の職員は足もとから何か道具を出してきた。
「ではこちらに、バングルを腕につけた状態で手を当ててください。バングルをつけた方の手です。はい、ありがとうございます。手続きいたしますので、少しお待ちください。……えー、パーティ名はどうされますか?」

「一緒でいいよね?」
「ああ」
「じゃあ、『焼肉パフェ』で!」
『やっぱりその名前なのね』
 魔法剣(ごり押し)は呆れた声で言った。

 変な名前には慣れているのか、職員はこちらをちらりと見ただけでサクサクと手続きを終えた。
「では、これでパーティ登録完了です。複数パーティには参加できない、パーティ内のトラブルは感知しないなど、協会で設けたルールはこちらをご確認ください。では、ご依頼達成をお待ちしています」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」

 受付から離れて振り向くと、幾人もの人がこちらから目を逸らした。
 どうやら若干注目されていたらしい。

 やはりピヒラ効果だろう。

『やだぁ、アタシってばそんなに綺麗?うん、知ってたわ☆』
 それだけは違うと思う。



 まずは周りの状況を知りたいから、ということで、二人は宿を取った。

 久しぶりにベッドで眠った次の日、さっそく魔物狩りに出た。
 魔界ではどっちの方にたくさんいる、という出現のムラはほとんどないらしく、少し離れればたくさんいるらしい。

 実際、村から少し離れただけで中型の魔物を見つけたし、大型の魔物も狩ることができた。

 朝から昼過ぎまでのんびりと討伐に出ただけなのに、気づけば討伐数は五十を超えていた。

 その帰り、小さな魔力溜まりを見つけた。
 初めて見た魔力溜まりは、微妙なものだった。

「なぁピヒラ、アレが魔力溜まりか?」
「そうよ。なんかドロドロしてて、まがまがしくない?」
『確かに、まがまがしさがあるわよね』
 ピヒラは眉を寄せてそう言ったが、トールヴァルドは何とも言えなかった。

「あれ、ただの泥の水たまりじゃないのか」
「もう。魔力がわかるでしょう?ドロドロした魔力が溜まってて、気持ち悪い感じ」
『そうそう。なんか気持ち悪いわよねぇ』

 トールヴァルドには、どこからどう見てもただの濁った水たまりだった。
 確かに魔力らしいものは感じるが、それだけだ。

「これをどうやって消すんだ?水たまりだから、水だけ蒸発させればいいのか」
『水っていうか、これ魔力なのよ。魔力に、なんかこう思念とかそういうのが混ざってこんな泥になってんの。魔力を分離させれば混ざった思念とかは散っていくから、気にせずに魔力だけを蒸発させればいいわ』

「蒸発?させるの?ちょっとわからないから、任せていいかしら。あたしは、あっちから寄ってきてる魔物を退治するから」

 ピヒラの視線の先には、ぎりぎり大型になるかどうかという大きさの魔物がいた。
 あちらもこちらに気づいているので、もう討伐するしかない。

「あぁ、頼む。俺も初めての魔法だから、少し集中したい」
「任せて!ちょっと周りに魔力が多いから、あたしの身体強化もすっごい楽なのよ」
 にぱっと笑ったピヒラは、少し離れたところで大剣を構えた。

 泥の水たまりの中から、魔力だけを吸い出して空気に溶かす。
 先日覚えた洗濯物を乾かす魔法と基本的には同じだ。

 ただちょっと、規模が違う。


 イメージをもとに魔法を使うと、泥の水たまりは徐々に小さくなっていき、最後には砂が残ってさらりと風に飛ばされていった。

 ここまで、おおよそ五分。

 魔力溜まりを消し去ったころには、ピヒラは一人で十体ほどの魔物を屠っていた。
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