サーチング・サーガ

相有 枝緖

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02 娘の旅は竜探し

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 ここからプイレナの街まで徒歩で3日ほどかかるので、当然ベラとルノフェーリは野宿だ。

 山賊たちは、檻の中にすし詰めのまま。
 死なれてしまったら困るめんどくさいので、最低限の食事と水は一応与えている。
 しかし、外には出さないため色々と垂れ流しのままだ。
 定期的に檻の中を掃除する魔法をかけているのだから、大丈夫だろうとベラは気にもしていなかった。

 檻を引いて運んでいるルノフェーリに、後ろから愚痴や文句や脅しがうるさいと言われ、音が伝わらないよう檻に魔法をかけた。
 おかげで、見た目には動いているようだが静かなものだ。
 これなら、野宿しても魔獣などが集まる危険はないだろう。

「はい、これ果物と、追加の薪」
「お疲れさま。食事は一応できてるわよ」
 ベラはルノフェーリから果物を受け取り、大きめの石の上に置いた堅パンと干し肉のスープを指した。
 スープと言っても、干し肉を水から炊いて、適当に野草と塩で味付けしただけのものだ。

 しかし、ルノフェーリは感激していた。
「あったかいスープだ!!何日ぶりだろうこんな美味しい食事」
「大げさね。干し肉なんて食べ飽きているでしょうに」
「うん、4日前から果物しか食べてなかったからね!やっぱ肉を食べないとだめだと思うんだ!」
「迷子を極めていたわけね」
「そういうこと」

「ほんとに、ルノはなんで一人で旅なんかしてるの?死にたいの?それとも死なない呪いでも受けてるの?」
「ぐっさりばっさりくるなぁ!?仕方ないだろう、お金がなかったんだから」
「まさかの極貧」
「極貧とか事実だけど言うなぁっ!悲しくなるだろう?!昔住んでたところでは物々交換が当たり前だったから、お金なんか話に聞く程度のものだったんだよ!」
 ルノフェーリは、器用に食べながら大きく叫んでいる。

 ベラはそっと魔法の壁を組み立て、ルノフェーリの口から飛んでくるものを遮断していた。
「ちょっと?!その対応は酷いと思うんだっ!」
「汚す方が酷い」
「うぐぅっ」

 彼の話をまとめると、記憶が正しければ少し南の方から旅をしてきたらしい。
 探し物の手がかりがこちらにあると知ったらしく、フールツィーラ王国からレオンジ帝国へ入ることになったそうだ。

 船を使わなかった、もとい使えなかったのは先に言った通り、充分なお金を持っていなかったから。
 迷子スキルについてはきっといつものことだから考慮していなかったんだろう。

「ベラは?なんでこっちを歩いて旅をしているんだ?見たところ、お金がないわけでもなさそうだし」
 食事が終わり、寝るまでにはまだ少し時間があるとみて、ルノフェーリが話しかけてきた。

 ここまで、聞かれなかったからベラは自分のことを話していなかった。
 しかし、別段秘密にするようなことではないと、口を開いた。
「まぁ、お金はあるし、船も大丈夫、相乗りも平気なんだけどね。ちょっと探しものをしていて、なるべく人のいない地域を選んでいるのよ」

「探しもの?人のいない場所にあるものなのか?」
「えぇ。ちょっと竜を探しているの」
「え?り、竜を?竜って、結構そこらへんに飛んでたりするよね?」

「私が探しているのは、私が1回ぶっ飛ばした竜よ。あのときは夜中だったから体色は分からないけど、多分暗い色で大きめ、目の色も暗かったかなぁ。気づいたときには乗り込んだ巣にはいなくなってたから、探してるのよ」
「ぶっ?!べ、まさか、ベラが?マジで?!っていうか、そのときの傷がそれってこと?!」
 ルノフェーリは、藍色の瞳をこれでもかと見開いた。

 そういう反応はいつものことらしく、ベラは軽く肩をすくめただけで言葉を続けた。
「ちょっとブチ切れて蹴ったら竜が逃げていったのよ。そもそも、うちの領主がゲスたっだのよね。成人少し前の私に目をつけたらしくてごたごたが」
「ごたごた?」

 驚きが通り過ぎたのか、領主という領民を守るべき存在が酷いものだったと聞いたからか、ルノフェーリは不思議そうに聞いた。
「そう。特殊な病原菌を私の弟と妹に浴びせて、病気にさせたのよ。それで、『治してほしかったら愛人になれ』とか言われて。しかも、よく聞いたら『治すための薬は竜の涙だけだから、それを取りに行く討伐隊を組んでやろう』っていう間違った方向で財力と権力を示そうとした内容でねぇ」
「うわ非道」

「ゲスでしかなかったわ。確実じゃない方法を交換条件にされて、弟と妹は10日ももたない状態と医師に言われたし、もうそこでブチ切れたの。そうしたら、魔力がありえないくらい増大したのよ」
「我を失って魔力増大……?それって、ご先祖に魔術師かエルフか、竜族か何かが混ざっていたってことか」
 ルノフェーリは考えるようにして眉を寄せた。

「多分ね。詳しくは分からないけど。それで、『あ、これなら私1人でいけるんじゃないの?』と思ったから、故郷の街から半日魔法使って走って、その勢いのまま竜の巣に突っ込んで寝込みを襲って脛を蹴り飛ばしたの」
 ベラは、片足を軽く振ってみせた。

 ルノフェーリはビクリと身をすくめた。
「勢いのままで夜襲?!計画的な何かじゃなかったわけ?!」

「そんなのなかったわ、ブチ切れてたもの。それでまぁ、勢いがつきすぎてたのね。蹴っ飛ばして痛みで涙を出させたところまでは良かったのよ。でもね、全身を魔法で超強化してたもんだから、ちょっと竜の足を切ってしまって」
「あ、足って、え?蹴ったら切れたってこと?鋼鉄の鎧とか言われる竜の鱗で覆われた足を?剣とか仕込んでいたわけじゃなくて?」
 ルノフェーリの表情が驚愕に染まっている。

 対して、ベラは暇つぶしでもあるかのように淡々としている。
「ただの強化と勢いよ。そんで竜の血を浴びちゃったわけ。さすがの竜も、寝込みを襲われて驚いたらしくて、すぐに巣から飛んで行ったから、特に戦闘にはならなかったの。竜が飛び上がるときに足元にいたから、爪にひっかけられてこのざまよ」

「それだけでそんな傷が残ったの?っていうか、そんな魔力があるんなら傷跡くらい……」
「あぁ、傷跡はわざと残したの。必要だったし」
「必要?その傷が?」
「そうよ」

 思い出したのか、ベラは楽しそうにうっすらと笑った。
 それは美しかったが、同時にルノフェーリの背筋を寒くさせた。

「血まみれで傷跡も残るまま、とにかく弟と妹に竜の涙を飲ませたわ。あのときは泣かせてしまったわね。『お姉ちゃんが大けがしてるー!!』って。実際には、血はほとんど竜の血だったし、怪我はとっくに魔法で塞いで傷跡だけだったんだけど」
「それ絶対トラウマになってるよ」
 確かに、その後しばらく弟妹は動物を捌くのすら見られなかった。

「とにかく2人に竜の涙を飲ませて、劇的に治ったのを確認して領主の城に乗り込んでやったわ」
「……まさか、そのまま?」
「そうよ、血まみれのまま。そんで股間を軽く・・踏んづけて言ってやったの。『竜を蹴り飛ばす女でもまだもらってくださいますか?やめておきますか?』って。面白いくらい狼狽して、ガタガタ震えながら謝り倒してくれたわ。あれこれあって、おかげで領主が改心して、うちの領が栄えることになったからいいことだったのかもしれないわね」

「領主にもトラウマ?!いや、でもそこはそれでいいのかも」
 ルノフェーリは心底同情したような表情になったが、すぐに頭を振って否定した。
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