サーチング・サーガ

相有 枝緖

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11 超天然 vs 策士……天然には勝てません

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「だから、太陽の位置は常に動いてんの。午前中は大体太陽の位置とは大体逆に向かってたけど、休憩挟んで今からはおおよそ太陽の方向。いいわね?」
『えっと、うん。ベラに任せる』

 竜になったルノフェーリとその背に乗るベラは、ロモの町に向かって空の旅をしていた。
 ベラを襲う強烈な風は、魔法の盾で防御している。

「あっちよ。レオンジ帝国って広いのよね。ゆっくり飛んだらいったんどこかで下りて休まないといけないかも」
『そっか。急ぐ?』
 ルノフェーリは、軽く首を後ろに向けた。

「ううん。ゆっくり行く方がいいわ。今のところ何とかなってるけど、結構風がきついから魔力消費が激しいの」
『俺はよくわかんないけど、わかった。じゃあ、もう少しゆっくり飛ぶね』
「そりゃあ自分で飛んでるものね。竜は物理も強いし、風圧くらいなんてことなさそう。ゆっくりしてくれると助かるわ。って、待って。曲がってる。もう少し左寄りよ、そっちそっち」
『はぁい』
「いきすぎ!もうちょっと右、そこ!」
『こっち向きで合ってる?』
「もう少しだけ左!」

 ふらふらと蛇行しながらも、二人は西に向かって飛んでいった。



 途中、適当な場所を見つけては野宿し、のんびりと数日かけて飛んでロモの町の上空に到着した。
「この町の商人よね。一応、ブッドラ公爵が手紙で知らせてくれてるんだっけ」
『そうだった。じゃあ、普通に歩いて行った方がいい?でも家の前まで飛んだ方が早いなぁ』
「場所があるなら竜のまま下りたらいいんじゃない?民家の前にそんな広さがあるかどうかだけど」
『あるみたい』
「マジ?あ、ほんとだわ」

 町の中にある一番大きな家は、商店を兼ねていた。
 あれが大商人の家で間違いなさそうだ。

 空を飛んで確認していると、町の人たちがこちらに気づいた。
 わーわーと言いながら、こちらを指さして騒いでいる。
『じゃ、下りるね』
「ルノの心臓ってオリハルコンでできてそうよね」
『なんで突然心臓の話なの?普通に竜の身体だよ』
「うんうん」

 人々の反応など歯牙にもかけず、ルノフェーリは商店の前の広場にどさりと降り立った。



「本当に竜族の方が来られるとは。空を飛ぶのを見かけることはありましたが、竜族と知ってお会いしたのは初めてですよ。まさか人型にもなれるとは思いもよらず、いやはや、驚きましたな」
 二人を出迎えてくれたのは、カミンと名乗る老人だった。
 多分、実年齢はベラと似たようなものだろう。

「突然お邪魔してすみません」
「いやいや、お気になさらず。ブッドラ公爵からの魔手紙は受け取っておりましたからな。思ったよりもずっと早くて驚いた程度で」
 魔手紙とは、魔法で瞬時に届ける手紙のことだ。
 言うまでもなく、利用料は馬鹿高い。
 ブッドラ公爵は随分と奮発してくれたようである。

「俺たちは、空を飛んできたから」
「空を?なるほど、空を飛べば数日で到着できるんですな」

 カミン老人は、驚きこそすれ普通に二人をもてなしてくれた。
「この建物、商店と家がくっついているんだね?」
 応接間に案内されたルノフェーリが、きょろきょろしながら言った。
 上から見てもわかったが、家と商店との間に仕切りがない。
 完全に一体化しているのだ。

「えぇ、さようです。この土地は、元々私の実家の商店があったところでしてね。まぁ土地は買い足して建物も建て替えましたが、どうしても愛着があるものですから」
「生まれ故郷というわけだね。店はここだけ?」
「いいえ、ありがたいことにレオンジ帝国全体に20店舗、ほかの国にも5店舗ほど支店を出せておりますよ。一番大きな店舗は、息子に任せた帝都にある支店です。しかし、本店はここなんですよ」

 にこにこと語るカミンは、ロモの町がとても好きらしい。
 それをまたルノフェーリが楽しそうに聞くものだから、なかなか話は終わらなかった。


「すっかり話し込んでしまいましたな。ブッドラ公爵から伺っていた、藍色の鱗はこちらにございます。当時金貨20枚で手に入れましたが、それでも十分安価だったと思っておりますよ。竜殿ご本人が必要とされるほどのものですからな」
 カミンからは、ちらりと商人の匂いがした。
「ありがとう、カミン。これは交換として持ってきた魔石だ」
「おぉ……これはまた、素晴らしい魔石ですな。それこそ、貴族の家宝と比べても遜色ないほどのもの」

 カミンは、瞬時にその価値を見抜いたようだ。
 にっこにこの笑顔で魔石を受け取った。

 ベラがそこで口を開いた。
「そういえば、逆鱗って長寿の妙薬とかなんとかっていう伝説があるのよね」
「!!」
 カミンも知っていたようで、ちらりとルノフェーリを見た。

「あの噂かぁ。俺も昔のことしか知らないけど、まだ残ってるんだね」
「そ、それは本当のことですかな?」
 ごくりと生唾を飲みこみ、カミンが聞いた。

「それが、俺が生まれる前に事件が起こりまくって大変だったみたい。逆鱗って、本竜ほんにんが認めた番以外が飲むと、飲んだ人が爆散して逆鱗だけがその場に残るんだって」
「なっ……!」
「うわ、壮絶スプラッタ」
 カミンは逆鱗を置いたテーブルから身体を離すように背中を反らし、ベラは目を細めた。

「この欠片を飲むくらいなら、大部分が消し飛ぶけど足くらいは残るんじゃないかなぁ?」
「けっ……!!」
「それはグロすぎる」

 ここに来るまでの道々、大昔には逆鱗を奪う事件が多発したとルノフェーリに聞いた。
 不老長寿の妙薬だと信じて飲んだ権力者たちがあの手この手で逆鱗を手に入れ、そして軒並み爆散し、大陸中が大混乱に陥ったそうだ。
 さすがに、国を動かすトップ層が突然何人もいなくなったら政治が立ち行かなくなるし、それがあちこちの国で起こったとなると、それはもうめちゃくちゃになったことだろう。

 それ以降、ヒト族をはじめとした大陸の国の中では伝説でありながら絶対に薬として用いてはいけない、というものの一つになったらしい。
 だがそれも、ルノフェーリが生まれる前なので千年単位で昔のことだ。

「砕いて粉にしたらたらいけるって考えた人もいたらしいけど、結局爆散して、残った逆鱗はなぜかまとまって欠片になっていたって」
「こっ……」
「それ、もはや呪いじゃないかな」
「の、?!」
 カミンは、短音を発する爺と化していた。

「それでカミンに聞こうと思ってたんだけど。逆鱗、この建物の中にもう一個あるよね?」
 ルノフェーリは、静かに言った。

「はひゅっ……!!」
 妙な音を立ててから頭をぶんぶんと上下に振ったカミンは、取るものもとりあえずといった感じでよたよたと応接間を後にした。
 そして数分とたたずに小さな木箱を持ってきた。

「良かった。魔石と同じように魔道具の原動力として使うこともできるけど、それも失敗したら町一つくらい簡単に吹き飛ぶからさぁ。その代わり、こっちの魔石を使ってよ。これは火属性の魔石だから、厨房とかで使ったら便利だと思うよ」
 赤い魔石を取り出したルノフェーリは、震えるカミンから木箱を受け取り、代わりにその魔石を手渡した。

「厨房で使うには贅沢すぎるわね」
「でも4センチサイズだから、厨房くらいがちょうどいいよ」
「まぁ確かにそうかも。大なべ料理とかに便利そうよね」
「そうそう」

 実際には、魔獣の討伐のときに火魔法を放つ魔道具として使えるものである。
 ただし、一度使うごとに魔力が相当量必要なので、使い勝手は悪い。

 どちらかというと、装飾品としての価値が高いものになるだろう。

「あ、ありがたく、いただきます」
 カミンがフルフルと震えながら頭を下げるので、ルノフェーリは眉を下げた。

「ごめん、剥がれた俺の鱗はこの間ブッドラ公爵にあげちゃって。これくらいしかないけど」
「とんでもございません!!竜様からいただいた魔石です、身に余る光栄ですとも!」

 カミンが二個目の木箱の逆鱗を黙って猫ババするつもりだったことに、ルノフェーリは気づいていない様子だったので、ベラは黙っておくことにした。
 単純に忘れていただけだろうと思っているようだ。

 結果的には、ルノフェーリが無自覚にカミンをゴリゴリ追い詰めていたので、それで良しとしたのだった。
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