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30 やっぱり竜は迷子になる
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次の日。
ルノフェーリは迷子になった。
「何で一人で王都に出て宿に戻れると思ったの?今までの実績考えたらわかるじゃない。せめて宿が見える範囲までにしなさいよね」
「ごめんなさい。ちょっと行くだけだから大丈夫だと思って」
正都を出て外都の商店街をうろついていたルノフェーリを、ベラが捕捉したのである。
「どうやったら無意識に正都を出られるのよ。確認されるでしょ」
「うん、なんか通路みたいなとこは通って、兵士に何か聞かれたかも。でもあれが正都を出るための確認だったのか」
「まったく。自分が20年かけて大陸中を迷子になったってことを自覚しなさいよ」
「ごめん。探してくれてありがとう」
「そりゃあね。『買い物に行ってくる』ってメモだけ残して二日も経ってれば探すわよ」
「うぅ……」
そう、ルノフェーリは二日かけても宿に戻れなかったのである。
「で、何が欲しかったの?」
「うん、ちょっと装飾品を見たくて」
「装飾品?刃こぼれしにくい魔法とか、魔獣との遭遇を減らす魔法とかかかってるやつ?」
「そういう効果があるのもあるけど、普通に、ただのアクセサリーを探そうと」
「ただのアクセサリー?それなら、まぁ外都の方が多いわね」
「あ、そうなんだ」
「もう夕方だから、明日行きましょ」
「わかった」
くたびれたルノフェーリは、ベラに連れられてやっと正都の宿に戻れたのである。
きちんと休んだ次の日、ルノフェーリをアクセサリーショップへ連れて行ったベラは、そのまま旅に出るための買い出しに行った。
「いい?買い物が終わったら店の前に立ってること。何があってもそのへんにいて。一応、覚えたからある程度ルノの魔力は追えるけど、昨日も大変だったんだからね」
「分かった。選んで買い終わったらここで待ってる」
何度目かの確認の後で、やっと買い出しに向かった。
契約うんぬんは保留だ。
ルノフェーリが何やら言っていたが、保留と言ったら保留なのだ。
すべきことをまずは全うする。
止まるよりも動く。
ベラは、まずは旅に必要な食料品や消耗品を買い足した。
買い出しから戻ると、ルノフェーリは店の前でぼんやりと立っていた。
「買ってきたよ。ルノ、あっちで分けよう」
「うん」
欲しいものがなかったのか、ルノフェーリは気もそぞろな感じである。
「はい、こっちがルノの分の食料」
「ベラの消耗品はこれ」
それぞれ半分に仕分けして、お互いが半分ずつ持つ。
何かあったとき、片方の荷物だけでも残れば生存率が上がるから分けておくのだ。
そうして鞄に詰め終わってから、ベラは聞いた。
「欲しいものはあったの?」
「うん。買えた」
「それは良かったわね」
「うん」
ルノフェーリは満足そうにうなずいたので、ひとまず欲しいものは手に入ったようだ。
「どこに着けてるの?」
「まだ着けない。時期がきたら着けるつもり」
「ふぅん?とりあえず、買えたんなら逆鱗探しに向かっていいのね?」
「うん。……ベラ、俺は頑張るよ」
「え、うん。頑張って……?」
「うん!」
よくわからないが、ルノフェーリは張り切っているらしい。
とりあえず、はげましておいたがそれで正解だったのかは不明だ。
「まずは、あっちの方に行こう。逆鱗の気配がちょっと強いから、多分そんなに遠くない」
「わかったわ。あっちならズアンの街ね。多分徒歩なら三日くらいで着くわ」
「じゃあ、途中は飛んで短縮しよう。ズアンの街から、また気配を探ることにする」
「ここからは飛ばないの?」
「王都の端で竜になったら、魔法研究所の人たちが見逃してくれない気がする」
「確かに。素材収集されそうね」
「怖い」
ルノフェーリとベラは、まずはズアンの街を目指すことにした。
道中は割と平和で、小型の魔獣しか出なかった。
途中から少し竜体になって飛び、ズアンの街に着く前に、街道から少し離れて降りた。
「街の中にはなさそうかな。少しあっちに逸れてるみたいだ」
ルノフェーリは、街へ続く道から南側へずれた山の方を指さした。
ベラにはまださっぱりわからない。
「じゃ、すぐ向かう?それとも、いったん街で休む?別に急がないから、街で休憩してから明日の朝に向かってもいいと思うけど」
時刻は昼過ぎ。
もし今から山へ行くなら、野宿確定である。
「急ぎたい気はするけど、ベラを付き合わせて野宿させるのも気になるから、街で宿をとろう。ベッドで寝る方が回復するし」
そう言ったルノフェーリは、ごく自然にベラの手を持って歩きだした。
「ルノ」
「ん?」
ベラの手を掴む力が強まった。
「ズアンはそっちじゃないわ。街道もあっちよ」
「あう……」
そして、ベラの手を掴んだまま大人しく引かれて歩いた。
夕方になる前にズアンの街に到着し、宿を確保できた。
懐は温かいとはいえ、無限にお金が湧いて出るわけではない。
節約も大事、ということでいつものように一部屋取った。
「いやベッド一つ」
「ダブルだったからね」
部屋の中には、大きめのベッドが一つだけ鎮座していた。
「ツインに変えてもらおう」
そのままドアに向かったベラに、ルノフェーリが声をかけた。
「いいよ、このままで。どうせひと晩なんだし」
「は?寝返りうったら起きそうじゃないの」
ベラは眉を寄せたが、ルノフェーリはへらりと笑った。
「大丈夫。ベラは落ち着いて寝られるところだと朝までぐっすりだから」
「え、何で知ってるの?」
「何回も同じ部屋で寝てるから知ってるよ。夜中にトイレに起きても、ベラは全然反応しなかった」
「む……」
「俺も寝相はいい方だし、ベッドが広いから別に気にはならないよ。雑魚寝と一緒でしょ。それより、ご飯食べに行こう」
「雑魚寝と一緒、そういえばそうね。じゃあ屋台に行きたいんだけど。すごい美味しそうな匂いがしてたわ」
「あの串焼きかな。香ばしい匂いだった」
「多分それ」
そして二人は、街に夕食を買いに出た。
肉と野菜の串焼きも、ついでに買ったフルーツも美味しかった。
明け方、ベラはふと背中が温かいと感じて目を開けた。
窓の鎧戸からは光が入らず、しかし鳥の声は遠く聞こえる。
そろそろ夜が明けるらしい。
温かい布団に潜ろうとして、自分を捕らえるものに気がついた。
後ろから自分を固定しているのは、ルノフェーリの腕だ。
温かいと思っていたのは、彼自身だったらしい。
ベラは、知らぬ間にルノフェーリの抱き枕と化していた。
いつそうなったのかはわからないが、そうされても起きなかったので、確かにベラはぐっすり眠っていたのだろう。
起きたら驚いて飛び上がればいい、と思ったベラは、ゆるゆると寝返りをうってルノフェーリの肩口に額を寄せた。
そのまま起きていて驚かせてやろうと考えていたのだが、温かさに眠気が誘われ、そのままもう一度意識が落ちていった。
窓の外の明るい気配を感じて、ルノフェーリは覚醒した。
自分の腕が宝物をしっかり抱えていると自覚して、目を開けた。
ベラは、ルノフェーリの腕の中に身を預けて眠っていた。
そっと抱き寄せて頭に唇を寄せても、ベラは起きない。
このまま身体を密着させて抱きしめていたかったが、彼女が起きたら絶対にぶん殴られる。
確信を持ったルノフェーリは、それはもう慎重に腕をベラの首の下から抜き、代わりに枕を差し込んだ。
起きないことを確かめてから、揺らさないように気をつけてベッドから下りた。
「……シャワー浴びてこよ」
宿のシャワー室は、いつでも使えるようになっている。
とてもありがたい。
ルノフェーリは、ベラの体温を覚えている手をきゅっと握った。
ルノフェーリは迷子になった。
「何で一人で王都に出て宿に戻れると思ったの?今までの実績考えたらわかるじゃない。せめて宿が見える範囲までにしなさいよね」
「ごめんなさい。ちょっと行くだけだから大丈夫だと思って」
正都を出て外都の商店街をうろついていたルノフェーリを、ベラが捕捉したのである。
「どうやったら無意識に正都を出られるのよ。確認されるでしょ」
「うん、なんか通路みたいなとこは通って、兵士に何か聞かれたかも。でもあれが正都を出るための確認だったのか」
「まったく。自分が20年かけて大陸中を迷子になったってことを自覚しなさいよ」
「ごめん。探してくれてありがとう」
「そりゃあね。『買い物に行ってくる』ってメモだけ残して二日も経ってれば探すわよ」
「うぅ……」
そう、ルノフェーリは二日かけても宿に戻れなかったのである。
「で、何が欲しかったの?」
「うん、ちょっと装飾品を見たくて」
「装飾品?刃こぼれしにくい魔法とか、魔獣との遭遇を減らす魔法とかかかってるやつ?」
「そういう効果があるのもあるけど、普通に、ただのアクセサリーを探そうと」
「ただのアクセサリー?それなら、まぁ外都の方が多いわね」
「あ、そうなんだ」
「もう夕方だから、明日行きましょ」
「わかった」
くたびれたルノフェーリは、ベラに連れられてやっと正都の宿に戻れたのである。
きちんと休んだ次の日、ルノフェーリをアクセサリーショップへ連れて行ったベラは、そのまま旅に出るための買い出しに行った。
「いい?買い物が終わったら店の前に立ってること。何があってもそのへんにいて。一応、覚えたからある程度ルノの魔力は追えるけど、昨日も大変だったんだからね」
「分かった。選んで買い終わったらここで待ってる」
何度目かの確認の後で、やっと買い出しに向かった。
契約うんぬんは保留だ。
ルノフェーリが何やら言っていたが、保留と言ったら保留なのだ。
すべきことをまずは全うする。
止まるよりも動く。
ベラは、まずは旅に必要な食料品や消耗品を買い足した。
買い出しから戻ると、ルノフェーリは店の前でぼんやりと立っていた。
「買ってきたよ。ルノ、あっちで分けよう」
「うん」
欲しいものがなかったのか、ルノフェーリは気もそぞろな感じである。
「はい、こっちがルノの分の食料」
「ベラの消耗品はこれ」
それぞれ半分に仕分けして、お互いが半分ずつ持つ。
何かあったとき、片方の荷物だけでも残れば生存率が上がるから分けておくのだ。
そうして鞄に詰め終わってから、ベラは聞いた。
「欲しいものはあったの?」
「うん。買えた」
「それは良かったわね」
「うん」
ルノフェーリは満足そうにうなずいたので、ひとまず欲しいものは手に入ったようだ。
「どこに着けてるの?」
「まだ着けない。時期がきたら着けるつもり」
「ふぅん?とりあえず、買えたんなら逆鱗探しに向かっていいのね?」
「うん。……ベラ、俺は頑張るよ」
「え、うん。頑張って……?」
「うん!」
よくわからないが、ルノフェーリは張り切っているらしい。
とりあえず、はげましておいたがそれで正解だったのかは不明だ。
「まずは、あっちの方に行こう。逆鱗の気配がちょっと強いから、多分そんなに遠くない」
「わかったわ。あっちならズアンの街ね。多分徒歩なら三日くらいで着くわ」
「じゃあ、途中は飛んで短縮しよう。ズアンの街から、また気配を探ることにする」
「ここからは飛ばないの?」
「王都の端で竜になったら、魔法研究所の人たちが見逃してくれない気がする」
「確かに。素材収集されそうね」
「怖い」
ルノフェーリとベラは、まずはズアンの街を目指すことにした。
道中は割と平和で、小型の魔獣しか出なかった。
途中から少し竜体になって飛び、ズアンの街に着く前に、街道から少し離れて降りた。
「街の中にはなさそうかな。少しあっちに逸れてるみたいだ」
ルノフェーリは、街へ続く道から南側へずれた山の方を指さした。
ベラにはまださっぱりわからない。
「じゃ、すぐ向かう?それとも、いったん街で休む?別に急がないから、街で休憩してから明日の朝に向かってもいいと思うけど」
時刻は昼過ぎ。
もし今から山へ行くなら、野宿確定である。
「急ぎたい気はするけど、ベラを付き合わせて野宿させるのも気になるから、街で宿をとろう。ベッドで寝る方が回復するし」
そう言ったルノフェーリは、ごく自然にベラの手を持って歩きだした。
「ルノ」
「ん?」
ベラの手を掴む力が強まった。
「ズアンはそっちじゃないわ。街道もあっちよ」
「あう……」
そして、ベラの手を掴んだまま大人しく引かれて歩いた。
夕方になる前にズアンの街に到着し、宿を確保できた。
懐は温かいとはいえ、無限にお金が湧いて出るわけではない。
節約も大事、ということでいつものように一部屋取った。
「いやベッド一つ」
「ダブルだったからね」
部屋の中には、大きめのベッドが一つだけ鎮座していた。
「ツインに変えてもらおう」
そのままドアに向かったベラに、ルノフェーリが声をかけた。
「いいよ、このままで。どうせひと晩なんだし」
「は?寝返りうったら起きそうじゃないの」
ベラは眉を寄せたが、ルノフェーリはへらりと笑った。
「大丈夫。ベラは落ち着いて寝られるところだと朝までぐっすりだから」
「え、何で知ってるの?」
「何回も同じ部屋で寝てるから知ってるよ。夜中にトイレに起きても、ベラは全然反応しなかった」
「む……」
「俺も寝相はいい方だし、ベッドが広いから別に気にはならないよ。雑魚寝と一緒でしょ。それより、ご飯食べに行こう」
「雑魚寝と一緒、そういえばそうね。じゃあ屋台に行きたいんだけど。すごい美味しそうな匂いがしてたわ」
「あの串焼きかな。香ばしい匂いだった」
「多分それ」
そして二人は、街に夕食を買いに出た。
肉と野菜の串焼きも、ついでに買ったフルーツも美味しかった。
明け方、ベラはふと背中が温かいと感じて目を開けた。
窓の鎧戸からは光が入らず、しかし鳥の声は遠く聞こえる。
そろそろ夜が明けるらしい。
温かい布団に潜ろうとして、自分を捕らえるものに気がついた。
後ろから自分を固定しているのは、ルノフェーリの腕だ。
温かいと思っていたのは、彼自身だったらしい。
ベラは、知らぬ間にルノフェーリの抱き枕と化していた。
いつそうなったのかはわからないが、そうされても起きなかったので、確かにベラはぐっすり眠っていたのだろう。
起きたら驚いて飛び上がればいい、と思ったベラは、ゆるゆると寝返りをうってルノフェーリの肩口に額を寄せた。
そのまま起きていて驚かせてやろうと考えていたのだが、温かさに眠気が誘われ、そのままもう一度意識が落ちていった。
窓の外の明るい気配を感じて、ルノフェーリは覚醒した。
自分の腕が宝物をしっかり抱えていると自覚して、目を開けた。
ベラは、ルノフェーリの腕の中に身を預けて眠っていた。
そっと抱き寄せて頭に唇を寄せても、ベラは起きない。
このまま身体を密着させて抱きしめていたかったが、彼女が起きたら絶対にぶん殴られる。
確信を持ったルノフェーリは、それはもう慎重に腕をベラの首の下から抜き、代わりに枕を差し込んだ。
起きないことを確かめてから、揺らさないように気をつけてベッドから下りた。
「……シャワー浴びてこよ」
宿のシャワー室は、いつでも使えるようになっている。
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