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相有 枝緖

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29 番紋の謎判明

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「これは、確かに番紋に近いものだ。だが、ルノフェーリ殿は番紋というものを誤解しておるな。番紋とは、ただの位置把握と転移目標であるのと同時に、番とのみ念話の受発信ができるものだ。強い方に紋が出ないのは、弱い方が強い方の魔力を借り受けることで相手を特定しているためだ」
「え、番紋ってそういうものなの?でも俺はベラの場所なんてわからないし、念話もできないけど」
 ルノフェーリは困惑し、ベラも思わず首をひねった。

「その契約紋は、番紋に近いだけで、不完全なのだ。だから稼働していないんだろう。竜の儀式とかいうのがあるのだろう?それによって完成する。自然発生したものだから、多分解除はほぼ不可能だろう。そもそも、竜が番を解消することはあるのか?」
「番の儀式は知ってるけど……。あと、竜は執着心が強いから番を定めたら解消なんてしないよ。早くに死別しても変わらない」
「そうだろうな。あとは、そちらの女性は寿命が延びたといったか?寿命に関しては、実はルノフェーリ殿とは別の竜と話す機会があってな。聞くことができた」
 なんと、クザロはほかの竜とも交流があったらしい。

「寿命の共有は、遺伝子的に相性が良く、心底相手を愛することでなされる魔法だということだった。繁殖の可否は、単純に相性だから契約などとは全く関係ないな」
「遺伝子的な相性」
「竜が相手に惹かれるのも、番契約とは一切相関性がない。単純に好意を持つだけだ。好意を持つから、番紋が確固たるものとなる。順番が違うんだ」
「……」
 ルノフェーリは、ほんのりと頬を染めた。

「それにしても、血を飲むとは本当に古い契約だな。わしも古い文献でちらりと読んだだけだが。儀式の補助になったとあったし、実際そうなんだろう。しかし、たったそれだけで紋まで出てくるとは、相当相性がいいんだろうな。いや素晴らしい」
 なぜか、クザロに相性について褒められた。

 ベラは思わずルノフェーリを見た。
 ルノフェーリは、紅くした耳は隠せず、うつむいたままだった。


 その後、一応調べてみようということになり、ベラは部屋の中央付近でスツールに座った。
 クザロが少し離れたところに立ち、魔法でベラの身体を調べる。
 ルノフェーリは、クザロのすぐ後ろでそれを見守ることにしたようだ。

「警戒し過ぎだぞ」
「わかってるから、ここで譲歩してる」
「難儀だな」
 肩をすくめたクザロは、ベラの身体を魔法でゆっくりと確認した。

「これは……なるほど、偶然の奇跡だな」
「何かわかったの?」
 ルノフェーリの言葉に、クザロはうなずいた。
「ああ。ベラ殿の中には、すでにルノフェーリ殿の逆鱗のごく小さな欠片が存在している。それが拒否反応を起こさなかったのは、先にルノフェーリ殿と血を交換していたおかげだろうな。そのつながりがあって、存在をほとんどルノフェーリ殿の眷属に等しいものにしている。寿命が延びているのも、その影響だな」

 それを聞いて、ベラは思わず自分の腹を撫でた。
「え、もしかしたら私って爆散してたってこと?」
「そういうことだ」
「怖っ!って、今後は爆発しない?これ、取り出せるの?」
「ルノフェーリ殿が受け入れているならまず安心だ、逆鱗に関しては、お互いに了承すれば自然と出てくるはずだが、取り出したという例は聞いたことがないから本当にできるかはわからん」
「なるほど……」

 もう一度ソファに戻って、クザロが状況を整理した。
「番紋とは、魔法的にパートナーをいつでも把握して念話するための契約紋だ。双方向契約のおかげか、ほかの者の番にならなくなる。今の2人は、多分相性の問題で、血の交換だけである程度番紋が成り立ってしまっている。解除する方法は不明だ。番契約は、竜に伝わっている儀式によって成り立つ契約で、人間の結婚式みたいなものだが、寿命の共有が一番の目的だ。できるかどうかは相手との相性による。普通は、まず儀式を行って、番契約できたら逆鱗を飲ませて番紋をつけると番のいる竜に聞いた。いろいろと順番が違っている状態だな」

 ベラとルノフェーリは、全部すっ飛ばして最終工程のみ半分終わっているような状態らしい。
 解約方法はわからず、逆鱗もそのままになりそうである。

「わしとしては、番契約できるかどうか儀式を試すのもいいと思う。ルノフェーリ殿は乗り気のようだしな。中途半端に番紋を付けている状態を続けるのが、良いのか悪いのかもわからん。いっそ、きちんと番になってしまえばすべての契約が満了されるんじゃないか」
 クザロは、ベラが描き起こした番紋を眺めながら言った。

「ありがとう、クザロ。とりあえず、俺たちは帰るよ。ここで悩んでいても簡単に答えなんて出ないし」
「うむ。それが良かろう。だがルノフェーリ殿、きちんと話し合うことをお勧めする」
「わかった。ありがとう」
「あ、ありがとうございます」

 中途半端な番紋を消す方法はない。
 告げられた事実に驚き混乱したベラは、ルノフェーリに促されるままに部屋を後にした。


 宿を決めて部屋を取ってくれたのはルノフェーリだ。
 ベラは、気づけばベッドが二つ並ぶ部屋のソファに腰かけていた。

「色々と衝撃過ぎたんだけど」
 なんとか自分をとりもどしたベラは、目の前に座るルノフェーリに言った。
「解除、できなさそうだったね」

 頷いたベラは、ソファの背に身体を預けた。
「どうする?とりあえずは、まだ散らばった逆鱗を集めるでしょ?そのあと、私の中にある逆鱗も取り出せるか試してみる?」

 その様子を見ていたルノフェーリは、ぐっと自分の手を握ってからベラの瞳を覗き込んだ。
「逆鱗は、できるだけ早く急いで集めるよ。ベラの中にあるのは、そのままでいい」
「え?でも」
「ねぇベラ。番になって」
 目を見開いたベラを見て、ルノフェーリがソファから立ち上がった。

「なんでそうなんの?」
 ベラの方に一歩ずつ近づくルノフェーリを見上げて、ベラは思わず膝を抱えた。
「だって、俺はベラが良いんだ。暴力で解決しちゃうところもあるけど、ベラはちゃんと理を通してる。しょっちゅう俺をからかって遊んでるけど、それだって信頼しているからこその近さだし。ベラは、基本的には優しくて料理も上手くて美人だ。俺が竜だって知っても普通に対応してくれる、ベラが良い」

 ソファにうずくまるベラを上から囲い込むように、ルノフェーリはソファの肘置きをつかんだ。
「どんどん好きになって、欲しくなるのは番紋のせいだと思ってたんだけど、違った。ベラがベラだったからだ。それなら、俺は手を伸ばすよ」
「ちょっと!」
 ベラは、ソファにうずくまったままルノフェーリを睨んだ。

「可愛い。無理やりには何もしないつもりだけど、しっかりアピールはするから。ちゃんと考えて」
「ルノが無理やりしたら、誰も逆らえないに決まってるじゃない」
「それはどうかな。ベラが本気で嫌がることは、俺はできないよ。でも、本気で嫌がってなかったら突き進むかも」
「どうやって判断するつもりなのよ」
「ベラが本気なら、俺のこと遠慮なく蹴り飛ばすでしょ?そんで、あの魔法の檻にでも閉じ込めるんじゃない?たとえベラの蹴りを避けるなり受け流すなりしても、檻の用意までされてたらさすがにわかるから」

 ベラが疑いの目で見上げると、ルノフェーリは力強くうなずいた。

 不安しかなかった。
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