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28 魔法研究所は変人の巣窟というのが定石
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「じゃあね」
「気をつけて、お姉ちゃん、ルノフェーリさん」
「お世話になりました」
「また来てくれ、義兄さん。姉さんもな」
ルノフェーリとベラは、村を発って王都に向かうことにした。
フルーツィーラ王国の王都リゴンにある、魔法研究所にいるであろう魔法使いが目的だ。
途中、逆鱗の欠片の気配が近づけば寄り道する予定である。
王都まで竜になって飛んでもよかったのだが、少し不安があったので取りやめになった。
「魔法研究所って、すごい魔法使いがいっぱいいるけど、ヤバい魔法使いはもっといっぱいいるところでしょ」
「そうらしいわね」
「そんなところに、竜の姿で言った日には全身素材にされる気がするんだ」
「あり得るわ。骨で出汁まで取られて何も残らなさそう」
「怖すぎる!!」
「冗談よ」
「それが案外冗談でもない雰囲気なんだよね……。だから、ちょっと面倒だけど馬車とか徒歩で行くのはアリだと思う」
「竜で行ったら、鱗の数十枚くらい剥がされそうよね」
「痛い痛い痛い」
ルノフェーリは自らを抱きしめ、ぴるぴると震えた。
彼曰く、髪を数本まとめて引っこ抜かれる感覚に近いらしい。
「それで、ルノの知り合いの魔法使いってまだ生きてるのよね?」
「70年前くらいに会って以来だから、多分。魔法使いって、魔力が豊富だから長生きしやすいし」
街道を歩く二人は、のんびりしたものである。
「何を研究してる魔法使いなの?」
「契約紋とかそういうやつ。番紋に興味があるって言って俺の家まで来て、色々聞かれたんだ」
「あんな田舎まで来たの?」
「ううん。あの頃は、あそことは別の場所に住んでたんだ。彼は竜の鱗とかには興味がなくてさっさと帰ってくれたけど、その後でほかの魔法使いがたくさんやってきて、怖かったからベラの村の近くに引っ越した」
「あーそういうこと」
「うん」
街道は平和である。
魔力を放出する練習をしているルノフェーリのおかげで、ほとんどの魔獣が街道を避けているためだ。
「ルノ、将来は街道をうろうろするだけの仕事でもしたらいいんじゃない?需要ありそう」
「俺は虫よけじゃないよ」
「虫よけは成分を抽出してかけるか燻すかするじゃない……あ」
「え、やめてね?俺の成分抽出とか怖すぎる」
「そうね、ルノが減りそう」
「俺が減るとかどういうこと?」
「あ、ルノ!あっちにが資金源あるわ!」
「誤魔化された!」
そしてベラは遠くに感じる山賊のアジトの方へと走っていった。
(二人が言うところの)小さな魔石を集めたり、山賊を売り飛ばしたりしながら、王都にたどり着いた。
フルーツィーラ王国の王都は、二層に分かれている。
高い塀でぐるりと囲まれた正都と呼ばれる部分と、塀の外の外都と呼ばれる部分。
正都が元々の王都で、入りきらないものが外に建設され、現在の状態になっている。
外都に入るには特に門などはなく、どこからでも出入りできる。
正都を囲む塀にはいくつか門があり、貴族・平民を問わず身分確認と出入りの記録がなされる。
場合によっては入れてもらえないらしい。
ベラとルノフェーリは、冒険者として記録がきちんとしていることから、すんなりと入れてもらえた。
「内側は全然違う」
「外側の方が新しい建物が多いわね。こっちは歴史的建造物が今も使われてる感じ」
「すごいねぇ。魔法で保護してるのもある」
「ルノが生まれる前のもありそう」
「確かに」
のんびり歩くと、冒険者ギルドの王都拠点が見えてきた。
すぐに魔法研究所に行っても良かったのだが、紹介してもらう方がいいだろうと考えたのだ。
個人が連絡を取るよりも、こういう場合は組織を使う方が信頼性が高いから会える可能性も高まる。
「魔法研究所の、クザロ氏への紹介状ですか」
「はい。契約紋に関する研究をされていたはずです」
「そうですね、契約紋の権威とも言われる方です。失礼ですが、ご関係は?」
「以前の協力者です。お忘れでなければ、竜のルノフェーリと言えばわかると思います」
「……あ、竜族の方ですね。かしこまりました。紹介状をお渡しします」
受付のおじさんは、ルノフェーリのギルド証を確認してからうなずいた。
ちょっと驚いたようだったので、やはり竜が冒険者登録しているのは珍しいことなのだろう。
驚きもしなかったプイレナの受付お姉さんは格が違った。
冒険者ギルドお墨付きの紹介状をもらい、二人はさっそく研究所を訪れた。
クザロという人は、まだまだ健在で研究所にも顔を出しているらしい。
一階の窓口で紹介状を渡すと、少し待たされてから中に案内された。
研究所の建物はかなり頑丈に作られていて、あちこちに保護するような魔法がかけられていた。
「クザロ先生、お客様です」
案内してくれた事務員らしい人が、ドアをノックしてそう言った。
中庭に面した扉も、かなりしっかりとしたつくりだ。
中からくぐもった声が聞こえ、事務員さんはドアを開いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「お邪魔します」
中は、思ったよりも片付いていた。
大きな窓からは光が入り、衝立で隔てられた奥に大きな机があった。
壁際の本棚には大量の本が詰め込まれていて、いかにも研究者の部屋という感じがする。
クザロらしい老人は、机に向かって何か書きつけていた。
「少し待ってくれ」
「はい」
窓の方にソファセットがあったので、ベラとルノフェーリは腰を落ち着けた。
一応、手土産も持っているが、あちらに集中しているときに渡しても仕方がないのでまだ持ったままだ。
ベラの目には、その窓ガラスにも保護の魔法が見えた。
どうやら、研究者が危険な魔法を使うことは当然のことらしい。
「いやはや、待たせてすまん」
一区切りさせたクザロが声をかけてきたのは、案内されてからおよそ30分後のことだった。
90歳は越えていると思われるが、体幹がしっかりしていて、歩幅こそ小さいものの安定感がある。
1人用のソファに座ったクザロは、こちらを見て首をかしげた。
「それで、ルノフェーリ殿を語っておるようだが、どういった用なのだ?」
ベラはルノフェーリを見て、ルノフェーリは苦笑した。
ここで、冒険者のカードが役に立った。
そこにはっきりと「竜族 ルノフェーリ」と書かれていたからだ。
冒険者の身分証は誤魔化す魔法が効かないというのは有名な話である。
「まさか人型になれるなどと思ってもいなかった。失礼した、ルノフェーリ殿」
「いえいえ。あのときは竜体でしか会っていなかったからね」
懐かしい当時の話をして、二人はすぐに打ち解けた。
手土産の、クザロの好物だという干し芋が効いたのかもしれないが。
「それで、今回はどうしたのだ?わしがルノフェーリ殿に教えを乞うならわかるが、何か聞きたいことがあるのか?」
「そうなんだ。実は、ベラが先祖返りして俺の足を蹴ったときに血が出てね。俺もベラを傷つけちゃって、彼女の傷跡はそれなんだ。そのときに、お互いに血を飲みあうことになったみたいで、そしたら番の契約紋?が出たんだ。ただ、完全な番紋じゃないし、お互いに了承したわけでもないし。血を飲みあうのが古い契約方法だというのは聞いたんだけど、それがなくても番契約はできるだろう?色々とわからなくて」
眉を下げるルノフェーリから話を聞き、クザロは興味深そうにうなずいた。
「その番紋らしきものは、見せてもらえるかな?」
「え、ベラを見せるのは無理」
クザロの問いに、ルノフェーリは即答した。
「なんで相談しようと思ったのよ」
呆れたベラは、番紋らしき模様を書き写した紙を取り出した。
数日前に思いつき、鏡を見ながら写したのだ。
「ベラ、どうしてこんなに用意がいいの?」
「なんか、こうなる気がした」
「俺より俺のことを分かってる……!」
そんな二人などお構いなしで、クザロは紋を隅々まで確かめていた。
「気をつけて、お姉ちゃん、ルノフェーリさん」
「お世話になりました」
「また来てくれ、義兄さん。姉さんもな」
ルノフェーリとベラは、村を発って王都に向かうことにした。
フルーツィーラ王国の王都リゴンにある、魔法研究所にいるであろう魔法使いが目的だ。
途中、逆鱗の欠片の気配が近づけば寄り道する予定である。
王都まで竜になって飛んでもよかったのだが、少し不安があったので取りやめになった。
「魔法研究所って、すごい魔法使いがいっぱいいるけど、ヤバい魔法使いはもっといっぱいいるところでしょ」
「そうらしいわね」
「そんなところに、竜の姿で言った日には全身素材にされる気がするんだ」
「あり得るわ。骨で出汁まで取られて何も残らなさそう」
「怖すぎる!!」
「冗談よ」
「それが案外冗談でもない雰囲気なんだよね……。だから、ちょっと面倒だけど馬車とか徒歩で行くのはアリだと思う」
「竜で行ったら、鱗の数十枚くらい剥がされそうよね」
「痛い痛い痛い」
ルノフェーリは自らを抱きしめ、ぴるぴると震えた。
彼曰く、髪を数本まとめて引っこ抜かれる感覚に近いらしい。
「それで、ルノの知り合いの魔法使いってまだ生きてるのよね?」
「70年前くらいに会って以来だから、多分。魔法使いって、魔力が豊富だから長生きしやすいし」
街道を歩く二人は、のんびりしたものである。
「何を研究してる魔法使いなの?」
「契約紋とかそういうやつ。番紋に興味があるって言って俺の家まで来て、色々聞かれたんだ」
「あんな田舎まで来たの?」
「ううん。あの頃は、あそことは別の場所に住んでたんだ。彼は竜の鱗とかには興味がなくてさっさと帰ってくれたけど、その後でほかの魔法使いがたくさんやってきて、怖かったからベラの村の近くに引っ越した」
「あーそういうこと」
「うん」
街道は平和である。
魔力を放出する練習をしているルノフェーリのおかげで、ほとんどの魔獣が街道を避けているためだ。
「ルノ、将来は街道をうろうろするだけの仕事でもしたらいいんじゃない?需要ありそう」
「俺は虫よけじゃないよ」
「虫よけは成分を抽出してかけるか燻すかするじゃない……あ」
「え、やめてね?俺の成分抽出とか怖すぎる」
「そうね、ルノが減りそう」
「俺が減るとかどういうこと?」
「あ、ルノ!あっちにが資金源あるわ!」
「誤魔化された!」
そしてベラは遠くに感じる山賊のアジトの方へと走っていった。
(二人が言うところの)小さな魔石を集めたり、山賊を売り飛ばしたりしながら、王都にたどり着いた。
フルーツィーラ王国の王都は、二層に分かれている。
高い塀でぐるりと囲まれた正都と呼ばれる部分と、塀の外の外都と呼ばれる部分。
正都が元々の王都で、入りきらないものが外に建設され、現在の状態になっている。
外都に入るには特に門などはなく、どこからでも出入りできる。
正都を囲む塀にはいくつか門があり、貴族・平民を問わず身分確認と出入りの記録がなされる。
場合によっては入れてもらえないらしい。
ベラとルノフェーリは、冒険者として記録がきちんとしていることから、すんなりと入れてもらえた。
「内側は全然違う」
「外側の方が新しい建物が多いわね。こっちは歴史的建造物が今も使われてる感じ」
「すごいねぇ。魔法で保護してるのもある」
「ルノが生まれる前のもありそう」
「確かに」
のんびり歩くと、冒険者ギルドの王都拠点が見えてきた。
すぐに魔法研究所に行っても良かったのだが、紹介してもらう方がいいだろうと考えたのだ。
個人が連絡を取るよりも、こういう場合は組織を使う方が信頼性が高いから会える可能性も高まる。
「魔法研究所の、クザロ氏への紹介状ですか」
「はい。契約紋に関する研究をされていたはずです」
「そうですね、契約紋の権威とも言われる方です。失礼ですが、ご関係は?」
「以前の協力者です。お忘れでなければ、竜のルノフェーリと言えばわかると思います」
「……あ、竜族の方ですね。かしこまりました。紹介状をお渡しします」
受付のおじさんは、ルノフェーリのギルド証を確認してからうなずいた。
ちょっと驚いたようだったので、やはり竜が冒険者登録しているのは珍しいことなのだろう。
驚きもしなかったプイレナの受付お姉さんは格が違った。
冒険者ギルドお墨付きの紹介状をもらい、二人はさっそく研究所を訪れた。
クザロという人は、まだまだ健在で研究所にも顔を出しているらしい。
一階の窓口で紹介状を渡すと、少し待たされてから中に案内された。
研究所の建物はかなり頑丈に作られていて、あちこちに保護するような魔法がかけられていた。
「クザロ先生、お客様です」
案内してくれた事務員らしい人が、ドアをノックしてそう言った。
中庭に面した扉も、かなりしっかりとしたつくりだ。
中からくぐもった声が聞こえ、事務員さんはドアを開いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「お邪魔します」
中は、思ったよりも片付いていた。
大きな窓からは光が入り、衝立で隔てられた奥に大きな机があった。
壁際の本棚には大量の本が詰め込まれていて、いかにも研究者の部屋という感じがする。
クザロらしい老人は、机に向かって何か書きつけていた。
「少し待ってくれ」
「はい」
窓の方にソファセットがあったので、ベラとルノフェーリは腰を落ち着けた。
一応、手土産も持っているが、あちらに集中しているときに渡しても仕方がないのでまだ持ったままだ。
ベラの目には、その窓ガラスにも保護の魔法が見えた。
どうやら、研究者が危険な魔法を使うことは当然のことらしい。
「いやはや、待たせてすまん」
一区切りさせたクザロが声をかけてきたのは、案内されてからおよそ30分後のことだった。
90歳は越えていると思われるが、体幹がしっかりしていて、歩幅こそ小さいものの安定感がある。
1人用のソファに座ったクザロは、こちらを見て首をかしげた。
「それで、ルノフェーリ殿を語っておるようだが、どういった用なのだ?」
ベラはルノフェーリを見て、ルノフェーリは苦笑した。
ここで、冒険者のカードが役に立った。
そこにはっきりと「竜族 ルノフェーリ」と書かれていたからだ。
冒険者の身分証は誤魔化す魔法が効かないというのは有名な話である。
「まさか人型になれるなどと思ってもいなかった。失礼した、ルノフェーリ殿」
「いえいえ。あのときは竜体でしか会っていなかったからね」
懐かしい当時の話をして、二人はすぐに打ち解けた。
手土産の、クザロの好物だという干し芋が効いたのかもしれないが。
「それで、今回はどうしたのだ?わしがルノフェーリ殿に教えを乞うならわかるが、何か聞きたいことがあるのか?」
「そうなんだ。実は、ベラが先祖返りして俺の足を蹴ったときに血が出てね。俺もベラを傷つけちゃって、彼女の傷跡はそれなんだ。そのときに、お互いに血を飲みあうことになったみたいで、そしたら番の契約紋?が出たんだ。ただ、完全な番紋じゃないし、お互いに了承したわけでもないし。血を飲みあうのが古い契約方法だというのは聞いたんだけど、それがなくても番契約はできるだろう?色々とわからなくて」
眉を下げるルノフェーリから話を聞き、クザロは興味深そうにうなずいた。
「その番紋らしきものは、見せてもらえるかな?」
「え、ベラを見せるのは無理」
クザロの問いに、ルノフェーリは即答した。
「なんで相談しようと思ったのよ」
呆れたベラは、番紋らしき模様を書き写した紙を取り出した。
数日前に思いつき、鏡を見ながら写したのだ。
「ベラ、どうしてこんなに用意がいいの?」
「なんか、こうなる気がした」
「俺より俺のことを分かってる……!」
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