サーチング・サーガ

相有 枝緖

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27 弟妹は姉をよく知る

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「久しぶりね!リーア、元気?」
 ベラは、リーアの家を訪れて寝室のドアをバーンと開いた。

 ちなみに、リーアの夫は健在である。
 ベッドには、40代くらいに見える女性がいた。
 ぼんやりと窓の外を見ていた彼女は、突然入ってきたベラに気づいて目を見開いた。

「お、お姉ちゃん!!ちょっと、びっくりし過ぎて心臓が止まるかと思ったじゃない!あたしは病気になったんですからね!」
「あら、元気じゃないの。ジョアン、リーアは元気よ」
「どこをどう見たらそうなるの?あたしはまだ寝込んでるの。まったくもう。久しぶりに帰ってきたと思ったら全然変わってないんだから」

 ぷりぷりと怒るリーアは、少し疲れているようだがやつれてはいない。
 すたすたと近づいたベラをみて、一つ息をついてから苦笑したリーアは、髪や目の色は違うがどこかベラと似た雰囲気があった。
 連れてこられたものの入るに入れず、ルノフェーリは戸口のあたりで立ち止まっていた。

「お姉ちゃん。あの人は?っていうか、あたし病人なんだから、お客様なんて突然連れてこないでよ」
 呆れたように言うリーアに、ベラは気にせずルノフェーリを紹介した。

「ルノ、私の妹のリーアよ。リーア、こっちはルノフェーリ。私が蹴飛ばして泣かせて涙を出させてリーアたちを助けることになった素材の竜」
「待って!俺が素材になってる?!」
「え、やだ!その人があの竜なの?!あたしたちの命の恩人じゃないの!なんで立たせてるのよ椅子持ってきて!!」
「いやリーア、お前病人じゃなかったのかよ」
 後ろにいたジョアンが思わずつっこんだ。

「お兄ちゃん!いいから椅子!あとお茶くらい淹れて出しなさいよ気が利かないわね!ごめんなさいね、ルノフェーリさん。それから、あたしたちの命を救ってくれてありがとう」
 慌てて部屋を出たジョアンの背中に言葉を投げつけてから、リーアはコロリと態度を変えた。

「いえいえ、お気遣いなく」
「ほらお姉ちゃんも、自分の椅子くらい持ってきなさいよ。どうやってルノフェーリさんと会ったのか、それから何をしてたのか、そのあたりをきちんと聞きたいんだから」
「はいはい」

 おろおろするルノフェーリをよそに、ベラは部屋の端にあった椅子をルノフェーリに手渡した。
「え、ベラは」
「私はあっちから持ってくるわ」
「それなら、俺が持ってくるから座ってて」
「ルノはお客さんなのよ」
「いいから」
 ひょい、と身体を入れ替えられ、ベラはとすんと椅子に座らされた。
 さりげなくベラの肩を撫でて部屋を出たルノフェーリを見て、リーアは首をかしげた。

「なに、お姉ちゃんってばルノフェーリさんと結婚してきたの?」
「違うわよ」
 妹はそれを聞いて、肩をすくめた。


 ルノフェーリとジョアンが、椅子とお茶を持って戻ってきてから、ベラがここまでのことをかいつまんで話した。
 盗賊を倒しているところで出会ったあたりでは「そんなことだろうと思った」という表情だった二人は、その夜にカミングアウトして驚いたところで目を見開き、眷属だと結論付けたところで納得したようにうなずき、逆鱗探しを手伝う旅を聞いてルノフェーリをガン見し、そして番の仮契約状態だと聞いてルノフェーリとベラを見比べた。

「なんだ、やっぱりお姉ちゃんってばルノフェーリさんと結婚したんじゃないの」
「だから違うんだってば」
「距離感が完全に夫婦のそれじゃない」

 ルノフェーリは、リーアの言葉を聞いて首をかしげた。
「結婚って、人間版の番契約みたいなやつ?」
「そうね、番契約とかよりは少し軽い、約束みたいなものかしら。魔法的な契約はないから」
「ふうん。結婚が正式な契約っていうことなら、俺たちの今の状態は仮結婚状態かな」
「婚約くらいの感じ?でも、お互い知らずにやらかしてるからねぇ」
「俺はこのまま番になってほしいんだけど」
「だからそれは、すぐに結論を出す問題じゃないわよ」
「ぶーぶー」

 二人のやり取りを見ていたリーアはジョアンに目線で問い、兄が肩をすくめるのを返事と受け取った。
「お姉ちゃん、意地っ張りはよくないわ。それに、その仮契約がなくなったら、お姉ちゃんの寿命とかどうなるの?慎重に考えるべきよ」

「そうだなぁ。姉さんを貰ってくれる人なんて、今後現れないかもしれないし」
 ジョアンの言葉に、リーアはうなずいた。
「そっちの方が重要ね」
「聞き捨てならないわ」
 不満そうにベラが言ったものの、黙殺された。

「ルノフェーリさん、姉をよろしくお願いします。あたしたちのために先祖がえりを引き起こすくらい情の深い人なんです。あたしたちは姉より先に逝きますから、竜であるルノフェーリさんが姉の家族になってくれるなら大歓迎です」
「腕っぷしが強くて暴力で解決することもよくある姉ですが、心根はまっすぐで温かい人です。どうかお願いします、お義兄さん」
 リーアとジョアンに頭を下げられ、ルノフェーリは慌てた。

「えっ、あ、こちらこそ、よろしくお願いします?」
「いやルノ、そこで流されないでよ」
「だって、今後もベラと仲良くしてってことでしょう?だったら了承っていうか大歓迎だし」
「待って。今のこの子たちの言葉はそういうのじゃないの。仲良くしてっていう意味も含むけど」
「違うの?」

「あの子たちが言ったのは、結婚が決まったときに家族からお相手に送る言葉みたいなやつよ」
「それじゃあ、俺は認められたってこと?」
「まぁそうだけど、そうじゃなくて」
 上手く説明が伝わらず、ベラは腕を組んで首を捻った。
 そんなベラに、ルノフェーリは座ったままごく自然に近づいていた。
 少し動けばキスできそうな距離である。

「ねえお兄ちゃん、あのお姉ちゃんが押されてるわ」
「すごいな。それに、姉さんがあの距離を許してるぞ」
「そういうことよ」
「そういうことか」
 弟妹が納得してうなずいているのに気づかず、ベラはどうにかこうにかルノフェーリに説明を試みては失敗していた。



 その日は、ジョアンの家に泊めてもらった。
 数日泊めてもらい、リーアやジョアンの子どもたちに会ったり、両親の墓参りをしたりと少しのんびりして過ごした。
 ついでに、村から少し行ったところにある森の魔獣を蹂躙した。
 リーアは床上げしてちゃきちゃきと動くようになり、リーアの夫や子どもたちに感謝された。
 自分の若々しさの理由を聞かされたリーアは、それならひ孫の成人まで見守れそうだ、と笑った。

 ルノフェーリは、ほぼベラに張り付いていた。

「ジョアンの家でのんびり留守番しててもいいのに」
「でも、気になるし。下手に歩くと帰ってこれなくなりそうで」
「それはそうね。しょうがない、行くわよ」
「うん」


 結局、村の人たちにベラとルノフェーリはパートナーだと認識された。
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