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4月7日~6月30日 君には慣れない
君はおとなり
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田崎くんと隣になってしまった。
大変喜ばしいことじゃないか、と去年買った恋愛指南書に言われた気がする。思わず広げてしまったそれには"押してダメなら引いてみろ"だの"時々目を合わせる"だの、正直アテにならないことばかり連なっている。
重いため息が、深夜の自室に蔓延して気分が悪くなる。
好きであればあるほど、そんなことを軽々しくできないというのに、この指南書は何も分かっちゃいない。隣というだけで、明日からずっと同じクラスというだけで、こんなにも心を乱しているというのに。
もし目が合ったら?
もし拾い物で手が触れ合ったら?
もし名前で呼ばれたら?
もし…
もし……
もし仲良くなれたなら?
首を振った。そんなわけがない。特に今は2年生。とっくに仲の良いグループはいるだろうし、休み時間にはそいつらと話すだろう。恋仲だっているかもしれない。できれば、女であってほしい。
俺が隣でつまらないと、俺じゃない方の隣のヤツと仲良くなるかもしれない。
期待をするな、二度と思い出すな。
あの感情を……。
そしたら、せめて、仲の悪くないクラスメイトにはなれるはずだから。
「おはよー」
「おはよう!」
「生物の先生変わるって!」
「マジ?誰になるんだろー」
次の生物の教師は田辺先生だぞ、と心の中で返答しながら席に座る。カバンの中身を取り出して、弁当箱だけが入ったものを机の横にかけた。
小説を開いて、黙々と集中する。
たぶん、おそらく、あと2分くらい。
カチ
カチ
「あ、田崎ーおはよー」
「田崎遅ぇぞー」
「田崎くんおはよー」
「おー、おはよ、ちょっと寝坊した」
田崎くんが入ってくるだけで、連鎖的に10人ほどが口を開く。ああ、今日も彼は人気者だ。ほら見ろ、口を開いていないやつらも田崎くんが自分の席につくまで視線を奪われて。
がらら、がたん、がさがさ
「おはよ、白川」
.
.
.
「っぁえ?」
「どういう声だよ」
くつくつと笑う顔が眩しくて、思わず向けてしまった顔を元に戻す。今彼は何と言ったんだろう、おはよう?おはよう??他のやつに言うべき言葉ではないのか、俺に個人的にしてくれるなんてそんな夢のようなことがあるのか、いやあったんだからそうなんだろう。
田崎くんはやさしいから。
「……おはよ、ぅ。」
「ん。」
人懐っこい笑みでそう返して、すぐに席を立ってどこかに行った。
心臓がバクバクとやかましい。
小説の文字なんて1文字も入ってこなかった。
「えー、では次、1年の時に学習した……」
田辺先生の授業中、未だ休まらぬ気持ちを抱えてシャーペンを握る。隣を見たくて仕方がない。授業を受ける彼は一体どんなにかっこいいんだろう、真面目に受けているのか、寝ているのか…想像はよくしていたが、いざ隣になると頭が真っ白で。
ほんの、すこしだけだから。
自分に言い訳をして隣に視線をやる。
すると
「っ……」
思わず悶えそうになって息を止める。
田崎くんは真面目に受けていた。しかし、シャーペンは止まっているし、教科書のページは間違えている。そして極めつけには「心底意味がわからない」とでも言いたげな顔で黒板と睨めっこをしていた。
ああ、生物苦手なんだな。
思わず笑いが込み上げてきて、またそっと息を止めた。
授業が終わればクラスのあちこちから「意味わからん」「田辺かよー」などと声が聞こえる。授業を聞いてなかっただけなんじゃないのか、と心の中で悪態をついているとふと視線を感じた。
辿れば、彼のまっすぐな瞳。
「ッ…なん、何?」
「んー?あぁ、ノート綺麗だよな白川。文字も」
「あり、ありが……とう?」
受け取れば良いのか受け流せば良いのか分からずどもってしまう。田崎くんは「いいなあ、」と笑って俺に背を向けた。
大切に大切に、ノートを閉じる。
意識なんてしたことがなかったが、ノートの取り方をもっと検討した方が良さそうだ。
打って変わって数学B。
田辺先生と違って雑談から始まるらしい。かれこれ15分は話している。田崎くんはとっくの昔に眠ってしまったし、俺もそろそろ寝落ちてしまいそうなラインだ。
幸い、クラスのど真ん中という目立ちそうで目立たない席なので目を閉じてもバレることはなさそう、というか寝ているからと怒るような雰囲気でもない。
すこし、寝ておくか。
昨日は満足に眠れなかったし。
「白川」
「白川ー」
「授業終わったぞ」
「……
えっ?」
ばっ、と顔を上げると半笑いで俺の肩をたたく田崎くんがいた。突然の至近距離に席を立つが、それを焦りだと勘違いしたのか田崎くんは安心させるように言う。
「ああ、最後までほとんど雑談だったし大丈夫大丈夫。ちょっと復習したくらい?それも黒板使ってねぇし」
「??…田…崎くんは寝てなかったのか」
「話は聞いてた!仮眠ってやつ?目を閉じるだけな」
「すごい、な」
「そうか?…てか白川も寝るタイプなの意外だわ、真面目なイメージだったんだけど」
「……雑談だったし、興味なかったから」
「わかる」
けら、と笑う彼に、起こしてくれてありがとうと言うとまた人懐っこい笑みを浮かべて去っていった。
……
ん???
いま……起こされた、のか…………???
ぼっと顔に熱が集まって、思わずトイレに駆け込んだ。
大変喜ばしいことじゃないか、と去年買った恋愛指南書に言われた気がする。思わず広げてしまったそれには"押してダメなら引いてみろ"だの"時々目を合わせる"だの、正直アテにならないことばかり連なっている。
重いため息が、深夜の自室に蔓延して気分が悪くなる。
好きであればあるほど、そんなことを軽々しくできないというのに、この指南書は何も分かっちゃいない。隣というだけで、明日からずっと同じクラスというだけで、こんなにも心を乱しているというのに。
もし目が合ったら?
もし拾い物で手が触れ合ったら?
もし名前で呼ばれたら?
もし…
もし……
もし仲良くなれたなら?
首を振った。そんなわけがない。特に今は2年生。とっくに仲の良いグループはいるだろうし、休み時間にはそいつらと話すだろう。恋仲だっているかもしれない。できれば、女であってほしい。
俺が隣でつまらないと、俺じゃない方の隣のヤツと仲良くなるかもしれない。
期待をするな、二度と思い出すな。
あの感情を……。
そしたら、せめて、仲の悪くないクラスメイトにはなれるはずだから。
「おはよー」
「おはよう!」
「生物の先生変わるって!」
「マジ?誰になるんだろー」
次の生物の教師は田辺先生だぞ、と心の中で返答しながら席に座る。カバンの中身を取り出して、弁当箱だけが入ったものを机の横にかけた。
小説を開いて、黙々と集中する。
たぶん、おそらく、あと2分くらい。
カチ
カチ
「あ、田崎ーおはよー」
「田崎遅ぇぞー」
「田崎くんおはよー」
「おー、おはよ、ちょっと寝坊した」
田崎くんが入ってくるだけで、連鎖的に10人ほどが口を開く。ああ、今日も彼は人気者だ。ほら見ろ、口を開いていないやつらも田崎くんが自分の席につくまで視線を奪われて。
がらら、がたん、がさがさ
「おはよ、白川」
.
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「っぁえ?」
「どういう声だよ」
くつくつと笑う顔が眩しくて、思わず向けてしまった顔を元に戻す。今彼は何と言ったんだろう、おはよう?おはよう??他のやつに言うべき言葉ではないのか、俺に個人的にしてくれるなんてそんな夢のようなことがあるのか、いやあったんだからそうなんだろう。
田崎くんはやさしいから。
「……おはよ、ぅ。」
「ん。」
人懐っこい笑みでそう返して、すぐに席を立ってどこかに行った。
心臓がバクバクとやかましい。
小説の文字なんて1文字も入ってこなかった。
「えー、では次、1年の時に学習した……」
田辺先生の授業中、未だ休まらぬ気持ちを抱えてシャーペンを握る。隣を見たくて仕方がない。授業を受ける彼は一体どんなにかっこいいんだろう、真面目に受けているのか、寝ているのか…想像はよくしていたが、いざ隣になると頭が真っ白で。
ほんの、すこしだけだから。
自分に言い訳をして隣に視線をやる。
すると
「っ……」
思わず悶えそうになって息を止める。
田崎くんは真面目に受けていた。しかし、シャーペンは止まっているし、教科書のページは間違えている。そして極めつけには「心底意味がわからない」とでも言いたげな顔で黒板と睨めっこをしていた。
ああ、生物苦手なんだな。
思わず笑いが込み上げてきて、またそっと息を止めた。
授業が終わればクラスのあちこちから「意味わからん」「田辺かよー」などと声が聞こえる。授業を聞いてなかっただけなんじゃないのか、と心の中で悪態をついているとふと視線を感じた。
辿れば、彼のまっすぐな瞳。
「ッ…なん、何?」
「んー?あぁ、ノート綺麗だよな白川。文字も」
「あり、ありが……とう?」
受け取れば良いのか受け流せば良いのか分からずどもってしまう。田崎くんは「いいなあ、」と笑って俺に背を向けた。
大切に大切に、ノートを閉じる。
意識なんてしたことがなかったが、ノートの取り方をもっと検討した方が良さそうだ。
打って変わって数学B。
田辺先生と違って雑談から始まるらしい。かれこれ15分は話している。田崎くんはとっくの昔に眠ってしまったし、俺もそろそろ寝落ちてしまいそうなラインだ。
幸い、クラスのど真ん中という目立ちそうで目立たない席なので目を閉じてもバレることはなさそう、というか寝ているからと怒るような雰囲気でもない。
すこし、寝ておくか。
昨日は満足に眠れなかったし。
「白川」
「白川ー」
「授業終わったぞ」
「……
えっ?」
ばっ、と顔を上げると半笑いで俺の肩をたたく田崎くんがいた。突然の至近距離に席を立つが、それを焦りだと勘違いしたのか田崎くんは安心させるように言う。
「ああ、最後までほとんど雑談だったし大丈夫大丈夫。ちょっと復習したくらい?それも黒板使ってねぇし」
「??…田…崎くんは寝てなかったのか」
「話は聞いてた!仮眠ってやつ?目を閉じるだけな」
「すごい、な」
「そうか?…てか白川も寝るタイプなの意外だわ、真面目なイメージだったんだけど」
「……雑談だったし、興味なかったから」
「わかる」
けら、と笑う彼に、起こしてくれてありがとうと言うとまた人懐っこい笑みを浮かべて去っていった。
……
ん???
いま……起こされた、のか…………???
ぼっと顔に熱が集まって、思わずトイレに駆け込んだ。
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