運命の番

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美しい番

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夕食前にアーシェンの部屋で、イングリッドが結界の張り方を教えてくれた。
アレンから能力を分けて貰ったので、せっかくの機会に初めて練習をした。時間はかかったが、レイドの部屋までまとめて結界に入れることができた。

「よくできました。この結界から出る時は必ず、護身用具を身に付けることを約束してください。神殿と家族しか使用しない空間は、確認をして私が張りますから」
「ありがとうございます。おば・・・イングリッド先生」
「2人だけの時はお祖母様でいいですよ。間違わないようにね」

頷くアーシェンに、それにしても、とレイドの部屋の方を見て続ける。

「まだ夫婦でもないのに、お風呂が一緒なんて。アーシェン、やはり部屋の中でも護身用具を付けていましょう。内鍵は閉めて寝るように」



イングリッドは身分を隠しているため、夕食はアーシェンだけが、皇帝一家4人の席に加わることとなった。

イシス女性達は、結界内で安全との理由から、セトがいる技術者棟で食事をする。
神殿はほぼ完成しているが、セトはイシスに戻りたくないのか、なんだかんだ理由を付けてグラーツ滞在を伸ばしていた。



「アーシェン様がお綺麗になっていらして、びっくりしました」
燃えるような赤い髪に緑の瞳を持った、輝くようなエスメラルダに笑顔で言われてしまった。
「美しいエスメラルダ様に誉められると、恥ずかしいです」
マデリーンとエナンも誉めそやす。
「数年後は傾国もかくやの美貌になるだろうな」
「姫の母上のノア女王によく似ていると、レイドが言っていましたよ」
「似ているのは少しだけです。エスメラルダ様は父上似で、レイド様は母上似ですね」

レイドとエスメラルダは外見も内面もどこも似ていない。見事に分かれてくれてよかったとマデリーンは言った。
マデリーンの5人の兄達のように、似ていたら共倒れするからだ。



アーシェンが来るずっと前から、戦闘狂いと言われたレイドが戦死することなどを考えて、エスメラルダも帝位につける対策を練っていた。

優等生なエスメラルダは、上手くいくかは別として、真面目な統治をするだろうと想像し易い。
エナンに似て、品行方正で真っ直ぐ過ぎるのがキズだが、使える側近で周りを固めれば、何とかなる見通しを立てていた。

気性は激しいが統率力があり、戦術に優れたレイドは賢君にもなりえるし、暴君にもなりえる気質がある。
どちらかに偏るだろうと考えられたが、アーシェンにのめり込んで愛が報われてからは、いい方向に進んでいる。

たまたまレイドの番が純粋で無欲だったからだ。

番ならば我が儘を言ったり命令すれば、獣人を簡単に操れる。権力者が番に出会ってしまった場合、大抵ロクな結果にならない。

昔どこだかの国で、獣人の大富豪が人族の番に散々貢いだ上、結婚してもらえず別の男と逃げたという話があった。当主は資産が尽きるまで探し続け、最後は絶望のあまり自殺し、代々続いた家を潰したのだ。

レイドが番を見つけたと言った時、この逸話を思い出した。番に出会ってしまったのに、手に入れることが出来ない獣人は本能が暴走し、哀れな末路を迎える。大抵が狂って死ぬ。
神の国イシスから王女が嫁に来るわけがないから、レイドが皇太子のままでは、帝国は荒れ果てること間違いない、エスメラルダを皇太子にとの声は上がっていた。

そんな中、何故だかアーシェンとの婚約があっさり決まった。
グラーツに到着するまで「やはりこの婚約はなかったことに」と言い出されるのではと、イシスから手紙が届く度に、その可能性が頭をかすめたが、何の問題も起きなかった。手紙はアーシェンからの物がほとんどで、レイドが何度も読み返しては、大事そうに保管しているとマティアスが言っていた。


グラーツはアーシェンが来る前提条件の下に、イシスの技術や不思議な能力の恩恵に授かることができたが、イシス側には何の国益ももたらしていない。

国としても王女個人としても、来ても損しかないのに、評判の悪い野獣と呼ばれる息子の嫁に来てくれた。

アーシェンならばレイドを変な方向へ持っていくことはしないので安心だ。
グラーツの皇太子の地位を利用する必要制がないことと、イシス国の教育水準の高さが理由だ。

グラーツを訪れたイシスの人々は皆平民だったが、我が国の貴族以上に教養があった。
知的好奇心を満足させることに安寧を覚え、物に執着ぜす、人に干渉しない。良い教育を受けた者特有の、品と落ち着きがある。
アーシェンも同様だが・・・一体この少女は、評判の悪い皇太子のどこが良かったのだろうか。荒々しい男がイシス国にいないから新鮮だったのだろうか。

レイドは誠心誠意をもって口説いたと言ったが、どうにも腑に落ちない。
夜遊びをしていた手慣れた男が、何も知らない少女を騙したのではないかと一抹の不安がある。
実際にアーシェンはレイドに振り回されているように見える。

まあ、その失礼で強引な息子のおかげで、鎖国のイシスと国交が持てたのはグラーツにとったら大きな功績だ。

アーシェンとレイドの間に双子が生まれたら、私とエナンの孫がイシスの王になることが、未だに信じられないが。
いや、その前に離婚され祖国に逃げられなければの話か。

マデリーンがアーシェンを見て色々と思い、エスメラルダとエナンとアーシェンが、ほのぼのと会話をしている中。

レイドは美しくなりすぎた番を、熱い目で見ていた。





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