honey

栢野すばる

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第一章

6

 チカの手が利都の腰に掛かった。
「こっちおいで」
 軽々とベッドの上を引きずられ、利都は思わずシーツを掴んで抗った。
 こんな姿を見られるのがとても恥ずかしくて、腰を掴まれたまま小さく首を振る。
「……嫌なの?」
 ちょっと悲しげにそう問われ、利都は慌てて顔を上げた。
「ち、ちがうけど、恥ずかしいから」
「暗くするの? 無理だよ。まだ昼だもん」
 口をへの字に曲げた利都の背に覆いかぶさり、チカが優しくキスをしてくれた。
 そのまま、身体を押さえていない方の腕でショーツに指をかけ、するりと引き下ろす。
「あっ……ダメっ……」
「可愛いお尻」
 チカが体を起こし、利都の臀部に唇を落とした。
「やだ、やだぁっ……!」
 こんなに恥ずかしいものだっただろうか。利都は器用に絡みついてくるチカの腕から逃れようとするが、相手の力が強すぎて全くうまくいかない。
「もう……本当に元に戻っちゃって……そんなところも可愛いけどね……」
 チカがため息と同時に言い、両手でぐい、と利都の腰を再び引き寄せた。
「あ……!」
 濡れた秘所を晒し腰を高く持ち上げたまま、利都はぎゅっと目をつぶる。
 どうしようもなく恥ずかしい。足を閉じて見られないように隠そうとした拍子に、濡れた花芯に何かが押し当てられた。
 同時に利都の顔の横に、封を切られた避妊具のパッケージが落ちる。
「りっちゃん、してもいい?」
「み、みないでくれたら……っ」
 こみ上げる羞恥心をこらえて、利都はかすかな声でそう答えた。
 あの美しい目に晒されているのかと思うと、自分の体がたまらなく恥ずかしい。もっと綺麗で特別な体なら良かったのにとすら思う。
「見るよ。見たいもん。今は色が濃くなってメチャクチャ濡れてて……俺のこと誘ってるよ」
 チカの卑猥な言葉に、利都はシーツを握る指にますます力を込めた。
 ――どうしよう……恥ずかしくて死にそう……。
「痛かったら言ってね」
 チカがそうつぶやいて、足の間に押し当てた硬いものを、ゆっくりと利都の中に沈めてきた。
「あ、キツい。痛くない?」
「っ、大丈夫……っ」
 こじ開けられるような違和感に耐えながら、利都はそう答えた。
 粘膜同士が引き剥がされるような音がして恥ずかしくて耐え難い。
「あ、ああ……硬い……っ」
「りっちゃんの中がまた締まっちゃったんですよ。俺の形がなくなっちゃったね」
「そんなの……わかんな……っ……」
 胎内をぎちぎちに満たされ、差し込まれたものを硬い棒か何かのように感じる。生理的な涙がにじみだし、利都は息を弾ませて後ろを振り返った。
「何……そんなかわいい顔して……あんまり締め付けないで。俺のやつ食いちぎりそうだよ?」
「な、なんか、かたくて、なんで……?」
 チカは答えずに、利都の身体を貫いたものをゆっくりと前後させた。
 小さな動きでも、内壁をこすられる刺激で利都の身体はちいさく震えて反応してしまう。
「っあ、ああ……っ……やあ……ッ」
「まだ挿れたばっかりなのに、こんなにヒクヒクさせてどうしたの?」
 焦らすようにチカが言い、打ち込んだ杭をゆっくりと前後させた。
 動く度に、じゅぶ、という淫らな水音が響く。
 利都は額をシーツに押し付け、喘ぎ声を押し殺した。
 まだ明るいうちなのに、こんな事をしていいのだろうか……。そう思うのにチカの手は利都を戒めたまま、腰から離れてくれない。
「綺麗だよ」
 ゆるやかな抽送を繰り返しながら、チカがうっとりした口調で言った。
「ランジェリー付けてくれると本当に気分が盛り上がるよ。最高のお姫様を抱いてるみたい……こんな綺麗なりっちゃんを乱れさせるの、楽しいなって思う」
 そう言いながら抽送の速度を変え、チカが利都の腰を強く引き寄せた。
「や、あああっ」
 隘路を強引に押し開かれる感覚に、利都は思わず悲鳴を上げた。
 甘い刺激に蜜が滴り、水音をますます強くさせる。
 お腹の中に耐え難い熱が生じ、利都は無意識に体を揺すり始めていた。
「あ……あ……っ、あ……」
 熱の籠る体を持て余し、利都は突き上げられる度に小さく声を上げた。
「思い出した?」
 動きを止め、チカがからかうように利都に尋ねる。
「例えば、こういうのとか……」
 言葉と同時に、チカの片手が腰から離れ、快感で小さく立ち上がった花芽を軽くつまむ。
 それを小さくくりくりと刺激され、利都は思わず身体をくねらせた。
「っ、やあああ……っ」
「それから、こんなこともしたかな?」
 体を穿った肉杭でゆっくりと蜜をかき回され、利都は身体をびくんとはねさせた。
「あとは、そうだな、こんなふうにこすりながら挿れたりとか……したよね。思い出した?」
 今度は挿入の角度を変えられ、敏感なところを擦るようにいくども剛直した茎が行き来する。
 責められる度に、足の内側を蜜が垂れ落ちてゆく。
「や、あ……」
 再び腰を引きずり寄せられ、叩きつけるように肉杭で突き上げられ、利都は焼けつくような快感に身を任せる。
 体の中で固く隆起したチカの形が、はっきりと分かる気がした。
「可愛い、りっちゃん、大好き。一人にしとくのめちゃくちゃ怖かった」
 言葉と同時にチカのものがますます硬く反り返る。
 まとわりつく蜜を跳ね飛ばすような勢いで抽送が繰り返され、利都の指からシーツを掴む力が抜けていく。
「ひ、ああ……っ、あ、ああーーっ……」
 背を反らせ、貪るように腰を振りながら、利都は言葉にならない嬌声を上げてチカの行為を受け入れた。
 涙で曇って周りがよく見えない。
 体に力が入らず、息をするのも苦しいほどだ。
「その声大好き」
 激しく腰を叩きつけながら、チカが呟く。
「そんな声出されたら、もう我慢できないよ、俺」
 突き上げられるたびに、利都の下腹部に耐え難い疼きが生じる。
 おのれの意志では押さえられない痙攣が、足の間から体中を震わせる。
「あ、はぁ……っ……もう、無理……っ」
 崩れ落ちながら利都は言った。
 もう何も考えられない。頭のなかが真っ白で、何をされているのかもわからなくなってきた。
 限界までこわばった肉杭を、蕩け始めた隘路が抱きくるむ。
「りっちゃん、イくね……」
 灼けるように熱い楔が、利都の最奥に押し入りながら小さく震えて爆ぜた。
「あ……」
 うつ伏せのまま、利都はくったりと目を閉じる。
 ――だめ、もう動けない……。
 チカがなにか言っているのを聞きながら、利都はとろとろと眠りに落ちていった。


 二人でバスルームに場所を移したあとも、利都はちょっと膨れていた。
「りっちゃん、どうしたの? 怒らないでよ」
 目が覚めたら、利都はなんと一糸まとわぬ姿で眠っていたのだ。
 驚いてチカに理由を聞くと、『下着を脱がせて洗っておいた』と言われて、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「だってさ、俺が汚したんだから俺が洗うよ。ちゃんとぬるま湯で揺すり洗いして、陰干ししたから平気」
 ――何でそんなに洗濯の仕方にまで詳しいの……?
 利都は半ば呆れながら、精一杯すねた声を出した。
「そういうの、全部恥ずかしい」
「あは、俺のこと変態だと思った?」
 利都の背中に抱きつき、チカが非常に嬉しそうに言う。
「何喜んでるの?」
「いや、りっちゃんに変態って思われてたらと思うと、なんか嬉しくて」
 彼は一体何を言っているのだろう。
「じゃあ、いじわるって言うもん」
「いじわるって言われても嬉しいよ! もっと言って!」
 ハーフアップにした濡れた髪に顔を押し付け、チカが幸せそうに言った。
 その毒気のない態度に、すねていた利都も思わず吹き出す。
「どうしてそんなので喜ぶの? じゃあ何て言われたらチカさんは反省するの?」
 そう尋ねたら、逆に問い返されてしまった。
「え? 何を反省するの?」
 利都は絶句し、大きな抵抗を感じながらもぎこちなく答えた。
「えっ、えっちなことばっかり……するところ……だよ」
 自分で言っていて顔が熱くてたまらない。こんなに顔が熱くなるのはお風呂が熱いせいだと思いたい。
「えー? 俺そんなにエロいかなあ? 普通だよ。だって一ヶ月も会えなかったんだもん。不安で不安で」
「何が不安だったの?」
 チカの胸にもたれかかり、利都は彼の綺麗な顔を見上げた。
「えーと、まずは俺のこと忘れてないかでしょ、それから会社のイケメンエリートくんにナンパされてないか、それから夜道で危ない目に遭ってないか、あとは……そうだな、また俺に対して、脳内で変な距離置いてないかなとか……」
 指折り数えて言うチカを見ているうちに、なんだか利都はおかしくなってきた。
 みんなの王子様である彼を利都が独り占めしたいならわかるけれど、逆だなんて。
「もう。全部大丈夫だよ! あのね、チカさんがいない間は、なるべく実家に帰ってたの」
「そうなの? 実家ってどこだっけ?」
「会社から電車で一本で、三十分くらいの駅にあるの。お父さんに早くチカさんのことを納得してもらいたくて」
 言いかけて利都の声が小さくなる。
 利都が家に帰れば大喜びの父は、チカの話をすると不機嫌になってしまう。
 そして挨拶に来てくれる話になると、しまいには書斎から出てこなくなるのだ。
 この一月、ほとんどそうだった。態度が和らぐということが全く無い。
「お父さんには俺も一緒にお願いするよ。絶対一生大事にします、長生きもしますからってお父さんに約束する」
「あ、ありがとう……」
 チカの言葉に胸がいっぱいになり、利都は少し涙声でそうお礼を言った。
「私も今度お祖父様やおじさまにあったら、チカさんを一生大事にしますって約束するから」
「ふふ、何可愛いこと言ってくれてるの? でもありがと」
 チカが形の良い腕を伸ばして利都を抱きしめた。
「俺たち、仲良くやろうね」
「うん……」
 甘く幸せな気持ちで、利都は頷いた。
 本当にそうなればいい。この人とずっと一緒に居られたらいい。
 苦しいくらいに、そう思った。
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