Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第十九話 髪飾り

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 小鳥のさえずるようなやさしい声が聞こえる。
「……きて……隆司くん……起きて……」
 その声を聞いて、俺は目を覚ました。

 相変わらず、京谷の車の中にいる。そして、棗が側にいる。
 また時間が巻き戻ったということだ。

 俺は、前々回と、前回の出来事を頭の中で思い浮かべ、そして比べた。

──何かがおかしい──

 工場で出てくるのは副部長だったはずだ。
 なのに、どうして本物の鮫人間がいたのだろうか。

 もちろん、俺と棗は血を流してはいない……はずだ。
 で、あれば、部長たちの誰かが血を流して鮫人間を呼び寄せたということになる。
 どこかで何かが狂って鮫人間を呼び寄せるシナリオに変わったとでもいうのだろうか。

 さらにもう一つ、気になることが出てきた。
 緑色の男に殺された時だ。
 奴に工場で首を切られた時、工場内は悪臭のような血の臭いが充満していたはずだ。なのになぜ、鮫人間はその場に現れなかったのだろう。

 日が落ちると活動を停止するのだろうか、それとも、寄せ付けない方法でもあるのだろうか。
 条件が何なのかは不明だが、それがわかれば不用意に鮫人間と遭遇せずに済むかもしれない。

 棗は、俺を気遣うように話しかけてくる。
「隆司くん……何か心配事でもあるの?」
「いや……何でもない……」

 考えても仕方がない。
 今は、全員生きてこの島から脱出することだけを考えなければならない。

 頭がフル回転する。これまで起こった記憶が、走馬灯のように蘇る。
 しばらく考えを巡らせていると、思考が一つの疑問にたどり着く。

 璃星りせいの腕輪。俺はこの恩恵で時間を巻き戻し、最良の選択を見つけながら生き延びてきた。だが、巻き戻る時間はいったいどんな法則で決められているのだろう。

 今は、自分に都合の良い時間に巻き戻っている。だが、もしこれが自分に都合の悪い時間、例えば、誰かが死んだ後の時間に戻っていたら……もし、そうなったとして、誰かが死ぬ前の時間に戻ることはできるのだろうか。

 こればかりは、今の俺にはわからない。
 巻き戻る時間。それは、ゲームで言えばセーブポイントのようなものだ。それをこちらで決める術を俺は知らない。
 不用意に動けば、取り返しのつかないことになることは明らかだ。
 そうなりたくなければ、危険な状況に遭遇した時、俺は率先して死にに行かなければならない。

──嫌な……役目だ──

 とにかく、今は前回の状況を好転させなければならない。
 もし、今から廃工場へ向かい、鮫人間が現れる前の時間にたどり着くことができるのなら、たとえそこで死んでも何らかの対策を立てることは可能なはずだ。

「部長たちは廃村に行ってるんだよな。俺たちも急いで後を追おう」
「ええ……でも……民宿は……」
「それは後だ。虫除けスプレー、かけてくれ」
「うん、わかった」

 今回は、二人で足早に移動した。
 もちろん、急いでも絶対に転ばないように注意を促した。

 早くいけば、何か変えられるかもしれない。
 それが、今の俺の希望だ。

 森林の先の廃村に着く。
 路地裏にある放置された水槽に光る貝殻はない。



 だからといって、前回の出来事にこの貝殻が関係しているということは到底考えられない。

 突然、民家の間の路地から、人影が走ってくるのが見えた。
 その人影はそのまま俺たちの目の前を横切り、別な小道へと走り去った。
 人影の正体は、俺に璃星りせいの腕輪をくれた黒髪の少女だった。

 俺は、反射的にその娘を追いかけた。

「おい、待ってくれ!」

 少女の通った小道を走り、追いかける。
 だが、追いつけない。
 しばらくして少女を見失う。

「いったい、どこへ……」

 よく見ると、少女を見失った先には大きな池があった。
 静かで水も綺麗だ。



 だが、なぜだか悪寒がした。
 水場では、いろいろと嫌なことが重なっている。
 なので、すぐにこの場を離れようとした。

 その時、ふと、足元に光るものを見つけた。



俺はそれを、そっと拾い上げる。

「なんだこれ……貝殻の髪飾り……」

 貝殻は、棗が拾ったものと一緒だった。
 その貝殻には、骨で出来たような二股がついており、真珠と鱗で飾られていた。これが、彼女の探していたものなのだろうか。

 棗が、後から走って追いついてきた。息を切らしながら状況を聞いてくる。

「ねえ……今の人……この島の娘?」
「ああ……多分……」

 すると棗は、興味津々に髪飾りを眺めてきた。

「で……その手に持ってるのは私へのプレゼント?」
「バ~カ……んなわけあるか。たぶんこれは、さっきの少女が落としたものじゃないか」
「ふ~ん。それにしても……さっきの少女は知り合い? やけに血相を変えて追いかけていったのを見ると、ただならぬ関係なのかな?」
「そんなんじゃねーよ。茶化すな」
「テヘッ。それにしても、ちょっとおもちゃっぽいけど綺麗な髪飾りね」
「おもちゃ……か……(これが、あの娘の探し物だといいんだが……)」

 俺は、そっとその髪飾りを服のポケットに入れた。
 ふと、自分の目的を思い出す。黒髪の少女の出現で本来の目的を忘れそうになっていた。
 とんだ道草だ。今は廃工場へ急がなければならない。

「先を急ごう」
「また走るの?」

 棗は嫌な顔で答えた。
 そんな声を軽く聞き流し、俺は棗の手を取って走り出した。

また・・って……走った内に入るか。少し走るぞ」
「えー」

 棗は渋々と走るペースを上げた。

 念のために、棗の霊感能力を頼って、状況を確認する。

「棗……今、胸騒ぎ……するか」
「相変わらず……する……」

 棗は、いつになく真剣な表情で答えた。

「そうか……」

 やはり、また誰かが死んでしまうのだろうか……。

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