恋愛経験ゼロの俺が、一目惚れした天使にストーカーと勘違いされた挙句、男女比1対9のハーレム・シェアハウスで一緒に住むことになった話

永遠光(とわのひかり)

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第1章 禍福は糾える縄の如し

第18話 聖女の天使

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 食事を終え、一緒に食器を片付けた後、2人はシェアハウスを出た。
 時刻は8時少し前。
 空はすっきりと晴れ渡り、気持ちの良い朝だ。

 シェアハウスから柏琳台駅までの道の途中には、「JUSTOP柏琳台店ジャストップはくりんだいてん」というコンビニがある。
 JUSTOPジャストップは、神奈川県内に約80店舗を展開するローカルコンビニチェーンで、地元密着を売りにしている。

「祐希さん、すみません、コンビニに寄ってもいいですか?」

「うん、まだ時間あるから大丈夫だよ」

 2人がコンビニの自動ドアをくぐると、レジカウンターの中から元気な声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ~」

 声の主は、シェアハウスの住人でもある岸谷琴葉きしたにことはだった。
 彼女はココアブラウンのショートボブに整った顔立ち、クールな瞳が魅力的なスレンダー美女だ。

「あれ、琴葉さん。今日はどうしたんですか?
 いつもはシフト、夕方からですよね」

「ああ、さくらちゃん、おはよう…
 今日シフトに入るはずだった人が、急に来れなくなったらしくて。
 朝早く、店長からヘルプの電話が来たの…」
 琴葉は肩をすくめながら答えた。

「そうだったんですね。お疲れ様です」
 さくらが、ねぎらいの言葉をかけると、琴葉は小さく頷いた。

 祐希もペットボトルのお茶を手に取り、レジに向かうさくらに続いた。
 目の前に立つ琴葉に、祐希が声をかけた。
「朝早くから大変ですね」

「店長に泣きつかれてね。
 まあ、仕方ないけど…」

「今日は授業ないんですか?」
 さくらが琴葉に聞いた。

「うん、午前の授業が休講になったから、昼から大学行って、夕方からまたここ」

「そうなんですか、忙しいですね…」

「まあ、これもバンドのためだし、仕方ないかな…」 
 琴葉は少し口元を緩めた。

「ライブ、楽しみにしてます。
 仕事、頑張ってくださいね!」
 レジカウンターにドリンクを置き、祐希が言った。

「ん。……ありがと…」
 琴葉は、予期せぬ励ましの言葉に少し照れながら、手早くレジ作業を進めた。

 さくらは、コンビニを出る時、琴葉に向かって軽く手を振った。
「お仕事、がんばってくださいね~」

「うん、ありがと、また夜にね」
 琴葉は、ちらりと隣に立つ祐希に視線を向けたが、すぐにレジの作業に戻った。

 コンビニを出ると、2人は駅へ歩き出した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 やがて2人は柏琳台駅に着き、ホームで電車を待った。
 やって来た電車は案の定、通勤・通学客で混み合っていた。
 2人はなんとか乗り込み、ドア付近に場所を見つけた。

 祐希は吊革を掴み、さくらはその隣で手すりを握った。
 周囲の乗客との距離が近く、自然と2人の肩が触れ合う。
 さくらは、少し照れながら琴葉の事情をした。

「琴葉さん、バンド活動を続けるの、けっこうお金がかかるって言っていました」
 さくらの話によると、スタジオ代や活動費、機材のレンタル料などがかかり、さらにライブのチケットノルマがあり、それを達成できないとその分は自腹になるそうだ。

 琴葉は活動資金を稼ぐためにコンビニでバイト、結城未来ユキミクはコンカフェでバイトしているのだという。

「へぇ、バンド活動続けるのって、大変なんだね…」

 祐希が感心していると、ふと疑問が湧いた。
「ところで、さくらさんはバイトしないの?」

「うちの父が、学生は勉強が本分だからって、バイトを許可してくれないんです。
 それに、私がお金に困らないようにって、いつも多めに仕送りしてくれるので…」

「なるほど……。
 お父さんも、心配なんだろうけど……大変だね」

 祐希がそう言うと、さくらは少し寂しそうな表情で首を横に振った。
「いえ……父は、私を籠の鳥みたいに、自分の管理下に置いておきたいだけなんです」

 その言葉には、祐希が今まで知らなかった、彼女の複雑な家庭環境が垣間見えた気がした。
 普段の明るい笑顔とは違う、どこか翳りのある横顔に、祐希はかける言葉が見つからなかった。
 混雑する車内で、隣に立つさくらの存在を感じながら、時折触れる肩の温もりを祐希は意識した。

 やがて電車は星ヶ丘駅へ到着した。
 人混みの中、駅を出て、2人は並んで歩き出した。
 聖晶学園女子大学へと続く道を歩きながら、他愛のない会話を交わす。
 あっという間に、聖女の正門前にきた。

「それじゃあ、僕はここで」 
 祐希が足を止めると、さくらがくるりと向き直った。

「祐希さん、ありがとうございます。
 じゃあ、また帰りにここで」
 さくらは祐希に微笑み、小さく手を振ると、門の中へと入っていった。
 その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、祐希は自分の大学へと向かった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日の昼、祐希はコジケンと大学のカフェテリアで昼食をとっていた。
 コジケンは日替わり定食、祐希はいつものようにカレーだった。

「おまえ、本当にカレー好きだよな」
 そう言ったのは、コジケンこと小島健太郎だった。

「そうだな、なんなら3食カレーでもいいくらいだ」

「はぁ? 俺にはその感覚、全く理解できないんだけど…。
 たまには違うもん食いたいって思わねーの?」

「そりゃ、思う時もあるけど、メニューにカレーがあればカレー一択。
 それが俺のこだわりなんだ」

「お前のそういう一途な性格、逆に感心するわ」
 コジケンは頭を振り、呆れていた。

「ところで祐希、聖女の天使に彼氏ができたらしいって、知ってるか?」

「えっ、なんだよその聖女の天使って…」

「聖女の天使、知らないのか!?
 うちの学生の間で噂になってる美少女だぞ」

「へ~、初めて聞くな」

「お前って、ホントに噂に疎いよなぁ……
 まあ、知らないなら、教えてやるよ」

 コジケンの話では、隣の聖晶学園女子大学に「聖女の天使」と呼ばれる女子学生がいるそうだ。
 その容姿は、天使みたいに可憐で愛らしく、腰までのサラサラな黒髪、憂いを秘めた大きな瞳、透き通るような白い肌、スレンダーながら均整の取れたスタイルで、非の打ち所がない超絶美少女だと、もっぱらの評判らしい。

「俺も一度しか見たことないけど、芸能人なんか目じゃないくらい可愛いんだぜ」
 コジケンは興奮気味に説明した。

 (もしかして、さくらさんのことじゃ……)
 祐希には、「聖女の天使」がさくらであろうことは、容易に想像できた。

 コジケンは、声を潜めてこう付け加えた。
「その聖女の天使が、男と一緒に歩いてるのを、うちのゼミのやつが見かけて、彼氏じゃないかって噂になってるんだ。
 今朝もその男と親しそうに話ながら登校するの、見たって言ってたぜ。
 しかもその男、うちの学生らしいんだ…」

「聖女の天使……ホント、可愛いんだよなぁ…
 彼氏になった男ってどんなやつなんだろう。
 羨ましいを通り越して、嫉妬しちゃうぜ」

 コジケンのその言葉を聞き、その「聖女の天使」の彼氏が、自分のことではないかと祐希は思った。
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