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第一章 増える黒柴犬
2話 怠惰なクズ
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3匹を先行させて、3匹を護衛にして。
安全を確保しながら移動していく。
迷宮は石畳の通路と、石室で出来ていた。
単調な景色だが、俺が歩いた後は血痕が続くので迷うことはないだろう。
実際は血痕がなくても黒柴たちは鼻が効くので、通った場所とまだの場所は見分けられるようで迷うことはない。つまり俺の血は完全に無駄だよ、こんちくしょう。
進んだ先に、石と牙が落ちていた。
どうやら先行した黒柴犬が怪物を倒したようだ。
黒柴犬の体高は、40センチ弱。
体重は、10キログラム。
愛嬌のある、たぬき顔系統の犬顔だ。
その見た目に見合わず強い事は、俺自身の祝福なので知っていたが、若干の不安はあった。けれど問題なく怪物を駆逐できると確定した。
ドロップアイテムに手を伸ばそうとして、両手がグチャグチャなのを思い出し、泣きそうな顔になる。
どうする? 咥えていく? と護衛の黒柴犬たちが俺を見上げるが、俺は首を横に振った。
口に物を咥えることで、この子達の戦闘力が少しでも落ちるのは困る。
イラナイと俺は首を横に振る。
黒柴犬は石だけを食べた。経験値的な何かの足しになるようだ。
慎重に、耳を澄ましながら、闇を凝視しながら、進む。
ああ。手が痛えよ。
体が重い。
足がふらつく。
血が足りない。
俺には一生遊んで暮らせる遺産があるんだ。
こんなところで終われるか。
気力を奮い立たせる。
また、石と牙が落ちていた。
怪物は、俺と出会う前に黒柴犬が駆除してくれる。
なら護衛は3匹もいらないな。
今必要なのは、俺が貧血で倒れる前に、出口を見つけることだ。
護衛を1匹に減らして、合計5匹を捜索に割り当てる。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
1時間か。2時間か。
朦朧としながら彷徨っていた記憶がある。
俺はいつの間にか自室のベッドで眠っていて。
起きた時には外は暗くなっていた。
時計を見ると、深夜の2時。
夢……ではないな。
1匹の黒柴犬が寝そべっているのが視界に入った。
「あれ?」
手が、ある。
体を支え、布団を掴んで持ち上げているのは、どちらも俺の手だ。
片手それぞれ、5本の指が健在で、わきわきと、俺の目の前で、俺の意志で動いている。
「どういうことだ? 君らが治した……わけでもないのか」
黒柴犬が首を横に振る。
黒柴犬から以心伝心。
どうやら意識を失った俺を、この子が引きずって運び出してくれたようだ。ダンジョンから出た瞬間、俺の身体は修復されたそうで。
「良く分からないけど。神様ありがとう。君もありがとう」
両手を組み、指同士の感触を味わいながら、感謝の祈りを心から捧げる。
気にするなわんと、黒柴犬から以心伝心。
それから、血や怪物の体液でドロドロの着衣と、汚れたシーツをゴミ袋に突っ込んで。というか、寝具一式処分だな。
シャワーを浴びて、食事を取った。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
我が水無月家は、小高い丘の上にある。
この丘全てが私有地で、住居部だけで四百坪の豪邸だが、5年前から俺が1人で暮らしている。
大学を中退した、あの日から。
大学2年の春。俺の20歳の春。
両親が離婚した。
国際的な賞を取った科学者の父と、女優業をやっている母は、俺が物心つく頃から家に帰らないことが多かったし、まあ子供から見ても愛のない仮面夫婦ではあった。
露骨な喧嘩はしなかったが、仲良くない良識のある他人が、年に2ヶ月くらい集まって、1つ屋根の下で暮らしているような。俺にとって家族とはそんな関係性だった。
離婚の話は両親それぞれから淡々と報告され、俺も淡々と受け入れた。
その僅か半年後の秋に、父が大きな事故で他界した。
離婚していた母には、相続権がなかった。
1年別れるのが早かったかと冗談を言っていたが、母自身が稼いでいるし、プライドも高い人なので、形見分けすら受け取ろうとはしなかった。
父が経営する会社の権利や、特許や印税。
土地や有価証券など。
面倒なものは全部処分して、相続税を払って、総額3560億円もの遺産。
それが俺の取り分となった。
もうね。
勉強するのも働くのもアホらしくなるわけですよ。
俺は高校から計画していたVチューバーを目指す人生設計を廃棄した。
大学も中退し、一切の労働とは無縁の一生遊んで暮らす輝かしい人生を歩む覚悟をこの胸に宿した。
これは、そんな怠惰なクズと黒柴犬の英雄的物語。
安全を確保しながら移動していく。
迷宮は石畳の通路と、石室で出来ていた。
単調な景色だが、俺が歩いた後は血痕が続くので迷うことはないだろう。
実際は血痕がなくても黒柴たちは鼻が効くので、通った場所とまだの場所は見分けられるようで迷うことはない。つまり俺の血は完全に無駄だよ、こんちくしょう。
進んだ先に、石と牙が落ちていた。
どうやら先行した黒柴犬が怪物を倒したようだ。
黒柴犬の体高は、40センチ弱。
体重は、10キログラム。
愛嬌のある、たぬき顔系統の犬顔だ。
その見た目に見合わず強い事は、俺自身の祝福なので知っていたが、若干の不安はあった。けれど問題なく怪物を駆逐できると確定した。
ドロップアイテムに手を伸ばそうとして、両手がグチャグチャなのを思い出し、泣きそうな顔になる。
どうする? 咥えていく? と護衛の黒柴犬たちが俺を見上げるが、俺は首を横に振った。
口に物を咥えることで、この子達の戦闘力が少しでも落ちるのは困る。
イラナイと俺は首を横に振る。
黒柴犬は石だけを食べた。経験値的な何かの足しになるようだ。
慎重に、耳を澄ましながら、闇を凝視しながら、進む。
ああ。手が痛えよ。
体が重い。
足がふらつく。
血が足りない。
俺には一生遊んで暮らせる遺産があるんだ。
こんなところで終われるか。
気力を奮い立たせる。
また、石と牙が落ちていた。
怪物は、俺と出会う前に黒柴犬が駆除してくれる。
なら護衛は3匹もいらないな。
今必要なのは、俺が貧血で倒れる前に、出口を見つけることだ。
護衛を1匹に減らして、合計5匹を捜索に割り当てる。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
1時間か。2時間か。
朦朧としながら彷徨っていた記憶がある。
俺はいつの間にか自室のベッドで眠っていて。
起きた時には外は暗くなっていた。
時計を見ると、深夜の2時。
夢……ではないな。
1匹の黒柴犬が寝そべっているのが視界に入った。
「あれ?」
手が、ある。
体を支え、布団を掴んで持ち上げているのは、どちらも俺の手だ。
片手それぞれ、5本の指が健在で、わきわきと、俺の目の前で、俺の意志で動いている。
「どういうことだ? 君らが治した……わけでもないのか」
黒柴犬が首を横に振る。
黒柴犬から以心伝心。
どうやら意識を失った俺を、この子が引きずって運び出してくれたようだ。ダンジョンから出た瞬間、俺の身体は修復されたそうで。
「良く分からないけど。神様ありがとう。君もありがとう」
両手を組み、指同士の感触を味わいながら、感謝の祈りを心から捧げる。
気にするなわんと、黒柴犬から以心伝心。
それから、血や怪物の体液でドロドロの着衣と、汚れたシーツをゴミ袋に突っ込んで。というか、寝具一式処分だな。
シャワーを浴びて、食事を取った。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
我が水無月家は、小高い丘の上にある。
この丘全てが私有地で、住居部だけで四百坪の豪邸だが、5年前から俺が1人で暮らしている。
大学を中退した、あの日から。
大学2年の春。俺の20歳の春。
両親が離婚した。
国際的な賞を取った科学者の父と、女優業をやっている母は、俺が物心つく頃から家に帰らないことが多かったし、まあ子供から見ても愛のない仮面夫婦ではあった。
露骨な喧嘩はしなかったが、仲良くない良識のある他人が、年に2ヶ月くらい集まって、1つ屋根の下で暮らしているような。俺にとって家族とはそんな関係性だった。
離婚の話は両親それぞれから淡々と報告され、俺も淡々と受け入れた。
その僅か半年後の秋に、父が大きな事故で他界した。
離婚していた母には、相続権がなかった。
1年別れるのが早かったかと冗談を言っていたが、母自身が稼いでいるし、プライドも高い人なので、形見分けすら受け取ろうとはしなかった。
父が経営する会社の権利や、特許や印税。
土地や有価証券など。
面倒なものは全部処分して、相続税を払って、総額3560億円もの遺産。
それが俺の取り分となった。
もうね。
勉強するのも働くのもアホらしくなるわけですよ。
俺は高校から計画していたVチューバーを目指す人生設計を廃棄した。
大学も中退し、一切の労働とは無縁の一生遊んで暮らす輝かしい人生を歩む覚悟をこの胸に宿した。
これは、そんな怠惰なクズと黒柴犬の英雄的物語。
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