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第一章 増える黒柴犬
41話 テロの継続 クロシバと黒柴犬
しおりを挟む英雄殺しは、朝の10時前に討ち取られた。
ただ、英雄殺しは常に単独行動を好んでいた。
盗聴によって所在地を掴まれないように、仕事中は仲間との連絡も断つ。
その為に、テロリストたちは彼の早い退場に気づくことが出来なかった。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
【プルート】という名の、多国籍のモーターサイクルギャングが存在している。
始まりは自由を愛するバイカーの集まりだったが、ここ数十年は何でもやる犯罪組織となっている。
構成人数は世界に5000人超。
発祥はアメリカデトロイド。トップは元アメリカ人。現本拠地はアラブ。
日本人メンバーも居るが、日本に支部はない。
ダンジョン発生以降、犯罪者たちの世界は乱世を迎えていた。
祝福の登場によって、力関係が歪んだのだ。
成り上がるものが居て、蹴落とされるものが居て、巨大な組織は分裂し、衝突し、幾つもの新興勢力が登場し、幾つもの老舗が廃業を余儀なくされている。
【プルート】もまた、その荒波の中で軋みを上げている。
今回、この祭りに参加したのは、【プルート】の東南アジア支部のみで、アラブ本部も他地域の支部も関与していなかった。
支部長、アラヌド・ドッテンバーは、旧態然とした【プルート】と袂を分かち、強力な祝福犯罪者を抱える新興勢力に、選抜したメンバーで移籍するつもりで居た。
アラヌドはその為の顔つなぎと箔付けを欲していた。
アラヌドの役割は破壊と争乱だ。
つまりは益の少ない損な役割を請け負った。
連れてきた構成員は312名。
生粋の犯罪者も居れば、ろくでなしのバイク好きや、食うに困ったストリートチルドレンなど。
内300名は、神に愛されなかった祝福ガチャの負け犬たち。
最初から捨て駒として連れてきている。
集合場所には約束した逃走手段など用意されていない。
ただし籠城しやすいように、武器と食料だけは大量に用意されている。
「さあ、お前ら! 暴れて、暴れて、暴れまわれっ! 後のことはなーーんにも心配いらねぇよぉ! すべての準備を整えてあるからよぉ! 俺たちの名を東京に刻みつけようぜぇ!」
「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」
【プルート】が東京で暴走を開始する。
\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\/\
長谷川いづなは、少し前までちゃらんぽらんな自衛官だった。
今は国家安全保障局の下部組織、特務課に貸し出されている。
愛車の1300CCバイクは、黒と白の黒柴犬カラーに塗装されていて、彼女のヘルメットには犬耳が飾られている。
路上という目立つ場所で大型バイクを駆って、祝福犯罪者を狩る彼女に付いたあだ名は二つ。【クロシバ】と【猟犬】。
ちなみに黒柴犬カラーの愛車にも、【クロシバ】の愛称がついている。
非常事態の発生に際して、上司の命令はシンプル。
「単独行動を認める。あらゆる手段を用いて、周囲の被害を最小限に抑え、小蠅共を狩りつくせ」
「了解」
上司との通話を切って、彼女はヘルメットを脇に抱え、愛車の後部座席にウインク。
「ってことだからさ。黒ちゃんフォローお願いね」
1300CCバイクの後部座席に座っていた黒柴犬が小さく頷いてから、闇の衣でその姿を隠す。
【クロシバ】が都内を駆ける。
渋滞していても構いはしない。ガードレールの上を走り、壁を走り屋根を跳ぶ。
狼藉を働くテロリストを見つけては轢き飛ばし、蹴り飛ばし、殴り飛ばして鎮圧。次の現場へと向かう。
【クロシバ】の前後左右を【闇の衣】で姿を消した黒柴犬が、広い範囲で取り囲んでいる。
自由に暴れる彼女の影響で交通事故が起きないように、人死が出ないように、普段から数匹掛かりでやっているサポートだが、今日はその数が百匹近くに増えている。
縦横無尽に一騎当千に駆け回る長谷川いづなに、夕方になって上司から連絡が入った。
「首都高に侵入した34名のテロリストを、周囲の被害を最小限に抑え、鎮圧せよ。……望み通りお前たちの単独任務だ。バカンスの許可もおりた。以上だ」
テロリストの一部が、略奪した大型バイクで首都高で暴走行為を開始したのは、昼頃だった。
夕方まで手を出さずに放置していたのは、実害が少なかったからだ。
早朝の段階で戒厳令が出されてから、首都高は閉鎖されていた。
一部の車は取り残されたが、人の避難は済んでいた。
だから首都高レースに興じるバカたちは放置されて、地上の犯罪者捕縛を優先。その方針を、自由行動を許されているいずなも飲んだ。まあその程度の分別はある。祭りに興じる馬鹿より、人を襲うクズを駆逐するほうが先だ。
ただし条件を出すのは忘れなかったが。
そのバカたちは私と相棒だけで平らげてあげる。だからその後、首都高を明日の夜明けまで好きなだけ走らせて。
長谷川いずなは大型バイクで乱暴なチェイスを行う割に、全くと言って良いほど被害を出さず、暴徒を鎮圧する。
理由は黒柴犬がフォローしているからで、していなければとんでもない被害が出まくっているのだが、まあ結果は結果。
とにかくその実績から彼女は世界でもトップクラスの実力者と見做されていた。
美人で、迅速に事件を解決して、被害を出さないスタイルから、国民の人気も絶大だ。
上司はもちろん黒柴犬のお陰だと理解しているが、無償で手を貸してくれるなら知らんふりで乗っかておこうというわけで、彼女はかなりの自由裁量を与えられている。
上司は、いずなの出した条件を上に打診、時間は掛かったが、許可をもぎ取った。
そして日が陰り始め、やっとゴーサインが出た。
小雨はすでに止んでいるが、寒さは増していた。
いずなは白い息を吐き、舌なめずりする。
「さあ、黒ちゃん。お仕事は終了だ。ご褒美の時間だよーん」
うぉん、と黒柴犬が後部座席で尻尾をブンブン振りながら、小さく吠えた。
いずなと行動をともにする黒柴犬の一部は、いずなの影響を受けてマイバイクを所持する程度には走り屋となっていた。
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