東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

文字の大きさ
8 / 58
第一章 冬鷹

第7話

しおりを挟む
「水を差したいわけじゃないんだけどさ、冬鷹は本当に『特能課』に入れると思ってんの?」

 杏樹が尋ねてきた。いつものようにあっさりとした口調だ。
 だが、バカにしてるのではない。
 むしろ、心配して言ってくれているのだと冬鷹は判っていた。

「ああ、今のままじゃ全然ダメなのは分かってる」

 現実的に考えれば、特能課は宮内庁内の対異能組織で、一流が集う場所。
 故に一流の戦闘力と対処能力、加えてそれらを示す高い実績が必要となる。
 たかが、高等部一年の冬鷹には『夢』で終わってしまう確率の方がはるかに高い。

 そもそも噂が本当なのかも判らない。
 だが――。

「でもやっぱり、じっとしてられねえ。少しでも希望があるなら、とにかく目の前の事を全力でやるしかねえだろ」

 力をつけ、経験を積み、実績を作る。
 軍に入ったのは、夢を現実に変えるための第一歩目だった。



 舟が着き、「工房ン中まで運んじゃって」との指示で、積み荷を下ろしてゆく。

 杏樹の実家は二、三階が住居スペースで、一階は異能具販売店と工房が隣り合う『黒川工房』となっている。
 木箱を抱えた冬鷹と英吉が近付くと、工房の奥から杏樹の祖父兼師匠の重信が顔を出した。

「おう、英吉、冬鷹。済まねえな」

 浅黒い肌に深い笑い皺が刻まれる。工房内のモワっとした空気にもどこ吹く風の表情だ。

 しかし、置かれた箱から〈黒川〉を取り出した途端、表情は引き締まる。異能具職人の顔に変わった。
 つばから切っ先を覗くように顔を近付ける。時折目を細めては次の刀を確かめてゆく。

 全ての荷を下ろす頃、重信は孫娘兼弟子に「とりあえずこれがおめえの分だ」と十数本の刀の束を示す。普段から、比較的手のかからないものを仕分け、杏樹に任せていた。
「おめえらのはどうする?」と訊かれ冬鷹と英吉は目を合わせる。
 とりあえず見せてみるという事で、重信にそれぞれの腰にあった〈黒川〉を渡した。

「英吉のは……おめえ、あんま使ってねえな」
「はい。射氣銃の方が使う機会が多くて、刀はサブになってますね」
「これなら杏樹にもできるだろう。まあ、そもそもメンテしなくてもよさそうだが。さて、冬鷹のは、っと……うわッ! こいつはひでえな」

 重信は露骨に顔を曇らした。

「刃こぼれだらけに……芯も少し歪んでんな。……一応手入れはしてるみてぇだけど、」

 重信が杏樹にも見せるために手渡した。
 すると、「かわいそう」と杏樹は刀身を優しく撫で始める。
 その手付きは、傷付いている子供を慰めるかのようだ。

「乱暴な主人で大変だったね……」

 出た、異能具マニア――。

 という言葉を冬鷹はグッと飲み込んだ。
 異能具の保護者と化した杏樹には細心の注意が必要だ。さもなくば途端に沸騰してしまう。

『幼馴染の』という事もあったのだろう。冬鷹の刀も一先ず杏樹に預けられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...