47 / 58
第六章 氷を繰る敵対者
第46話
しおりを挟む
「ハア、ハア……はあ、は~」
上がる呼吸を、一度息を吐き切る事で整える。
緊張が解れた。その瞬間、感じていなかった満身創痍がドッと冬鷹にのしかかる。
いや、まだだ――。
悲鳴を上げる筋肉に鞭打ち、倒れそうな身体を奮い立たせる。
雪海はまだ助かっていない。一刻早く、術式補助を受けなければならない。
「雪海……大丈夫か?」
隻腕のアイスゴーレムは残った腕で雪海を肩に担いだままじっと佇んでいる。
「雪海? 雪海?」
もう一度、二度と声をかけるが返事はない。
ただ、霜がかかるも、水の身体は雪海の形を保っている。それが『命――魂がまだそこにある』という何よりの証拠になった。
「帰ろう、雪海。もうすぐ、姉さんたちも来てくれるはず、がッ――ッ!?」
突然足を掴まれる。――その瞬間、痛みを伴いながら足が氷漬けになった。
怜奈はフラフラと立ち上がる。その目は、まだ死んではいなかった。
「もう無駄だ。諦めろ」
「アンタが諦めが悪いように、私だって諦められないッ!」
アイスゴーレムに支えられ怜奈は歩き出す。だがその足取りは酷くおぼつかない。
「生命子はもう残り少ないはずだ。まともに歩けてもない。姉さんたちが来る。逃げられるわけがない」
「うるさいッ! 逃げられないなら、ここで取り戻す!」
「取り戻す? ……何を?」
アイスゴーレムは立ち止まる。そして片膝をつくと、瞬く間に台座へと姿を変えた。
台座の上には雪海が、祭壇に捧げられたかのように横たわる。
――嫌な予感が冬鷹の中を駆け巡る。
「何をする気だッ!?」
「大丈夫、理論は完璧……できるはず。大丈夫、大丈夫……」
怜奈は応えず、自分に言い聞かせる言葉を呟く。
そして、それは始まった。
彼女はお下げを結んでいたあの赤いリボンを手首から外し、雪海の胸へ置いた。
薄氷が線となり、台座を中心に地面を走り出す。
幾何学模様、数多の文字列――すぐにそれが魔法円だと判った。
一つ二つと、いくつも魔法円が描かれてゆく。それらはパイプ状の模様で、あるいは複雑に絡み合うようにして繋がってゆく。
「何をするんだッ!? やめろッ!」
叫びが聞き入れられないのは解っている。
冬鷹は急いで〈力天甲〉の腕力で足元の氷を砕いた。
だが――遅かった。
薄氷が大外の円を描き完成すると、魔法円は白く強い光を放ち始める。
「帰ってきて、兄さん」
ようやく理解した。
雪海を狙った理由。諦められない気持ち。怜奈の目的。
「やめろオオオオオオオオオッ!」
冬鷹が叫ぶなか、光は萎むように消えていった。
上がる呼吸を、一度息を吐き切る事で整える。
緊張が解れた。その瞬間、感じていなかった満身創痍がドッと冬鷹にのしかかる。
いや、まだだ――。
悲鳴を上げる筋肉に鞭打ち、倒れそうな身体を奮い立たせる。
雪海はまだ助かっていない。一刻早く、術式補助を受けなければならない。
「雪海……大丈夫か?」
隻腕のアイスゴーレムは残った腕で雪海を肩に担いだままじっと佇んでいる。
「雪海? 雪海?」
もう一度、二度と声をかけるが返事はない。
ただ、霜がかかるも、水の身体は雪海の形を保っている。それが『命――魂がまだそこにある』という何よりの証拠になった。
「帰ろう、雪海。もうすぐ、姉さんたちも来てくれるはず、がッ――ッ!?」
突然足を掴まれる。――その瞬間、痛みを伴いながら足が氷漬けになった。
怜奈はフラフラと立ち上がる。その目は、まだ死んではいなかった。
「もう無駄だ。諦めろ」
「アンタが諦めが悪いように、私だって諦められないッ!」
アイスゴーレムに支えられ怜奈は歩き出す。だがその足取りは酷くおぼつかない。
「生命子はもう残り少ないはずだ。まともに歩けてもない。姉さんたちが来る。逃げられるわけがない」
「うるさいッ! 逃げられないなら、ここで取り戻す!」
「取り戻す? ……何を?」
アイスゴーレムは立ち止まる。そして片膝をつくと、瞬く間に台座へと姿を変えた。
台座の上には雪海が、祭壇に捧げられたかのように横たわる。
――嫌な予感が冬鷹の中を駆け巡る。
「何をする気だッ!?」
「大丈夫、理論は完璧……できるはず。大丈夫、大丈夫……」
怜奈は応えず、自分に言い聞かせる言葉を呟く。
そして、それは始まった。
彼女はお下げを結んでいたあの赤いリボンを手首から外し、雪海の胸へ置いた。
薄氷が線となり、台座を中心に地面を走り出す。
幾何学模様、数多の文字列――すぐにそれが魔法円だと判った。
一つ二つと、いくつも魔法円が描かれてゆく。それらはパイプ状の模様で、あるいは複雑に絡み合うようにして繋がってゆく。
「何をするんだッ!? やめろッ!」
叫びが聞き入れられないのは解っている。
冬鷹は急いで〈力天甲〉の腕力で足元の氷を砕いた。
だが――遅かった。
薄氷が大外の円を描き完成すると、魔法円は白く強い光を放ち始める。
「帰ってきて、兄さん」
ようやく理解した。
雪海を狙った理由。諦められない気持ち。怜奈の目的。
「やめろオオオオオオオオオッ!」
冬鷹が叫ぶなか、光は萎むように消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる