東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第六章 氷を繰る敵対者

第46話

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「ハア、ハア……はあ、は~」

 上がる呼吸を、一度息を吐き切る事で整える。
 緊張が解れた。その瞬間、感じていなかった満身創痍がドッと冬鷹にのしかかる。

 いや、まだだ――。

 悲鳴を上げる筋肉に鞭打ち、倒れそうな身体を奮い立たせる。
 雪海はまだ助かっていない。一刻早く、術式補助を受けなければならない。

「雪海……大丈夫か?」

 隻腕のアイスゴーレムは残った腕で雪海を肩に担いだままじっと佇んでいる。

「雪海? 雪海?」

 もう一度、二度と声をかけるが返事はない。
 ただ、霜がかかるも、水の身体は雪海の形を保っている。それが『命――魂がまだそこにある』という何よりの証拠になった。

「帰ろう、雪海。もうすぐ、姉さんたちも来てくれるはず、がッ――ッ!?」

 突然足を掴まれる。――その瞬間、痛みを伴いながら足が氷漬けになった。

 怜奈はフラフラと立ち上がる。その目は、まだ死んではいなかった。

「もう無駄だ。諦めろ」
「アンタが諦めが悪いように、私だって諦められないッ!」

 アイスゴーレムに支えられ怜奈は歩き出す。だがその足取りは酷くおぼつかない。

「生命子はもう残り少ないはずだ。まともに歩けてもない。姉さんたちが来る。逃げられるわけがない」
「うるさいッ! 逃げられないなら、ここで取り戻す!」
「取り戻す? ……何を?」

 アイスゴーレムは立ち止まる。そして片膝をつくと、瞬く間に台座へと姿を変えた。
 台座の上には雪海が、祭壇に捧げられたかのように横たわる。
 ――嫌な予感が冬鷹の中を駆け巡る。

「何をする気だッ!?」
「大丈夫、理論は完璧……できるはず。大丈夫、大丈夫……」

 怜奈は応えず、自分に言い聞かせる言葉を呟く。

 そして、それは始まった。

 彼女はお下げを結んでいたあの赤いリボンを手首から外し、雪海の胸へ置いた。
 薄氷が線となり、台座を中心に地面を走り出す。
 幾何学模様、数多の文字列――すぐにそれが魔法円だと判った。
 一つ二つと、いくつも魔法円が描かれてゆく。それらはパイプ状の模様で、あるいは複雑に絡み合うようにして繋がってゆく。

「何をするんだッ!? やめろッ!」

 叫びが聞き入れられないのは解っている。
 冬鷹は急いで〈力天甲〉の腕力で足元の氷を砕いた。

 だが――遅かった。

 薄氷が大外の円を描き完成すると、魔法円は白く強い光を放ち始める。

「帰ってきて、兄さん」

 ようやく理解した。
 雪海を狙った理由。諦められない気持ち。怜奈の目的。

「やめろオオオオオオオオオッ!」

 冬鷹が叫ぶなか、光は萎むように消えていった。
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