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2巻
2-2
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というか、割と重要そうな部分がわからないんだけど。最後の一文は特に、封印がどうのって書いてあるし、読めないと困るのに。
私が声に出して読んだので、マルコもなにが書いてあったのか理解したらしい。「ふむ……」と考え込むような仕草をした。
「これを、僕たちに見せたということは、もしや……」
そうマルコが漏らすと、突然ケン君が私のほうに向き直って、ガバッと頭を下げた。
え? なに? いきなりどうしたの?
「単刀直入に言います! ミサキさん、聖剣を取りに行くの、手伝ってください!」
「……は?」
「やはり、そうなりますか」
ちょっと待って、マルコはなにかを察したみたいだけど、私がわかってないから一回整理しよう。
まず、私がここに呼ばれたのは、ケン君の今後について話すため。
そして見せられたのは、古い文字が書かれたボロボロの紙。
内容は、勇者にしか扱えないという武器、聖剣の在り処。
そしてケン君の、今のお願い……うそでしょ。
ようやくどういうことかわかって絶句する私に、ケン君がもう一度頭を下げる。
「お願いします!」
「……私、関係ないんじゃ……」
「うっ!?」
呆然としながら、どうにか声を絞り出すと、ケン君が呻いてがっくりと項垂れた。
ケン君の必死のお願いだけど……聖剣を取りに行くのに、私いらなくない?
だってこの紙を見ると、聖剣を手に入れられるのは、『力ある勇者』だけ。勇者じゃない私がいたところで、なにかできるとは思えないんだけど。
と、私たちのやり取りを聞いていたマルコが、ケン君の肩に手を置く。その目はさっきまでの大人っぽさを感じさせず、少年のように輝いていた。
「僕は興味があるので、ぜひ」
「ああ、ありがとう。だけど……」
グッ! と拳を握るマルコに笑いかけてから、ケン君はちら、と私を見た。
マルコはそれで察したようで、ケン君に問いかける。
「ミサキさんの力が必要なのでしょうか?」
「そうなんだよ……」
ケン君は、しょんぼりとした表情で答えた。
私の力が必要ってどういうこと? この紙のどこにも、勇者以外が必要だなんて書いてないけど。なにか見落としたかな。
私がいまいち理解してないのがわかったのか、ケン君が頭を掻きながら説明してくれる。
「ミサキさん、回復魔法と結界使えるじゃないですか」
「使えるね」
「ここから霊峰まで行くのに、その二つは必須なんですよ」
霊峰まで行くのに、私の魔法が必須? 回復魔法と結界が必要になる場所があるってこと?
と、首を傾げる私を見て、マルコが頷いた。そして控えていた侍従さんに頼んで、もう一枚なにかの紙を持ってきてもらう。
「ミサキさん、これを見てください」
マルコに言われて、私はその紙を覗き込む。
「うん? これ、地図?」
侍従さんが持ってきた紙は、細かく地名が書かれた地図だった。それも、ものすごく広範囲の。
「白き霊峰というのは、間違いなくここのことでしょう」
マルコが指したのは、地図の真ん中あたりにある山の絵。雲を突き抜けて描かれて、近くに『プレシオス』と記されている。これが、霊峰?
マルコはスッと指を移動させる。そして次に指したのは、地図の左……方角的には西の、端っこにある場所。
「そしてここが、今僕たちがいる、サーナリア王国の王都です」
「うわ、遠い……」
この世界に来てから今まで、世界地図なんて一度も見たことがなかった。だからサーナリア王国がどこにあるのかもわからなかったし、霊峰っていうのも、今日初めて聞いた。
この地図の縮尺はわからないけど、それでも王都から霊峰までかなりの距離があるのは間違いない。
私が呆然としていると、マルコが口を開いた。
「ケンが言いたいのはおそらく、ここに行くまでの道中、ミサキさんの力を貸してほしい……ということではないでしょうか」
「そう! それだ! さすがマルコ!」
マルコの言葉に、ケン君が手を打って同意する。やっと私も、ケン君の言いたいことがわかってきた。
「つまり、道中の安全を確保するために、ケンはミサキさんを連れていきたいんですね?」
マルコがそうまとめると、ケン君は勢いよく頷く。
「そうです、その通りです」
なるほどね……どうやって霊峰まで行くのかはわからないけど、航空機なんてモノが存在しないこの世界では、移動は当然陸路になる。だけど地図上では、霊峰まではとんでもなく遠い。
そこでケン君は私に、その道中で誰かが疲れたときの回復とか、危険が迫ったときに結界を張ったりとか、そういうのを任せようとしてるってことだよね。
「ちゃんと説明してくれればいいのに……」
「う……すみません」
「まぁ、言いたいことはわかったよ」
……わかったけど、これは私一人で決められることじゃない。
ケン君に協力して霊峰まで行くとなると、どう考えてもとんでもない時間がかかる。
私はパーティーを組んでるから、もしケン君が私だけを必要としてるんだったら、長期間パーティーから外れることになってしまう。
「ミュウたちにも聞かないと、返事はできないかな」
「あ、そうか、そうですよね」
ケン君は頭を掻いてなにかを考えたあと、ポンと手を打った。
「なら、早速聞きに行きませんか?」
「え? 王様の話はいいの?」
すっかり蚊帳の外になっていたけど、王様もなにか話があるんじゃないの?
って思ったら、ケン君が笑って首を横に振った。
「さっきの紙、アレ一応国宝扱いなんで、王様の許可がないと見れなかったんですよ。で、用事っていうのもそれくらいだったんで……」
「あぁ、そう……」
ぶっちゃけ、王様がここにいる意味はなかったんじゃ……っていう言葉は、なんとか呑み込んだ。さすがにそんなこと言ったら、不敬罪だ! ってなりそうだし。
と、それまで黙っていた王様が、ゆっくりと立ち上がる。
「フム……ケンよ、進展があれば、また報告せよ」
「了解です」
「では……あとは任せたぞ」
そう言って、部屋から出ていった。……え? 本当に用事ってアレだけだったの? なんだか拍子抜けだよ。
マルコも「父に報告があります」って言って、先に帰っていった。貴族だから、なにか家の決まりみたいなことがあるのかも。まぁ、それは今はいいや……帰っていいのなら、私も早く帰ろう。
今日はミュウたちは宿にいるだろうし、ケン君と話すのも、宿の食堂でできるよね。
というわけで、ケン君を連れて皆で泊まっている宿へ向かう。
その途中で、不意にケンくんが、「あ」と声を上げた。
「そういえばミサキさんの回復魔法って、どれくらい大きな傷まで治せるんですか?」
「へ? さぁ……」
唐突に聞かれて、私はすぐに答えられなかった。だって、それをちゃんと確かめたことはないし。
と思ってたら、ケンくんが不思議そうな顔を私に向ける。
「さぁ……って、確かめてないんですか?」
「や、だって大怪我する人なんていなかったもん。《魔獣暴走》のときは、誰がどんな怪我してたのかまでわからないし……」
確かめる方法なんて、それこそ大怪我をした人に魔法をかけるくらいしか思いつかない。
だけどそんな場面に遭遇したことはないし、私のパーティーメンバーは怪我をほとんどしないし。
だからわからない……って答えたんだけど、ケンくんはますます不思議そうな顔になる。……なにかおかしなこと言ったかな?
「あれ? ステータスで確認できますよね?」
「……え?」
「え?」
ケン君が首を傾げながら放った言葉に、思わず歩みを止める。いや、体が勝手に固まった。
そしてそんな私を見て、ケンくんも動きを止めた。
「……ステータスで、確認できる……?」
数秒固まったあと、どうにかそれだけを絞り出した私に、ケンくんが驚いた表情のまま答える。
「知らなかったんですね……ステータスの魔法の部分に集中すると、どんな使い方ができるのかとか、わかるんですよ。まぁ、攻撃魔法は文字だけ見てもわかりにくいので、実戦前に試すのがいいですけど。ただ、効果を知るだけなら、それで十分ですよ。てっきり、もう知ってるのかと」
「……ごめん、初耳……」
「マジすか……」
うん、本当に初めて知ったよ。
そりゃ、ステータスの情報量が少ないなぁ……とは感じてた。けどまさか、そんな機能があったなんて……あれ?
スキルの説明の見方とほとんど同じじゃない? ってことは、私の確認不足?
もっとちゃんと確かめとけばよかった……いまさらだけどね。
「ま、まぁそういうことなんで、今度よかったら、効果とか教えてください」
「うん……ありがとう」
「いやいや、大したことじゃないっすよ!」
私がお礼を言うと、ケンくんが何故か慌ててリーズさん……独特な口調の先輩冒険者みたいな語尾で答えた。
……そんなことよりも、後でちゃんと確かめないとなぁ、私の魔法の効果。
たくさんあるから覚えるの大変そうだけど、いざというときに「よくわかりません」じゃ困るもんね。なんて考えてるうちに、私とケンくんは宿に着いた。
幸い、パーティーメンバーは全員、部屋で過ごしていた。なので早速、王城であったことをケン君の説明と併せて話す。
「ええと、この件にはミサキさんの協力が必要です。最初はミサキさんだけにお願いしようと思ってたんですけど……皆さんが手伝ってくれるなら、めちゃくちゃ助かります。ただ、報酬はほとんど払えないんですが……」
「……ってことらしいんだけど、皆は」
「「「行く!」」」
「どう……って、えっ!?」
私が言い終わる前に、目をキラキラさせたミュウたちは身を乗り出して答えた。まさかの快諾だった。
「マジですか」
説明中は心配そうにしていたケン君も、皆の快諾っぷりに、ポカンとしている。
「だって伝説の剣なんでしょー? すっごい気になるじゃーん」
ウルルは聖剣が気になってるっぽい。
「ん、それに、霊峰も、気になる」
「わたしも霊峰に行ってみたくって……」
クルルとミュウは聖剣よりも、霊峰そのものに興味があるみたいだね。
まぁそれはいいとして、皆旅は嫌じゃないらしい。
ちょっと意外だったよ。ウルルはともかく、ミュウはもう少し悩むかと思ってたんだけど。やっぱり、冒険者はこういうのに心惹かれるのかも。
なにはともあれ、皆が行くって言うなら、ケン君のお願いを断る理由はない。
「じゃあ、私も行くよ」
「! あ、ありがとうございます!」
私が言うと、ケン君は一気にテンションを上げた。また子犬モードになってるんだけど……激しく揺れる尻尾が見えた気がする。
「じゃ、失礼します! 決まったら連絡しますねー!」
皆の参加が決まったってことを、ケン君は王城に戻って報告するらしい。ブンブンと手を振りながら、ものすごい速度で走っていった。ちゃんと前見ないと、誰かにぶつかるよ?
「楽しみだねー」
「ん、準備、しないと」
コートン姉妹は、既に旅へと想いを馳せているみたい。
ミュウもなにかをブツブツ呟きながら、必要なモノを紙に書いてる。……そんなに早く、連絡来るのかな。
まぁ、準備しておいて損はないだろうけども。私も荷物の確認とか、しようかな。
第二章 出発準備
ところが、あれから数日経っても、ケン君から連絡はない……なので依頼を受けることにした。
今日、私たちはいつもの森に、薬草採集に来ている。
武具を新調したんだから、戦いたいのに……ってウルルはぼやいてたけど、魔獣の討伐系の依頼がなかったんだから仕方ない。朝少し遅れて、依頼争奪戦に間に合わなかったのが原因。まぁでも、薬草集めだって大事だよ。
「あったー?」
「ない。……ん、ウルル、もっと、右」
「ほーい」
ウルルとクルルが、なんか曲芸みたいなことをやっていた。
ウルルの肩にクルルが立って、そのままあちこち歩き回る。
人ひとりを肩にのせて平気な顔してるウルルと、動き回るウルルの上でバランスを保ってるクルル……どっちもすごすぎる。
二人がそんなことをしてなにを探してるのかというと、木の上に生えているキノコだった。乳白色の、平べったい形で木の幹にめり込むように生えているやつ……なんでも、貴重な薬の材料になるんだとか。依頼された薬草ではないけど、「持ってて損はない!」ってクルルに力説されて、本格的に探すことになった。
ちなみに私は、ウルルとクルルの荷物番。少しは覚えたとはいえ、まだ薬草を完璧に見分けられないから……一応、ミュウが探してくれた薬草を種類ごとに袋にまとめる仕事をしている。
「んー……あ、あった」
早速、ミュウが私のところに薬草を持ってきた。
「どの種類?」
「ちょっと待ってね。〈鑑定〉……ウォード草だよ」
ミュウが〈鑑定〉のスキルを使って教えてくれる。えーっと、ウォード草ウォード草……これか。
依頼された薬草の名前をそれぞれ書いた袋を用意したお陰で、見分けがつかなくてもなんとかなってる。
ウォード草は、主に止血剤の材料になる薬草……だっけ? 見た目はそこらに生えてる草と変わらないんだけど、匂いがキツイ。なんていうか、ドクダミっぽい匂いがするんだよね、コレ。ちょっと使いたくないなあ。まぁ、私には魔法があるから、多分使わなくて済みそうかな。
しばらくすると、ウルルとクルルがキノコ集めを終えて戻ってきた。
「おわったー!」
「ん、大量……やった」
どうやらたくさん採れたらしい。クルルがホクホクした笑顔を見せる。
ミュウのほうを見ると、結構な量の薬草が集まっていた。
「ミュウ、そろそろいいんじゃない?」
「んー……うん、そうだね」
集めた薬草は、私が両手で抱えられるくらいの麻袋七つ分。キノコを入れればもっと多い。私はほとんどなにもしてないけど、かなり集めたんじゃないかな。
で、街へ帰ろうとしたら、森を抜けた辺りで急にウルルが立ち止まった。
そして私に、ビシッ! と拳を向ける。えっ、なに? ものすごくいい笑顔なのが、逆になんだか不安なんだけど。
「ミサキー、勝負しよー!」
「……うん?」
ウルルがにこやかに宣言した。
ちょっと待って、なんでそうなった……一体なにを思いついたんだろう……
「「え?」」
ミュウとクルルも、ウルルの行動は予想外だったらしくてフリーズしている。
そんな私たちにはお構いなしに、ウルルはニコニコしながら続ける。
「ミサキー、言ってたじゃん。魔法の使い方がわかったー、って」
確かに、私は自分の魔法のことを詳しく知ることができた。ケン君が言っていたとおり、それぞれの魔法にどんな効果があってどう使えるのか、ステータスに全部書いてあったから。
後悔先に立たず、なんていうけど……なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。
スキルがわかったときにすぐ気がついていれば、《魔獣暴走》ももっと楽に攻略できたはずなのに。
……まぁそれは置いといて、とりあえずウルルに答える。
「まぁ確かに?」
「だから勝負したいんだー」
「なんで!?」
今の流れでなんでそうなるの!?
「んーとね、簡単に言うとー、ミサキの魔法が見たくなってさー」
「それ、勝負の必要ないんじゃ……」
第一、私たちは仲間だから、戦う必要ないし。
「いーやー! 戦ってみたいのー!」
そんな駄々っ子みたいに地団駄踏まれても……って、ウルルの地団駄で地面に穴があいた。
え? 私アレと戦うの? 地面って足踏みで抉れるものだっけ?
えっと、こういうヤバいときは、クルルに説得してもらうのが一番かな? ごねるウルルの対処法も知ってそうだし。
「クルル……なんとかして……」
「ん、私も、見たい。ミサキの、魔法」
「あれぇ!?」
まさかクルルも、私に戦わせたい派!? じゃ、じゃあミュウ……もダメかぁ、目がキラキラしてる。この感じだと、ミュウもウルル派かなぁ。皆が期待に満ちた目で、私を見てる。
……仕方ない、頑張ってみようか。ホントに、なんでこうなったかな……
「……やるからには、全力でいくからね」
「ぃやったぁー!」
私がため息をつきながら返事すると、ウルルは飛び上がって喜んだ。
ただまぁ、全力でやるって言っても、攻撃魔法の【フォトンレイ】は使わないけどね。あんな殺傷力の高い魔法、友達に向けて撃つようなモノじゃないし。でもそれ以外は、遠慮なく使うよ。ウルル、覚悟はいい?
そしてあっという間に、私とウルルが戦う準備ができた。皆の行動が速すぎてちょっと怖いよ?
私と距離をあけて向かい合うウルルは、屈伸運動で体をほぐしてる。
その傍らには、大金をつぎ込んだウルル自慢のオーダーメイド武器……身の丈ほどもある巨大な戦斧が突き立っていた。……女の子が使う武器じゃないでしょ、あんなの。
「やったんぞー!」
「私が戦斧の、最初の獲物にならないように頑張るよ……」
ウルルの戦斧はつい先日出来上がったばかり。アレが完成してからは、一度も魔獣と遭遇していない。戦斧が出来上がるまで、借りものの槍でなら、何度か狩りをしたんだけど。
……つまりこれが、戦斧を使ったウルルの初戦闘。使い方が槍とは全く違うだろうから、今までの動きは参考にならないかな。
とはいえ、これは決闘とかじゃないから、勝負のルールはいたって簡単。
私は自分にかけた【シールド】が割られたら、ウルルは私の魔法に捕まったら負け。
「お願いね……相棒」
新調した長杖を握り直す。新しい相棒は、先端についた蕾っぽいデザインが特徴の、白い木製の長杖。コレも完全にオーダーメイドで作ってもらった。結構いい値段したけど、可愛い見た目がお気に入り。
そして形は変わっちゃったけど、これはミュウにもらった前の杖の、黄色い石を受け継いでる。前の杖の本体は、狩りの途中で折れちゃったんだ。だからせめて、石だけでも使い続けようと思ってね。
「……よし」
フゥ……と息を吐いて意識を集中させると、蕾の中でちらりと黄色の石が光った。外側にある葉のような装飾も、まるで生きてるかのようにざわめいた気がする。
「じゃあ……始めっ!」
周囲の音が遠くなる中、ミュウの声だけが、はっきりと聞こえた。
「とぉーっ!」
先に動いたのはウルル。
私との間にあった約二十メートルの距離を、砲弾のような勢いで詰めてくる。それがちょっとゆっくりに見えるってことは、集中できてるのかな。いわゆるゾーンってやつに入ったのかも。
これなら、一瞬でやられるなんてことはなさそう。さぁ、勝負だよ、ウルル!
「【シールド】!」
「うにゃっ!?」
ウルルが勢いよく振り下ろした戦斧は私の前の【シールド】に防がれて、光を散らしながらキィィィンッ! と耳障りな音を立てて滑る。向こう側でウルルが驚いていた。
これは私の魔法のとっておき、その一。
【シールド】は、人から離れたところにも自由に展開できるのがわかったから、自分の体から少し離れたところに斜めに張って、攻撃を受け流したの。これなら私に衝撃は来ない。続けて拘束用の魔法を放つ。
「【ライトチェイン】!」
「うわちょっ!? はやっ」
体勢を崩したウルルなら、避けられないと思ったけど……そんなことなかった。以前に比べると、魔法の展開が速くなったはずなのに。
「うぉりゃぁー!」
足元から伸びる光の鎖を、無理矢理体を回転させて振りきるウルル。【ライトチェイン】は粉々になった。
あんなことができるなんて、やっぱりウルルは普通じゃない……重量のある戦斧を、片手剣みたいに軽く振り回してる。私が狙っていた、行動のあとの隙なんてないのかもしれない。
というわけで、私の技をもうひとつ見せておこうか。
「行くよ……【シールド】二連!」
私の魔法のとっておき、その二。
一部のものを除いて、私は魔法を連発できる。一種類につき最大五回。
そしてなんと、【シールド】はイメージさえしっかりすれば、形も大きさも自在にできることがわかった。今回はウルルを挟むように、壁をイメージした大きい【シールド】を張る。
「なにこれー!? 初めて見たー!?」
そりゃ、初めて使ったからね。ウルルは盾に挟まれるのを警戒して、大きく後ろに下がる。
うーん……ついでに、新しく知った魔法を披露しようかな。
「【オーブ】三連!」
「んんー? にょわっ、くっついたぁー!?」
ウルルに向かって、まっすぐ【オーブ】を撃ち出す。
この魔法は、今まで使い方がよくわからなかったけど……今は違う。
【オーブ】は、光の玉を出現させて、対象物にくっつける魔法。
光る玉は一つなら自由に動かせるけど、複数だとこうやって撃ち出すのが精一杯。
まぁ、そのうちの一つがウルルにくっついたから、結果オーライかな。
「変な感じするー! 取れないー!?」
【オーブ】を引き剥がそうと悪戦苦闘したウルルは、しばらくするとがくりと膝を折る。そして、支えきれなくなったのか、戦斧が地面に落ちた。
「……!? なに、これぇー……」
ウルルが急に動けなくなった理由は、もちろん体にくっついた【オーブ】。
実はアレ、くっついた対象の魔力を吸うっていう、かなりえげつない効果を持つ魔法だった。
ステータスで自分の魔法の効果を見たときに判明したんだけど、この世界の人は皆魔力を持ってるらしく、それがなくなると気を失っちゃうんだって。
【オーブ】はその直前……極度の疲労感を覚えるくらいまで、魔力を吸う魔法。使い方次第では、他の魔法も吸い込むことができる強力なやつだった。
私が声に出して読んだので、マルコもなにが書いてあったのか理解したらしい。「ふむ……」と考え込むような仕草をした。
「これを、僕たちに見せたということは、もしや……」
そうマルコが漏らすと、突然ケン君が私のほうに向き直って、ガバッと頭を下げた。
え? なに? いきなりどうしたの?
「単刀直入に言います! ミサキさん、聖剣を取りに行くの、手伝ってください!」
「……は?」
「やはり、そうなりますか」
ちょっと待って、マルコはなにかを察したみたいだけど、私がわかってないから一回整理しよう。
まず、私がここに呼ばれたのは、ケン君の今後について話すため。
そして見せられたのは、古い文字が書かれたボロボロの紙。
内容は、勇者にしか扱えないという武器、聖剣の在り処。
そしてケン君の、今のお願い……うそでしょ。
ようやくどういうことかわかって絶句する私に、ケン君がもう一度頭を下げる。
「お願いします!」
「……私、関係ないんじゃ……」
「うっ!?」
呆然としながら、どうにか声を絞り出すと、ケン君が呻いてがっくりと項垂れた。
ケン君の必死のお願いだけど……聖剣を取りに行くのに、私いらなくない?
だってこの紙を見ると、聖剣を手に入れられるのは、『力ある勇者』だけ。勇者じゃない私がいたところで、なにかできるとは思えないんだけど。
と、私たちのやり取りを聞いていたマルコが、ケン君の肩に手を置く。その目はさっきまでの大人っぽさを感じさせず、少年のように輝いていた。
「僕は興味があるので、ぜひ」
「ああ、ありがとう。だけど……」
グッ! と拳を握るマルコに笑いかけてから、ケン君はちら、と私を見た。
マルコはそれで察したようで、ケン君に問いかける。
「ミサキさんの力が必要なのでしょうか?」
「そうなんだよ……」
ケン君は、しょんぼりとした表情で答えた。
私の力が必要ってどういうこと? この紙のどこにも、勇者以外が必要だなんて書いてないけど。なにか見落としたかな。
私がいまいち理解してないのがわかったのか、ケン君が頭を掻きながら説明してくれる。
「ミサキさん、回復魔法と結界使えるじゃないですか」
「使えるね」
「ここから霊峰まで行くのに、その二つは必須なんですよ」
霊峰まで行くのに、私の魔法が必須? 回復魔法と結界が必要になる場所があるってこと?
と、首を傾げる私を見て、マルコが頷いた。そして控えていた侍従さんに頼んで、もう一枚なにかの紙を持ってきてもらう。
「ミサキさん、これを見てください」
マルコに言われて、私はその紙を覗き込む。
「うん? これ、地図?」
侍従さんが持ってきた紙は、細かく地名が書かれた地図だった。それも、ものすごく広範囲の。
「白き霊峰というのは、間違いなくここのことでしょう」
マルコが指したのは、地図の真ん中あたりにある山の絵。雲を突き抜けて描かれて、近くに『プレシオス』と記されている。これが、霊峰?
マルコはスッと指を移動させる。そして次に指したのは、地図の左……方角的には西の、端っこにある場所。
「そしてここが、今僕たちがいる、サーナリア王国の王都です」
「うわ、遠い……」
この世界に来てから今まで、世界地図なんて一度も見たことがなかった。だからサーナリア王国がどこにあるのかもわからなかったし、霊峰っていうのも、今日初めて聞いた。
この地図の縮尺はわからないけど、それでも王都から霊峰までかなりの距離があるのは間違いない。
私が呆然としていると、マルコが口を開いた。
「ケンが言いたいのはおそらく、ここに行くまでの道中、ミサキさんの力を貸してほしい……ということではないでしょうか」
「そう! それだ! さすがマルコ!」
マルコの言葉に、ケン君が手を打って同意する。やっと私も、ケン君の言いたいことがわかってきた。
「つまり、道中の安全を確保するために、ケンはミサキさんを連れていきたいんですね?」
マルコがそうまとめると、ケン君は勢いよく頷く。
「そうです、その通りです」
なるほどね……どうやって霊峰まで行くのかはわからないけど、航空機なんてモノが存在しないこの世界では、移動は当然陸路になる。だけど地図上では、霊峰まではとんでもなく遠い。
そこでケン君は私に、その道中で誰かが疲れたときの回復とか、危険が迫ったときに結界を張ったりとか、そういうのを任せようとしてるってことだよね。
「ちゃんと説明してくれればいいのに……」
「う……すみません」
「まぁ、言いたいことはわかったよ」
……わかったけど、これは私一人で決められることじゃない。
ケン君に協力して霊峰まで行くとなると、どう考えてもとんでもない時間がかかる。
私はパーティーを組んでるから、もしケン君が私だけを必要としてるんだったら、長期間パーティーから外れることになってしまう。
「ミュウたちにも聞かないと、返事はできないかな」
「あ、そうか、そうですよね」
ケン君は頭を掻いてなにかを考えたあと、ポンと手を打った。
「なら、早速聞きに行きませんか?」
「え? 王様の話はいいの?」
すっかり蚊帳の外になっていたけど、王様もなにか話があるんじゃないの?
って思ったら、ケン君が笑って首を横に振った。
「さっきの紙、アレ一応国宝扱いなんで、王様の許可がないと見れなかったんですよ。で、用事っていうのもそれくらいだったんで……」
「あぁ、そう……」
ぶっちゃけ、王様がここにいる意味はなかったんじゃ……っていう言葉は、なんとか呑み込んだ。さすがにそんなこと言ったら、不敬罪だ! ってなりそうだし。
と、それまで黙っていた王様が、ゆっくりと立ち上がる。
「フム……ケンよ、進展があれば、また報告せよ」
「了解です」
「では……あとは任せたぞ」
そう言って、部屋から出ていった。……え? 本当に用事ってアレだけだったの? なんだか拍子抜けだよ。
マルコも「父に報告があります」って言って、先に帰っていった。貴族だから、なにか家の決まりみたいなことがあるのかも。まぁ、それは今はいいや……帰っていいのなら、私も早く帰ろう。
今日はミュウたちは宿にいるだろうし、ケン君と話すのも、宿の食堂でできるよね。
というわけで、ケン君を連れて皆で泊まっている宿へ向かう。
その途中で、不意にケンくんが、「あ」と声を上げた。
「そういえばミサキさんの回復魔法って、どれくらい大きな傷まで治せるんですか?」
「へ? さぁ……」
唐突に聞かれて、私はすぐに答えられなかった。だって、それをちゃんと確かめたことはないし。
と思ってたら、ケンくんが不思議そうな顔を私に向ける。
「さぁ……って、確かめてないんですか?」
「や、だって大怪我する人なんていなかったもん。《魔獣暴走》のときは、誰がどんな怪我してたのかまでわからないし……」
確かめる方法なんて、それこそ大怪我をした人に魔法をかけるくらいしか思いつかない。
だけどそんな場面に遭遇したことはないし、私のパーティーメンバーは怪我をほとんどしないし。
だからわからない……って答えたんだけど、ケンくんはますます不思議そうな顔になる。……なにかおかしなこと言ったかな?
「あれ? ステータスで確認できますよね?」
「……え?」
「え?」
ケン君が首を傾げながら放った言葉に、思わず歩みを止める。いや、体が勝手に固まった。
そしてそんな私を見て、ケンくんも動きを止めた。
「……ステータスで、確認できる……?」
数秒固まったあと、どうにかそれだけを絞り出した私に、ケンくんが驚いた表情のまま答える。
「知らなかったんですね……ステータスの魔法の部分に集中すると、どんな使い方ができるのかとか、わかるんですよ。まぁ、攻撃魔法は文字だけ見てもわかりにくいので、実戦前に試すのがいいですけど。ただ、効果を知るだけなら、それで十分ですよ。てっきり、もう知ってるのかと」
「……ごめん、初耳……」
「マジすか……」
うん、本当に初めて知ったよ。
そりゃ、ステータスの情報量が少ないなぁ……とは感じてた。けどまさか、そんな機能があったなんて……あれ?
スキルの説明の見方とほとんど同じじゃない? ってことは、私の確認不足?
もっとちゃんと確かめとけばよかった……いまさらだけどね。
「ま、まぁそういうことなんで、今度よかったら、効果とか教えてください」
「うん……ありがとう」
「いやいや、大したことじゃないっすよ!」
私がお礼を言うと、ケンくんが何故か慌ててリーズさん……独特な口調の先輩冒険者みたいな語尾で答えた。
……そんなことよりも、後でちゃんと確かめないとなぁ、私の魔法の効果。
たくさんあるから覚えるの大変そうだけど、いざというときに「よくわかりません」じゃ困るもんね。なんて考えてるうちに、私とケンくんは宿に着いた。
幸い、パーティーメンバーは全員、部屋で過ごしていた。なので早速、王城であったことをケン君の説明と併せて話す。
「ええと、この件にはミサキさんの協力が必要です。最初はミサキさんだけにお願いしようと思ってたんですけど……皆さんが手伝ってくれるなら、めちゃくちゃ助かります。ただ、報酬はほとんど払えないんですが……」
「……ってことらしいんだけど、皆は」
「「「行く!」」」
「どう……って、えっ!?」
私が言い終わる前に、目をキラキラさせたミュウたちは身を乗り出して答えた。まさかの快諾だった。
「マジですか」
説明中は心配そうにしていたケン君も、皆の快諾っぷりに、ポカンとしている。
「だって伝説の剣なんでしょー? すっごい気になるじゃーん」
ウルルは聖剣が気になってるっぽい。
「ん、それに、霊峰も、気になる」
「わたしも霊峰に行ってみたくって……」
クルルとミュウは聖剣よりも、霊峰そのものに興味があるみたいだね。
まぁそれはいいとして、皆旅は嫌じゃないらしい。
ちょっと意外だったよ。ウルルはともかく、ミュウはもう少し悩むかと思ってたんだけど。やっぱり、冒険者はこういうのに心惹かれるのかも。
なにはともあれ、皆が行くって言うなら、ケン君のお願いを断る理由はない。
「じゃあ、私も行くよ」
「! あ、ありがとうございます!」
私が言うと、ケン君は一気にテンションを上げた。また子犬モードになってるんだけど……激しく揺れる尻尾が見えた気がする。
「じゃ、失礼します! 決まったら連絡しますねー!」
皆の参加が決まったってことを、ケン君は王城に戻って報告するらしい。ブンブンと手を振りながら、ものすごい速度で走っていった。ちゃんと前見ないと、誰かにぶつかるよ?
「楽しみだねー」
「ん、準備、しないと」
コートン姉妹は、既に旅へと想いを馳せているみたい。
ミュウもなにかをブツブツ呟きながら、必要なモノを紙に書いてる。……そんなに早く、連絡来るのかな。
まぁ、準備しておいて損はないだろうけども。私も荷物の確認とか、しようかな。
第二章 出発準備
ところが、あれから数日経っても、ケン君から連絡はない……なので依頼を受けることにした。
今日、私たちはいつもの森に、薬草採集に来ている。
武具を新調したんだから、戦いたいのに……ってウルルはぼやいてたけど、魔獣の討伐系の依頼がなかったんだから仕方ない。朝少し遅れて、依頼争奪戦に間に合わなかったのが原因。まぁでも、薬草集めだって大事だよ。
「あったー?」
「ない。……ん、ウルル、もっと、右」
「ほーい」
ウルルとクルルが、なんか曲芸みたいなことをやっていた。
ウルルの肩にクルルが立って、そのままあちこち歩き回る。
人ひとりを肩にのせて平気な顔してるウルルと、動き回るウルルの上でバランスを保ってるクルル……どっちもすごすぎる。
二人がそんなことをしてなにを探してるのかというと、木の上に生えているキノコだった。乳白色の、平べったい形で木の幹にめり込むように生えているやつ……なんでも、貴重な薬の材料になるんだとか。依頼された薬草ではないけど、「持ってて損はない!」ってクルルに力説されて、本格的に探すことになった。
ちなみに私は、ウルルとクルルの荷物番。少しは覚えたとはいえ、まだ薬草を完璧に見分けられないから……一応、ミュウが探してくれた薬草を種類ごとに袋にまとめる仕事をしている。
「んー……あ、あった」
早速、ミュウが私のところに薬草を持ってきた。
「どの種類?」
「ちょっと待ってね。〈鑑定〉……ウォード草だよ」
ミュウが〈鑑定〉のスキルを使って教えてくれる。えーっと、ウォード草ウォード草……これか。
依頼された薬草の名前をそれぞれ書いた袋を用意したお陰で、見分けがつかなくてもなんとかなってる。
ウォード草は、主に止血剤の材料になる薬草……だっけ? 見た目はそこらに生えてる草と変わらないんだけど、匂いがキツイ。なんていうか、ドクダミっぽい匂いがするんだよね、コレ。ちょっと使いたくないなあ。まぁ、私には魔法があるから、多分使わなくて済みそうかな。
しばらくすると、ウルルとクルルがキノコ集めを終えて戻ってきた。
「おわったー!」
「ん、大量……やった」
どうやらたくさん採れたらしい。クルルがホクホクした笑顔を見せる。
ミュウのほうを見ると、結構な量の薬草が集まっていた。
「ミュウ、そろそろいいんじゃない?」
「んー……うん、そうだね」
集めた薬草は、私が両手で抱えられるくらいの麻袋七つ分。キノコを入れればもっと多い。私はほとんどなにもしてないけど、かなり集めたんじゃないかな。
で、街へ帰ろうとしたら、森を抜けた辺りで急にウルルが立ち止まった。
そして私に、ビシッ! と拳を向ける。えっ、なに? ものすごくいい笑顔なのが、逆になんだか不安なんだけど。
「ミサキー、勝負しよー!」
「……うん?」
ウルルがにこやかに宣言した。
ちょっと待って、なんでそうなった……一体なにを思いついたんだろう……
「「え?」」
ミュウとクルルも、ウルルの行動は予想外だったらしくてフリーズしている。
そんな私たちにはお構いなしに、ウルルはニコニコしながら続ける。
「ミサキー、言ってたじゃん。魔法の使い方がわかったー、って」
確かに、私は自分の魔法のことを詳しく知ることができた。ケン君が言っていたとおり、それぞれの魔法にどんな効果があってどう使えるのか、ステータスに全部書いてあったから。
後悔先に立たず、なんていうけど……なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。
スキルがわかったときにすぐ気がついていれば、《魔獣暴走》ももっと楽に攻略できたはずなのに。
……まぁそれは置いといて、とりあえずウルルに答える。
「まぁ確かに?」
「だから勝負したいんだー」
「なんで!?」
今の流れでなんでそうなるの!?
「んーとね、簡単に言うとー、ミサキの魔法が見たくなってさー」
「それ、勝負の必要ないんじゃ……」
第一、私たちは仲間だから、戦う必要ないし。
「いーやー! 戦ってみたいのー!」
そんな駄々っ子みたいに地団駄踏まれても……って、ウルルの地団駄で地面に穴があいた。
え? 私アレと戦うの? 地面って足踏みで抉れるものだっけ?
えっと、こういうヤバいときは、クルルに説得してもらうのが一番かな? ごねるウルルの対処法も知ってそうだし。
「クルル……なんとかして……」
「ん、私も、見たい。ミサキの、魔法」
「あれぇ!?」
まさかクルルも、私に戦わせたい派!? じゃ、じゃあミュウ……もダメかぁ、目がキラキラしてる。この感じだと、ミュウもウルル派かなぁ。皆が期待に満ちた目で、私を見てる。
……仕方ない、頑張ってみようか。ホントに、なんでこうなったかな……
「……やるからには、全力でいくからね」
「ぃやったぁー!」
私がため息をつきながら返事すると、ウルルは飛び上がって喜んだ。
ただまぁ、全力でやるって言っても、攻撃魔法の【フォトンレイ】は使わないけどね。あんな殺傷力の高い魔法、友達に向けて撃つようなモノじゃないし。でもそれ以外は、遠慮なく使うよ。ウルル、覚悟はいい?
そしてあっという間に、私とウルルが戦う準備ができた。皆の行動が速すぎてちょっと怖いよ?
私と距離をあけて向かい合うウルルは、屈伸運動で体をほぐしてる。
その傍らには、大金をつぎ込んだウルル自慢のオーダーメイド武器……身の丈ほどもある巨大な戦斧が突き立っていた。……女の子が使う武器じゃないでしょ、あんなの。
「やったんぞー!」
「私が戦斧の、最初の獲物にならないように頑張るよ……」
ウルルの戦斧はつい先日出来上がったばかり。アレが完成してからは、一度も魔獣と遭遇していない。戦斧が出来上がるまで、借りものの槍でなら、何度か狩りをしたんだけど。
……つまりこれが、戦斧を使ったウルルの初戦闘。使い方が槍とは全く違うだろうから、今までの動きは参考にならないかな。
とはいえ、これは決闘とかじゃないから、勝負のルールはいたって簡単。
私は自分にかけた【シールド】が割られたら、ウルルは私の魔法に捕まったら負け。
「お願いね……相棒」
新調した長杖を握り直す。新しい相棒は、先端についた蕾っぽいデザインが特徴の、白い木製の長杖。コレも完全にオーダーメイドで作ってもらった。結構いい値段したけど、可愛い見た目がお気に入り。
そして形は変わっちゃったけど、これはミュウにもらった前の杖の、黄色い石を受け継いでる。前の杖の本体は、狩りの途中で折れちゃったんだ。だからせめて、石だけでも使い続けようと思ってね。
「……よし」
フゥ……と息を吐いて意識を集中させると、蕾の中でちらりと黄色の石が光った。外側にある葉のような装飾も、まるで生きてるかのようにざわめいた気がする。
「じゃあ……始めっ!」
周囲の音が遠くなる中、ミュウの声だけが、はっきりと聞こえた。
「とぉーっ!」
先に動いたのはウルル。
私との間にあった約二十メートルの距離を、砲弾のような勢いで詰めてくる。それがちょっとゆっくりに見えるってことは、集中できてるのかな。いわゆるゾーンってやつに入ったのかも。
これなら、一瞬でやられるなんてことはなさそう。さぁ、勝負だよ、ウルル!
「【シールド】!」
「うにゃっ!?」
ウルルが勢いよく振り下ろした戦斧は私の前の【シールド】に防がれて、光を散らしながらキィィィンッ! と耳障りな音を立てて滑る。向こう側でウルルが驚いていた。
これは私の魔法のとっておき、その一。
【シールド】は、人から離れたところにも自由に展開できるのがわかったから、自分の体から少し離れたところに斜めに張って、攻撃を受け流したの。これなら私に衝撃は来ない。続けて拘束用の魔法を放つ。
「【ライトチェイン】!」
「うわちょっ!? はやっ」
体勢を崩したウルルなら、避けられないと思ったけど……そんなことなかった。以前に比べると、魔法の展開が速くなったはずなのに。
「うぉりゃぁー!」
足元から伸びる光の鎖を、無理矢理体を回転させて振りきるウルル。【ライトチェイン】は粉々になった。
あんなことができるなんて、やっぱりウルルは普通じゃない……重量のある戦斧を、片手剣みたいに軽く振り回してる。私が狙っていた、行動のあとの隙なんてないのかもしれない。
というわけで、私の技をもうひとつ見せておこうか。
「行くよ……【シールド】二連!」
私の魔法のとっておき、その二。
一部のものを除いて、私は魔法を連発できる。一種類につき最大五回。
そしてなんと、【シールド】はイメージさえしっかりすれば、形も大きさも自在にできることがわかった。今回はウルルを挟むように、壁をイメージした大きい【シールド】を張る。
「なにこれー!? 初めて見たー!?」
そりゃ、初めて使ったからね。ウルルは盾に挟まれるのを警戒して、大きく後ろに下がる。
うーん……ついでに、新しく知った魔法を披露しようかな。
「【オーブ】三連!」
「んんー? にょわっ、くっついたぁー!?」
ウルルに向かって、まっすぐ【オーブ】を撃ち出す。
この魔法は、今まで使い方がよくわからなかったけど……今は違う。
【オーブ】は、光の玉を出現させて、対象物にくっつける魔法。
光る玉は一つなら自由に動かせるけど、複数だとこうやって撃ち出すのが精一杯。
まぁ、そのうちの一つがウルルにくっついたから、結果オーライかな。
「変な感じするー! 取れないー!?」
【オーブ】を引き剥がそうと悪戦苦闘したウルルは、しばらくするとがくりと膝を折る。そして、支えきれなくなったのか、戦斧が地面に落ちた。
「……!? なに、これぇー……」
ウルルが急に動けなくなった理由は、もちろん体にくっついた【オーブ】。
実はアレ、くっついた対象の魔力を吸うっていう、かなりえげつない効果を持つ魔法だった。
ステータスで自分の魔法の効果を見たときに判明したんだけど、この世界の人は皆魔力を持ってるらしく、それがなくなると気を失っちゃうんだって。
【オーブ】はその直前……極度の疲労感を覚えるくらいまで、魔力を吸う魔法。使い方次第では、他の魔法も吸い込むことができる強力なやつだった。
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