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第四章 心を満たす魔法の手
後の祭りとはよく言ったものなのです
しおりを挟む「まあ、これが俺の考えている最悪の事態だ。こうなっていなければいい……パンに何もなくて、ただ単に村や町の人々が黒や白の騎士団に報告をするタイミングを見ていたというなら……それが一番良いんだ」
リュート様が苦笑を浮かべながら、ようやくみんなが悟った最悪な事態へのショックを和らげようと言葉を紡ぎますが、アレン様は首を左右に振ります。
「最悪の事態を考えて、その打開策を考えておくのは悪いことではない。むしろ、そうやって常に最悪な事態を考えて動ける者は少ないのじゃ。考えすぎだと言われることもあるじゃろうが、お主はそのままで居てくれると助かる」
「何いってんだ。アレンの爺さんの足元にも及ばねーよ」
最悪の事態を考えて動いていれば、万が一それと直面しても、余裕を持って対処ができる。
でも、変に楽観視していたら、対処できずに被害は大きくなるでしょう。
それを、リュート様は前世や今までの経験で学んできた。
彼の視野の広さは、そういう経験からくるものなのかもしれません。
「じゃあ、南の地域の村や町の様子を詳しく調べないといけないね。俺たちが黒騎士だとわからないように……」
ロン兄様の言葉に、リュート様は頷きますが……な、なんだかとっても意味ありげな笑顔ですねロン兄様。
黒さが滲む笑みが素敵ですね。
こういうところが『参謀の顔』なのでしょう。
「つまり、黒の騎士団に入団して、まだ面が割れていないメンツが良いよね」
「……あー、そういうことか」
ロン兄様の言いたいことがわかったのか、リュート様は苦笑を浮かべたあとクルリと振り返り、黒騎士様たちを見ます。
「どうやら、聞いちまったのが運の尽きみたいだぞ」
「やっぱりかー!」
「今回の新人指導の担当が参謀の時点で、俺たち全員諦めてるっす……」
誰かの叫びのあと、失言癖の抜けない彼がうなだれたように言うので、少し可哀想だなぁとは思いましたが、すぐに立ち直ったのか彼らは集まり地面に座り込んで円陣を組みました。
そして、南の村や町出身の人たちが地図を広げて情報交換をしているようです。
す、素早いですね。
さすがはリュート様に鍛えられた元クラスメイト!
「あはは、そうじゃなきゃ困るよ。そんじょそこらの連中に、可愛い弟は任せられないからね」
爽やかに笑っておっしゃるロン兄様に『容赦』の二文字は見当たりません。
リュート様を溺愛しているだけのことはあります。
爽やかな笑顔を浮かべて、どんな時でもブレないロン兄様が素敵ですよね。
「じゃあ、こちらは大地母神の神殿内部の情報を集めておくよ」
「いや、サラ姉……それが一番危なくねーか?」
「大丈夫。私にはツテがあるから心配ないよ」
サラ様は顔が広そうですから、内部の情報を集めるには良いのかもしれません。
しかし、あの黒い影を見ていた私は不安になってしまいます。
そんなリュート様と私の不安を感じ取ったのか、テオ兄様が口を開きました。
「私が手を貸そう」
「え、でも……そ、それは……」
「1人では危ない。私ならばある程度の人数をさばくことができる」
「いや、でも……」
「よし。テオは神殿内部調査を、ロンと新人たちには南部地域の村や町の実態調査を頼もう。人員が必要なときは、直通連絡を頼む。こちらは通常業務をして、気取られないようにしておこう」
オロオロしているサラ様と、真剣な表情のテオ兄様を見ていたお父様がそう言うと、ロン兄様が「これで動きやすくなった」というような安堵の表情を浮かべます。
ロン兄様も単独でサラ様が神殿へ向かうのは心配だったのですね。
「さすがはお父様です!」
私がそういうと、キリッとしていた表情はどこへやら、ふにゃりと笑みを浮かべて「そうか?そうか?」と嬉しそうに私を見つめてきました。
ああ……さきほどまでキリリと格好良かったのに……
私の考えを読んだわけではないでしょうが、リュート様も呆れた様子で肩を竦めました。
でも、いつもみたいに辛辣なことを言わないということは、さすがだなーって思っている証拠ではないでしょうか。
「海のほうは、前竜帝陛下にお任せしても宜しいのでしょうか」
「お前は堅苦しい!儂はいまリュートに雇われている竜人族の爺じゃ。アレンと呼ばんか」
「し、しかし……」
「何度このやり取りをさせる気なんじゃ?面倒くさいわい」
「は……はい、アレン様にお任せしても……宜しいのでしょうか」
「んむ。孫のキュステならば海の中は問題ない。こやつが不用意に暴れて大津波だけ警戒しておれ」
「爺様……それ僕が暴れるって言ってるようなもんやん」
キュステさんは「やったことあらへんのに、まったくもう」とため息をついていて、やっぱり不憫ですね。
その姿に、何故かホッとしてしまいます。
まあ……キュステさんが不憫なのは平和な証みたいなところもありますから。
「マーテルの状況は妾たちでは掴めぬからのぅ……サラ、任せたぞ」
「はい。これは私の役目ですから、お任せください」
「サーちゃん、無理はダメなの」
「大丈夫だよ、チェリシュはちゃんとルナをみていておくれ」
「あいっ!」
任せてなの!と言わんばかりに胸をぽんっと手で叩いたチェリシュが愛らしすぎます!
どうしてこの子はこんなに可愛いのでしょうか。
「チェリシュがルーを守るの!」
「私もチェリシュを守りますね」
「あいっ」
「おーい、俺も忘れるなー」
リュート様が、私たちに見えるように手をひらひらさせて存在をアピールしましたので、チェリシュと一緒にぎゅーっと抱きついたら、嬉しそうに笑っている声が聞こえました。
ふふ、リュート様はいつも守ってくださいますから、私たちにも守らせてくださいね。
「ところで、明日持ってくるパンの鑑定はどうしはるん?僕らの龍眼では成分までわからんし、シロたちも連れて来たほうがええやろか」
「そうだな。一応連れてきてくれ。毒や薬に詳しいのはクロか」
「せやね」
「リュート様、リュート様。私がルーペで見てみます」
「あ、ソレがあったな!」
「ルーペ?そないなもんでわかるん?」
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「いえ、そういうことは学校で教えて下さいません。ですが、薬を盛られたり毒殺されかけたことがありましたので、書物などで沢山勉強いたしました」
私がそういうと、周囲がシンッと静まり返ります。
あ……これは失言だったかもしれないと、慌てて口……いえ、嘴を翼で押さえたのですが、何の効果もありません。
やってしまった……と思っても、後の祭りのようでした。
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