悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-7 パン粉の準備中!

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「よし、真白。ルナが作ったレシピを配りに行くぞ」
「え? 真白も行くの?」
「お前はチェリシュと違って、ヘタすると邪魔をする可能性があるからな……」
「むー……真白ちゃんを見つけられたら一緒に行ってあげてもいいよー?」

 見つけられたら?
 思わず、真白の方を見ると……何故か卵が並んでいる場所に、真白も並んでいる。
 い、いや……真白……確かに卵みたいに見えなくも無いですが……さすがにわかりますよ?
 必死に丸くなって目を閉じ、「わからないでしょーっ」と言っている姿が可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
 リュート様も最初は唖然としていたのに、今では笑いをかみ殺すのに必死だ。

「まっしろちゃん……すごいの! お見事な卵さんなの!」
「ふーふーふーっ! さすがは真白でしょー?」
「まん丸だからわかりづらいなー」
「リュー、ファイトなの!」

 どうしましょう……この可愛らしいやり取りを、ベオルフ様やオーディナル様にも見せてあげたい!
 卵に擬態化している真白と、それがわからないという演技をするリュート様。そして、リュート様を必死に応援するチェリシュの癒やし効果は絶大で、時空神様も肩を振るわせて笑っている。

「んー? どれだろうなぁ……」

 リュート様は、そう言いながら真白を指先でツンツンした後に、ぐいーっと押した。
 すると、コロリと転がった真白は「なんでわかったのーっ!?」と不満げである。
 卵に見事な冠羽と尾羽はありませんよ……

「見つかっちゃったの」
「むー……さすがはリュート……」
「いや、これでさすがって……まあいいか。ほら、真白、レシピを配りに行くぞ」
「いいよー! 真白ちゃんもお手伝いしたって自慢しに行くー!」

 ぴょこんと立った真白を頭の上に乗せたリュート様は、私の手にあったレシピを受け取ると、厨房の外へと出て行ってしまった。
 レシピを取りに来た問題児トリオと合流して大量のレシピを分担したのか、それぞれ担当した方面へ散っていく。
 賑やかな真白と、それを諫めるリュート様の軽快な会話が無くなったために静かだと感じるキッチン。
 どうやら、そう感じたのは私だけではないようで、チェリシュはリュート様たちを目で追っていた。

「さて……では、リュート様が喜ぶ白身フライと豚カツを作りましょうか」
「筋切りとかの下処理は終わっているみたいだから、揚げるだけカナ?」
「表面に浮かんでいる水気を拭き取って塩コショウをしたら、衣をつけて揚げるだけですね」
「じゃあ、バットに小麦粉、卵を溶きほぐした物を準備するネ。チェリシュ、小麦粉をお願いネー」
「了解ですなの!」

 用意したバットに、チェリシュがたっぷりの小麦粉を入れている中、時空神様は卵の白身を切るように溶きほぐし、油を少量入れて滑らかになるように混ぜている。
 さすが……言わなくてもわかっているところが凄い……本当に、兄のアシスタントをしている回数が多いのだと実感してしまった。
 私も自分の作業をしなければ!
 魔改造された発酵石の器から乾燥したパンを取り出した。
 いつか、マールのフライを作ろうと準備していたのである。
 エビフライならぬマールフライをリュート様が気に入りそうだと考えて、大量に仕込んでいた甲斐があったというものだ。
 取り出した乾燥したパンを、リュート様が設置してくれたフードカッターで粉砕していく。
 このフードカッター……というか、フードカッターという分類で良いのか迷ってしまうほど万能すぎる調理器具を改めて見つめてしまう。
 刃となる物が魔法だというだけで、こんなに万能になるのだろうか。
 アタッチメントを変える必要も無いし、ドーム状の中に入る物であれば、何でも加工が可能なのだ。
 すりおろし、微粉砕、皮むきやカットの方法まで完璧にこなす。
 それがどんな形状であっても……だ。

「改めて考えると……凄いですよね……この調理器」
「ああ、リュートくんのフードカッター……? ダネ。構造は複雑なんダヨ? 時空間魔法を扱える彼だから造れた……といっても過言では無いカナ」
「そうなのですか?」
「領域内の物質を自在に操るのは、時空間魔法の一種だからネ。他の商会がマネようと必死みたいだケド……魔石に刻まれた術式を理解できないから、無理だよネ」

 それは私も同じだと嘆息してしまう。
 おそらく、私が全てを理解することは難しい術式を、幾重にもかけられた調理器具なのだろう。
 彼は風魔法をカッターにして使っていると簡単に説明してくれたが、それだけではないのだと使えば使うほど、凄さが理解出来る代物だ。

「陽輝が欲しがりそうな調理器具だよネ」

 茶目っ気たっぷりに言われた言葉に、私は「えー! 何ソレ! 絶対に欲しい!」と言っている兄を脳裏に思い描き、口元をほころばせた。

「絶対に言いそうです」

 顔を見合わせて笑っていると、バットに小麦粉を入れ終えたチェリシュが、フードカッターの中で粉砕されていくパンを見つめる。

「ルー……折角のパンが粉々なの……」
「これは、パン粉といって……いまから、美味しくなる手助けをしてくれるのです」
「美味しくなる……手助け……パンは形を変えて、復活する……なの!」

 眉尻を下げて粉々になるパンを見ていたチェリシュは、私の言葉を聞き、目をキラキラ輝かせて球体のドーム状になっている部分に張り付いた。
 あ……ああ……透明なガラスのような場所に、小麦粉の手形がいっぱい……
 あとで、綺麗にしておきましょう。

「頑張れー! なのっ」

 粉々になるパンに声援をおくるチェリシュを微笑ましく見つめていたら、彼女は何を思いついたのか、先ほどモンドさんからいただいた、ベリリジャムがたっぷり入っている『うさぎぱん』を私に差し出してくる。

「リューの美味しいに……うさぎぱんもなる……なの?」
「それは、チェリシュが食べてくださいね。モンドさんがチェリシュのために作ってくれたものですから」
「あいっ!」

 少しでもリュート様に美味しいと言って欲しいのか、チェリシュは自分の美味しいを我慢してまで好物を差し出してくる姿に、思わず胸が締め付けられた。
 なんでしょう……こう……成長が嬉しいというか、切ないというか、可愛いというか……も、もう、すごく複雑ですが……チェリシュの気持ちが尊いです!

「リューは、みんなのために頑張っているの。チェリシュも頑張らないとなの!」
「私も頑張りますね!」
「ルーは少し休んだ方が良いの……」

 え、そこは一緒に頑張りましょうというところでは?
 何故か不満そうな顔をするチェリシュの横で、苦笑を浮かべる時空神様と目が合う。

「チェリシュの言う通りだと思うヨ?」

 はて……私はそこまで無理をした覚えは無いのですが……?
 思い当たる節がなくて困惑していると、レシピを配り終えたのか、弾丸のように弾けた真白が此方へ戻ってきた。
 しかし、目測を誤ったのか、私めがけて飛んできたのである。
 思わず硬直してしまった私に真白があわやぶつかるというところで、スッと現れた淡く輝く手がキャッチしてしまったのだ。
 普通なら幽霊かと驚きそうなものではあるが、不気味さは一切感じない。
 あれ? この手……って……?
 光の幻のような手が誰の物であるか気づいたのは私だけでは無かったようで、真白は目を輝かせて、光の手に戯れ付きはじめた。
 真白の反応からも間違い無い。

「ベオルフ様……色々とやれることが増えていませんか?」
「まあ、それだけ……君たちのシンクロ率が高くなっているってことデショ」

 シンクロ率? 何の?
 私の問いかけが言葉になる前に、大きな音を立ててキャンピングカーの扉が開く。

「まーしーろー!」
「ひゃああぁぁ、ごめんなさああぁぁいぃぃぃっ! でも、今は待ってー! 消える前に甘えてエネルギー充填するのー!」
「はぁ?」

 光の幻のような手に戯れ付き抱きついている真白を見たリュート様は首を傾げ、説明を求めるように此方を見たが、何と言ったら良いのかわからず苦笑してしまった。
 私の表情から察したのか、彼は納得したように「ベオルフか……」と呟き、一旦怒りを落ち着けて真白を見ている。
 あ……そこは、待ってあげるのですね。
 普段の姿とは違い、素直に甘える真白の様子に面食らったようだが、どこか安堵しているようにも見えるから不思議だ。

「いろんな意味で、すげーな。でも、本当に助かった。あのスピードでぶつかったら大変なことになっていたからな」
「そうですね……ありがとうございます、ベオルフ様」

 本人が意識してキャッチしてくれたのかはわからないが、お礼を言って手に触れると、かすかなぬくもりと優しい何かが流れ込んできたのがわかった。
 真白では無いが、ふとした瞬間に触れあえることが嬉しいのだ。
 光の手は、私たちが無事であることを確認したからか、ゆっくりと消えていく。
 消えゆく光の手に一抹の寂しさを覚えたのだが、真白はそんな余韻を感じる間も無く、新たな手に囚われていた。

「お前なぁ……あのスピードでルナに飛んでいくとか、馬鹿なのか?」
「わ、悪気は無かったのー! 目測を誤っちゃったの、ごめんなさいぃっ!」

 再び賑やかになった厨房の中で、チェリシュが妹を庇うように「許してあげてほしいの! チェリシュも一緒に謝るの!」と言いだし、リュート様は困ったような表情のまま、お仕置きとばかりに真白をもにもにしている。
 それがお仕置きになっていないとわかっている私と時空神様は、肩をすくめてできあがった大量のパン粉を取り出し、バットに敷くのであった。

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