386 / 558
第十章 森の泉に住まう者
10-7 パン粉の準備中!
しおりを挟む「よし、真白。ルナが作ったレシピを配りに行くぞ」
「え? 真白も行くの?」
「お前はチェリシュと違って、ヘタすると邪魔をする可能性があるからな……」
「むー……真白ちゃんを見つけられたら一緒に行ってあげてもいいよー?」
見つけられたら?
思わず、真白の方を見ると……何故か卵が並んでいる場所に、真白も並んでいる。
い、いや……真白……確かに卵みたいに見えなくも無いですが……さすがにわかりますよ?
必死に丸くなって目を閉じ、「わからないでしょーっ」と言っている姿が可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
リュート様も最初は唖然としていたのに、今では笑いをかみ殺すのに必死だ。
「まっしろちゃん……すごいの! お見事な卵さんなの!」
「ふーふーふーっ! さすがは真白でしょー?」
「まん丸だからわかりづらいなー」
「リュー、ファイトなの!」
どうしましょう……この可愛らしいやり取りを、ベオルフ様やオーディナル様にも見せてあげたい!
卵に擬態化している真白と、それがわからないという演技をするリュート様。そして、リュート様を必死に応援するチェリシュの癒やし効果は絶大で、時空神様も肩を振るわせて笑っている。
「んー? どれだろうなぁ……」
リュート様は、そう言いながら真白を指先でツンツンした後に、ぐいーっと押した。
すると、コロリと転がった真白は「なんでわかったのーっ!?」と不満げである。
卵に見事な冠羽と尾羽はありませんよ……
「見つかっちゃったの」
「むー……さすがはリュート……」
「いや、これでさすがって……まあいいか。ほら、真白、レシピを配りに行くぞ」
「いいよー! 真白ちゃんもお手伝いしたって自慢しに行くー!」
ぴょこんと立った真白を頭の上に乗せたリュート様は、私の手にあったレシピを受け取ると、厨房の外へと出て行ってしまった。
レシピを取りに来た問題児トリオと合流して大量のレシピを分担したのか、それぞれ担当した方面へ散っていく。
賑やかな真白と、それを諫めるリュート様の軽快な会話が無くなったために静かだと感じるキッチン。
どうやら、そう感じたのは私だけではないようで、チェリシュはリュート様たちを目で追っていた。
「さて……では、リュート様が喜ぶ白身フライと豚カツを作りましょうか」
「筋切りとかの下処理は終わっているみたいだから、揚げるだけカナ?」
「表面に浮かんでいる水気を拭き取って塩コショウをしたら、衣をつけて揚げるだけですね」
「じゃあ、バットに小麦粉、卵を溶きほぐした物を準備するネ。チェリシュ、小麦粉をお願いネー」
「了解ですなの!」
用意したバットに、チェリシュがたっぷりの小麦粉を入れている中、時空神様は卵の白身を切るように溶きほぐし、油を少量入れて滑らかになるように混ぜている。
さすが……言わなくてもわかっているところが凄い……本当に、兄のアシスタントをしている回数が多いのだと実感してしまった。
私も自分の作業をしなければ!
魔改造された発酵石の器から乾燥したパンを取り出した。
いつか、マールのフライを作ろうと準備していたのである。
エビフライならぬマールフライをリュート様が気に入りそうだと考えて、大量に仕込んでいた甲斐があったというものだ。
取り出した乾燥したパンを、リュート様が設置してくれたフードカッターで粉砕していく。
このフードカッター……というか、フードカッターという分類で良いのか迷ってしまうほど万能すぎる調理器具を改めて見つめてしまう。
刃となる物が魔法だというだけで、こんなに万能になるのだろうか。
アタッチメントを変える必要も無いし、ドーム状の中に入る物であれば、何でも加工が可能なのだ。
すりおろし、微粉砕、皮むきやカットの方法まで完璧にこなす。
それがどんな形状であっても……だ。
「改めて考えると……凄いですよね……この調理器」
「ああ、リュートくんのフードカッター……? ダネ。構造は複雑なんダヨ? 時空間魔法を扱える彼だから造れた……といっても過言では無いカナ」
「そうなのですか?」
「領域内の物質を自在に操るのは、時空間魔法の一種だからネ。他の商会がマネようと必死みたいだケド……魔石に刻まれた術式を理解できないから、無理だよネ」
それは私も同じだと嘆息してしまう。
おそらく、私が全てを理解することは難しい術式を、幾重にもかけられた調理器具なのだろう。
彼は風魔法をカッターにして使っていると簡単に説明してくれたが、それだけではないのだと使えば使うほど、凄さが理解出来る代物だ。
「陽輝が欲しがりそうな調理器具だよネ」
茶目っ気たっぷりに言われた言葉に、私は「えー! 何ソレ! 絶対に欲しい!」と言っている兄を脳裏に思い描き、口元をほころばせた。
「絶対に言いそうです」
顔を見合わせて笑っていると、バットに小麦粉を入れ終えたチェリシュが、フードカッターの中で粉砕されていくパンを見つめる。
「ルー……折角のパンが粉々なの……」
「これは、パン粉といって……いまから、美味しくなる手助けをしてくれるのです」
「美味しくなる……手助け……パンは形を変えて、復活する……なの!」
眉尻を下げて粉々になるパンを見ていたチェリシュは、私の言葉を聞き、目をキラキラ輝かせて球体のドーム状になっている部分に張り付いた。
あ……ああ……透明なガラスのような場所に、小麦粉の手形がいっぱい……
あとで、綺麗にしておきましょう。
「頑張れー! なのっ」
粉々になるパンに声援をおくるチェリシュを微笑ましく見つめていたら、彼女は何を思いついたのか、先ほどモンドさんからいただいた、ベリリジャムがたっぷり入っている『うさぎぱん』を私に差し出してくる。
「リューの美味しいに……うさぎぱんもなる……なの?」
「それは、チェリシュが食べてくださいね。モンドさんがチェリシュのために作ってくれたものですから」
「あいっ!」
少しでもリュート様に美味しいと言って欲しいのか、チェリシュは自分の美味しいを我慢してまで好物を差し出してくる姿に、思わず胸が締め付けられた。
なんでしょう……こう……成長が嬉しいというか、切ないというか、可愛いというか……も、もう、すごく複雑ですが……チェリシュの気持ちが尊いです!
「リューは、みんなのために頑張っているの。チェリシュも頑張らないとなの!」
「私も頑張りますね!」
「ルーは少し休んだ方が良いの……」
え、そこは一緒に頑張りましょうというところでは?
何故か不満そうな顔をするチェリシュの横で、苦笑を浮かべる時空神様と目が合う。
「チェリシュの言う通りだと思うヨ?」
はて……私はそこまで無理をした覚えは無いのですが……?
思い当たる節がなくて困惑していると、レシピを配り終えたのか、弾丸のように弾けた真白が此方へ戻ってきた。
しかし、目測を誤ったのか、私めがけて飛んできたのである。
思わず硬直してしまった私に真白があわやぶつかるというところで、スッと現れた淡く輝く手がキャッチしてしまったのだ。
普通なら幽霊かと驚きそうなものではあるが、不気味さは一切感じない。
あれ? この手……って……?
光の幻のような手が誰の物であるか気づいたのは私だけでは無かったようで、真白は目を輝かせて、光の手に戯れ付きはじめた。
真白の反応からも間違い無い。
「ベオルフ様……色々とやれることが増えていませんか?」
「まあ、それだけ……君たちのシンクロ率が高くなっているってことデショ」
シンクロ率? 何の?
私の問いかけが言葉になる前に、大きな音を立ててキャンピングカーの扉が開く。
「まーしーろー!」
「ひゃああぁぁ、ごめんなさああぁぁいぃぃぃっ! でも、今は待ってー! 消える前に甘えてエネルギー充填するのー!」
「はぁ?」
光の幻のような手に戯れ付き抱きついている真白を見たリュート様は首を傾げ、説明を求めるように此方を見たが、何と言ったら良いのかわからず苦笑してしまった。
私の表情から察したのか、彼は納得したように「ベオルフか……」と呟き、一旦怒りを落ち着けて真白を見ている。
あ……そこは、待ってあげるのですね。
普段の姿とは違い、素直に甘える真白の様子に面食らったようだが、どこか安堵しているようにも見えるから不思議だ。
「いろんな意味で、すげーな。でも、本当に助かった。あのスピードでぶつかったら大変なことになっていたからな」
「そうですね……ありがとうございます、ベオルフ様」
本人が意識してキャッチしてくれたのかはわからないが、お礼を言って手に触れると、かすかなぬくもりと優しい何かが流れ込んできたのがわかった。
真白では無いが、ふとした瞬間に触れあえることが嬉しいのだ。
光の手は、私たちが無事であることを確認したからか、ゆっくりと消えていく。
消えゆく光の手に一抹の寂しさを覚えたのだが、真白はそんな余韻を感じる間も無く、新たな手に囚われていた。
「お前なぁ……あのスピードでルナに飛んでいくとか、馬鹿なのか?」
「わ、悪気は無かったのー! 目測を誤っちゃったの、ごめんなさいぃっ!」
再び賑やかになった厨房の中で、チェリシュが妹を庇うように「許してあげてほしいの! チェリシュも一緒に謝るの!」と言いだし、リュート様は困ったような表情のまま、お仕置きとばかりに真白をもにもにしている。
それがお仕置きになっていないとわかっている私と時空神様は、肩をすくめてできあがった大量のパン粉を取り出し、バットに敷くのであった。
450
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。