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第十章 森の泉に住まう者
10-14 頼りになる新たな仲間
しおりを挟むリュート様の報告というのは、私が眠った後にイルカムに入った通信で呼び出された相手からもたらされたモノであった。
今現在、私の目の前には小さな物体が自己主張をするように、その小さな手を天高く振り上げている。
リュート様のアイテムボックスに保管されていたゴーレムは、起動させてからずっとこの調子だ。
会話こそ無いが、何かを必死に訴えかけるその様子は愛嬌があるのだが……
あまりにも段ボールの箱で組み立てた、無骨だが可愛らしいキャラクターに似ていて、何と言って良いのかわからない。
いや、段ボールよりも丈夫な金属を使い、四角と長方形と丸で体は構成されているのだが、申し訳程度に付けられた小さな丸い目と三角形の口が、その印象を強くするのだろう。
「この子がゴーレム……ですか?」
「ああ、そうなんだ。レシピの習得システムに関しては、まだ完全に構築されていないが、それ以外の動作確認を頼まれたんだけど……」
私の反応から何を思い浮かべているか理解しているのか、リュート様は軽く肩をすくめて見せた。
「俺からボリスに求める改善点は手だな。この手だと上手く調理が出来ないから、人と同じようにして欲しい」
「関節を増やすのですね」
「故障の原因になりやすいだろうが、このままだと調理器具も扱えないからな」
「そうですよね……」
現在、小さなゴーレムの手は球体だ。
腕や脚や肩などの関節となる場所も球体になっていて、可動領域を確保しているらしい。
こうなると、ゴーレムというよりもロボットに近い。
「昔は石や木がメインだったけど、シルヴェス鉱がうまく働いたみたいダネ」
小さなゴーレムを見ていた時空神様は指先で触れて、色々と確かめているようだ。
その指先を不思議そうに眺めていた小さなゴーレムは、時空神様、リュート様、私、チェリシュ、真白と順々に視線を移動させて首を傾げる。
マスターであるボリス様がいないので、寂しいのかも知れない。
そう心配していたら、何故か小さなゴーレムは真白の前へ行き、周囲をくるくる回り始めた。
「え? なになに? 真白ちゃんが可愛くてうらやましいってー? しょうがないなー、観察するくらい許してあげようー!」
ふふーんっと胸を張って見せる真白の言っていることが正しいのかわからないが、お礼を言うように小さなゴーレムが頭を下げるので、言葉が通じているのではないかと思ってしまう。
タイミングが良かっただけ?
私が抱いた疑問をリュート様と時空神様も感じたようで、思わず視線を走らせて「どう思いました?」と確認してしまう。
「真白。お前、そのゴーレムの言っていることがわかるのか?」
「え? リュートはわかんないのー?」
「……お前って意外と規格外だよな」
「まっしろちゃん、すごいの! チェリシュもお友達になりたいの!」
「ふむふむ、チェリシュ、この子が嬉しいってー!」
「チェリシュも嬉しいの!」
すぐさま仲良くなったお子様組を見て、さすが……と感心したら良いのかわからないが、どうやら打ち解けたようだ。
小さなゴーレムは、真白に身振り手振りで何かを語っているらしく、チラリと私を見てから、さらに激しく訴えだした。
な、何か……気に障ることでもしてしまったのだろうかと不安になっていると、真白が「ほほぅ!」と口を開く。
「なるほど、ルナたちの力になりたいけど、この姿だと難しいから何とかして欲しいってことね!」
え……?
思わぬ方向へ話が進んでいると悟った私が問いかけるより早く、真白は再び口を開く。
「真白ちゃんにお任せ! そうだよね、自分のなりたい姿ってあるよね! 三割の力しか出せなくても、真白ちゃんなら可能だよ!」
そう言ったが早いか、真白は翼を大きく広げて小さなゴーレムに触れる。
「ま、真白っ!?」
「お任せあれだよー! ちゃんと、可愛くて感情表現が出来る感じにしてあげるからね!」
え、えっと……はい?
もしかして、ゴーレムを改造しようとしているのですかっ!?
真白の真意に気づいた私とリュート様が呆然と見守るなか、小さなゴーレムの体が光に包まれ、輪郭が薄れていく。
そして、一度光の球体になったかと思ったら、一気に大きさを変えてチェリシュと同じくらいの大きさへと変貌を遂げてしまった。
「これでどうー? イメージ通り?」
自らの手を見てコクコクコクコクと何度も頷いた小さなゴーレムは、先ほどと姿が変わっていた。
いや……姿よりも何よりも、ボリス様は同じものを造れるのでしょうか……と、心配になるような仕上がりになっていたのである。
角丸長方形の顔にはキャットシー族のような耳がついており、体は長方形と球体で出来たものとは違い、先ほど骨格をベースに柔軟性のある表皮を改めて装着しているような滑らかさがあった。
しかも、ご丁寧に尻尾があって、ゆらゆらと揺らめいている。
何より特筆すべきは、顔の作りだ。
これは――
「液晶……ですよね?」
「そ、そう……だな」
「なるほど、感情を表現するにはわかりやすいかもネ」
黒い液晶の顔には、まん丸い目と猫口が空色に光っていた。
日本でスマホやタブレットなどの電化製品を扱っているなら馴染み深いが、此方の世界では異質ではないのだろうか。
その点が心配になるが、小さなゴーレムは満足げである。
「真白……お前さ、それ……ボリスが造れねーだろ」
「えー? 造れるよー! 材料はあるもん!」
「技術力の問題だっつーの!」
「リュートに教えるからー」
「俺の仕事をナチュラルに増やしてんじゃねーよ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ口論を始めたリュート様と真白の横で、早速チェリシュが小さなゴーレムと手をつないで此方へやってきた。
すぐに仲が良くなったのか、楽しげに会話をしている……というか、一方的にチェリシュが話をして、小さなゴーレムがそれを聞き、黒い液晶画面に浮かぶ顔を変化させている感じだ。
驚きの表情、呆れた表情、あちゃーと目を覆うような仕草――と、様々である。
「ゴーレムさんは、その姿になりたかった……なの?」
コクコク頷き、ニコッと笑う。
それがまた可愛らしくて、思わずチェリシュとまとめて抱きしめてしまった。
リュート様と真白の口論からわかったことだが、どうやらボリス様でもボディーを作ることは可能で、既にその技術も習得済みとのこと。
真白……よくそんなことがわかりましたね……
未だに続くリュート様と真白の言い合いを見ていたら、クイクイッと腕を引っ張られた。
何だろう……?
視線を向けると、先ほどまで表情が浮かんでいた真っ黒な液晶に文字が並んでいる。
≪これで、みんなと一緒に作業ができます! これから、よろしくお願いします!≫
浮かんだ文字を見て、なるほど……この子は可愛いだけではなくて、とても賢いのだと理解した。
表情だけではなく、文字を使って意思表示をすることを考えつき、その最良の手段を真白にお願いして実現したのだ。
「ナルホド……ゴーレムには音を発する機能が無いからか……コレは考えたよネ。後輩のための実現が可能な領域で、最善を尽くしたとは……ヤルネ」
「リュート様、真白を怒らないであげてください。この子が望んだ一番の形に仕上げてくれたようです」
「ん? ……へぇ、なるほどなぁ……それを自分で考えたのか? さすがは核が違うと、能力値も違うんだな……ボリスが聞いたら驚くぞ」
リュート様は興味深そうに小さなゴーレムを抱え上げる。
わっ! と驚いた表情を見せていた小さなゴーレムは、次の瞬間には楽しげな顔になって――本当に表情が豊かだ。
「コレは、頼もしい仲間が出来たネ」
「はい。私のレシピを覚えてもらって、調味料を沢山作ってくれたら、いつかみんなに使って貰えるようになるでしょうか」
「そうだね……いつか、きっとそうなるヨ」
時空神様が微笑み、力強く頷く。
それが嬉しかったのが「ゼルにーに!」とチェリシュが勢いよく抱きつき、リュート様は小さなゴーレムと真白を抱えて楽しげに会話をしている。
「はー……やっぱ、このパンが一番驚きだよなぁ……」
「硬くねぇし、ふわっふわで……じいちゃん達にも食わせてやりてぇなぁ」
「うちのおばあちゃんも、最近はパンが食べづらいって言っていたし……このパンの作り方、覚えられないかなぁ」
「私もお母さんやお父さんに食べて貰いたいわ」
「絶対に驚くよな!」
「驚くよね! 美味しいし柔らかいって!」
不意に、楽しげに談笑する声が聞こえてきた。
うん……そうですよね、こうやっていつか皆が食事を目の前にして、これが美味しかった、アレが美味しかったって話を弾ませる。
周囲の人々の力を借りて、美味しい食事が目の前にあるのが当たり前になる未来に、一歩、また一歩と近づくのだ。
「ゴーレムさん、これからよろしくお願いしますね」
≪お任せください!≫
力強く液晶画面に文字を浮かび上がらせて頷く新たな仲間に、チェリシュと真白も大騒ぎだ。
リュート様も、小さなゴーレムの顔を眺めながらフッと笑って此方へ顔を向けた。
「ルナ。この仕事、受けていいよな?」
「無理のない程度でお願いいたしますね? 倒れたら嫌ですから……」
「あー、リュートくんだけが頑張る必要は無いヨ。いい神を紹介するから、暫く待っていてネ」
「いい神?」
誰のことを言っているのか心当たりが無かった私たちは、顔を見合わせて小首を傾げる。
「仕事が無くて手持ち無沙汰なんだけど、有能な神ダヨ。ヘタな事もしないだろうし、父上には絶対服従だから大丈夫ダヨ」
「オーディナルに服従していない神なんていねーだろ……」
「一柱いたけどネ……」
「へぇ? そんな奴がいるのか」
「……いたんだよ。凄い神だったんダ」
穏やかに微笑む時空神様から何かを感じ取ったのか、リュート様はそれ以上聞くことは無かった。
おそらく、前時空神様のことだろう。
尊敬する兄を思い出して寂しげにしている時空神様が元気になるように「この時期に作る、兄の桜餅は絶品ですよ」と呟いた。
すると、効果はあったようで、パッと此方を見た彼は「うそ、桜餅も作るなんて聞いてナイし食べたこともナイ!」と大騒ぎし始め、リュート様も眉根を寄せる。
「桜餅とか……絶対に旨いだろ」
「ヨモギをたっぷり練り込んだ草餅や、苺のシフォンケーキも美味しいですよ?」
「うわっ! 食いたい!」
「俺も食べたいヨ!」
和菓子の話で盛り上がり始めたリュート様と時空神様をよそに、チェリシュは「苺=ベリリ」だということを学習していたのか、興味津々で「シフォンケーキ……なの?」と問うた。
「ええ、苺のシフォンケーキ……そうだ、材料はあるから今度作りますね。ふわっふわなケーキなんですよ?」
「ベリリのシフォンケーキ……楽しみなの!」
「真白ちゃんも食べるー!」
≪お手伝いします! 楽しみです!≫
可愛らしくはしゃぐお子様組の頭を撫で、遠征中では難しいだろうかと考え込む。
そろそろ甘いお菓子が欲しいのではないかと、少し離れた場所に座っているイーダ様たちの横顔を眺めながら、シフォンケーキは難しくとも簡単で沢山作れるお菓子が無いか頭を悩ませるのであった。
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ジュン・イノユエ
↓
ヤマト・イノユエ
日本人らしい名前を採用しました。
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします!
上記のようにウェブで掲載されておりましたお話と比べ、校正に際し変更した点などもございますので、その違いを楽しんでいただけたら幸いです。
応援ありがとうございます!
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