ロード・オブ・ファンタジア

月代 雪花菜

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再度チャレンジしますか?

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 俺に蹴られるキュステを同情の眼差しで見ていた拳星は、それで刺激して自分に被害が及ぶことを恐れたのか、両手を合わせて拝んだ後、助けず放置することを選んだようで、チルルと共に内部から検索できる掲示板にアクセスし、情報収集をし始めた様子であった。
 一連の動作を視野の端で捉えていた俺は、テーブルに突っ伏していじけているキュステの頭を指先で突きながら声をかける。

「で?お前さ、この先どうするつもり?」
「この先て……」
「ラビアンローズのギルドハウスになりてーの?」
「出来れば回避したいけど、策らしい策もあらへんし……どないしようか悩んでるところやわ」
「ギルドハウスという提案だから、白の騎士団では手が出せないな。暴力沙汰になっているなら話は別なのだが、そういう話でもない」

 確かに、店に直接的な被害を与えていたら話は早かったのだろうが、今回みたいに間接的……といっていいのかどうかも怪しいが、ラビアンローズのマスターそのものが持っている厄災みたいなものが原因の場合は、白騎士の介入は難しいだろう。
 いっそのこと、さっきの親衛隊長みたいに、店で暴れてくれたら話が早いのだが……そこまで馬鹿じゃない……はず。

「ギルドツリーの宝珠の情報は、やっぱり出てないなぁ」
「公式も、フィールドドロップと、NPCとの信頼度としか書いてないわねぇ」

 拳星とチルルが見ていた大手攻略サイトの最新情報でも、未だ発見報告がないという……どこにあるのやら。

「見つけた人に情報提供を求めるスレばかりですね」
「いまだ発見報告が無いということは、ラビアンローズも手に入れてねーってことだから、喜ばしいことだが……」

 いつの間にかハルくんも情報収集にあたっていたようで、お説教されていたはずのルナは、アーヤのところへ移動してしまい、二人で話し合いをしているようであった。
 やけに右側がスカスカすると思った……
 だがしかし、「戻っておいで」というにも、そんな権限がないことに気づき、恨めしげに妹を眺めるだけである。
 それに気づいたアーヤは意味ありげに笑ったのだが、ジェスチャーで「少しだけごめんね」としているから、こちらへ戻してくれる気はあるらしい。
 まあ……それならいいか。

 情報は全く無いし、周知されている条件が本当に合っているのかもわからないが、第一条件のクリアがギルドツリーの宝珠をドロップすることに間違いはないだろう。
 先程の仮説が正しいのなら、今も狩りをしているアイツラがドロップするかも知れないという危機感が拭えない。
 弱ったな……フィールドドロップでも初期エリアというのは、間違いなさそうだが、手当り次第ってわけにもいかねーし、NPCとの信頼度って家主だけでいいのか?

「ねー、お兄ちゃん」

 俺とハルくんと拳星とチルルで情報を探している横からアーヤが「ねーねー」と、話を絶対に聞いて欲しい時にする、肩に手を置いてトントン叩くという行動を取った。
 この時は聞いてやらなければならない……コレをスルーすると、後で何をされるかわかったものではないのだ。

「んー?」
「さっき考えてまとまったことって何だったの?」
「ああ……さっきラビアンローズのマスターに出会っただろう?珍しい場所にいるものだと考えてたんだが、もしかしたらギルドツリーの宝珠ドロップの情報を得ていたんじゃねーかって思ってな」
「初心者エリアでドロップするってこと?」

 その可能性が高いと告げると、アーヤは思い出したようにアイテムボックスから大きな箱を取り出した。

「じゃあさ、この宝箱とか確認したら出てきたりしない?」
「そんな奇跡みたいなこと起こるわけねーだろ」

 都合が良すぎるし、初回ドロップがギルドツリーの宝珠だなんて、どんだけ豪運なんだよ。

「だって、お兄ちゃんってこういう時の運が半端ないじゃない?」
「俺かよ。でも敵に襲いかかったのはお前だろうが」
「でもさー、なんかこの宝箱、豪華じゃない?」
「アーヤちゃんの擁護をするわけではないんですけど、その宝箱は他の物とデザインが違うような感じがしますね」

 情報サイトの宝箱のエフェクトを見ていたらしいハルくんは、アーヤが持っている宝箱を見て首を傾げている。
 うん?
 よくよく見ると、いつも一般フィールドで手に入るドロップの宝箱とは違い、鍵穴の場所がクリスタルになっていて、装飾も少し豪華だし仄かに輝いているように思う。
 ノーマル宝箱の地の色である白であったから、気にしては居なかったのだが……

「拳星、チルル……」
「いや、見たことない」
「無いわね……こんな宝箱のデザインがあったの?」

 このゲームをするようになってから、一般フィールドドロップの宝箱や、ダンジョンやボスの宝箱を見てきたが、全部鍵穴がついているタイプで、宝箱の地の色に金の装飾というのは変わらない。
 しかし、鍵穴のところにクリスタルがあり、両サイドに白い宝珠と黒宝珠が添えられているという見たこともないタイプだ。

「初心者エリアの宝箱のエフェクトが変更されたのか?」
「そんなお知らせは来てないみたいだけどなぁ……」

 攻略サイトの資料と目の前の宝箱を見比べてうーんと唸っている拳星に続き、ルナは興味津々といった様子で角度を変えて宝箱を眺めていた。
 目がランランとしていて、ちょっぴりいたずらっ子の雰囲気が出ているルナなんてレアな感じがして、可愛らしく思う。
 なんか……いいよな、ずっと眺めていられる。
 ジーッとルナの様子を見ていると、わざとらしい綾音……アーヤの咳払いが聞こえ、何だよと視線を向けたら、ニヤニヤ笑ったあとに片目を閉じて「これは勘なんだけどねー?」と、話を切り出した。

「多分だけどさ、お兄ちゃんがPTに入ったから出てきたんじゃないかなーって思うわけよ。もしかしたら、もしかするかもよ?」

 こういう時のアーヤの勘が当たることを、俺だけではなくルナとハルくんも知っているのだろう。
 思わず3人で顔を見合わせて、1つ大きく頷いた。
 これで出なくても当然だし、疑わしいという場所が確定できたら全員で狩りに行けばいい。
 初心者エリアで狩るならルナたちの経験にもなるし、もともとタンクのいないPTの盾役をするつもりだった。

 でも、綾音がそういうのなら、賭けてみてもいい気がする。

「お兄ちゃんが開けてね。強運をこういう時に使ってくれなきゃ困るんだから」

 テーブルに置かれた箱を、みんなが言葉を忘れたように見守った。
 強運か……まあ、確かに昔から変なところで運がいい。
 激レアアイテムをゲーム内課金ガチャで引き当てたり、ダンジョン攻略ではわりと良い物をドロップする。
 これだけ引き当てておいて謙遜し「運が無いから」なんて言ったら、そのアイテム欲しさに何度もダンジョンに潜っている人に対して嫌味に聞こえるだろう。
 変なところで運が良かったり、引きがいいのは認めるが、こういう時に発動してくれるかわからない。
 俺のことだから、こういうときほど引きが悪かったりするときもある。

 頼むから、みんなの為にもギルドツリーの宝珠が出てくれますように……

 みんなが固唾を飲んで見守る中、奇妙なプレッシャーを感じながら祈るような気持ちで宝箱に手を伸ばす。
 そして、その宝箱を開けるかどうかの選択肢が出たところで「yes」を選ぶと、何故かキャンセルされてしまった。
 その後にメッセージが表示される。

【この箱を開くには、黒騎士と白騎士の許可が必要です。再度チャレンジしますか?】

 は?
 許可?

「ど、どうされたのですか?リュート様」
「い、いや……この箱を開くのに、黒騎士と白騎士の許可が必要とか……システムメッセージが……」
「なるほど、やはりコレは【神々の遺産】であったか」

 心配して俺に声をかけて見上げてきたルナの隣にいたヴォルフが納得したように頷き、箱に手をかける。

「白騎士の許可は、私が出そう」
「それはありがたいが……【神々の遺産】ってなんだ?」

 俺の質問に、ヴォルフは首を傾げ「知らなかったのか」と呟いたあと、平坦な声で淡々と説明してくれた。
 神々が地上に長くとどまることでマナの輝きから稀ではあるが結晶が誕生し、それを取り込んだ魔物が突然変異を起こすことがあるらしい。
 そして、その魔物を討伐した際には、普段とは異なる物が手に入るという。
 魔物から手に入れることができる普段から異なる物を、この聖都では【神々の遺産】と呼ぶようである。

「つまり、アーヤは初心者のくせに初っ端から【突然変異種】に喧嘩を売って突っ込んだということになるのか。違う意味で運がいいのか悪いのか……」
「え、えへっ」

 可愛らしく言っても効果ないからな?
 呆れて物が言えない状態になっている俺は、ジトリと妹を見やる。

「アーヤちゃんはスゴイのね。普通とは違う魔物を見分けちゃったの?」
「い、いや、そういうわけ……では……ないけど、あ……でも、少し周囲と違う変な気配みたいなのはしたかな?」
「さすがはアーヤちゃんだね」
「ルナに褒められて嬉しい!どこかの誰かさんは見習って欲しいわー」
「うるせーわ。お前はもうちょっと反省しろ」

 調子に乗るなと頭を小突いてやると、「ルナ、お兄ちゃんがいじめるー!」と後ろへ隠れてしまい、間に挟まれたルナは俺とアーヤを交互に見てオロオロしているのだが、何だかそれがとても可愛らしい。

「へえ、面白いものを手に入れたんだね。確かソレって、万が一を考えて黒騎士の許可も必要だったよね」

 そう言って店の扉から入ってきたのは、先程広場で見た柔和な笑みを浮かべるロンと呼ばれていた黒騎士であった。
 
 
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