ロード・オブ・ファンタジア

月代 雪花菜

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リュート様のためにも必死に頑張りますねっ

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 アンピプテラから出た宝箱をまずは開く。
 中に入っていたのは、回復系ポーション数種類とハルくんが使えそうな魔術書に付け加え、見慣れない宝珠だった。
 その宝珠に触れてみると、アイテムデータが俺のウィンドウに表示される。

『簡易工房セット』

 え……こんなところからコレって出るのかよ。
 このゲームでも、このアイテムから獲得できる『専門簡易工房』を所持している人はほとんど居ない上に、入手条件やドロップ情報も少ない。
 現在実装されているダンジョンのボスからドロップするという情報が、攻略掲示板に報告されているだけなのだ。
 生産職がいるパーティーには、大当たりの部類だろう。

「お兄ちゃん、なにそれ」
「専門簡易工房が獲得できる簡易工房セット……」
「へ?工房?」

 この宝珠がどれだけ貴重アイテムなのか理解している拳星とチルルはぎょっとした表情で顔を見合わせているが、他の面々はイマイチわからないといった様子である。
 まあ、そうだろうな……
 この世界のフィールドでは、どの職業も特殊エリア以外でのスキル制限がない。
 特殊エリアに該当する街を例にあげれば、先程の騒動から考えてもわかるように戦闘スキルが制限されている。
 それだけではなく、生産スキルも工房がある場所での使用しか認められてはいない。
 あとは、ギルドハウスやNPC合意のもとでの敷地内制作だ。
 特にギルドハウスは特殊な一面を持ち、街の中にあっても特殊空間という扱いになり、工房では生産が、闘技場では戦闘スキルの使用が認められている。
 簡単なものであればどこでも作ることができそうな生産職が、限定エリアのみでしか生産できなくなったのには理由があった。
 どうも、テストプレイヤーを募って行ったクローズドβ時代に、道端で人々の往来の邪魔をしながらアイテム制作に没頭したバカがいたらしく、様々な苦情が寄せられたゆえの対策らしい。
 その世界にいる人々の生活など全く考えない、大迷惑行為だ。
 しかし、クローズドβでそれがわかってよかったと思う。
 絶対にそういうヤツは1人ではないだろうから……

「まあ、そういう専門的な場所がないと作ることが出来ないというのは理解できるかな」
「道端作成は迷惑だったからなぁ」
「アレはナシよね」

 拳星とチルルはその件の現場に出くわしたらしく、呆れ返るくらい人のことを考えられない奴が居るものだとよく言っていた。
 実際に俺が出くわしていたらどうなっていただろう。
 拳星いわく、3時間は正座で理詰めの説教らしいが……そこまでしねーよ?
 た……たぶんな。

「じゃあ、これは……」

 俺たちは顔を見合わせて頷き合う。
 イマイチわかっていないルナがキョトンとしているが、彼女に向かって宝珠を差し出した。

「ほら。ルナが使ってくれ」
「……は、はいっ!?」
「ルナちゃんが使って、これからも美味しいお料理を作ってくれると嬉しいわ」
「肉も旨かったし、期待大!」

 俺、チルル、拳星にそう言われたルナは、え、でも……とオロオロしているのだが、彼女に近づいて手を取り宝珠を握らせる。
 どうしたら良いのかわからず助けを求めるように見上げてくるルナに、思わず苦笑してしまった。
 そんなに縋るような目で見られても、ここは大人しく貰っておいて欲しい。

「これからもルナの料理が食べたいし、ダンジョン内にある特定エリアってさ、かなり奥へ進まないと無いんだよ。コレがあれば、ダンジョン内ならどこでも作ることができるし、ルナが持っていて料理を作ってくれたら、俺たち全員が助かるんだ」
「……全員が助かる?」
「ルナの料理がこれからは必要だからな」

 みんなに必要なものをいつでも作ることが出来る……と宝珠を見つめながら呟く彼女を見ていた妹ががばっとルナに抱きついた。

「良かったじゃないっ、メイン料理人の本領発揮だよー!」
「でも……他にも生産職が……」
「メイン生産職のルナが持っているほうが良いんじゃないかな。いざっていう時に使えないなら意味がないよ」

 アーヤとハルくんにもそう言われたルナは、宝珠を両手で大切そうにギュッと握り、ペコリと丁寧なお辞儀をする。

「あ、ありがとう……ございます。私、精一杯頑張りますっ!」

 最後はガバリと勢いよく体を起こして宣言した彼女の目はキラキラ輝いていて、やる気に満ちていることが嬉しい。
 俺と拳星とチルルだけのパーティーだったら、売ってお金にしたかもしれないが、こうやってルナに使ってもらえることのほうが何倍も喜ばしく思う。

「メイン料理人だと大変だとは思うけど、これからも頑張ってくれな」
「はいっ!リュート様のためにも必死に頑張りますねっ」

 え、あ、いや……俺の……ため?
 意図した発言ではないとわかっているのだが、こんなに可愛らしい女性に言われて喜びを覚えない男などいないだろう。
 それも、好意を感じているルナの言葉である。
 めちゃくちゃ可愛い表情と、澄んだきらめく瞳で「俺のため」なんて言われたら舞い上がってしまいそうだ。
 にやけそうになる口元を慌てて手で覆ったのだが、隠しきれない動揺から一瞬だけ視線が泳ぎ、ニヤニヤと笑うアーヤたち……から視線を慌ててそらした先に、何故かニヤリと笑うヴォルフとロンバウドの様子が視野に入り顔が引きつる。
 そ、揃いも揃って……!
 いや、しかし、ここで何も言わないのはルナが可哀想だ。
 遠慮がちに「あ……ああ、頼むな……」と返事をしたら、彼女は嬉しそうに微笑んでくれたが、そんな俺の耳に「またあこうなってはるわ」という声が聞こえ、すかさずその相手の脛に蹴りを繰り出した。

「痛っ!なにしはるん」
「うるせーわ」
「彼は耳が良いのです」

 シロから呆れられた視線を投げかけられクロとマロに笑われながら心配され、奥さんの冷たい声と痛みに涙目でしょんぼりしているキュステは放っておいて、宝箱の中に入ってポーションを抱え込んで「キラキラがいっぱいなのっ」と遊んでいるチェリシュを抱き上げる。

「こら、中に入っちゃ駄目だろ?蓋が閉まったら大変だ」
「かくれんぼなの?」
「いや、さすがにやめてくれ、見つけられなくなるから駄目だぞ」
「あいっ」

 俺がチェリシュを宝箱の中から回収している間に、どうやら簡易工房は白騎士への届け出が必要だったらしく、ルナはヴォルフから説明を受けながら管理者登録をしている真最中だ。
 さて、もう一つの方も開けるか……
 先程から妹が、視線で「開けろ」と催促してくるのだから困ったものである。
 しかし、幸先が良い。
 この流れに乗って、キュステたちの店を助けられるアイテムが出てくれないだろうか。
 天にも祈る思いで、最後の宝箱の蓋に手をかける。

『この世界の者を救いたいと心から願う者に祝福を───』

 とても優しく……耳に心地よい柔らかな女性の声が聞こえた気がした。
 自然と天を見上げ確認してしまうのだが、当たり前のように何もない。
 ただ、ひらりと桜のような花びらが落ちてきただけだ。
 春の季節だから桜でも咲いているのだろう。
 この世界にも桜があるのか、今度みんなで弁当を準備して花見をするのも良いかもな……と口元を綻ばせて開いた宝箱の中には、小さな宝珠が一つだけ入っていた。

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