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これが俺の祖父母の教えだ
しおりを挟むそこそこ大きな宝箱に入っていた小さな宝珠という違和感に、伸ばそうとしていた手を止めてしまった。
なんだろう……コレって変な罠じゃねーよな。
警戒している俺をよそに、「なにこれー!」と手を伸ばして拾い上げたアーヤに頬が引きつるのを感じた。
こ・い・つ・はっ!
問答無用で額にチョップをくれてやると、痛いと文句を言われたのだが、こちらの表情を見たアーヤは明らかに「マズイ」といった様子を見せる。
そして、慌てて手の中の宝珠を俺に押し付けた。
「こ、これ、なんだろうねっ」
「アーヤ……」
「ご、ごめんなさい……つ、つい?」
「以後気をつけるように」
「は……はい」
ジリジリ下がったアーヤはある程度距離を取ると脱兎のごとく逃げ出して、ハルくんの後ろへ隠れてしまう。
全く……そういうところは全く変わんねーな。
助けを求める相手が、おふくろかハルくんに変わっただけじゃねーかよ。
「え、えっと……とりあえず、な、何なんでしょうね……」
俺たちの間に挟まれた形になったハルくんが焦って間を取り持とうと言葉を選んでいる。
本当にそんな妹で良いのか?
良い人過ぎるだろう。
「とりあえず、小さな宝珠のようだな。どんなアイテムなのかわかるのか?」
ヴォルフに問われてチラリと視線を向けたら、いつの間にか定位置とでもいうかのようにルナの隣にいて、俺たち兄妹の争いに巻き込まれないようガードしていた。
……守護者か何かかな?
心配そうな顔をしているルナに心労をかけるわけにもいかないから、まずは手元に戻ってきた宝珠を鑑定してみる。
「……あれ?」
いつもだったら自動鑑定されるはずなのに、アイテムの説明を見ても『?』としか書いていない。
これは初めてのことだ。
システムのバグか?
「どうしたリュート」
俺が見えないだけかも知れないと思い無言で声をかけてきた拳星に宝珠を手渡すのだが、どうやら同じ症状だったようで、首を傾げてチルルに渡す。
「なにこれ……鑑定できない?バグかしら」
「未鑑定アイテムなんてあったっけ?」
やはり二人も見たことがないようだし、バグ確定だろうか。
運営に問い合わせをしなければと考えていたら、店の扉方面から大きな影が入ってくるのが見えた。
「ロンの予測通り、コレが必要だったようだな」
「タイミングバッチリだよ、兄さん」
これ?と俺達全員の視線がロンバウドの兄に集まる。
しかし、この人……マジでデカイな。
体つきも逞しく、物語に出てくる理想の騎士といった風情だ。
いかつい顔つきだが、やはり静かな湖面を思わせるほどの澄んでいて優しい瞳は見間違いじゃなかったようだ。
「神々にまつわるアイテムは、十神の一柱である知恵の神が管轄している鑑定スキルが刻まれたスクロールが必要になるのだ」
え?
そんな話は聞いたことがないんだが……
も、もしかしてこのゲーム……この世界の人間と交流がないとわからない情報が沢山あるのかっ!?
俺たちが驚いている様子を見ていた彼は、俺にスクロールを渡してくれた。
「え、えっと……あの……」
「この前、うちの団員の奥方と子供が魔物に襲われているところを助けられたという報告がきている。これはその礼だ」
「当たり前のことをしただけだから、これは受け取れない。黒と白の騎士団だって街の人を守るために日々努力しているだろ? 冒険者だって街の一員として頑張っているだけだ」
綺麗事と言われるかもしれないが、これが俺の偽らざる気持ちである。
この世界を救うなんて大層なことは考えていないが、何かの縁で知り合った人たちくらいは守りたい。
「俺の世界では、袖振り合うも多生の縁って言葉がある。ふとした触れ合いにも前世からの縁があるかもしれないっていう意味を持つんだ。道端で子供が転んで言葉を交わしただけの関係であっても、これも何かの縁だからって考えるし、魔物に襲われそうになっている戦えない人を無視することなんて俺にはできない」
多分、数日前に道端で派手にころんだ子供を連れた女性が夫は騎士をしていると言っていたから、その件だろうと目星をつけて話してみると、どうやら正解だったのかロンバウドの兄である彼の瞳が僅かに驚きの色を見せた。
「厄介事に巻き込まれて苦労するタイプだな」
「うぐっ……それもよく言われるが、これが俺の祖父母の教えだ。変えるつもりはねーよ」
「……よい祖父母だ」
心からそう思っている様子で笑顔をみせてくれるが……な、なんか笑うと印象がガラリと変わる人だな。
少年みたいで好感が持てる。
「それに、俺はアンタに広場で助けられたんだしチャラだよ」
「あれこそ気にするようなものでもないだろう」
介入しなくても自力で解決できたはずだと静かな口調で告げられるが、そんなことはないと否定しておく。
だってさ、あっけないくらい簡単に終息したのは黒騎士である彼らとヴォルフのおかげだ。
「自己紹介が遅れた。私はテオドール・ラングレイ。聖騎士であるラングレイ家長兄にして、次期当主になる者だ」
「俺はリュート。アルベニーリ騎士団のギルドマスターをしている。ギルドメンバーは、あっちから、拳星、チルル、ハルヴェルト、アーヤと続き、ヴォルフの隣にいるのがルナだ」
少し離れた場所でヴォルフに守られているルナは、いつの間にやらチェリシュにおねだりされてベリリを可愛らしく切りイチゴに砂糖とミルクをかけて食べさせているようである。
……いつの間にっ!?
てか、あの小さい体はまだ食べ物が詰め込めるのかっ!
「うまうまなの」
「甘味が少ないベリリでも、お砂糖と牛乳があれば美味しくなりますよ」
「飲み物になりそうだな」
「いちごミルクを作ってみましょうか?」
天然というか呑気というか、ルナとヴォルフって雰囲気が似ているよな。
俺と同じくルナたちの方を見ていたテオドールもヴォルフの様子に驚いたのか、それともチェリシュがいることに驚いたのか、数回まばたきを繰り返していた。
「バフ効果のあるレシピにはならなくても、自由に作ることができますし……作るのが楽しいですね」
ああ、なるほど。
レシピにある料理はバフ効果がついている物がほとんどだから、ソレ以外は作れないのかと考えていたが、どうやら普通に他の物も作ることが出来るらしい。
そういう考え方は無かったな……他の生産職でも、ルナと同じ考えを持つ者がいるのだろうか。
強化値がつかない効果がない物を作るなんて、材料の無駄だと言いそうな連中が大半だろうが、ルナみたいな思考を持って動いている人は面白いと感じる。
そういう人とは、今後も付き合っていきたいな。
しかし、待てよ?
Lv50になったら開放される特殊生産の前段階でも自由に作ることが出来るってさ……それって予行演習にならないか?
その数値は解放後に上乗せされたり……ま、まさかな。
さすがにそこまで考えてシステムを作り込んでいたら、この運営は生産職に力を入れすぎだと思う。
だが、そういうゲームが少ない傾向にあるから、生産好きの人々の心を鷲掴みにすること間違いなしになる。
それはそれで面白いかもしれないな。
何よりも、チェリシュが笑ってベリリを頬張る姿は愛らしく、無表情だけど雰囲気が柔らかくなったと感じるヴォルフとリクエストに応えて奮闘しているルナを見ていると心が和む。
言葉もなくジッと見ていたら、チェリシュが「リューも食べる……なの?」とベリリを差し出してくれた。
「いいのか?」
「あいっ! みんなでうまうま美味しいのっ」
「サンキュ」
パクリと食べたら砂糖の甘味とミルクのマイルドさ、それに負けないベリリの甘味と酸味の調和がとれたみずみずしさを感じる。
これにベリリの香りが加われば最強だよな……と、俺は嗅覚実装が早くなれば良いのにと願わずには居られなかった。
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