黎明の守護騎士

月代 雪花菜

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月と華

21.どこの世界でも、お母さんって強いよねぇ

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「ところでさ、結月。アレって止める人いないの?」

 ハルキの言葉を聞いて私とルナティエラ嬢の視線が自ずと映し出されている世界へと移った。
 そこでは、リュートが大暴れの最中であり、その圧倒的な力から逃げ惑う青年たちの様子は、毎年の恒例だなと国王陛下が笑い話にされる父の訓練の風景と酷似している。
 力加減というものを知っているのか怪しい父から、命からがら逃げている新人騎士たちの様子と、あちらの彼らの姿に大差はない。
 どの世界でも同じということか……
 ただ、同じ光景でも違う点を上げるのなら、リュートと父とでは根本がまず違う。
 リュートはちゃんと己の力量と、相手の力量や癖などを考慮しつつギリギリのところを狙って攻撃しているのに対し、父は全く相手のことを考えずに一撃を加えて力量を図っている点だ。
 まあ、力量を量るという点で手っ取り早くてよいのだろうが、怪我人が後を絶えないのは問題だろう。
 そのうちそこに、弟のガイも加わることを考えれば頭が痛い。
 次に違う点は、逃げ惑う彼らの見事な連携にあるだろう。
 さすがに騎士団に入ったばかりの新人に、アレは無理だな。
 司令塔になれる者が何人か居て、その指示に従い決まった人数が動いている。
 ただ、その中でもリーダー格はいるようで、彼の号令は絶対なのだろうか、全員が一丸となって対処する姿が見て取れた。
 ふむ……よく訓練されているな。
 こういう相手を見ると片っ端から手合わせをして貰いたいと考えてしまうのは、父の影響だろうか。
 そんな訓練も一段落したのか、何とか凌いだ青年たちはリュートがいつもよりも調子が良いために力量を見誤っていることを指摘しはじめた。
 彼らの抗議に対し横柄な態度を取ることもなく、彼はすぐさま侘びた上に自らが経営している店の割引券を配るという対処に出る。
 とても仲の良いやり取りを見ていると、先程の大騒ぎも子犬のじゃれ合いのように感じられた。
 良い関係性だ……こういう相手こそ、本当に大変な時に助けとなる。
 きっと、彼らであれば何があっても万事うまくやってくれるだろうと思えた。

「良い信頼関係を築けているようだ」
「はい。元は全員同級生だったみたいです。仲が良くて羨ましいです」
「それを言うなら、私と貴女も同級生だろう」
「ただの同級生は嫌なのです。ベオルフ様は頼りになる兄がいいのです」
「……そうか」

 困った人だ。
 だが、その反面とても嬉しく感じている自分がいる。
 確かにただの同級生よりも、兄妹が良い。
 ルナティエラ嬢が本当の妹であったらと考えたことだってある。
 血のつながらない異性という立場は、いろいろと面倒過ぎるからな。
 まあ……血がつながっていてもいなくても、守ることに変わりはない。

『とりあえず、半額券は後でキュステから支給してもらうとして……だ。お前ら、今回の戦いで、下手すりゃこれくらいの魔法が飛んでくる物だと覚悟しとけよ』

 そんな考えに沈んでいた私の耳に、リュートの声が響く。
 どうやら、相手を見据えた訓練であったようだ。
 敵が使うだろう得意分野の魔法を主に使い、レベルも考えていることから、こういうことに慣れていると感じた。
 敵の情報収集能力に長けているのか……こういう男を敵に回すと痛い目にあうパターンだな。

『大地母神の神官戦士は土と光の魔法を得意とするからな。リュートの判断は正しい』

 主神オーディナルがそう呟くのを聞きながら、そこに含まれる何かの懸念を感じ取る。
 正しいのなら、何故そのような低い声でおっしゃるのですか。
 まるで不機嫌な声だとでもいうように感じますが?

『別段不機嫌ではないが、何か引っかかる物を感じてな……あちらの世界のことだから口は出さないが、それだけで済むようには思えない』

 リュートは彼らの対処として教えているだけで、本人はそれだけで済むと考えていないのかも知れませんね。
 そのための、チーム分けや支給されるアイテムではありませんか?
 彼らの会話を聞いている中で、チーム分けをされた理由が、アイテムの支給に関するものであるということは理解したばかりだ。
 この対処そのものに、何らかの意味があるのかもしれない。

『アイギスを使えば問題ないだろうし、考えすぎか……』

 こちらで色々ありましたから、あちらでもそうではないかと感じてしまうのは致し方ないことだと思います。
 何よりも、ルナティエラ嬢が関わることですから……

『そうだな。僕の愛し子を自らの手で守ることが出来ないのは、とても残念だ』

 ふぅとため息をつかれる主神オーディナルは本当に残念そうである。
 子煩悩というか、心からルナティエラ嬢を大切に考えているのだと改めて感じた。
 主神オーディナル、子らは貴方が心配するほど愚かではありません。
 リュートたちが父にナイショでことを進めているように、ルナティエラ嬢とて言われる通りに動くのではなく、自分で考えて行動することでしょう。
 それを見守るのも、また父の役目かと……

『お前は変なところが達観していて困る。自分の手で僕の愛し子を守りたいとは思わないのか?』

 勿論、私の手で守れるなら一番です。
 しかし、ずっと守ってやれないのが現実ですので、自らの手で困難に打ち勝つ強さも身につけて欲しい。
 ただ、それは自らの身を削るものではいけないのだと教えてやりたいですね。

『自分のことは棚に上げていないか?』

 お互い様でしょう。
 父たる貴方からやっているのですから……

『そう……だな。仕方ないな』

 苦笑を浮かべた主神オーディナルは、少しだけ嬉しそうに頬を緩め、私の方をチラリと見た。
 何かそれほど喜ぶようなことを言っただろうか。
 だが、私の言葉の中に喜びを見出していただけたのなら嬉しく思う。
 私達が話をしている間にも、流れる風景の中で仲の良さそうな兄弟3人が勝手に決めて進めている作戦に待ったがかからないか心配になった者の発言を受け、1人の女性が悠然と微笑んだ。

『大丈夫よ。あの人はそんな小さなことで狼狽えたりしないわ。これは大地母神様の一大事、時空神様からウチの娘に直接依頼されたこと。つまり、当家に関わる大問題なのよ? 当主が娘を守るために最善をつくすのは当たり前ではなくて?』

 まあ、そういうものではあるが……明らかに私の母に似た部分を持つとわかる物言いだ。
 こちらのほうが幾分大人しく、優雅ではある。
 やはり、上に立つ者の妻とはこういう風なものなのだろうか、芯の強さが似ていると感じた。

「まるで、母のいうことに逆らうなって示し合わせているようだな」
「そう見えますよね……」
「どこの世界でも、お母さんって強いよねぇ」

 ルナティエラ嬢だけではなくハルキも何かを思い出している様子であることから、ルナティエラ嬢の前世である「ユヅキ」と呼ばれる女性の母も似ているのかもしれない。
 しかし……あの「噂は噂よ」と言い切り裏から貴族社会を操る手腕を持つ母は、「強い」という言葉より「黒い」という言葉の方が相応しいように感じ、我知らずため息が出た。
 我々の反応を見て、神族もそう変わりないと時空神は言うが、主神オーディナルの妻をしているのだから、わかるような気がする。
 気の弱い女性では務まらないだろうし、何よりも世界を創造する神の一柱なのだからおかしくもない。

『強くも可憐で優しく美しい女神だが、僕の前では可愛らしい僕の愛しい妻だな』

 ……誰も聞いておりません。
 とても良い笑みを浮かべているのだが、原因は惚気たからだと誰が考えるだろうか。
 全く困った方もいたものである。
 しかし、困った者というなら、ここにも……
 チラリと横を見れば、リュートを一心に見つめるルナティエラ嬢の姿があった。
 何にそれほど集中しているのかと考えるのだが、この表情の彼女はろくなことを考えていないと理解しているので思わず名を呼んだ。

「違うことに集中せず、話をちゃんと聞いておけ」
「は……はい……」

 大した反論をしてこないことから、予感は的中だったのだろう。
 図星を指されたのが照れくさかったのか「えへへ」と笑う仕草が愛らしく、主神オーディナルのことを言えないのではないかと考え、その原因である人を見つめながら困った人だと口元を緩めた。

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