黎明の守護騎士

月代 雪花菜

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狭間の村と風の渓谷へ

62.人の手には余ることだが、神には容易い

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 まずは、ルナティエラ嬢の方から報告しようということになり、彼女は少し考えてからぽつりぽつりと話し始めた。
 遠征討伐訓練で出会ったキャットシー族の子供から始まり、弱り切ってしまい、小さな泉から離れられなくなってしまった、創世神ルミナスラの薬師で庭園の管理者でもあったディードリンテという女神のことを話し始めたとき、主神オーディナルの顔つきが変わった。
 明らかに困惑し、そして対策を急ぎ考えているようである。

「リュート様が、キャットシー族と聖泉の女神ディードリンテ様を迎え入れる準備をしてくださっておりますので、オーディナル様には、店の方まで泉を移動させていただけないかとお願いしたくて……」
「その泉は、おそらく庭園にある泉へ繋がっているようなのです」

 時空神の補足を聞いた主神オーディナルは大きく頷く。

「判った。リュートがそこまで動いてくれているのなら、任せるしか無いだろう。店がある場所は聖都――いや、あの大陸で一番力が集まるから、ディードリンテにも良い環境だと言える。泉を移すくらい、どうということはないが……」
「回復はルナちゃんの料理で何とかなるかと……」
「そうだな。あとは、何者かが狙ってきた場合が問題だ」
「竜帝だったアレンと、あのキュステもいますから、そこまで問題では無いかと」
「ふむ……まあ、念のために守護の結界も設置しておくか。丁度完成したから良い機会だな」

 主神オーディナルと時空神だけで会話が進み、私とルナティエラ嬢は何のことかイマイチ判らずに首を傾げる。
 しかし、主神オーディナルは私たちのその反応が気に入ったのか、目を細めてニッと笑った。

「お前達に授ける結界を創り出す宝珠だ。ベオルフも毎回石を周辺に撒くのは大変だろうからな」

 そう言った主神オーディナルは、私たちに七色の輝きを持つ球体を渡してくる。
 とても綺麗に磨かれた石で、石の周囲は黄金の枝葉が生い茂り、まるで生きているような感覚を覚えた。

「ソレが役立つだろう。ベオルフは旅路で、僕の愛し子は店に置いておくと良い」
「あ、ありがとうございます、オーディナル様!」
「感謝いたします」

 寸分違わず同じデザインの物……それにも何か意味があるのだろうか。
 問いかける視線を主神オーディナルへ投げかけたが、かの神は何も言わずに微笑むだけだ。

「本来なら、僕の愛し子の方は十神を動かしたいが……」
「此方へ来る前に報告した件で、忙しくしておりますので無理ですよ」
「そのようだな。【黄昏の紅華アディ・モネス】が、まさか……あちらにも存在したとは……」
「その件は我々が調べますので、少し時間をください」
「判った、任せるとしよう。僕は僕で忙しいからな……管理者たちの元へ行って、色々と確認をしなくてはいけない」

 主神オーディナルや十神も忙しくしている現状は、我々にどういう影響を及ぼすのだろうか。
 普段から何かと手助けをして貰っていることが多い。
 いつも以上に油断しないよう、気をつけた方が良さそうだ。

「ディードリンテまで妻のそばを離れているとなれば……少し心配だな」
「一応、夏と秋と冬の女神達がそばにいるようです」
「ああ、あの子たちがいるのなら問題無いな」

 神妙な顔をしていた主神オーディナルは、時空神の言葉で安堵したのか表情を明るくして微笑む。
 あの利発で優しい春の女神の姉たちなら、ちゃんと守ってくれそうだ。

「あ、あと……オーディナル様。わ、私……その泉の地に……【慈愛の祈り】を使って、要塞っぽいものを……建築してしまいました」
「ほう……そうか。それなら、暫く時間を取られても大丈夫だな。急ぐつもりだが、すぐに向かうことが難しいかもしれない」
「え、えっと……あれ? 怒らないのですか?」
「あのスキルは、僕の愛し子に必要ではあるが、人の手ではどうすることもできない時に発動するようになっている。だから、怒るはずも無い」
「……必要だけれども、人の手では……どうすることもできない……」
「そのような要塞を短期間で造る事が出来たか?」
「い、いえ……無理です」
「そういうことだ。人の手には余ることだが、神には容易い。だから、ありのままを受け入れたら良い」

 今の様子だと、ルナティエラ嬢が必要かどうか判断しているのでは無く、何かが勝手に判断して実行しているということか?
 現状の最適解を指し示すのなら、ユグドラシルが関与している可能性が――

『僕の愛し子には内緒にしておいて欲しい。ヘタに告げると遠慮する』

 どうやら、私の考えは間違いでは無かったようだ。
 意味深に片目を瞑って見せる主神オーディナルに、呆れた視線を投げかけてから承諾の意を告げるために微かに頷いて見せた。
 ルナティエラ嬢がタイミング良く、此方を見てえへへと笑い「怒られませんでした」と言っていたので、変に思われることも無いだろう。
 そんなことで怒られるはずもないだろうに……
 少し緊張した面持ちで報告していたのは、そのためかと苦笑が浮かんだ。
 いや、内容的にも主神オーディナルにお願いしなければならないことがあったので、断られないか心配していたのだろう。
 まあ、リュートが対策を練って受け入れ態勢を整えているのに、主神オーディナルが「無理だ」とは言わないはずだ。
 ああ見えて、主神オーディナルはリュートにも甘い部分がある。
 言い方は厳しいが、それは期待の表れだと思っていた。

「泉の移動だけではなく、ついでにキャットシー族も移動させよう。ディードリンテの守りがあったとはいえ、ずっと魔物に狙われていて心身共に疲れているはずだからな」
「オーディナル様……本当にありがとうございます……とても嬉しいです」
「うむ。真白の事を任せているし、駆けつけるのが遅くなるのだから、これくらいのサービスはしないとな」

 目を細めて笑う主神オーディナルに、真白と紫黒が跳んで……いや、紫黒は飛んで行き、ルナティエラ嬢が感じている喜びを表現するように戯れ付き始める。
 ノエルも尻尾をブンブン振りながら主神オーディナルの膝上に着地すると、ゴロゴロ転がり始めてしまった。
 神獣達の感謝の気持ちに、さすがの主神オーディナルも頬が緩んだ。

「ベオルフ様……ここは、私もエナガになって飛びついてスリスリしたほうが良いでしょうか」
「いや、やめておけ。ルナティエラ嬢は、ここで大人しくしているほうが良い」

 ノエルの尻尾と真白の全力スリスリに巻き込まれたら、目も当てられない。
 ルナティエラ嬢は、変なところでいらない才能を開花させるため、巻き込まれる可能性が高いのだ。
 こんなところで『巻き込まれ体質』なんていう、不名誉な才能を習得しなくても良いだろう。
 それでなくても、片鱗が……

「ベオルフ様? 何か、とーっても失礼なことを考えておりませんか?」
「さあ……どうだろうな」
「絶対に考えてましたよね、今」
「気のせいだろう」
「むー……」

 ジトリと此方を見上げてくるルナティエラ嬢の視線から避けるように顔を横へ向けると、彼女の手が私の頬を包み込む。

「此方を真っ直ぐ見てください」
「いや、今は別に良いだろう」
「だーめーでーすー」
「後でな」
「そう言って、私が忘れた頃に真っ直ぐ見つめてきてからかうつもりでしょう……」
「何故バレたのだろうか……」
「ベオルフ様!」

 もうもうっ! と、怒ったように声を上げてペチペチ叩いてくる彼女に笑いがこみ上げてくる。
 思わず声を上げて笑うと、彼女は目を丸くして此方を見つめた。

「も、もう一回! もう一回声を出して笑ってくれたら許しますよ?」
「無茶を言うな……」

 ああいうのは意識してやるものではなく、自然とこみ上げてくるものだ。
 無理だと言ったのに、彼女は「もう一回だけ!」と頼み込んでくる。
 何故、そんなに見たいのか……謎だ。

「本当に、ルナとベオは小さい頃から変わらないよねー」
「そうだな。仲睦まじく、見ているだけで微笑ましい」
「そうなのー? 二人の小さい頃の話も聞きたーい!」
「う、うむ……聞いてみたい」

 私が笑い声をルナティエラ嬢にせがまれているのと同時に、主神オーディナルは昔話をせがまれる。
 ルナティエラ嬢は、神獣達と同レベルと言うことか……
 いや、まあ……可愛らしさでいえば確かにそうかと考え直していると、時空神に考えを見透かされたのか、肩を振るわせて笑われてしまった。
 文句でもあるのかと見つめていると、彼は目尻に浮かんだ涙を拭う。

「いや、本当にそういうところは……変わらないなーってね」

 記憶に無いだけで、我々の小さな頃を時空神も知っているのだろうか。
 何かを懐かしむ彼に問いかけはしなかったが、少しだけ寂しげに見えたのが気がかりだった。

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