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王都の聖域
22.似た者兄弟
しおりを挟む久しぶりの手合わせだという事もあり、まずは軽く木剣を振るう。
すぐさまガイは反応して身を翻し、反撃へ転じるが、その反応速度が以前とは段違いだ。
なるほど……実力を付けてきたな。
どこまで反応出来るのか、段階を踏んで速度を増していく。
最初は余裕だったガイも、徐々に追い詰められていくが、何故か嬉しそうに笑う。
逆境に立てば立つほど能力を発揮するタイプだと呆れるが、兄の威厳もあるため、こんなところで負けるわけにもいかない。
「さすがは兄上! 鋭い……鋭すぎます!」
笑いながら言う台詞では無いだろうと呆れるが、ラハトがボソリと「似た者兄弟」と呟くのが聞こえたので、私も人のことが言えないのだろう。
下段右に鋭い突きを入れてみるが、それは既に読まれていたようで、ガイは素早く反応する。
だが、今までは避けていたのに、今回は木剣で受け流した。
どうやら、この辺りが限界か……それならば、このスピードで攻撃にバリエーションを加えていこう。
下段、中段、上段、突き、斬り、なぎ払い、斬り上げ、斬り下ろし。
これらを組み合わせていくと、さすがのガイも反応するだけで精一杯になってくる。
しかし、これで終わらないのがこの弟の怖いところだ。
体や目が慣れてくると、徐々に反撃のタイミングを狙うようになってくる。
まるで、野生の獣を相手にしているようだ。
此方が押していても油断がならない。
「兄上……このスピードにも慣れました!」
そう言うと共に、鋭い突きが返ってくる――が、それくらいならば問題は無い。
いや……以前なら、避けることも出来なかっただろう。
だからこそ、避けられた瞬間、ガイは大きく目を見開く。
「まさか、これに反応するのですかっ!?」
すぐさま体勢を整えるのは流石だが、ガイも私の事が言えないほど、懐へ入れた人間に弱い。
まあ、これはアルベニーリ家の特徴かも知れないな……と、私は自嘲する。
黒狼の主ハティ相手であれば、もっと鋭い突きが繰り出せただろう。
だが、無意識に力をセーブするのは、ガイが私を兄として慕うが故である。
だから……教えてやらなければならないのだ。
「ガイ……お前は私をナメているのか? 本気で打ち込んできたところで、全て受け流してやろう。今の私は、この国……いや、この世界で一番強いぞ」
ガイの持つ木剣を弾き飛ばして宣言する。
乾いた音を立てて地面に転がる木剣と私を交互に見ていた弟は、ゆっくりと事態を飲み込んでいく。
おそらく、私の速度についていけなかったのだろう。
木剣を弾き飛ばされた衝撃しか残らぬ体と、地面に転がる木剣。それに、言い放たれた言葉。
それら全てを理解したガイは、ジワジワと喜びの表情を滲ませ、急いで地面に落ちた木剣を手に取った。
「さすがは兄上! 全く見えませんでした。本当に……見えませんでした! その領域に私も早く達したいです!」
「口より体を動かせ。打ち込みが甘い。上半身ばかり鍛えているのか、バランスが悪いせいで下半身が不安定だ」
「あ……そういえば、最近は走り込みが甘かったかもしれません」
「王太子殿下の護衛もあるから仕方が無い。ルナティエラ嬢なら、そういう時でも鍛える方法を思いつくかもしれんな」
「さすがは姉上! 賢人レベルのすさまじさですね!」
朝から五月蠅いと苦情が来そうな声量だ。
まあ、ガイのために聞いてやっても良いだろう。
「さて……話はここまでだ。本気で打ち込んでこい。お前の本気くらい、受け流してやる」
「よろしくお願いします! いざっ!」
先程よりも勢いが増したガイの攻撃を木剣で受け流しながらも、ドンドン鋭さを増す攻撃に苦笑が漏れる。
ルナティエラ嬢の言葉を借りるなら、生粋の戦闘狂。
それが、この弟の本質だ。
だが、それでは大切な人を守れないということも知っているからこそ、普段はセーブしている。
「どうだ? 私相手にセーブする必要はあるか?」
「ありません! 本気で打っていっても……勝ち筋が見えません! こんなことは……久しぶりです!」
目を爛々と輝かせ、本当に嬉しそうに剣を振るう弟は、おそらく……父を既に越えてしまっていたのだろう。
訓練に付き合ってくれていた父にも実力を出せずにいたガイは、自分の全力を理解していない。
その力は、主神オーディナルの強化を受けているラハトでも苦戦するほどだ。
何の加護も持たない人間が持つにしては大きすぎる力である。
それ故の、孤独。
それ故の、焦燥。
そして……飢餓。
常に強者を求め続ける己がおかしいことを理解しているからこそ、その賢さ故の歪みを持ちながらも損なわない純粋な心は、強靱な精神がもたらすものだ。
アルベニーリ家の祖は戦神だと言われている。
それ故に、代々、騎士団をまとめてきたのだ。
その血が……その力が、誰よりも濃く現れた存在だとしたら?
「……やはり、意味があるのだろうな」
神器を継承する神官の家系。
戦神の血を色濃く受け継ぐガイの存在。
そして、主神オーディナルの声を聞く王家。
まるで、大きな戦いの前に戦力を蓄えているようだ。
そして何よりも――私とルナティエラ嬢の存在が大きい。
私たちを中心として、輪が広がり、何かを迎え撃つ準備を着々と進めている。
そんな感覚が日を追うごとに強くなっていく。
だからこそ、負けられない。
負けることは、許されないのだ。
「くっ!」
鋭い突きに反応しきれずバランスを崩すガイに追い打ちをかけるべく、私は右手に持つ木剣を強く握る。
「そこまでーっ!」
私たちの間に割って入ったのはラハトであった。
タイミングを見て飛び込み、私の右手を強く掴む。
「お前、ちょっとは手加減しろっての! さすがに、そのスピードは、今の弟さんじゃ無理だろ!」
「……そうか?」
「い、いえ、やれます……!」
「あのさ、お前さんも焦らなくていいんだって。先ずは肉体を鍛えること! ベオルフはアレだ。本来の力を取り戻しつつある段階だから、正直に言うと……普通の人間じゃ太刀打ちできない域へきている。でも、アンタはそれに食らいつけるだけの何かを秘めてる感じだ。それに気づけば、焦らなくても背中を守れるくらいになれるって」
そう言い切ったラハトを見上げていたガイは、すぐに笑顔を取り戻す。
「そう言っていただけると嬉しいです! でも、とても良い訓練になりました。私もまだまだなのだと痛感できましたし……伝説の【黎明の守護騎士】の実力を肌で感じることも出来ました。それが……とても嬉しいです!」
「戦闘狂かよ……似た者兄弟め……。いや……でも……あの野郎を倒すには必要だよな」
「見ている此方がハラハラしたな」
「全くです」
いつの間に集まったのか、王太子殿下やナルジェス卿。アーヤリシュカ第一王女殿下や母上までもが、その場にいた。
彼らはいつの間にか用意された椅子に座り、優雅に朝のティータイムを楽しんでいる。
護衛二人は眠そうにあくびをし、お茶菓子を運んできたクロイツェル侯爵夫人は、私たちに怪我が無いか心配しているようだ。
「……すまない。手加減を間違えていたか?」
「いや。お前らが手合わせをすると生傷が絶えないとお前の母親から聞いていたから、そうなる前に止めただけだ。あの一撃が致命傷とか、そういう話じゃねーよ」
「そうか」
「だけど、周囲が見えないくらい集中していただろ? だから、一応……な」
「ふむ……今の感覚で思ったのだが……お前達が一緒に訓練すれば良いのではないか?」
「あー、それは考えたけど……いいのか? お前はどうするんだよ」
「私は……少し違う訓練がしたい」
今の私に必要なのは、自らの内にある力。
全てを防ぎ、全てを無効化する力。
それと、治癒の力。
この二つの練度を上げること。
しかし、その方法が判らない。
おそらく、普通の方法ではダメだ。
さて……どうしたものか――
「その訓練のやり方を、僕が教えてやっても良いぞ?」
そう言って天空から舞い降りたのは、主神オーディナルだった。
とても嬉しそうに笑い、何やら企んでいる様子である。
こういう時の主神オーディナルは、ろくな事を言わない。
「紫黒に頼みますので……」
「待て待て! 僕の愛し子の助けになる話だ!」
「聞きましょう」
「お前って、本当に判りやすいよな。むしろ、俺は違う意味で心配になってきた……」
私と主神オーディナルの会話を聞きながら、立ち上がるガイに手を貸していたラハトが、呆れたように呟く。
その言葉に深く頷く王太子殿下の横で、アーヤリシュカ第一王女殿下が楽しそうな笑い声を上げる。
ルナティエラ嬢の力になると聞いて、断ることなど出来るはずが無かろう。
そんな思いを込めてラハトを見る。
彼はそれを真正面から受けとめ、心の底から呆れたというように深い溜め息をつくと、「それがベオルフだよな……」と諦めたように呟くのであった。
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