5 / 34
4
しおりを挟む
その後、ディランはいつも通りの軽口を叩いて雰囲気を和ませながら部屋まで送ってくれた。
部屋に戻る頃にはフェリシアもいつもの調子を取り戻していて、最終的にはいつも通りの軽口とそれに対する応酬に変わっていた。
「まあ、今日の事はお礼を言ってあげない事もないわ。ディランにしてはよくやったんじゃない?」
「おいおい、素直に有難うっていえよ。可愛くねーな」
フェリシアがいつも通りのツンとした態度で分かりづらいお礼を言うと、ディランもいつも通りの調子で冗談半分の言葉で笑って返す。いつもの態度に戻れたことに、フェルシアもディランも安心していた。
「……ありがとう。貴方にはいつも感謝しているわ」
そう早口で告げて、扉を閉めた。今まで戦闘面でもそれ以外の場面でも、どんな場面においても視野が広い彼には救われてきた。だからフェリシアは改めて感謝の言葉を告げた。その言葉を言った時のディランの間抜けな表情を扉を閉めてから思い出し、思わず部屋の中で吹き出す。久しぶりに見た、彼の間抜けな表情だった。
***
広い部屋にポツリと独りでいるというのは心細くなるもので……。余計なことばかりを思い出して、考えてしまう。
今日の事。ユリウスに恋人……いや、それ以上のプロポーズを予定している恋人・フェリシアの妹であるイリスがいたこと。
一度は持ち直した気持ちが沈んでくる。ここ数年分の想いが無駄になったのだ。あんなに近くにいたのに、ずっと見ていたのに、本当の気持ちは一つも分かっていなかった。
全て……無意味だった。この気持ちはもう、忘れなければならない。捨てて、なかったことにしなければ。そう思うのに……眠ろうと瞳を閉じても、ここ数年の事を思い出して目が冴えてしまう。
思い出すのは、ユリウスの事ばかり。戦闘で彼を上手くサポートできた時に頭を撫でて褒めてくれたこと、旅の中で料理が上手く出来た時に”美味しい!”と微笑みを向けてくれたこと、魔物が自分を標的にしてきた時に庇ってもらったこと……。ユリウスはいつでもフェリシアを女の子扱いしてくれた。そんなユリウスをフェリシアは――――。
「……きっとイリスは二つ返事でプロポーズを受け入れたんだろうな。あんなに素敵な人のプロポーズを断るわけがないもの」
フェリシアは自分で言葉に出しておいて虚しくなる。でもそこで一つ疑問が浮かんだ。プロポーズしたということは、ほぼ確実にイリスはそのプロポーズを受け、この後結婚式を挙げることになる筈だ。イリスの姉であるフェリシアが結婚式に呼ばれない筈がない。
もしかしたらユリウスが今日自分を探していたのも、その結婚式の日程の相談をするためだったのかもしれない。点と点が繋がったのに、その逆に足元から崩れていくような恐怖心に自然と体が震えてくる。
フェリシア自身はその時、平常心でいられるだろうか……正面から彼女らの幸せを祝福してあげられるだろうか。
そんなの無理だ。
直ぐに浮かんできた答えに呆れて、溜息が出る。祝福以前に結婚式にすら出たくない。
そこまで思ったところで、頭の中にある思考が浮かんだ。もしもこのまま王都にいたら、フェリシアが結婚式に参列しなければいけないのは、確実だ。けれどそんなもの絶対に出席したくない。
それに本来は祝わなければいけない筈のイリスの幸せを祝えない自分自身も嫌だった。大切な妹の幸せを祝えない……そんな情けない姿を妹にもユリウスにも――フェリシア自身を知っている誰にも知られたくなかった。
なら、逃げてしまえばいいのでは?
フェリシアはもう、イリスを最後まで守り切って、魔王の討伐を果たして……十分に頑張った筈だ。それに実家であるアーゼンベルグ伯爵家は弟が継ぐはずなので、フェリシアがいなくなったとしても問題はない。もう婚約者もいない。フェリシアは役目をはたして、既に自由なのだ。
「逃げちゃおうかな……」
魔王討伐においてはフェリシア個人としても実際、かなりの報酬をもらった。数年は遊んで暮らしていたとしても住食は困ることはない程の金額を。
だからフェリシア自身の意志次第なのだ。
でも一度、逃げるという考えが浮かぶと自然と気分が穏やかになり、先程まで全く感じなかった眠気すら感じるようになってきた。後の事は明日決めようと、心の中で思考して眠りに落ちた。
******
あとがき:
シナリオを見直していたら、書き忘れていた部分があったので少し改稿しました。(2019/11/16)
多分↑の部分で書き忘れていた部分を訂正失敗していました。なので、改稿2。(2020/02/20)
部屋に戻る頃にはフェリシアもいつもの調子を取り戻していて、最終的にはいつも通りの軽口とそれに対する応酬に変わっていた。
「まあ、今日の事はお礼を言ってあげない事もないわ。ディランにしてはよくやったんじゃない?」
「おいおい、素直に有難うっていえよ。可愛くねーな」
フェリシアがいつも通りのツンとした態度で分かりづらいお礼を言うと、ディランもいつも通りの調子で冗談半分の言葉で笑って返す。いつもの態度に戻れたことに、フェルシアもディランも安心していた。
「……ありがとう。貴方にはいつも感謝しているわ」
そう早口で告げて、扉を閉めた。今まで戦闘面でもそれ以外の場面でも、どんな場面においても視野が広い彼には救われてきた。だからフェリシアは改めて感謝の言葉を告げた。その言葉を言った時のディランの間抜けな表情を扉を閉めてから思い出し、思わず部屋の中で吹き出す。久しぶりに見た、彼の間抜けな表情だった。
***
広い部屋にポツリと独りでいるというのは心細くなるもので……。余計なことばかりを思い出して、考えてしまう。
今日の事。ユリウスに恋人……いや、それ以上のプロポーズを予定している恋人・フェリシアの妹であるイリスがいたこと。
一度は持ち直した気持ちが沈んでくる。ここ数年分の想いが無駄になったのだ。あんなに近くにいたのに、ずっと見ていたのに、本当の気持ちは一つも分かっていなかった。
全て……無意味だった。この気持ちはもう、忘れなければならない。捨てて、なかったことにしなければ。そう思うのに……眠ろうと瞳を閉じても、ここ数年の事を思い出して目が冴えてしまう。
思い出すのは、ユリウスの事ばかり。戦闘で彼を上手くサポートできた時に頭を撫でて褒めてくれたこと、旅の中で料理が上手く出来た時に”美味しい!”と微笑みを向けてくれたこと、魔物が自分を標的にしてきた時に庇ってもらったこと……。ユリウスはいつでもフェリシアを女の子扱いしてくれた。そんなユリウスをフェリシアは――――。
「……きっとイリスは二つ返事でプロポーズを受け入れたんだろうな。あんなに素敵な人のプロポーズを断るわけがないもの」
フェリシアは自分で言葉に出しておいて虚しくなる。でもそこで一つ疑問が浮かんだ。プロポーズしたということは、ほぼ確実にイリスはそのプロポーズを受け、この後結婚式を挙げることになる筈だ。イリスの姉であるフェリシアが結婚式に呼ばれない筈がない。
もしかしたらユリウスが今日自分を探していたのも、その結婚式の日程の相談をするためだったのかもしれない。点と点が繋がったのに、その逆に足元から崩れていくような恐怖心に自然と体が震えてくる。
フェリシア自身はその時、平常心でいられるだろうか……正面から彼女らの幸せを祝福してあげられるだろうか。
そんなの無理だ。
直ぐに浮かんできた答えに呆れて、溜息が出る。祝福以前に結婚式にすら出たくない。
そこまで思ったところで、頭の中にある思考が浮かんだ。もしもこのまま王都にいたら、フェリシアが結婚式に参列しなければいけないのは、確実だ。けれどそんなもの絶対に出席したくない。
それに本来は祝わなければいけない筈のイリスの幸せを祝えない自分自身も嫌だった。大切な妹の幸せを祝えない……そんな情けない姿を妹にもユリウスにも――フェリシア自身を知っている誰にも知られたくなかった。
なら、逃げてしまえばいいのでは?
フェリシアはもう、イリスを最後まで守り切って、魔王の討伐を果たして……十分に頑張った筈だ。それに実家であるアーゼンベルグ伯爵家は弟が継ぐはずなので、フェリシアがいなくなったとしても問題はない。もう婚約者もいない。フェリシアは役目をはたして、既に自由なのだ。
「逃げちゃおうかな……」
魔王討伐においてはフェリシア個人としても実際、かなりの報酬をもらった。数年は遊んで暮らしていたとしても住食は困ることはない程の金額を。
だからフェリシア自身の意志次第なのだ。
でも一度、逃げるという考えが浮かぶと自然と気分が穏やかになり、先程まで全く感じなかった眠気すら感じるようになってきた。後の事は明日決めようと、心の中で思考して眠りに落ちた。
******
あとがき:
シナリオを見直していたら、書き忘れていた部分があったので少し改稿しました。(2019/11/16)
多分↑の部分で書き忘れていた部分を訂正失敗していました。なので、改稿2。(2020/02/20)
104
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる