12 / 34
11(ディラン視点4)
しおりを挟む
そこからは堰を切ったように言葉が溢れ出した。男なのに泣きべそをかきながら気持ちを吐き出していく。
“こんな家には生まれたくなどなかった ”、”家を継ぐことが怖い”、“本当は家を継ぎたくなんて、ない――”、
既に一つ、自分の弱さをさらけ出した俺は止まらかったんだ。今まで誰にも言うことが出来なかった弱さがとめどなく流れ出ていく。
全てを吐き出し終える頃には日は既に落ちかけていて、辺りには柔らかい夕闇が広がっていた。灯ったばかりの街灯のお陰で近くにいるフェリシアは目視することができるが、もうかなり暗くなっている。
先程までは賑やかだった噴水前は俺達以外の人間がいなくなっていた。流れた涙で固まった目元を擦る。冷静になってみると、こんなところで泣き出して、初対面の人間にあんな弱みを隠さずに見せたのが恥ずかしかった。
「……忘れろ」
「ん?」
「だから、その……さっきまでのアレは忘れてくれ。誰にも言うな」
「……君が泣きべそかいて、ウジウジしていたこと?」
「っ~~!!」
「忘れろ、誰にも言うな、かー。……どうしようかな」
先程まで静かに俺の話を聞いていたからから忘れていたが、こいつはこういう人間だった。そんな奴の前で泣きながら弱みを見せたことを今更ながら後悔した。俺がまた怒りに任せて怒鳴り出そうとしたところでフェリシアが口を開く。
「冗談よ。流石に衝撃的すぎて忘れることはできないけど、先程までの事は誰にも言わない……約束。誓って秘密にする」
「……最初からそう言えよ」
その言葉を聞いて安心する。フェリシアは先程とは真逆の真面目な声音で俺の瞳を見つめて、そう誓ってくれた。思わずぽつりと文句を言ってしまったことは仕方ないだろう。
色々と吐き出したこととフェリシアの口止めに成功したことで体の力が抜けた俺は彼女が座っているベンチの隣に何も言わずにドサリと腰を下ろした。
俺はまだ家に帰りたいと思えるほどの心情ではなかったし、フェリシアも特に立ち上がる気配を見せなかった。
辺りを静寂が支配する。
俺もフェリシアもどちらも無言だった。でも不思議と居心地は良くて、心地よい静けさだった。
それからどれほどの時間が経ったのだろうか。空気が澄んでいるせいか、刺すように明るい月とそれを包むように瞬く星々をぼーっと眺めていると、隣のフェリシアが言った。
「私が言うのもなんだけど、君はもう十分頑張ってるんだから、家の責任とかそういうのを考えずにもう少し肩の力を抜いたほうが良いんじゃない?君の人生なんだから、少しは君のしたいようにしなくちゃ。今回私にぶつけてきたみたいにさ」
「……あぁ。そう、かもな」
この空間の居心地の良さもあって、フェリシアの助言はすんなりと俺の心に溶け込んでいった。
今まで俺はずっと肩肘を張って、親父に言われる通りに勉強し、武術も鍛えてきた。そこには家の誇りのためだったり親父に怒られるのが嫌だからだったり……俺の意志は介入していなかったのだ。これからは少しは俺のしたいことを主張しても良いのかもしれない。家と親父と向き合って。自分の事を主張しないと何も始まらないのだ。
そう思うと、心も体も少し軽くなったような気がした。
「よし!帰ろうか。きっと君の御両親は心配しているよ」
「……君、じゃない」
「え……?」
「君じゃなくて、ディランだ。ディラン=アッシュブレイド」
「私はフェリシア。フェリシア=アーゼンベルク。それじゃあね、ディラン」
「……待ってくれ」
そのまま立ち去ろうとするフェリシアを思わず引き留める。俺は思いの外彼女の事を気に入ったようで、このまま会えなくなるのは惜しいと思ってしまったのだ。
「うん?一人じゃ怖くておうちに帰れない~とか?」
「違うっつーの!……その、手紙――とか書いて良いか?」
馬鹿にしたような口調に軽く反発する。この時には今まで感じたことのない程に満たされた気持ちだったせいかフェリシアのこういう返しにも怒りを感じることはなかった。
それどころか気付いたんだ。こいつは俺を揶揄うような口調でも、覗き込むように此方を伺う瞳の中では常に心配そうな色を見せていることを。
それに暫く一緒に過ごして思った。こいつは俺と同じように孤独で寂しくて、他人が怖くて、こんな風に敢えて他人を突き放そうと厭味な態度を取るのかもしれない。
でも心の底からは人の事を馬鹿にしていない。だから帰りたくない俺の態度も悟って、黙って俺の傍に今までいてくれたのだろう。今だってフェリシアの瞳には隠せていない俺への心配が見え隠れしている。本当にこいつは素直じゃない。
「……好きにすれば」
俺が真っ直ぐにフェリシアの瞳を見つめて提案すると、彼女はまたもや素直ではない返しをする。しかし、暗い中でも分かるほど耳が真っ赤だった。
「じゃあ、書くよ。……気が向いたら返事をくれ」
そうして彼女との不思議な邂逅は終わった。
家に帰ると、マーカスが血相を変えて家を走り回り、俺を見つけた母は泣きながら俺を抱きしめた。親父もばつが悪そうに俺に”おかえり”と言ってくれた。
そうしてこの言葉のお陰で俺はこの後、親父と自分の意志で向き合う事が出来たんだ。自分の気持ちを伝えることができた。
結局俺は守りたい者……家族やフェリシアのために剣の道を取ることになるが、このことによって変われたことは多かった。
*********
あとがき:
もう既にこの部分の原稿は出来ていたのですが、なろうの方でも色々あったために推敲が終わっていなく中々投稿出来ていませんでした。申し訳ありませんm(__)m
この後は年末入って忙しいのもあり、投稿できるかは分かりませんが、年始には投稿するつもりです。
“こんな家には生まれたくなどなかった ”、”家を継ぐことが怖い”、“本当は家を継ぎたくなんて、ない――”、
既に一つ、自分の弱さをさらけ出した俺は止まらかったんだ。今まで誰にも言うことが出来なかった弱さがとめどなく流れ出ていく。
全てを吐き出し終える頃には日は既に落ちかけていて、辺りには柔らかい夕闇が広がっていた。灯ったばかりの街灯のお陰で近くにいるフェリシアは目視することができるが、もうかなり暗くなっている。
先程までは賑やかだった噴水前は俺達以外の人間がいなくなっていた。流れた涙で固まった目元を擦る。冷静になってみると、こんなところで泣き出して、初対面の人間にあんな弱みを隠さずに見せたのが恥ずかしかった。
「……忘れろ」
「ん?」
「だから、その……さっきまでのアレは忘れてくれ。誰にも言うな」
「……君が泣きべそかいて、ウジウジしていたこと?」
「っ~~!!」
「忘れろ、誰にも言うな、かー。……どうしようかな」
先程まで静かに俺の話を聞いていたからから忘れていたが、こいつはこういう人間だった。そんな奴の前で泣きながら弱みを見せたことを今更ながら後悔した。俺がまた怒りに任せて怒鳴り出そうとしたところでフェリシアが口を開く。
「冗談よ。流石に衝撃的すぎて忘れることはできないけど、先程までの事は誰にも言わない……約束。誓って秘密にする」
「……最初からそう言えよ」
その言葉を聞いて安心する。フェリシアは先程とは真逆の真面目な声音で俺の瞳を見つめて、そう誓ってくれた。思わずぽつりと文句を言ってしまったことは仕方ないだろう。
色々と吐き出したこととフェリシアの口止めに成功したことで体の力が抜けた俺は彼女が座っているベンチの隣に何も言わずにドサリと腰を下ろした。
俺はまだ家に帰りたいと思えるほどの心情ではなかったし、フェリシアも特に立ち上がる気配を見せなかった。
辺りを静寂が支配する。
俺もフェリシアもどちらも無言だった。でも不思議と居心地は良くて、心地よい静けさだった。
それからどれほどの時間が経ったのだろうか。空気が澄んでいるせいか、刺すように明るい月とそれを包むように瞬く星々をぼーっと眺めていると、隣のフェリシアが言った。
「私が言うのもなんだけど、君はもう十分頑張ってるんだから、家の責任とかそういうのを考えずにもう少し肩の力を抜いたほうが良いんじゃない?君の人生なんだから、少しは君のしたいようにしなくちゃ。今回私にぶつけてきたみたいにさ」
「……あぁ。そう、かもな」
この空間の居心地の良さもあって、フェリシアの助言はすんなりと俺の心に溶け込んでいった。
今まで俺はずっと肩肘を張って、親父に言われる通りに勉強し、武術も鍛えてきた。そこには家の誇りのためだったり親父に怒られるのが嫌だからだったり……俺の意志は介入していなかったのだ。これからは少しは俺のしたいことを主張しても良いのかもしれない。家と親父と向き合って。自分の事を主張しないと何も始まらないのだ。
そう思うと、心も体も少し軽くなったような気がした。
「よし!帰ろうか。きっと君の御両親は心配しているよ」
「……君、じゃない」
「え……?」
「君じゃなくて、ディランだ。ディラン=アッシュブレイド」
「私はフェリシア。フェリシア=アーゼンベルク。それじゃあね、ディラン」
「……待ってくれ」
そのまま立ち去ろうとするフェリシアを思わず引き留める。俺は思いの外彼女の事を気に入ったようで、このまま会えなくなるのは惜しいと思ってしまったのだ。
「うん?一人じゃ怖くておうちに帰れない~とか?」
「違うっつーの!……その、手紙――とか書いて良いか?」
馬鹿にしたような口調に軽く反発する。この時には今まで感じたことのない程に満たされた気持ちだったせいかフェリシアのこういう返しにも怒りを感じることはなかった。
それどころか気付いたんだ。こいつは俺を揶揄うような口調でも、覗き込むように此方を伺う瞳の中では常に心配そうな色を見せていることを。
それに暫く一緒に過ごして思った。こいつは俺と同じように孤独で寂しくて、他人が怖くて、こんな風に敢えて他人を突き放そうと厭味な態度を取るのかもしれない。
でも心の底からは人の事を馬鹿にしていない。だから帰りたくない俺の態度も悟って、黙って俺の傍に今までいてくれたのだろう。今だってフェリシアの瞳には隠せていない俺への心配が見え隠れしている。本当にこいつは素直じゃない。
「……好きにすれば」
俺が真っ直ぐにフェリシアの瞳を見つめて提案すると、彼女はまたもや素直ではない返しをする。しかし、暗い中でも分かるほど耳が真っ赤だった。
「じゃあ、書くよ。……気が向いたら返事をくれ」
そうして彼女との不思議な邂逅は終わった。
家に帰ると、マーカスが血相を変えて家を走り回り、俺を見つけた母は泣きながら俺を抱きしめた。親父もばつが悪そうに俺に”おかえり”と言ってくれた。
そうしてこの言葉のお陰で俺はこの後、親父と自分の意志で向き合う事が出来たんだ。自分の気持ちを伝えることができた。
結局俺は守りたい者……家族やフェリシアのために剣の道を取ることになるが、このことによって変われたことは多かった。
*********
あとがき:
もう既にこの部分の原稿は出来ていたのですが、なろうの方でも色々あったために推敲が終わっていなく中々投稿出来ていませんでした。申し訳ありませんm(__)m
この後は年末入って忙しいのもあり、投稿できるかは分かりませんが、年始には投稿するつもりです。
103
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる