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4.
「え……ここは――どこ?」
目が醒めるとそこは眠りに落ちた筈のキアナの部屋ではなく、オリヴィエがギリギリ寝れるくらいの薄暗い小さな小屋だった。
怪しさに身を竦めながら、自分の状況を確認する。腕は背中で手錠のように縛られ、小屋の腐食した木の上で寝かされている。しかし衣服には乱れた形跡などはなく、周囲に人の気配もしない。
おかしい。オリヴィエが見張りもなく一人なこともだが、キアナの部屋があるのはオリヴィエの部屋と同じく結界が張ってあり、簡単には侵入できない筈なのだ。それがこうも意識を失っている間にオリヴィエが運び出されたのかと思うと、違和感があった。
それにもしもオリヴィエが姫巫女として襲われ、ここにいるのだと仮定するとキアナは無事なのだろうか……。
もしかして既に――――。
そう考えると不安で心が埋め尽くされるが、いつまでもこのままというわけにはいかない。まずはこの紐を解いて、自由を取り戻そうとオリヴィエは画策する。
巫女服だったのが幸いした。この服ははだけやすいという欠点があるが、この状況ではそれが逆にありがたかった。護身用にと、太もものホルダー ――――普段服で見えない部分につけているナイフを取り出し、腕を縛る縄を切る。
いつでも戦闘に入れるように、ナイフを手に持ちながら、小屋から出た。
小屋から出てみると目の前には木、木、木……。どうやらオリヴィエが現在いるのはどこかの森の様だった。見回してみても、一本一本の木が空を覆いつくすように高いせいか目印になるような建物などは見当たらない。
「どうしよう……」
思わず口からそんな言葉が出てしまう。オリヴィエは元踊り子であり、剣舞もしていたために刃物の扱いの心得はあるし、少しだけだが魔法も使える。しかしこのような森に独り……まさに遭難に近い経験はしたことがないため、どうすれば良いのか見当がつかなかった。それに外に出てみて気づいたが、今はもう夕刻のようで周囲が暗くなり始めている。
このまま森に出たのでは自身の身が危険だと感じたオリヴィエは一旦、朝になるまでは小屋の中に籠ることにした。
キアナの事も心配だが、自分に何かあっては彼女を助けることも出来ないと考えたからだ。
そうして小屋に籠る事数時間。することもないのでウトウトし始めた頃の事だった。
周囲で人の声が聞こえた気がした。男の声だ。しかも声と足音からして人数は二人。一瞬、助けを呼ぼうと声をあげようとしたオリヴィエだったが、何か言い様のない違和感を感じた。
小屋の扉に耳を張り付けるようにして、外の音を拾う。
「なあ兄貴~……本当に姫巫女をやっちまうとして、天罰とか下ったりとかしないのか?」
「知らん。仕事だからやるだけだ。……それにあの女の話じゃあ、この姫巫女は偽物だって話だろう。未来を視る事なんて出来ない癖に、姫巫女を騙って王族も国民も騙していたって……もしそれが本当なら大した悪女じゃねえか」
「た、確かに!あの姫巫女の側近って女の言う通り本物の姫巫女じゃないから、こんな目に遭ってるわけだしな!」
「分かったら、さっさとやりに行くぞ。……こんな仕事さっさと終わらせて家に帰りてえ」
「りょーかいっす!」
そこまで聞いたところで頭が沸騰したように熱くなる。オリヴィエは裏切られていたのだ……一番信頼していた筈の存在に。だってオリヴィエの側近と言ったら一人しかいない。基本的にオリヴィエは彼女以外を自分に近づけようとしなかったから、彼女以外が側近と語る事などあり得るわけがないのだ。
しかも、懸念すべき点はそれだけじゃない。この男たちの話からして今、自分は殺されようとしている。
余りの裏切りに怒りで頭が沸騰して前が見えない。オリヴィエは小屋に丁度落ちていた太い木の棒を見つけると、それを手に持つ。そしてそのまま扉が開いたのを見計らって、それを声から予測した男の頭の位置に思い切り打ち込んだ。
きっとオリヴィエの状態を知っていて、油断していたのだろう。予想外の攻撃に男の一人はその攻撃で気を失う。
しかしもう一人の男は瞬時に何があったかを察したようで、剣を構えて臨戦態勢に入った。
「全てを包み、焼き尽くす炎――私を守る盾となり、獲物を捕らえよ」
オリヴィエと男の間に炎の壁をが出現する。オリヴィエが唱えた炎の魔法だった。
炎は一瞬で勢いを増したかと思うと瞬きする暇も与えずに包み込むように男に襲い掛かる。
「動かないで」
オリヴィエは男の背後から首にナイフをあてる。
彼女は男が一瞬炎に構え、剣を前に出した隙をついて男の後ろに回り込んでいたのだった。ギリギリの攻防だったのに、怒りのせいか恐怖はなかった。
自分の高まった心臓と男の息を呑む音が妙に耳の中で木霊した。
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