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「ここが図書館。お前のことは既に知らせてあるから、好きなものをどれだけでも借りてくれ。暫くは窮屈な思いをさせると思うが、軍神化の制御方法さえ取得してくれれば外出も自由にしてくれて良い」
今日はサシャからこの城の案内を受けていた。
そんなに長期間ここに留まるつもりはないのだが、彼はまるで私がここでずっと暮らすかの様に色んなものを揃えて、この国についても詳しく教えてくれようとする。幼馴染の友人というだけで保護してくれようとする彼は、相変わらず優しいと思った。
しかしながら、私は彼の言う軍神化の制御が出来る様になり次第、すぐにここを出ていくつもりだった。ずっと誰かに甘えているわけにはいかないし、きっと魔物退治の仕事であれば私は出来るし、それで生計を立てていくことも可能だと思うから。
「一通り案内したが、何か聞きたいことはあるか?」
あれから。図書館、食堂、庭園、従者の待機室、騎士の宿舎・詰所、訓練場、サシャの執務室、サシャの部屋、この城の殆どの場所に案内してもらった。正直、部外者をいれて良いのかと疑問に思うことは何度もあったが、彼が楽しそうに案内しているから何も言わなかった。城主である彼が良いと言うのなら良いのだろう。
案内された施設については特に疑問や聞きたいことはなかったが、城内を歩いている間にここで働いている人たちを見て、ふとあることを思い出した。
「結局アレオリって何?」
「は!?」
「私、ここで意識が覚めた初日にその……メイドたちの話を聞いたの。ここがどこなのか、ダニエルとカノンがどのこいるのかを調べる時に」
『アレオリ』。その単語を聞いた直後、サシャは固まってしまう。
ずっと気になってはいたのだ。しかし単語を発してみればオリバーという騎士はキレるしその後もなかなか言い出す機会がなかった。先程以前その話をしていたメイドを見掛けて思い出し、今回聞いてみることにしたのだ。
サシャの名前も出ていたので、彼に聞けばわかると思ったのだが、この反応は予想外だった。そんなに言いづらいことなのだろうか。
「言い辛い内容なの?国家機密、とか?」
「……国家機密なんかじゃない。じゃないんだが、はあ……ちゃんと話す。だが一つだけ頭に入れておいてくれ。俺はその、性的嗜好はノーマルな人間だ。きちんと女性が好きだってことは理解しておいてくれ」
「ん?ええ。わかった」
思い切り嫌そうな顔をして、その綺麗な顔を歪めながらサシャは俯きながら口を開いた。
「俺はアリスと再会するまでずっと婚約者を作ることを頑なに拒否してきたんだ。だからずっと……勿論今も婚約者がいない」
「第一皇子なのに珍しい?わね。まあ、サシャがしたくないんだったらまだしなくても良いと思うけど」
いや、国の主としては子孫を残さないといけないという義務もあるし良くないかもしれないが、きっと事情があるのだろう。そう考えて話を進めてもらう。
「別に婚約したくないわけではない。子供を残す気もある――っと、これは話が逸れるな。とにかくずっと婚約者がいなかったんだ。それで周囲には基本的に男ばかりでな。だがその中でも長時間一緒にいなければならない人間というのが出てくる。それが騎士団長で俺直属の護衛騎士のオリバーだったんだ」
「オリバー……あの両刃斧使い?」
「ああ。あの赤髪のゴリラだ。それに加えてオリバーの方も婚約者を作ろうとしないものだから、いつからか、とあるおぞましい噂が立ち始めた。それがアレオリだ」
「うん?」
私がここまで言われても察していないのが分かったのだろう。サシャは絶望的な顔で深い溜息を吐くと、私の方をまっすぐに見た。
「……俺とオリバーが……こ、――とだと」
「なんて???」
「だから!!俺とオリバーが恋人関係だという噂が立ったんだ!!!俺もオリバーもお互いが好きだから、婚約しないんだ、と。真っ赤な嘘が蔓延し始めたんだよ!!」
「……なんか、ごめん。聞いちゃって」
あまりにも悲痛な表情で、叫ぶように『アレオリ』の意味について私に教えてくれた彼を見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっと言いたくない、噂されている事すらも認めたくない話なのだろう。
私はどんな顔をすればよいのか分からなくて、思わず目をそらしてしまった。その日は終始私達の間に流れる空気が重かった。
******
X(旧Twitter)に今回の話のアレクサンダー視点をちょろっと載せています。
今日はサシャからこの城の案内を受けていた。
そんなに長期間ここに留まるつもりはないのだが、彼はまるで私がここでずっと暮らすかの様に色んなものを揃えて、この国についても詳しく教えてくれようとする。幼馴染の友人というだけで保護してくれようとする彼は、相変わらず優しいと思った。
しかしながら、私は彼の言う軍神化の制御が出来る様になり次第、すぐにここを出ていくつもりだった。ずっと誰かに甘えているわけにはいかないし、きっと魔物退治の仕事であれば私は出来るし、それで生計を立てていくことも可能だと思うから。
「一通り案内したが、何か聞きたいことはあるか?」
あれから。図書館、食堂、庭園、従者の待機室、騎士の宿舎・詰所、訓練場、サシャの執務室、サシャの部屋、この城の殆どの場所に案内してもらった。正直、部外者をいれて良いのかと疑問に思うことは何度もあったが、彼が楽しそうに案内しているから何も言わなかった。城主である彼が良いと言うのなら良いのだろう。
案内された施設については特に疑問や聞きたいことはなかったが、城内を歩いている間にここで働いている人たちを見て、ふとあることを思い出した。
「結局アレオリって何?」
「は!?」
「私、ここで意識が覚めた初日にその……メイドたちの話を聞いたの。ここがどこなのか、ダニエルとカノンがどのこいるのかを調べる時に」
『アレオリ』。その単語を聞いた直後、サシャは固まってしまう。
ずっと気になってはいたのだ。しかし単語を発してみればオリバーという騎士はキレるしその後もなかなか言い出す機会がなかった。先程以前その話をしていたメイドを見掛けて思い出し、今回聞いてみることにしたのだ。
サシャの名前も出ていたので、彼に聞けばわかると思ったのだが、この反応は予想外だった。そんなに言いづらいことなのだろうか。
「言い辛い内容なの?国家機密、とか?」
「……国家機密なんかじゃない。じゃないんだが、はあ……ちゃんと話す。だが一つだけ頭に入れておいてくれ。俺はその、性的嗜好はノーマルな人間だ。きちんと女性が好きだってことは理解しておいてくれ」
「ん?ええ。わかった」
思い切り嫌そうな顔をして、その綺麗な顔を歪めながらサシャは俯きながら口を開いた。
「俺はアリスと再会するまでずっと婚約者を作ることを頑なに拒否してきたんだ。だからずっと……勿論今も婚約者がいない」
「第一皇子なのに珍しい?わね。まあ、サシャがしたくないんだったらまだしなくても良いと思うけど」
いや、国の主としては子孫を残さないといけないという義務もあるし良くないかもしれないが、きっと事情があるのだろう。そう考えて話を進めてもらう。
「別に婚約したくないわけではない。子供を残す気もある――っと、これは話が逸れるな。とにかくずっと婚約者がいなかったんだ。それで周囲には基本的に男ばかりでな。だがその中でも長時間一緒にいなければならない人間というのが出てくる。それが騎士団長で俺直属の護衛騎士のオリバーだったんだ」
「オリバー……あの両刃斧使い?」
「ああ。あの赤髪のゴリラだ。それに加えてオリバーの方も婚約者を作ろうとしないものだから、いつからか、とあるおぞましい噂が立ち始めた。それがアレオリだ」
「うん?」
私がここまで言われても察していないのが分かったのだろう。サシャは絶望的な顔で深い溜息を吐くと、私の方をまっすぐに見た。
「……俺とオリバーが……こ、――とだと」
「なんて???」
「だから!!俺とオリバーが恋人関係だという噂が立ったんだ!!!俺もオリバーもお互いが好きだから、婚約しないんだ、と。真っ赤な嘘が蔓延し始めたんだよ!!」
「……なんか、ごめん。聞いちゃって」
あまりにも悲痛な表情で、叫ぶように『アレオリ』の意味について私に教えてくれた彼を見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっと言いたくない、噂されている事すらも認めたくない話なのだろう。
私はどんな顔をすればよいのか分からなくて、思わず目をそらしてしまった。その日は終始私達の間に流れる空気が重かった。
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