『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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魔法に異常なほどのめりこんでいる自覚は……ある。けれど、それを止める理由なんて、どこにもない。だって何かを学ぶのは学生の特権でもあるのだから。それに他の人達が今まで『好きだ』『楽しい』『趣味』などと言ってきたものを持っていなかった私は余計それにのめり込んでいた。
だから、大抵のことは許される。傲慢にもそう、勝手に思い込んでいたーー。


今日の授業は魔法の実技。担当はクレイヴ先生だ。
演習内容は、魔物からの魔法攻撃を軽い防壁魔法で防ぎきること。一般的な魔導士にとっては基礎中の基礎で、言うなれば単なる訓練だ。傷を負う事態になれば、すぐにこの場所にかけられている魔法が発動して魔物が全面拘束されて停止するように設定されている。危険はないし、誰もが教科書通りに魔法を展開するだけでいい。

……それなのに、私はやってしまった。

魔物が攻撃魔法を放とうとした瞬間、私は防壁を展開した。そのまま防ぐだけで良かったのに――気づけば、その外側にはもう一つの魔法が重なっていた。

雷の弓矢――防壁の外に纏わりつき、自身を守りながらも敵意を持つ存在を即座に撃ち抜く魔法。しかも自動追尾型。完全に無意識だった。
私はあれから夜に抜け出しては、学院の中でも魔物がいるエリアに出向いて、魔法の実践を一人で続けていた。前まではトロールすら逃げる対象だったのに、魔法の複合を学ぶにつれて、一晩で数百の魔物を倒すようになってしまったこともあり、急速に技術が上がっていた。
それが良くなかったのだろう。戦いと魔法に明け暮れすぎて、実践的なものが出てしまったのだ。

魔法が発動する。

雷光が閃き、矢の形をした雷が一直線に魔物へと向かい、その身体を貫いていた。肉が、空気が焼ける臭いが広がる。まずい、とすぐに直感して纏っている魔法を解除したが、時すでに遅し。

次の瞬間、魔物は断末魔の叫びを上げ、倒れた。致命傷だ。地面に横たわる魔物の身体が痙攣し、やがて動かなくなる。魔法が解けると同時に、私は頭上に居た魔物の返り血を浴びて血の匂いに包まれていた。

静寂。

いや、ほんの一瞬の静寂のあと、周囲が騒然とし始めた。

「な、なに今の……?」
「演習で攻撃魔法は禁止じゃ……!?」
「は?今の防壁を展開してただけだろ?何もしてなくないか??」
「えー、障壁と同時に何か出てなかった?」
「え、ていうか、血……すごくない……?」

ざわざわとした声があちこちで上がる。私が視線を向ければ息を呑む音、後ずさる音、誰かが呟いた「やば……」という声。ちらりと周囲を見渡せば、生徒たちは硬直したように私を見ていた。怯えられている。

「スプライント、お前……」

声をかけてきたのは、教師のクレイヴ・ハットランナーだった。彼も珍しく目を見開いている。

「……演習の趣旨、理解してるか?」
「はい。理解していましたが……気付いたら、つい」
「つい、ってお前な……」

クレイヴ先生は呆れたように額を押さえた。その周囲では他の教師たちが、倒れた魔物の状態を確認している。

「……御臨終、だな」
「いや、そりゃそうでしょうよ……」
「でも、こんな一瞬で……え、こっわ」

聞こえてくるのは生徒たちのざわめき。そして、こちらに対して抱く畏怖の感情。中には息絶えた魔物を見て「ひっ」と小さく悲鳴をあげて、気絶仕掛ける女子生徒の姿も見えた。ああ、これは……かなり目立ってしまった。

演習場の地面には、魔物の血が飛び散り、そこに立つ私の制服にも返り血がこびりついている。

「……さて、どう言い訳しよう」

このままでは母様が召喚されてしまうだろう。
思わず口の中でつぶやく。けれど、答えなんて出るはずがなかった。
長期休暇に落ち着いて色んなことを報告して喜んでもらえる予定が、説教へと切り替わる予感がした。
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