『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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19.(オーランド視点)

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この件はすぐに片付けなくてはならない。俺と彼女の学生生活に余計なノイズはいらない。将来ラブラブな夫婦になるためにも多少の障害は必要だと思うが、こんな不快なものは望んでいないのだ。
リーシャが俺のせいで傷つくなどはあってはならない。

――いや、違う。
リーシャが、俺といることで標的にされることなど、あってはならない。
俺たちの仲の邪魔をする人間など、誰であろうとも絶対に許さないし、消してやる。

ならば、俺がするべきことはただ一つ。
リーシャを一時的に遠ざけること。それが、彼女を守る手段を確立するまでの最善の手段だ。

次の日、俺はリーシャに会って、丁度良いと言い放った。

「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?(たまには息抜きしてほしいし)」

俺は、できるだけ冷たく、素っ気なく言った。いつも以上に冷たく。
君を守ると瞳に込めて。相思相愛である俺達であれば、この言葉だけで通じるだろう。
他の女たちに仲違いしていると勘違いさせれば良いのだ。だから多少の演技は必要だった。それに、彼女が今まで俺に対して構ってばかりで、あまり自分の好きなことを話してくれないことや好きなことをする時間すらも勉強や修練に使っていそうなことも気になっていたので、それも一緒にぶつけてみる。

「正直、こうやって話しかけられるのはその――(一時的に)やめて欲しいんだ」

俺の背後には、今日も俺を見つめる女たちの視線があった。
嫉妬に満ちた、醜い女たちの目。
そのすべてが、憎くて仕方がなかった。今すぐにでも醜悪なこの女共の目を抉り潰し、汚い言葉をリーシャに投げつけるその口と喉を縫い付けてやりたいくらいには。

……周りの目もあるし、君なら分かるだろう(いじめを受けていること)?ここは学院という(イチャイチャするには危険な)場所だ」

他の女たちがいるところでは暫く距離を取ってもらい、その間に秘密裏に全員処理しておく。君が気負う必要などない。
……それなのに。

リーシャは、俺をじっと見つめていた。
驚いたような、信じられないような――そんな目で。
その瞬間、俺の心臓はひどく軋んだ。きっとリーシャも俺と暫く一緒に居られなくて悲しいのだろう。きっと彼女なら全て察してくれているはずだから。

だが、もう引き返せない。
これは、リーシャを守るための選択なのだから。
全てが終わって落ち着いたら~なんて甘ったれた言葉は言わなかった。確実にリーシャに危害を加えた女共を処理してやる。その思考だけで頭が覆いつくされていた。



俺は、完璧な婚約者でいるために――彼女を、遠ざけた。
その言葉を口にした瞬間から、彼女がどんな顔をしていたのか、正確には覚えていない。
驚いたような、悲しんでいるような――そんな表情を一瞬だけ見た気がするが、それすらも脳が拒絶していた。

胸が軋んだ。
こんな痛みを感じるのは初めてだった。

だが、俺は立ち止まるわけにはいかなかった。
リーシャを守るために、俺はこの道を選んだのだから。

そして愛しいリーシャを遠ざけた俺には、まだやるべきことがあった。
――リーシャを傷つけた者たちに、報いを与えること。

******

かき集めた情報に刻まれた罪。
俺は既に、リーシャに嫌がらせをしていた人間たちを洗い出していた。
情報収集は、戦闘の基本だ。
俺は生徒会長としての権限、公爵家の情報網、そして影響力を使い、徹底的に調べ上げた。

そして完成したリストを目の前に広げる。
名前、家名、リーシャに対して行った行為。
そこには、想像以上の醜悪な事実が並んでいた。

――「リーシャ嬢は他人に対して冷たくて冷酷な女のくせに、オーランド様の婚約者をしている。それは、リーシャがオーランド様を脅しているせいだ」
そう、くだらない謂れのない噂を立ててリーシャに矛先を向けた女。

――「彼に相応しいのは、もっと華やかで社交的な女性でしょう」
そう言いながら、リーシャの持っていた制服や教科書を寮の部屋に忍び込んだ上で、ボロボロに引き裂いた女。

――「でも、リーシャ嬢って可哀想なくらい鈍いわよね。オーランド様に相手にされてないの、まだ気づいてないのかしら?」
そう言って、リーシャを呼び出して集団でいじめていた者。

――「え? このハーブティー、ちょっと苦い? まあ、お口に合わなかったのね」
リーシャを無理矢理お茶会に呼び出して、軽い神経毒が入ったハーブティーを飲ませようとした女。

……腐っている。

俺は指先に力を込め、リストの端を握り締めた。
それだけで紙がくしゃりと音を立てる。

公爵家の力をもって――

「……片っ端から、断罪する」

その決意は、揺るぎなかった。

公爵家の嫡男として生まれた俺には、数え切れぬほどの権力があった。
学院の生徒といえど、貴族社会においての立場は重要だ。
それを最大限に利用する。

俺は机に広げたリストの一番上の名前に目を落とした。

「エリザベート=ローエル」

男爵令嬢。
社交界ではそれなりの地位を持つ家だが、貴族の中では末席に過ぎない。
リストの内容によれば、彼女はリーシャを貶める発言を頻繁に行っていたらしい。
さらに、紅茶に苦味のある薬草を混ぜ、リーシャを体調不良に陥れたこともある。

……見過ごすことはできない。

俺は執事を呼び、静かに命じた。

「ローエル男爵家の財務状況を調べろ。土地、不動産、投資先、すべての動向を把握しろ」

執事は無言で頷き、すぐに動いた。

次に、生徒会の権限でエリザベートを呼び出す。
理由は「学院内での礼儀についての指導」。

彼女が何も知らぬまま、生徒会室に足を踏み入れたとき――俺の制裁が始まる。
そして俺は、リストの次の名前に目を落とす。

「カミラ=フォン=ブリューメ」

男爵令嬢に続くのは、伯爵家の娘だった。
彼女はリーシャの着ている制服に、食堂でわざとぶつかり汚れをつけ、その場で「お粗末な格好ね」と笑った。

貴族の世界では、衣装の汚れ一つが評価に関わる。
それを理解した上で、意図的に行った卑劣な行為。

俺は手紙を書き始める。

「カミラ嬢の立場に関わる噂が広まる可能性があります。ブリューメ伯爵家として、事態を重く受け止めるべきでしょう」

伯爵家にとって、娘の評判は家の名誉に関わる。
この手紙が届けば、親が彼女を叱責し、社交界への影響を考えるはずだ。それと同時に、学院でしていたことも暴露して、もう親類諸共社交界に戻れないくらいに立場を奪ってやるが。

これが、貴族社会での制裁。直接手を下さずとも、俺には相手の立場を揺るがせる力がある。

そして――リストの次の名前に目を落とした。

一人残らず、断罪してやる。

それが、俺にできる唯一の償いだった。
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