4 / 29
3.決意
しおりを挟む
「私はもう母様にも父様にも、ましてやジブリールにも縛られたくない!だってこれは私の人生だから」
初めてだった。ここまではっきりと自分の気持ちを吐き出したのは――。
この女性が根気強く話を聞き続けてくれたのも私の感情が表に出てくるのを手伝い、ずっと背負っていた重荷が下りたような。今までにない程に気持ちはスッキリしていた。だからすぐに次の行動も決めることができた。
「私、一度家に帰ります。それで母様達と話してきます。……私の話、聞いてくれて有難うございました!」
正直この後両親と話したとして、どうなるかは分からない。でももう何の反論も行動せずに自分自身を抑圧されて、勝手に未来が決まっていくのは嫌だった。本当の自分を否定したくない。
私は生まれて初めて、自分の運命に抗う事を決めたのだ。
「ちょっと待ちな!」
そうして頭を下げた後、そのまま宿屋から出ていこうとすると、何故か女性に肩を掴まれ静止させられる。
「これ」
「……カード?」
机の上で何かを探し出し書きつける。そうして手渡されたのは黒いカードの様なものだった。よく見てみると獅子の紋様と細かな装飾、そして白い小さな文字で『アルカード傭兵ギルド』と書かれている。
「うちのギルドの許可証さ。アンタ、今いるここが王都の何処かすらよく分かってないだろう?」
「あ――」
格好悪すぎる!!と心の中で叫ぶ。私は自分の家に帰る手段を完全に失念していた。実際ここが何処だかもよく分かってないし、もし分かっていたとしても街から貴族街……カルカーン公爵家のあるタウンハウスの場所まではそれなりに距離があったはずだ。
普通にこのままここから出て行っても、辿り着ける気がしなかった。自分の無計画さに頭を抱える。
「その許可証をこの宿屋の主人に見せれば馬車を無料で動かしてもらえる……だからアンタにやるよ」
「えっと……でも良いんですか?」
女性の話が事実なら確かに有難いことこの上ないが、私にはそんな物を貰えるような理由がない。だって私は先ほどまで迷惑をかけていた自覚はあれど、この人に対して恩を売るようなことはしていない。
「なに、一枚余ってたからやるだけさ。精々上手く使いな。まあなんだその――アンタのこと、アタシは応援してる」
「……ではお言葉に甘えて頂いておきます。本当に有難うございました」
「ああ」
きっと彼女は本当に親切な人間なのだろう。今の追い詰められていた私にとっては、まるで神様のような存在だとすら思えた。
だから私は女性からの応援を受け取り、大人しく厚意に甘えることにした……前に進むためにも。
女性は短い返事の後、此方に背を向けながら軽く手を振る。
出来るだけ感謝が伝わるように部屋を出る前にもう一度誠意を込めてお礼とお辞儀をすると、目的地に向かった。
初めてだった。ここまではっきりと自分の気持ちを吐き出したのは――。
この女性が根気強く話を聞き続けてくれたのも私の感情が表に出てくるのを手伝い、ずっと背負っていた重荷が下りたような。今までにない程に気持ちはスッキリしていた。だからすぐに次の行動も決めることができた。
「私、一度家に帰ります。それで母様達と話してきます。……私の話、聞いてくれて有難うございました!」
正直この後両親と話したとして、どうなるかは分からない。でももう何の反論も行動せずに自分自身を抑圧されて、勝手に未来が決まっていくのは嫌だった。本当の自分を否定したくない。
私は生まれて初めて、自分の運命に抗う事を決めたのだ。
「ちょっと待ちな!」
そうして頭を下げた後、そのまま宿屋から出ていこうとすると、何故か女性に肩を掴まれ静止させられる。
「これ」
「……カード?」
机の上で何かを探し出し書きつける。そうして手渡されたのは黒いカードの様なものだった。よく見てみると獅子の紋様と細かな装飾、そして白い小さな文字で『アルカード傭兵ギルド』と書かれている。
「うちのギルドの許可証さ。アンタ、今いるここが王都の何処かすらよく分かってないだろう?」
「あ――」
格好悪すぎる!!と心の中で叫ぶ。私は自分の家に帰る手段を完全に失念していた。実際ここが何処だかもよく分かってないし、もし分かっていたとしても街から貴族街……カルカーン公爵家のあるタウンハウスの場所まではそれなりに距離があったはずだ。
普通にこのままここから出て行っても、辿り着ける気がしなかった。自分の無計画さに頭を抱える。
「その許可証をこの宿屋の主人に見せれば馬車を無料で動かしてもらえる……だからアンタにやるよ」
「えっと……でも良いんですか?」
女性の話が事実なら確かに有難いことこの上ないが、私にはそんな物を貰えるような理由がない。だって私は先ほどまで迷惑をかけていた自覚はあれど、この人に対して恩を売るようなことはしていない。
「なに、一枚余ってたからやるだけさ。精々上手く使いな。まあなんだその――アンタのこと、アタシは応援してる」
「……ではお言葉に甘えて頂いておきます。本当に有難うございました」
「ああ」
きっと彼女は本当に親切な人間なのだろう。今の追い詰められていた私にとっては、まるで神様のような存在だとすら思えた。
だから私は女性からの応援を受け取り、大人しく厚意に甘えることにした……前に進むためにも。
女性は短い返事の後、此方に背を向けながら軽く手を振る。
出来るだけ感謝が伝わるように部屋を出る前にもう一度誠意を込めてお礼とお辞儀をすると、目的地に向かった。
730
あなたにおすすめの小説
やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。
あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。
そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。
貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。
設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。
オーガスト
恋愛
イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。
ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。
突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒
全力で報復する事にした。
ノーリアリティ&ノークオリティご注意
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?
西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね?
7話完結のショートストーリー。
1日1話。1週間で完結する予定です。
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる