婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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「……朝、になっちゃった」

結局ほとんど眠ることができなかった。それは決して魔力を温存しておいてほしいルークの代わりに周囲に認知阻害系の魔法結界を張っていたからではない。その程度の魔法であれば、疲れたりしないからだ。この状態は全て精神的なもの。

目を閉じれば自分の無力さに苛立ち、眠れないのであれば何か考えて気を紛らわそうとすれば兄様達がどうなったのか、これからどうなるのか、後ろ向きになってしまうようなことばかりが思考を支配する。隣のベッドで、すやすやと穏やかな寝息を立てるルークを起こさない様に静かにすることしか、私にはできなかった。

「まだねみぃ。でも腹減った」
「朝食なら、軽くサンドイッチを作っておきました。持ってきましょうか」
「それはありがた――ってお前、酷い顔してるぞ?」

リビングにあった魔導書をベッドの上で読んでいた私。何かしていないと気が狂いそうだった。
それを見てルークは大声を上げた。頭に響くからやめて欲しい。

「……緊張であまり眠れなくて」
「嘘吐くな。昨日も言ったが、あの双子はお前が思っているよりも強いし、中身も強かな性格をしている。だから死んでいることは絶対にない」

そう言われた直後は確かにその言葉を信じられるが、夜が来て暗くなると、気分も落ち込んで心配する感情が頭をもたげるのだ。

「……俺が最初にあの双子に出会った時のこと、聞いてるか?」
「いえ。兄様達は貴方の話題を避けているようだったので」
「はああー、性格悪いな。相変わらず。そんなにも妹から自分達へのイメージを守りたいか??」
「守も何も、イメージは割と最悪なので、何を言われてもというのはありますが」
「ふーん。じゃあ、語るかな。アイツらのあくどさと強かさを」

そこからルークはハチミツいりのダージリンティーを私に淹れてきた上で話し始めた。
最初に出会った時には世間知らずで装飾品を見える所に付けていたせいで騙されて身ぐるみを剥がれた上で丸裸にされた話、その後お金を貯めるために受注した任務先で再会したにも関わらず他人の振りをされて何も返してもらえなかった話、その後実力が近かった故にちょくちょく同じような魔物の討伐任務で一緒になり死地を共に切り抜けることで一定の信頼関係が生まれ、ギルド設立の時にはなんだかんだ言いながらも付いてきたという話。
それを聞いて改めて、ルークと兄様達はとても信頼し合った仲なのだなと実感した。あと、兄達の所業とずっとルークをイジって遊んでくるという最悪な悪癖については謝罪しておいた。でも兄様達もなんだかんだルークの事を信頼しているのだと思う。それに一緒に居て楽しいのだろう。それがルークの表情からも、過去の兄様達の表情からも伝わって来た。
そうして話を聞いている内に私は安心して眠りに落ちていたのだった――。

******

久々に更新しました。
今書いている新作が完結の目途が付き次第、こちらの作品も更新頻度を増やしていく予定です。
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